三十路の恋はもどかしい~重い男は好きですか?~

キツネ・グミ

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発展編

36.落雷

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サブタイトルはタロットカード大アルカナ16にちなんでます。



......


『では、15時頃迎えに行きます』

結局、物件見学は獅朗の急な予定が入ったために、翌週の週末に引き伸ばすことになった。

そして週末当日。

生憎、パラパラと雨の降る天気だからなのか獅朗が美云のボロ家まで車で迎えに来てくれることになった。

何かお願いをすると、こんな感じに美云がお願いした以上のカタチで獅朗から返ってくることがたびたびあるが、その優しさがちょっと怖いと思うのは恋愛下手な美云ならではの意識かもしれない。


お寿司を食べに行ったあの日から、仕事帰りに何度か一緒に食事に行っているが、手を繋いだり軽いキスをされる程度で特に進展らしい進展は無い。

むしろ、そんなことが繰り返し継続されていると言うことが、獅朗と美云の関係は友人以上だと物語っているのか。

周りから見ると、二人はすでに付き合っているとしか思えないと佳敏や路臣に言われたけれど・・・"私のこと、どう思ってる?"と聞く勇気が中々出てこない美云は、獅朗と楽しい時間を過ごしてもなんとなくモヤモヤとした気持ちが拭えずにいた。

そうなると現実逃避をしたくなって、思玲のことが頭によぎる。何を思ったのか先日の会社説明会で、将来この会社の社長になるであろう㬶天に連絡先を訊ねるなんて。

仕事の邪魔はしないように釘をさせば、自分もそんなに暇じゃないし、ちょっと焦らしても良いかなって思って連絡はしてないよ、なんて反省の色は無い。

でも、何だかお互いを気に入っているような二人は出会いこそ違えば、きっと今ごろデートくらい楽しんでいたのかな?

そこでハッと美云は気づく。今日の物件見学もデートみたいなものなのかしら?と。
ただ、見学したあとに何かしようとは特にどちらも提案していないので、これはやっぱりただの見学なのか。

『到着しました。入り口前で待っています』

噂をしていたらなんとやら、だ。美云は濡れても平気なパンプスに足を突っ込むと獅朗を待たせ過ぎないように急いで下に降りていった。


……


一階のエントランスまで到着すると車中からこちらを見ている獅朗と目が合う。ああ、この車は前にも見たな、とどうでも良いことが頭に浮かび、以前、獅朗と山で出会ったことを思い出す。

美云がドアを開けようとする前に獅朗が腕を伸ばして中からドアを開ける。きっと雨の日じゃなかったらこの人は自ら出てきてドアを開けるタイプなんだろう。ありがとうと言いながら美云が車に乗り込むと、今度はシートベルトに腕を伸ばされて締めてもらう。何から何まで至れり尽くせりだ。

「生憎の雨ですけど出発しますよ」

静かに車が動き出し目的地へと向かった。



ここです。と獅朗が指差した場所は結構新し目な高層マンションだった。

「高層ですね・・・何階ですか?」

「最上階、と言いたいところですが違います。上から三番目くらいです」

どっちにしろ高層階に変わりはない。思玲が喜びそうなマンションだ。

地下の駐車場に車を駐車するとそのままエレベーターに誘導される。美云はてっきり不動産屋さんと待ち合わせしてるのかと思っていたのでキョロキョロしてみるも、誰も人影はいない。部屋のある階で待ってるのかな?と特に気にもとめないでエレベーターに乗る。

エレベーターはガラス張りになっていて昨日の夜半から降り続く雨足がだいぶ強くなっているのが見えた。

チンと言う音が目的地に到着したことを知らせる。
こっちです。とずんずん奥へ進む獅朗の手に引かれて美云も着いていくと角部屋と思われる部屋の前で獅朗が止まり何やらポケットをガサガサしているかと思ったら目的のものを見つけてドアに差し込む。

あれ?と美云が警戒する前にさあどうぞと押し込まれた部屋は空き部屋では無かった。

生活感の溢れる、強いて言うなら男の住まいだった。

「獅朗・・・」

「室内見ますか?」

悪びれた様子もなく獅朗は室内を案内しようとする。

「完全に騙された・・・」

ボソッと美云が呟く横で獅朗は何がおもしろいのかニコニコしている。まぁまぁと良いながらリビングに案内され、広めのソファに座らせられ、その横に獅朗も座る。

「お茶でも飲みますか?それともコーヒーにしますか?」

「それより、どういうこと?」

膝の上でぎゅっと握りしめた美云の両手を獅朗が優しく握りしめる。

「私たち、一緒に住んだら良いと思いました」

「えっ」

「だって美云、お家探してるんでしょう?」

「それはそうですけど」

「じゃあ、良いじゃないですか?」

「そう言う問題じゃ」

「犬が苦手ですか?」

「犬は好きです」

「朝、目覚まし代わりになってくれますよ」

「それは便利でしょうけど」

「じゃあ、何が問題なんですか?」

「何がって・・・」

あれ?何が問題なんだろう?自分は何でこんなにためらっているんだろう?

そんな時だった。

ピカッと眩しいくらいに空が光ったと思ったら、バリバリバリと言う激しい音と共に室内の電気がパッと消えてしまった。

「きゃああ」

「わんわんわん」

美云が驚いて上げた声とジンの鳴き声が重なる。

「雷が落ちたみたいですね」

震えてる美云を落ち着かせるように獅朗は話しかける。

その後も断続的に雷鳴がどこか遠くで聞こえつつ、雨足は強くなる一方だ。

「まだ夜じゃないのに真っ暗になっちゃった」

「そうですね」

「あ、あの、獅朗?」

「はい?」

「あの・・・抱かせてください!」

「私を?」

「えっ?ああっ!違う。違うの。ジンを・・・」

雷があまり得意じゃない美云はあわてていたのか主語を付けずに話すもんだから、意味深なことを口にしてしまい恥ずかしくなって最後は尻窄みになる。

「私でも良いんですけどね」

獅朗はクスッと笑うと、すぐ近くで二人を見守っていたジンをヒョイと抱き上げると美云の膝の上に乗せる。

「明かりになるもの探してきますね」

獅朗は美云のおでこにそっとキスをすると懐中電灯を探しにクローゼットへ向かった。


……


クローゼットでお目当てのものを見つけたのは良いけど、なぜかキャンドルも同じ場所にあったので、どっちが良いか少し悩んだあとに獅朗はキャンドルを手に取る。ついでにキャンプ用のカセットコンロも取り出してリビングに戻ることにした。



「今、コーヒー淹れますね」

リビングに戻ると、心細そうにしている美云の腕の中に何か言いたそうなジンがおとなしくおさまっていた。

先にコンロを点火させてキャンドルに火を灯すとグラスの中に挿して倒れないように安全に明かりをとる。

その明かりをもとにキッチンへ行くとホーロー製のポットに水を入れ、再びリビングに戻るとコンロに乗せてお湯が沸くのを待つ。

出来上がったコーヒーはなぜかいつもと違う味のように感じた。

「美云、落ち着きましたか?」

来た時と同じように隣同士に座りながら質問すれば、こちらを振り向き美云はこくりと頷く。あまり大丈夫そうには見えない。
もっとちゃんと美云を確かめたくて、獅朗は美云のあごに指をあてクイッと上を向かせる。

ふと、イタズラ心が生まれてしまう。

「落ち着くおまじないをしてあげましょう」

獅朗は言うが早いか、自分の唇を美云の唇に押し当てる。雷の影響なのか美云の唇はとても冷たくて、獅朗はこの唇をもっと暖めたくなり、美云を抱き締める。

抱き締めた腕の力が強かったのか、単に自分はジャマだと感じたのか、美云が必死に抱き締めていたジンが二人の間からするりと抜け出すとトコトコとどこかへ駆けていった。

 
「美云、唇を開いてください」

もっと深く口づけたい。獅朗はそんな気持ちに駆られた。初めてのことだった。

「わ、私、、、遊びでこんなことしたくない」

つまり、誰かに遊ばれたことがあると言うことだろう。もし、そいつが今目の前にいたら獅朗は絶対八つ裂きにしてやると怒りに駆られるも今大事なのはそれじゃない。

「それなら良かった。私も遊びのつもりは全くないですから。意見が一致しましたね?」

獅朗は再び美云に口づけると弱々しく開いた美云の口内に舌を滑らせた。







......




すみません。
長くなったので、肌色は明日になります。
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