人間と共存したい妖怪たち

黒鉦サクヤ

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9. ほどく

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「そうだ。神社に行かないといけないんだった」

 花澄が思い出したように呟いた。
 妖怪だからって神社に入れないことはないし、妖怪が神様として祀られているところもあるから関係ないことはない。だけど、私がわざわざ行く場所ではないかなあ。行っても猫又の私は、せいぜい境内でお昼寝をするくらいだし。

「何か願いごとでも?」
「その逆。願いごとが叶ったから、お礼参りで願掛けをほどきに行くの」
「ああ、そっちか」

 花澄は信心深い方らしい。人間の話を聞いていると、神社で願い事をしても、今はわざわざお礼参りをする人の方が少ないのではないだろうか。なにかと忙しい現代社会では、再度お参りするというのも一年後になってしまうという話も聞いたことがある。それって、初詣に願い事をして次の年の初詣でお礼参りと次の願をかけるということでしょう? 神様大変だね。なんていうか、有りなんだろうか、私にはよく分からないけれど有りなんだろうな。
 どっちにしろ妖怪の私には関係ないね、と思っていたら花澄がとんでもない提案をしてきた。

「明日、昼間に一緒に神社に行かない?」
「神社に明日?」

 明日の休みは怠惰な一日を過ごそうと思っていたので時間はあるけれど、いくら友達のお誘いでも、ちょっと遠慮したいかな。なんて断ろうと考えてると、背後から抱きつかれた。

「残念でした。明日は私とデートするんだもんね」

 花澄の問いから綾の返事までの時間は、三十秒もかからなかった。どこで聞いてて、駆けつけたのか。毎度のことながら恐ろしい。しかし、ここは助け船を出してくれた綾に感謝をしつつ話を合わせるのがいいよね。

「先約があったか、残念」
「ごめんね。でも、願いごと叶って良かったね」
「ありがと!」

 満面の笑みを浮かべた花澄に笑顔を返しながら、私は綾の方に手を伸ばす。その時、結んでいた髪の毛に指を引っかけてしまった。慌てて振り返ると、今日の綾は長い髪の毛を編み込んでいたようで、私が引っかけた部分の髪が飛び出てしまっている。

「わっ、ごめん。ちょっと、ここに座って」
「これくらい平気だよ」
「だめ。直させて欲しい」

 編み込みなら私もできるし。ありがとうってお礼を言おうと思ったのに、謝罪することになってしまい気落ちする。
 立ち上がった私は、自分が座っていた椅子に綾を座らせて、綾の髪の毛をほどく。指の上をさらさらの髪が滑り落ちていく感触が心地良かった。ブラシを使わなくても絡まっていない真っ直ぐの髪の毛は、細くて猫っ毛の私には羨ましい。
 指で髪を軽く梳きながら、綾の髪を丁寧に編み込んでいく。

「へー、澄ってきれいに編み込みできるんだね」

 私の隣に立って綾の髪を眺めていた花澄が言う。今日のはけっこう良い感じに結えていると思ってたから、褒められて嬉しい。

「練習したの。綾の髪の毛結いたくて」
「理由が澄らしくて可愛いね」

 綾の耳が照れているのか少し赤い。軽くその赤に触れると、体がぴくりと動いた。
 そんな私のイタズラに綾が怖い視線を向けている。ごめんごめん、悪気はないんだよ。可愛かったから、つい触れてしまっただけなんだよ。

 順調にいけば、綾はどんどん位が上がって神様になるんだろうな。そうしたら、神社に住むのかな。そんなことをぼんやりと思う。
 神の髪を結んでほどいて。
 そんな日が送れるなら、神社に居ても良いかなって思う。神社の境内でお昼寝を毎日するのもいいんじゃない?
 まあ、それも綾と毎日一緒に居られる日が来るというのが前提なんだけれど。
 とりあえず、あとで綾にお礼を言って、怠惰な一日を過ごすお誘いでもしようかな。
 神社じゃないけれど、明日は天気が良いらしいし日向ぼっこをしながらゴロゴロするのも良いと思う。

「できた」

 我ながら上出来、と綾の編んだ髪をゴムで結びながら告げる。すると、私の気持ちを知ってか知らでか、綾は言う。

「毎日、澄に結ってもらうのもいいかもね」
「じゃあ、明日も結ってあげるっていうのはどう?」
「いいね」

 顔を見合わせて笑っていると、花澄がそんな私たちを見て愉快そうに笑っている。
 この雰囲気が私は好きだ。
 卒業まであと少しだけれど、もう少し長くこの時間が続けば良いのに、なんてことを思った。
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