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1. 鏡
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鏡の中に映る私の姿は、二股に分かれた尻尾を持つ黒猫だ。名前は澄だ。
この夜間定時制校に通っている者の半分が私と同じ妖怪で、人間に紛れて人間社会を学ぶためにここにいる。でも、ここに通っている人間は、私たちが妖怪だということに気付いていない。
階段の踊り場にあるこの鏡は人間に化けている私たちの本当の姿を写すけれど、人間には普通の鏡と変わらないらしい。私たちの真実の姿も歪んで人間に見えていると聞いた。おもしろいのは鏡に映らない吸血鬼も、しっかり人間の姿で見えていることだ。
ご都合主義だなーなんて思うけれど、人間に正体がバレるのは勘弁願いたいところなのでそれでいい。正体がバレて大変な目にあったという話を腐るほど聞いている。私は平穏無事にここを卒業したい。
まぁ、特にその後したいこともないんだけれど。
だいたいがそのまま人間たちと一緒に就職したり、家庭を持ったりするらしいけど、私はあまり考えていなかった。
でも、人間たちに混じって暮らすのも、バレなければ楽しそうだし良いかもしれない。人間の友達だっているし、楽しく暮らせそうな気もする。
ただ、時々不安になる。
私が見ている世界と、人間が見ている世界は同じなのだろうかと。
同じものを見ていても、違うものが見えているのではないだろうか。
この鏡に映る私たちのように。
きっと、この鏡で見え方が違うように、私たち妖怪の目で見た世界と、人間の目で見た世界は違うのだろう。
その場合、いくら共存を望んでも平行線を辿るばかりで、交わることはないのではないか。そんな考えがふと過る。
でも、どこかに交わる場所があるといい。
他の妖怪は知らないけれど、私は人間のことがわりと気に入っているから。
私は鏡の前で、くるりと回ってみる。
現実世界では履いているスカートがふわりと宙を舞うが、鏡の中では黒猫の私がターンを決めるだけ。なぜ服が消えているのかは謎だ。
「もう、なにやってんの?」
下からだとパンツ見えるよ、って階段を降りてきた人間の友達である、花澄が言う。
「今日のスカートお気に入りだからつい」
「なんか、たまに子供っぽいよね」
でもそれ似合ってる、と花澄は笑って、少し乱れた髪を直してくれた。
私はそれだけで笑顔になる。
頭を撫でられたら更に良しだ。元が猫なのだから仕方がない。
鏡に映る黒猫の私は、頭を撫でられて幸せそうに微笑んでいた。
この夜間定時制校に通っている者の半分が私と同じ妖怪で、人間に紛れて人間社会を学ぶためにここにいる。でも、ここに通っている人間は、私たちが妖怪だということに気付いていない。
階段の踊り場にあるこの鏡は人間に化けている私たちの本当の姿を写すけれど、人間には普通の鏡と変わらないらしい。私たちの真実の姿も歪んで人間に見えていると聞いた。おもしろいのは鏡に映らない吸血鬼も、しっかり人間の姿で見えていることだ。
ご都合主義だなーなんて思うけれど、人間に正体がバレるのは勘弁願いたいところなのでそれでいい。正体がバレて大変な目にあったという話を腐るほど聞いている。私は平穏無事にここを卒業したい。
まぁ、特にその後したいこともないんだけれど。
だいたいがそのまま人間たちと一緒に就職したり、家庭を持ったりするらしいけど、私はあまり考えていなかった。
でも、人間たちに混じって暮らすのも、バレなければ楽しそうだし良いかもしれない。人間の友達だっているし、楽しく暮らせそうな気もする。
ただ、時々不安になる。
私が見ている世界と、人間が見ている世界は同じなのだろうかと。
同じものを見ていても、違うものが見えているのではないだろうか。
この鏡に映る私たちのように。
きっと、この鏡で見え方が違うように、私たち妖怪の目で見た世界と、人間の目で見た世界は違うのだろう。
その場合、いくら共存を望んでも平行線を辿るばかりで、交わることはないのではないか。そんな考えがふと過る。
でも、どこかに交わる場所があるといい。
他の妖怪は知らないけれど、私は人間のことがわりと気に入っているから。
私は鏡の前で、くるりと回ってみる。
現実世界では履いているスカートがふわりと宙を舞うが、鏡の中では黒猫の私がターンを決めるだけ。なぜ服が消えているのかは謎だ。
「もう、なにやってんの?」
下からだとパンツ見えるよ、って階段を降りてきた人間の友達である、花澄が言う。
「今日のスカートお気に入りだからつい」
「なんか、たまに子供っぽいよね」
でもそれ似合ってる、と花澄は笑って、少し乱れた髪を直してくれた。
私はそれだけで笑顔になる。
頭を撫でられたら更に良しだ。元が猫なのだから仕方がない。
鏡に映る黒猫の私は、頭を撫でられて幸せそうに微笑んでいた。
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