蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー

みーしゃ

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第一部 王立宮廷大学を目指そう!

46. 防御の型の実技試験

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 攻撃の型の実技試験を終えたカテリーナの胸には、心地よい充足感が広がっていた。

――うまくできた……はず。
 今までの練習通り、結果が出せた気がするわ。

 ふっと息をついたとき、周囲の視線が自分へ集まっていることに気づいた。

「えっ、えっ、なに!?」

 鈍感な彼女は、それらの視線が、感嘆、嫉妬、羨望という意味であることに、全く気付かなかった。

――女性の騎士志願者が少ないから、注目されただけね、きっと。

 気を取り直し、カテリーナは防御の型の試験の列に並んだ。
 頭の中で、兄アレクシオスの言葉が反芻されていた。

「実技試験の二つ目は、防御の型にしておくといい。この試験は攻撃の型とは違い、教官が蹴りや体当たりなどをして、姿勢の崩れなどを確認するから、一番体力を消耗する」
「それなら、最後の方が良いのでは?」

「いや、対人戦の前に受けた方がいい。対人戦は非常に集中力を消耗する。その後の防御の試験で、集中力を欠いて崩れてしまっては元も子もない。また、対人戦を先にすると、まだ試験が残っていることを意識してしまい、無意識のうちに体力を温存しようとして、全力を出しきれなくなる恐れもある」
「なるほど!」

 列に並んでいると、先行する受験生たちにかけられている怒声が耳に入ってきた。

「なんだぁ、その構えは! 敵がこうぶつかってきたら、それで守れるのか!」

 見るからに強面こわもての教官が、防御態勢を取っている受験生の盾に、蹴りを入れていた。

――うわっ! これは激しいわ……。

 事前に聞かされたとはいえ、その激しい内容を目の当たりにし、カテリーナは少し驚いた。
 しかし、カテリーナは冷静に、兄の言葉を思い出していた。

「防御は体格の差が、そのまま出てしまいがちなんだ。カテリーナは華奢で体重も軽いから、まずは体幹を徹底的に鍛えよう!」

 最も激しくきつい防御の型の訓練をやり遂げた彼女の体幹は、華奢な見た目からは想像もつかないほど頑丈となり、まるで鉄芯が身体を貫いているかのごとく鍛えられていた。

「カテリーナは左利きだから、右翼に配置されるはずだよ」

 アレクシオスが説明を始めた。

 盾を構えた防御態勢を集団で組む時は、左利きの者は右端に配置される。
 それは、左利きの者を右端に配置すると、右側面を盾で防げる陣形を取ることができるためだった。

「そしてここが重要なんだが、最右翼になった場合、教官から否応なしに目立つから、独自の対策が必要だよ……」

 順番を待っている間、カテリーナは集中し、イメージトレーニングを続けていた。
 そして、ついにカテリーナたちの順番が近づき、担当者が声を上げる。

「それでは次の十名は、ここにある盾や剣に不具合がないか確認しなさい。あと、左利きの者がいたら、右側から順番に並ぶように」

――お兄さまが言っていた通りね。
 この中で左利きの人は……えっ? 私だけ!?

 この組の中には左利きの者はカテリーナ以外にいなかった。
 カテリーナは少し残念そうな顔をしたまま最右翼に並んだ。
 そして、ついにカテリーナたちの試験の番となった。

「次の十名は前へ! ……全方向防御陣! 構え!」

 教官役担当のパナギオティスの掛け声とともに、皆が一斉に防御態勢を取り、試験が始まった。
 パナギオティスは容赦なく体当たりを繰り返し、受験生の一人が崩れて尻もちをついてしまった。

「一人が崩れれば、そいつだけじゃない! 全員に危険が及ぶんだ!」

 仮に崩されたとしても、早く元の態勢に戻れるかどうかまで含めて、試験の採点項目になっていた。
 試験官たちは、採点書類にそれぞれ書き込みをしていく。

「これぐらいでふらついていたら、実戦では生き残れねぇぞ!」

 怒声が飛ぶ中、パナギオティスがカテリーナの前に立った。

――貴族のお嬢さまか……。お前なんかが騎士試験を受けるんじゃねぇよ!

 平民出身の彼は、貴族に対する反発心から過剰に厳しく当たる癖があった。

「おらぁ!」

 蹴りを受けても、カテリーナはびくともしない。
 その様子を見ていた剣の騎士団長マルキアノスは、思わず立ち上がった。

「あの娘、防御に必要な体幹まで鍛えてきたのか!」

 予想と全く異なり、華奢に見えるカテリーナが耐え続けたため、パナギオティスは熱くなり、執拗に蹴りを入れ始めた。

「あ、あいつ!」

 副団長が、パナギオティスに注意しに行こうとしたとき、団長マルキアノスは、彼の肩に手を当ててそれを止めた。

「まて! 戦場では理不尽な事も起きる。彼女がどう対処するか見てみたい」

 予想外の耐えぶりに苛立ったパナギオティスは、ついに剣を抜いた。
 しかしカテリーナは冷静だった。
 それも、兄からの助言があったからだった。

「もし最右翼だった場合、最右翼ならではの防御の技がある。それは……」

 カテリーナは振り降ろされた剣を受け止める瞬間、今までとは異なり、盾で受けつつ斜めにいなし、剣を逸らせる動きをした。
 それが見事にはまり、盾での反発が来ると思い込んでいたパナギオティスは、剣を振り下ろした勢いのまま体勢を崩し、そのまま横に転んでしまった。

「きっさまぁー!」

 怒声を上げた瞬間、団長マルキアノスの一喝が試験会場に響いた。

「パナギオティス、動くな!」

 その声には団長の威厳がこもっており、その場にいた騎士たちが凍りついた。

「これが試験であることを忘れるな! それにもし実戦だったら、今のでお前は討ち取られて終わりだぞっ!」

 パナギオティスははっとし、うなだれたままゆっくりと立ち上がった。
 そんな彼に対し、マルキアノスからはさらに厳しい言葉がかけられた。

「お前はこの試験から外れろ! 代わりの者を呼べ!」

 パナギオティスは完全に面目を失い、うなだれながら、カテリーナを横目で見た。
 冷静な表情のまま、構えを崩さないその姿が、まるで無視されているかのように感じ、パナギオティスは屈辱と怒りを募らせた。

「お、お前のせいで……」

 その言葉にも全く反応しなかったカテリーナを睨みつけたあと、パナギオティスはその場から離れていった。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 こうして防御の型の試験は終わった。
 教官役の攻撃に対し、どのように対応できたかを、五名の試験官たちが採点する。
 偏りを無くすため、最高点と最低点の点数は除かれ、残り三名の点数で成績が評価される仕組みだった。
 試験途中に教官役の交代を命じたため、マルキアノスは責任者として、念のため採点を確認する旨を試験官たちに伝えていた。

「うむ、うむ。杞憂だったようだ。剣の騎士団は、正しく受験生を見ていたようだな」

 剣の騎士団は平民出身者が多いため、パナギオティスのような偏見を持った者がいないかどうか、マルキアノスは気にしていたのだ。

 その中でもカテリーナの採点を見た際に、彼の口元からわずかな笑みがこぼれた。
 その点数は、最低点と最高点の者も含めて、全員の試験官が最高評価の「5」をつけていたからだった。

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