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29風ナキ谷!血などの表記があります!
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今朝から、ハルトの私への構い具合は半端なかった。
手を繋ぎたがるし抱きしめてくるし。
風鳴き谷へ向かう途中。走ってる時も横抱きしてきて、耳を舐められたり。
「唇にキスすると舌を入れてしまいますから、耳で我慢してくださいね?」
と耳元で囁かれると身体がぞくぞくしてしまう。
カサトはその都度注意するけど、ハルトのジト目にたじたじになってあまり強く言わない。
そりゃそうだよね。中に出したという事実があるんだし。私もハルトに強く言わないから、多分察しているだろう。
「…私は誰との子供でも平等に愛しますからね?」
とか言ってくるから。
ハルトは匂いがどうのと言っていたから、鼻が凄くいいんだろうな。
風鳴き谷に近づくにつれ、木々が凍っている。
顔に冷気が当たり、身震いする。
「マスクした方がいいかも。ちょっと止まって」
カサトは自分のを取り出して被る。ハルトに新しく創ってあげた所で気づいた。
私、ない。そうだ、あいつが持って行ったじゃない!
「…何で?前のやつは?」
「…取られた!あいつに!もう!!」
自分の分も創って、体温最適化を付与する。
2人はあいつ?と首を傾げていたけど、私は思い出したくもなかったので何も言わなかった。
少しして風鳴き谷に着いた。
大きな亀裂が地面を裂いている。眼下に崖が広がり、下は暗く見えない。
向こう側は荒野の果てに海が広がっている。
その海も凍っているのか、日光に反射してキラキラしていた。
強い風が下から吹き、度々唸り声と雪が混じって吹き上がった。
何がいるのだろうか。下に降りる階段もないし、どうやって降りよう?
「あそこに誰かがロープを垂らしていますね。何本かありますから、あれを利用しますか?」
木の幹にロープを括って、誰かが降りたんだろうか?そんなに凍ってないところを見ると、降りたばかりだと伺えた。もしかしたら緋色たちかも。
ロープは所々くぐってあって、足をかけやすくなっている。
一人一つのロープを使って降りていくと、日の光も当たらない真っ暗な底でいくつかの光が見えた。
「レーナ、何か光っとるな?」
「そうだね、あそこにいるのかも」
「いえ、そうではありません。精霊が近くにいるのでレーナ様が光って見えるのです」
え、私のこと?
本当だ、カサトとハルトがぼやっと見えるのは、私が光ってるからだ。
精霊がいるからって、これはちょっと恥ずかしい。
黙々と降りて行くと、底に着く前にロープが足りなくなった。あとどれくらい下なのかな?
メイジライトで光を落としてみる。まだ結構ある!
2人もなくなったみたいで私の出方を待っている。
崖を蹴って近くに来て貰い、ロープを掴んで創造魔法で下まで伸ばしていった。
ようやく地面に着き、光の元へ向かっていくと何かと戦っているのか。金属がぶつかり合う音が聞こえた。
メイジライトを少し上で固定すると、戦っているのは緋色とドラコだった。
「えぇ!?」
「ちょ!お前ら何してんねん!」
カサトが2人を止めようと近づくと、不意に唸り声と共に雪が吹いた。
「きゃっ」
「レーナ様!」
ハルトが私を庇ってくれる。
「大丈夫ですか?」
「うん、平気…」
「きゃあっ!」
緋色の声が聞こえ、向こうに倒れるのが見えた。
「緋色!」
カサトが突き飛ばして倒れたみたい。
緋色の元へ駆け寄ると、私を睨んで剣を拾った。
私に斬りかかってきて、緋色の手首をハルトが掴んで止める。
「…どうなってるの…?」
後ろでまた金属のぶつかる音に振り向くと、カサトとドラコが睨み合っていて、2人が剣で戦っている。目は血走っていて、鬼気迫る感じで怖い。
「…レーナ様!カサトは操られています!この声の主がそうさせています!」
また吹雪いて声が反響する。
私とハルトは変にならないから操られてないみたい。
えーとえーととりあえず!
「『防壁』!それと『魔法解除』!」
5人入る様に防壁を展開し、緋色に手を翳して魔法解除すると、ボーッとしてすぐに意識を取り戻した。
「玲奈!」
「緋色!良かった戻ったのね!よし!」
ハルトに事情を説明してもらい、私はカサトとドラコを正気に戻した。
「は!俺は何してたんや…?」
「レーナ!僕は何を…?」
「良かった!何か操られてたみたいだよ?多分この声の主に…」
ゔぉぉぉぉぉぉ!
雪と共に風が吹く。
「はっ!皆がいない!」
「あ!あそこに倒れてる!」
相打ちしたかのように倒れ血が流れていて、近づきたいけどみんなが防壁から出てしまったら二の舞になってしまう。
そうだ!
「『防壁纏い』!」
防壁を身体に纏わせる事が出来た!みんなの元へ走る。
キッキリ、ベル、ビーバ。みんな血だらけだけど、まだ温かい。
「『パーフェクトヒール』!」
血色が戻ってきて、一安心する。だけど。
「…ジュードがいない」
ギィン!
後ろに居たドラコの声と共に金属音が響いた。
ジュードの攻撃をカサトが受け止める。
「ジュード!」
「何やこいつ血だらけや!操られて仲間斬ったんか!」
防壁を貼り、倒れたままの3人に魔法解除をかける。
「カサト!そのまま動かないで!」
ジュードにも魔法解除をかけると、力が抜けたのかその場に膝を着いた。
「…おれ…は」
「ジュード!良かった…!」
ドラコが駆け寄り事情を説明すると、ジュードは頭を抱えて項垂れた。
声の主、絶対に許さない!もう少しで3人は死ぬ所だった。
それも、仲間の手で。
「『メイジライト、メイジライト、メイジライト』…」
灯りを次々と作っていく。
唸るような声から、悲鳴に変わっていく。
暗く見えない部分をなくすように、メイジライトを作って作って作りまくって。
まるで日中の様に明るくなっていった。
明かりに照らされて、骨が沢山積もって山になったてっぺんに何かいる。
「…あなたがみんなを操ったのね?!」
「ひぃぃいー!」
干からびた目のないゾンビの様な老婆が、私を見て後退っていく。
「…絶対に許さない…『鑑定』」
人型の魔物は初めてだから、本当に魔物かどうか調べた。
『ラミア:Cランクの魔物。暗闇に住み着き、人を操って弱ってきた所を食す悪食。子供を見つけると攫ってきて育て、食べる』
魔物で良かったけど、やっぱり人型だと躊躇してしまう。
「大丈夫や。レーナが出来んくても俺たちが殺る」
「そろそろ良いところを見せないとな?」
「任せてください、レーナ様。貴方の手は汚しません」
斬りかかった2人を援護するように弓を射る。
断末魔が谷に響いて、声はしなくなった。
討伐証明の為、はねた頭を布で包む。
見れない。それが魔物だとしても、さっきまで生きていたから。
「玲奈、ありがとう助けに来てくれて」
「緋色…助けたのはあの3人だよ」
「ううん。あのまま操られてたら、私達死んでた…」
「…嫌な事言わないでよ…。でも良かった。緋色達を探してたんだよ」
緋色に、みんなに告げなければいけない。事実あのことを。
とりあえず地上に戻ろうと踵を返すと、ガラガラと骨が動いた音がした。
骨の山の向こうに、真っ白い赤ちゃんがいた。髪も肌も目すらも白い。
ラミアが、どこかから子供を拾ってきたんだろうか。
緋色がその子を抱こうとしたけれど、冷た過ぎて触れないと言う。
鑑定を行うと、
『雪人:Sランクの魔物。雪を降らせて人を惑わし凍らせる。惚れた種族に転換する事が出来る。炎に弱い』
「…雪人…魔物だって…」
「雪人?Sランクの魔物か…カリフィネの雪山から攫われたのか…?」
「さっきの吹雪はこいつのせいちゃうか?」
こんなに小さいのにそんな力があるの?
「ぅびゃぁぁぁぁぁー!」
「ぅわっ!」
「きゃあっ!」
赤ちゃんから物凄い風と雪が吹いてくる。
このまま放っておくわけにもいかない。魔物だというのにそう思ったのは、赤ちゃんだからだろうか。
吹き飛びそうになる身体を何とか進ませて、赤ちゃんに手を伸ばすと、不思議と冷たさは感じなかった。
「よしよし、もう泣かないで…」
「びゃ……うー…」
小さくて丸くてかわいい。真っ白だという以外はどう見ても魔物に見えない。
「かわいいー!見て緋色、笑うとかわいいよ!」
「…平気なの?玲奈」
「レーナのが可愛ぇ…」
「同感だ…」
「…流石…精霊女王様…」
「ここに置いて行く訳にも行かないし、カリフィネの雪山?に連れて行こうか?」
「連れて行っても親は見つけられないと思う。それに雪山の中は更に吹雪いているしな。そんな中にも置いて行けないだろう、レーナは」
確かに、無理かも。
育てられるかわからなかったけれど、一応この子を連れて行く事にした。
ロープを上がるのは時間が掛かりすぎるので、私と緋色、カサト、ドラコ、赤ちゃん、ベルの5人を転移魔法でアローロまで飛んだ。
同様に他のメンバーをハルトが転移魔法で飛ぶ。
カサト以外のメンバーは驚いて開いた口も塞がらなかったみたいだけど、ハルトがローブを取り、エルフだと知って更に驚いていた。
王家御用達の宿に入ると、ブルードラゴンが無事だったとわかった亭主は喜んでいた。
キッキリとベルが魔物の討伐証明をギルドに持って行くと、金貨1000枚はカリフィネの国王から受け取ってくださいという証明書を貰ってきた。
「名前どうするの?」
「どうしよっか?…ネージュ…とかどう?」
「いいんじゃない!ネージュー♡」
「きゃっきゃっ」
機嫌が良くなってよかった。おむつと白いカバーオールを創って纏わせ、万が一の時の為に『炎耐性』を付与し、布で更に包んだ。
「…レーナ様、そろそろ…」
「あ、そうだ!忘れてた!」
赤ちゃんの存在ですっかり忘れてた!!
「あのね…緋色、ドラコ、ブルードラゴンの皆。聞いて欲しいことがあるの…」
私はゆっくりと事実を口にした。
古の勇者は召喚された日本人で、黒髪黒目である事。
黒髪黒目が嫌われる理由が、昔の国王の隠蔽魔法である事。
倒した筈の暗黒龍が蘇っていて、魔王と呼ばれている事。
そして私は、召喚に巻き込まれし者ではなく。
精霊女王である事。
勇者と告げなかったのは、ここで言ってしまうと緋色の存在が意味のないものになってしまう気がしたから。
黙って聞いているカサトとハルトは、何も言ってこなかった。私の意を組んでくれたんだろう。
真実は、まだ言わなくてもいい。一生でも、いい。
「精霊女王…?でも良かった…玲奈にも、意味があってここにきたんだってわかって…!」
「緋色…」
ごめんね、緋色。
泣いて喜んでくれてるのに。真実を告げられなくて。
「玲奈、お願いがあるの…。私の髪と目の色を直して欲しい…私だけこの世界に馴染んでいるみたいで、嫌なの…」
私の受けた扱いを知っている筈なのに、黒に戻して欲しいと願う。緋色は、強いなぁ。
「…いいよ」
髪と目の色を戻す様に魔法をかける。
緋色が黒に戻すんなら、私も戻さないとね。
「…玲奈、髪…」
「うん、私も元に戻すよ。緋色だけに辛い思いさせないから」
顔を合わせて微笑みあう。
これで黒髪の勇者は2人になった。
後は私が世界中に古の魔法解除を頑張ってかければいい。
幸い私には助けてくれる人たちがいる。
「緋色にプレゼントがあるの。ドワーフの王様が今弓の矢尻を作ってくれていて、弓の本体はエルフ族が用意してくれてるの。弓の方が使いやすいでしょ?」
「うん…!私、剣はやっぱりしっくりこなくて…弓が欲しかったの!」
喜ぶ緋色のお腹の虫が鳴る。
笑顔から反転。そういえばあまり食べてないからと真っ赤になって場が和む。
ツヤツヤで真っ直ぐストレートの黒髪。
うん。緋色に似合ってる。
「よし!じゃあご飯にしますか!」
「「「待ってました!」」」
3人は私のご飯の虜。
おでんを大量に作っておいてよかった。
みんな凄く喜んでくれて、作った甲斐があった。
手を繋ぎたがるし抱きしめてくるし。
風鳴き谷へ向かう途中。走ってる時も横抱きしてきて、耳を舐められたり。
「唇にキスすると舌を入れてしまいますから、耳で我慢してくださいね?」
と耳元で囁かれると身体がぞくぞくしてしまう。
カサトはその都度注意するけど、ハルトのジト目にたじたじになってあまり強く言わない。
そりゃそうだよね。中に出したという事実があるんだし。私もハルトに強く言わないから、多分察しているだろう。
「…私は誰との子供でも平等に愛しますからね?」
とか言ってくるから。
ハルトは匂いがどうのと言っていたから、鼻が凄くいいんだろうな。
風鳴き谷に近づくにつれ、木々が凍っている。
顔に冷気が当たり、身震いする。
「マスクした方がいいかも。ちょっと止まって」
カサトは自分のを取り出して被る。ハルトに新しく創ってあげた所で気づいた。
私、ない。そうだ、あいつが持って行ったじゃない!
「…何で?前のやつは?」
「…取られた!あいつに!もう!!」
自分の分も創って、体温最適化を付与する。
2人はあいつ?と首を傾げていたけど、私は思い出したくもなかったので何も言わなかった。
少しして風鳴き谷に着いた。
大きな亀裂が地面を裂いている。眼下に崖が広がり、下は暗く見えない。
向こう側は荒野の果てに海が広がっている。
その海も凍っているのか、日光に反射してキラキラしていた。
強い風が下から吹き、度々唸り声と雪が混じって吹き上がった。
何がいるのだろうか。下に降りる階段もないし、どうやって降りよう?
「あそこに誰かがロープを垂らしていますね。何本かありますから、あれを利用しますか?」
木の幹にロープを括って、誰かが降りたんだろうか?そんなに凍ってないところを見ると、降りたばかりだと伺えた。もしかしたら緋色たちかも。
ロープは所々くぐってあって、足をかけやすくなっている。
一人一つのロープを使って降りていくと、日の光も当たらない真っ暗な底でいくつかの光が見えた。
「レーナ、何か光っとるな?」
「そうだね、あそこにいるのかも」
「いえ、そうではありません。精霊が近くにいるのでレーナ様が光って見えるのです」
え、私のこと?
本当だ、カサトとハルトがぼやっと見えるのは、私が光ってるからだ。
精霊がいるからって、これはちょっと恥ずかしい。
黙々と降りて行くと、底に着く前にロープが足りなくなった。あとどれくらい下なのかな?
メイジライトで光を落としてみる。まだ結構ある!
2人もなくなったみたいで私の出方を待っている。
崖を蹴って近くに来て貰い、ロープを掴んで創造魔法で下まで伸ばしていった。
ようやく地面に着き、光の元へ向かっていくと何かと戦っているのか。金属がぶつかり合う音が聞こえた。
メイジライトを少し上で固定すると、戦っているのは緋色とドラコだった。
「えぇ!?」
「ちょ!お前ら何してんねん!」
カサトが2人を止めようと近づくと、不意に唸り声と共に雪が吹いた。
「きゃっ」
「レーナ様!」
ハルトが私を庇ってくれる。
「大丈夫ですか?」
「うん、平気…」
「きゃあっ!」
緋色の声が聞こえ、向こうに倒れるのが見えた。
「緋色!」
カサトが突き飛ばして倒れたみたい。
緋色の元へ駆け寄ると、私を睨んで剣を拾った。
私に斬りかかってきて、緋色の手首をハルトが掴んで止める。
「…どうなってるの…?」
後ろでまた金属のぶつかる音に振り向くと、カサトとドラコが睨み合っていて、2人が剣で戦っている。目は血走っていて、鬼気迫る感じで怖い。
「…レーナ様!カサトは操られています!この声の主がそうさせています!」
また吹雪いて声が反響する。
私とハルトは変にならないから操られてないみたい。
えーとえーととりあえず!
「『防壁』!それと『魔法解除』!」
5人入る様に防壁を展開し、緋色に手を翳して魔法解除すると、ボーッとしてすぐに意識を取り戻した。
「玲奈!」
「緋色!良かった戻ったのね!よし!」
ハルトに事情を説明してもらい、私はカサトとドラコを正気に戻した。
「は!俺は何してたんや…?」
「レーナ!僕は何を…?」
「良かった!何か操られてたみたいだよ?多分この声の主に…」
ゔぉぉぉぉぉぉ!
雪と共に風が吹く。
「はっ!皆がいない!」
「あ!あそこに倒れてる!」
相打ちしたかのように倒れ血が流れていて、近づきたいけどみんなが防壁から出てしまったら二の舞になってしまう。
そうだ!
「『防壁纏い』!」
防壁を身体に纏わせる事が出来た!みんなの元へ走る。
キッキリ、ベル、ビーバ。みんな血だらけだけど、まだ温かい。
「『パーフェクトヒール』!」
血色が戻ってきて、一安心する。だけど。
「…ジュードがいない」
ギィン!
後ろに居たドラコの声と共に金属音が響いた。
ジュードの攻撃をカサトが受け止める。
「ジュード!」
「何やこいつ血だらけや!操られて仲間斬ったんか!」
防壁を貼り、倒れたままの3人に魔法解除をかける。
「カサト!そのまま動かないで!」
ジュードにも魔法解除をかけると、力が抜けたのかその場に膝を着いた。
「…おれ…は」
「ジュード!良かった…!」
ドラコが駆け寄り事情を説明すると、ジュードは頭を抱えて項垂れた。
声の主、絶対に許さない!もう少しで3人は死ぬ所だった。
それも、仲間の手で。
「『メイジライト、メイジライト、メイジライト』…」
灯りを次々と作っていく。
唸るような声から、悲鳴に変わっていく。
暗く見えない部分をなくすように、メイジライトを作って作って作りまくって。
まるで日中の様に明るくなっていった。
明かりに照らされて、骨が沢山積もって山になったてっぺんに何かいる。
「…あなたがみんなを操ったのね?!」
「ひぃぃいー!」
干からびた目のないゾンビの様な老婆が、私を見て後退っていく。
「…絶対に許さない…『鑑定』」
人型の魔物は初めてだから、本当に魔物かどうか調べた。
『ラミア:Cランクの魔物。暗闇に住み着き、人を操って弱ってきた所を食す悪食。子供を見つけると攫ってきて育て、食べる』
魔物で良かったけど、やっぱり人型だと躊躇してしまう。
「大丈夫や。レーナが出来んくても俺たちが殺る」
「そろそろ良いところを見せないとな?」
「任せてください、レーナ様。貴方の手は汚しません」
斬りかかった2人を援護するように弓を射る。
断末魔が谷に響いて、声はしなくなった。
討伐証明の為、はねた頭を布で包む。
見れない。それが魔物だとしても、さっきまで生きていたから。
「玲奈、ありがとう助けに来てくれて」
「緋色…助けたのはあの3人だよ」
「ううん。あのまま操られてたら、私達死んでた…」
「…嫌な事言わないでよ…。でも良かった。緋色達を探してたんだよ」
緋色に、みんなに告げなければいけない。事実あのことを。
とりあえず地上に戻ろうと踵を返すと、ガラガラと骨が動いた音がした。
骨の山の向こうに、真っ白い赤ちゃんがいた。髪も肌も目すらも白い。
ラミアが、どこかから子供を拾ってきたんだろうか。
緋色がその子を抱こうとしたけれど、冷た過ぎて触れないと言う。
鑑定を行うと、
『雪人:Sランクの魔物。雪を降らせて人を惑わし凍らせる。惚れた種族に転換する事が出来る。炎に弱い』
「…雪人…魔物だって…」
「雪人?Sランクの魔物か…カリフィネの雪山から攫われたのか…?」
「さっきの吹雪はこいつのせいちゃうか?」
こんなに小さいのにそんな力があるの?
「ぅびゃぁぁぁぁぁー!」
「ぅわっ!」
「きゃあっ!」
赤ちゃんから物凄い風と雪が吹いてくる。
このまま放っておくわけにもいかない。魔物だというのにそう思ったのは、赤ちゃんだからだろうか。
吹き飛びそうになる身体を何とか進ませて、赤ちゃんに手を伸ばすと、不思議と冷たさは感じなかった。
「よしよし、もう泣かないで…」
「びゃ……うー…」
小さくて丸くてかわいい。真っ白だという以外はどう見ても魔物に見えない。
「かわいいー!見て緋色、笑うとかわいいよ!」
「…平気なの?玲奈」
「レーナのが可愛ぇ…」
「同感だ…」
「…流石…精霊女王様…」
「ここに置いて行く訳にも行かないし、カリフィネの雪山?に連れて行こうか?」
「連れて行っても親は見つけられないと思う。それに雪山の中は更に吹雪いているしな。そんな中にも置いて行けないだろう、レーナは」
確かに、無理かも。
育てられるかわからなかったけれど、一応この子を連れて行く事にした。
ロープを上がるのは時間が掛かりすぎるので、私と緋色、カサト、ドラコ、赤ちゃん、ベルの5人を転移魔法でアローロまで飛んだ。
同様に他のメンバーをハルトが転移魔法で飛ぶ。
カサト以外のメンバーは驚いて開いた口も塞がらなかったみたいだけど、ハルトがローブを取り、エルフだと知って更に驚いていた。
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キッキリとベルが魔物の討伐証明をギルドに持って行くと、金貨1000枚はカリフィネの国王から受け取ってくださいという証明書を貰ってきた。
「名前どうするの?」
「どうしよっか?…ネージュ…とかどう?」
「いいんじゃない!ネージュー♡」
「きゃっきゃっ」
機嫌が良くなってよかった。おむつと白いカバーオールを創って纏わせ、万が一の時の為に『炎耐性』を付与し、布で更に包んだ。
「…レーナ様、そろそろ…」
「あ、そうだ!忘れてた!」
赤ちゃんの存在ですっかり忘れてた!!
「あのね…緋色、ドラコ、ブルードラゴンの皆。聞いて欲しいことがあるの…」
私はゆっくりと事実を口にした。
古の勇者は召喚された日本人で、黒髪黒目である事。
黒髪黒目が嫌われる理由が、昔の国王の隠蔽魔法である事。
倒した筈の暗黒龍が蘇っていて、魔王と呼ばれている事。
そして私は、召喚に巻き込まれし者ではなく。
精霊女王である事。
勇者と告げなかったのは、ここで言ってしまうと緋色の存在が意味のないものになってしまう気がしたから。
黙って聞いているカサトとハルトは、何も言ってこなかった。私の意を組んでくれたんだろう。
真実は、まだ言わなくてもいい。一生でも、いい。
「精霊女王…?でも良かった…玲奈にも、意味があってここにきたんだってわかって…!」
「緋色…」
ごめんね、緋色。
泣いて喜んでくれてるのに。真実を告げられなくて。
「玲奈、お願いがあるの…。私の髪と目の色を直して欲しい…私だけこの世界に馴染んでいるみたいで、嫌なの…」
私の受けた扱いを知っている筈なのに、黒に戻して欲しいと願う。緋色は、強いなぁ。
「…いいよ」
髪と目の色を戻す様に魔法をかける。
緋色が黒に戻すんなら、私も戻さないとね。
「…玲奈、髪…」
「うん、私も元に戻すよ。緋色だけに辛い思いさせないから」
顔を合わせて微笑みあう。
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ツヤツヤで真っ直ぐストレートの黒髪。
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「よし!じゃあご飯にしますか!」
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おでんを大量に作っておいてよかった。
みんな凄く喜んでくれて、作った甲斐があった。
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