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Act.1 学園卒業の日

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「会場にご列席の皆様! そして私たち学園卒業生の門出を祝うこの場の護衛をなさってくださっている騎士の皆様! わがグルシエス家に生まれた者たちが、どのような益荒男、猛女揃いか、そして嫁いでこられた方々がそれに負けぬほどの手腕の持ち主か、ご存じでしょう?」

 ……おお。ご来賓や教授陣の一部が震え始めた。
 年代的に、御館様やそのご兄弟と在学が被ってた方々かな。
 数人、今にも倒れそうな顔色をしてるけど大丈夫かな?

「そして僕らの親愛なる同窓生の諸君! グルシエスの名がつく者たちと、グルシエスと結婚したご子息ご令嬢たちが、この学園でどのような伝説を築き上げてきたか。この5年で全く耳にしなかった訳じゃないだろう?」

 そう、当主様やそれ以前の世代がそうであったように、クリストファー様も、兄上方、姉上方も、この学園では有名人だ。
 高い能力で以て、嫉妬してきた同級生や先輩方からのやっかみや直接的な行動を、回避したり、反撃したり、諸々やってこられた。
 ……なるべく顔を向けないように、演台に視線をやる。
 ……ふぅん。殿下やご学友方も、グルシエスの子供たちのことは、聞き及んでおられるらしい。
 お、クリストファー様がまた演台の方を向かれる。位置を変えてっと。

「……そう、僕も例に漏れずグルシエス家の男です。例え、父や兄たちと体格は全く似ていなくても、ね」

 ベルーリア嬢、怯えてらっしゃるな。
 まあ怒髪天をついておられる時のクリストファー様は、小さい子供には見せられないような顔をなさる上に、魔力の制御をブン投……ゴホン、放棄なさるもんな……。

「ベルーリア嬢、あなた、僕の家に嫁ぐために何か一つでも技能を伸ばす努力をしましたか? 魔法の腕を磨いたり、自分に使える武具の見極めや鍛錬は?」

 後ろの方で、焦ったように【防御魔法】や【反発魔法】を検討する同窓生の声が聞こえる。
 うーん、まだ大丈夫だろ? 魔力は今のところ、まだクリストファー様の周囲をグルグルと回ってるだけだし。
 その力が他に及ぶようになってからが本番だよ。

「前線に出るのが苦手であるなら、上の義姉のように薬草や魔法薬の知識と技術を高めたり、我が家の騎士団として勤める者たちと肩を並べられる何かしらの技能を会得したりなどなど。下の義姉も元からの技能を生かして、今では近隣領にも名を轟かせる魔道具師です。……あなたは、そのような努力を、何か一つでも、なさいましたか?」

 クリストファー様の声がどんどんと剣呑な響きになっていく。
 それに伴って、がたがた、とこの大広間内にある物が音を立てて揺れ始めた。
 窓、シャンデリア、テーブル、その上の食器たち。
 護衛騎士の方々が、来賓や同窓生たちを守ろうと動いているのが分かる。
 ……この大広間のシャンデリアがもし落ちたら、一体どれだけの弁償金がかかるんだろうなぁ……。
 我が国では希少な魔法石を使ってるって聞いたことあるんだけど……。

「……していないでしょうね。あなたは自分の欲が満たされるためだけに動くことはあっても、それ以外のことに対しては徹底的に避けるような人だ。享楽に耽ることしか考えていない。そんなことでは、我が家に嫁ぐにはふさわしくないんですよ」

 ……お、ベルーリア嬢のお顔が歪んでいく。

「……な、何よ何よ何よ!! 私はハイマーみたいな辺境のド田舎男となんて結婚したくないのよ!! 私は王都でドレスとお菓子と宝石と美男子に囲まれて生きていたいの!! アンタみたいな化け物と結婚なんてしたら、一生ド田舎暮らしな上に化け物揃いの義実家までついてくるじゃない!! そんなのまっぴらゴメンだわ!!」
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