人間と共存したい妖怪たち

黒鉦サクヤ

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3. 氷

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「溶ける……」

 今年の夏はとびきり暑くて、クーラーのきいた室内にいても雪女や雪男の類の妖怪は辛そうだった。
 ちょうど廊下側の席だった私は、窓際の席にいた雪女の雪華せつかと席を交換することにした。仲の良い花澄かすみと離れるのはほんの少し残念だけれど、休み時間になれば話せるし問題ない。クラスメイトが溶けてしまう方が問題だ。
 夜の学校といっても夏はまだ日が長くて、夕日が校内へと差し込む。日が沈む頃だからそんなに暑くないだろうと侮ってはいけない。日中の暑さまではいかないが、西日も十分暑い。西日の差し込む部屋など、簡単に灼熱地獄になる。日向ぼっこが大好きな私でも、西日がきついとすぐに逃げ出してしまうものね。まあ、起きて授業を受けるくらいなら訳ないけれど。
 消え入りそうな声で、ありがとう、と言う雪華に快く席を譲りながら、私は窓際の席に腰掛けた。

「おや、こっちにお引越し?」
「そうだよ。よろしくね」

 ほいほい、と軽い返事をするのは人間のクラスメイトである洋介ようすけだ。可もなく不可もなく、調子の良いことだけは分かるけど、今まであまり関わり合いがなかった。授業の時だけ縁無しメガネをかけていて、肌は小麦色に焼けている。幻術を使っていない元の姿の綾と同じくらいの体格だなあと思っていると、背後から重みが加わった。

「抱きつくな、重い」
「ひどーい! 重くないもん。ねえ、なんで席変わったの?」

 背後から飛びついてきたのは隣のクラスの綾だ。タイミングが良すぎて、頭の中でも覗かれていたのかと怖くなる。

「そうか、あんたがここにくると綾ちゃんを間近で拝めるのか」
「だあれ?」

 絶対に美少女という容姿に合わせた設定なんだけれど、不安そうに私の後ろに隠れる綾の頭を撫でてやりながら簡単に説明する。夏の間だけだよって話をすると、ふうん、と綾は頷いた。そして、ちらっと洋介を見て、視線を逸らす。私に強い執着を示している綾はお気に召さなかったらしい。それでなくても、私の交友関係が広がると頬を膨らませて可愛らしく怒る。人間には比較的親切なんだけれど、私が関わるとダメみたい。そういうところも可愛いので私は気に入っているけれど、目的があっての姿らしいからその美少女設定生かしてちゃんと媚び売っておきなさいな。

「この綾ちゃんはですね、人見知りなのでなかなか懐かないんですよねー」
「えー、そうなの? そういうとこも、かーわいいね」

 チャラ男うざい。いやいや、そんなことを言っちゃダメだな。綾も嫌そうな顔しないで、笑顔の一つでも向ければ解放されるよ、きっと。
 しかし、西日が暑いなと机の上に乗せていたタンブラーを開けて口元に運ぶ。

「わ、ぬるっ……」

 ああ、保冷機能付きのタンブラーにすればよかった。西日がガンガン当たっていたら、さっき入れてきたばかりだけどぬるくもなるよね。明日から変えようっと。
 もう一度口をつける気になれなくて、私を挟んで行われる綾と洋介の会話を聞いていると、カランとタンブラーから小さな音が聞こえた。氷が当たった音に聞こえて、そっとタンブラーを持ち上げる。すると、確かに氷のぶつかる音が聞こえた。
 ちらりと雪華の方を眺めたら、雪女特有の冷たく美しい笑顔を向けられる。
 そうか、これはお礼なんだ。
 口パクで、ありがとう、と告げると小さく頷かれる。
 ちょっと得した気持ちになった私は、機嫌が悪くなりつつある綾をチャラ男から引き離す。そして、氷が飲み物を冷やすまで、綾を盛大に甘やかすのだった。
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