人間と共存したい妖怪たち

黒鉦サクヤ

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4. それから

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 教室の片隅で話している声が聞こえてくる。
 授業が始まらないし暇なんだろうけれど、時間つぶしに怪談っていうのも変な話だ。だって、ここにいる半分くらいは妖怪なんだから。
 怪異なんて日常茶飯事というか、妖怪は怪異を起こす方だしなあ。人間が集まって怪談を、というならまだ分かるんだけど、妖怪同士じゃただの報告会じゃないのかなあと思うんだよね。

 怪談話をしているのは鎌鼬かまいたちの三兄弟と人間の女子二人の組み合わせだ。なんでも鎌鼬の三兄弟は休日に遊園地でバイトをしているらしく、そこでの噂話として自分たちの武勇伝を語っているようだった。
 三兄弟、見た目は爽やか好青年風なんだけど、中身がちょっと残念なんだよな、なんか。
 ほら、そこまでたいしたことでもないのに武勇伝のように語るのって小物臭がするじゃない? それでいいのか三兄弟、ってなるよね。
 ひねくれている私はそんなことを思ってしまうけれど、優しい女子は、それからどうなったのって聞いてあげていてとても優しい。私ももう少し優しさを持とうと思う。

「お化け屋敷の中って暗いから、二人で手を繋いで出口を目指してたんだけど、一人が突然転んじゃって連れの子も一緒に転んじゃったんだってさ」

 あー、一人目が二人とも転ばした訳ね。そして次に切り裂いて、薬を塗って血は出てないよー、すごーいって話ですね。私はそのイタズラにあったことが無いけれど、本当に痛みを感じないのだろうか。痛かったら嫌なので、実演しなくて良いけれど。
 武勇伝なので得意気に話す鎌鼬の話に、女子たちは顔を顰めている。分かるよ、お化け屋敷で転ぶのなんて絶対に嫌だよね。転ぶということ自体嫌だけど、暗くて周りの状況を把握できないのも恐怖心を煽られるし。

「えー、そこにゾンビとか来たら嫌なんだけど」
「それは来なかったみたいだけど、出口に辿り着いてから気付いたんだって。二人とも同じ場所に切り裂かれたような傷が付いていることに」
「やだー、それって確か、かまいたちってやつ?」
「あれでしょ、傷ついてるけど血も出て無くて痛くもないっていう……」
「そうそう、それー!」

 嬉しそうだな、三兄弟。気付いてもらえて良かったね、三兄弟。
 満面の笑みを浮かべているのを横目に、私はお菓子を口に放り込む。何個かつまんでいると、横から手を引き寄せられてそのままお菓子をさらわれた。

「いっただきまーす」
「あっ……」

 チャラ男、許さない。食べ物の恨みは恐ろしいというのは妖怪も同じなんだぞ。
 あと、いつからそんな気安い仲になったのか。チャラ男は他人との距離感がおかしいのだろうか。いや、チャラ男じゃなくて、この洋介という男の距離感がおかしいんだな、きっと。
 少しムッとしていると、コレ上げるからさ、とあめ玉を一つ机の上に置かれる。
 そういうことじゃないんだよねー、と思うものの、先程もう少し優しさを持とうと思ったことを思い出す。仕方ない、一回は許そうとあめ玉を手にしようとしたとき、あめ玉を横から奪われた。
 今度は誰って隣を見ると、どこから走ってきたのか肩で息をしている綾が居た。息きれてるなんて珍しい。

「えー、綾ちゃんってば、そんなに俺のあめ玉欲しかったー?」

 それは絶対に違うと思うけれど、私も首を傾げる。全速力で駆けつける程のこと?

「駄目だよ」
「なにがー?」
「この子は駄目」

 まったく話が見えない。何の話をしているのだろう。
 綾が洋介をなぜか危険だと思っているのは分かるけど、ただの人間じゃないの? 今まで特にあやしいところなんて無かったと思うし、綾が気に入らないという雰囲気は出していたけど接点だって今までなかった。ただ席が前後になっただけ。

「とにかく駄目」
「……そう。ざんねーん」

 がっくりと肩を落として、洋介は綾からあめ玉を回収する。そのあめ玉はなんなの? 害のあるものだったというのだろうか。
 おかしいことはもう一つある。私たちの様子がおかしかったのに、誰も気にした様子がなかった。綾が何かしたんだろうけれど、そんな大掛かりなことをしてまで本当になんだというのだろう。
 綾に尋ねようとしたけれど、張り詰めた空気に私は言葉を失う。またね、と私に抱きついてから去って行ったから、綾は私に怒っていた訳じゃないんだろうけれど。
 結局、私は綾にも洋介にもあめ玉のことを聞くことができないまま、まだ続く鎌鼬三兄弟の得意気な話を聞いたのだった。

 それからというもの、綾は休み時間の度に私の元へ来るようになった。しかし、洋介の正体は未だに聞けないでいる。聞ける雰囲気ではないのだ。綾も交えて変わらぬ関係を続けているけれど、困ったことになったな。
 私は憂鬱な気分を少しでも散らすために、深いため息を吐いたのだった。
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