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Act.1 学園卒業の日

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 うわぁ……。そんな風に思ってたのか……。
 ベルーリア嬢、ちょっと横をご覧くださいよ。殿下のご学友の方々が「あり得ねえ……」みたいなお顔なさってますから。
 まあ、彼女の考えは態度や言動から透けてはいたけどな。
 物事をフラットに見るように心がけている兄貴でさえ、「あのお考えには反吐が出る」なんて言うくらいだ。

「うむ、うむ! そうだな、ベルーリアには辺境の地など全く以てふさわしくない! 安心しろベルーリア。私が王国最高級の腕を持つデザイナーと縫製師に命じて、そなたの魅力を十二分に引き出すようなドレスや宝飾品を贈ろう!」
「まあ、殿下……!」

 ……あー、こりゃあ殿下も、今のままじゃ駄目かもしれないな……。
 完全にベルーリア嬢に目が眩んでるや……。

『……あの、何をなさりたいのか分からないのですが、ベルーリア嬢』

 ん? この声、もしかしなくても俺のじゃあ……?
 あ、場も完全に静まりかえった。

『は? 何で分からないのよ。私はあの化け物と結婚したくないの! だから、アンタにちょっと私を脅せって言ってるのよ!』
『……そうせねばならない理由が分かりません』

 あぁ、思い出した。これ、ベルーリア嬢に意味の分からない脅しをかけられた時だな。
 俺はクリストファー様の護衛ではあるけれど、魔法系の教科に関しては俺はクリストファー様に全くついていけないから、離れて授業を受ける時間があったんだ。
 確か、そこをベルーリア嬢に捕まったんだったか。

「な、何よこれ!!」

 演台の上から叫ぶベルーリア嬢、意味が分かってない顔をしている殿下たち、そして、手持ちの扇で口元を隠しながら近くの同性の友人と何か話し合っている女性陣。
 女性陣はきっと、社交とかでベルーリア嬢の何かしかを耳にする機会があったんだろうな。

 ちなみに、クリストファー様は中央貴族との社交には出ないことが多い。
 そもそも、グルシエス家自体がそのような方々と折り合いが悪いということもある。
 ……あ、クリストファー様の笑顔が、これまでの人生で見たことない程に悪人のそれになっている。

『はぁ~~~、ホンット、化け物の召使いは使えないわね!! もういいわ、せいぜい後悔するのね!』

 ビリッ、という何か布地を破る音と、ぱん、と何かを叩く音。
 おお、流石我が領特製の【録音再生魔道具】だ。声どころか物音まで鮮明に拾うとは。
 一時期、手のひらサイズのキューブという、かさばる物を持たされてた甲斐があったな。

『い、いやぁっ、誰か、誰かぁっ!!』

 うーん、やっぱり外面はいいんだよなぁ、ベルーリア嬢。
 この一言は、本当に何か無体をされたように聞こえるもんなぁ。
 お、数人の足音。

『……何事だ?! っ、ベルーリア嬢! 貴様、彼女に何をした!!』
『え? な、何もしていませんが』
『嘘をつくなぁっ!!』

 ああ、そうそう。演台の上で顔を青ざめさせてらっしゃる、将軍のご子息に思いきり殴られたんだっけ。
 トレント討伐の際に、枝の鞭であばら骨をへし折られたときに比べたら、紙で指を切る程度ぐらいの痛みでしかなかったから気にもしてないけど。
 そこで魔道具から魔力が抜かれ、フォン……、という音を立て起動が終わった。

「……そう、あなたは覚えがございますよね。忘れたとは言わせませんよ?」

 ドスの利き過ぎた声で言うクリストファー様。同時に、演台を照らしている天井からの吊りランプが、ご子息の真上の物のみ、パァン!! と砕け散った。
 ご子息が息を飲みながら飛び退く。ランプの欠片がパラパラと落ちてきた。
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