大量チートスキルをイマイチ使いこなせない勇者〜それは召喚に巻き込まれた私でした〜

MIILU

文字の大きさ
41 / 54

37牛の帽子亭

しおりを挟む
騒然とする街の中。

ワイバーンの解体作業は出来る人たちでやるとして、家などが焼けたり壊れたりした人たちは呆然と立ち尽くすしかなかった。

私達は街の人々を尻目に、ハンターギルドの隣、牛の帽子亭へと向かった。

外観に火事や壊れなどなくて安心した。

中に入ると辟易した冒険者で溢れかえっている。

これは、今日は宿が取れないかも?



「あら!レーナさん!やっぱりワイバーン討伐に来てくれていたのかい!」



配膳をしていたおばさんが私を見つけて話しかけに来てくれた。

元気そうで何よりだ。



「おばさん!ご無事で何よりです!」

「空を飛んでる黒髪の人がいるって噂になってたけど、カサトも飛んでたからもしかしてと思ってたんだよ!ありがとねえ」



私が茶髪にしてた頃と変わらない態度。

薄っすらと涙を溜めて、笑顔で大きく頷いてくれる。

両手には料理を持ったままだった。



「きっとここに来てくれると思って、大部屋空けてあるからね!レーナさん程の美人なら夫も増えてると思って!やっぱりあたしの見立ては間違ってなかったね!」



暗い店内の雰囲気を払拭させる笑いに、釣られて笑顔になる。

良かった本当に、元気そうで。



「上にディグがいるから会ってあげておくれ!食事も出来る限り用意するから」

「いいえ!食事はこっちで何とかします…!お部屋を用意して頂けただけで充分です!本当にありがとうございます!」



お辞儀をすると、おばさんは料理を催促するお客さんの元へ向かった。

冒険者たちが死屍累々といる階段を上がると、懐かしい顔立ちの人が立っている。

その顔は私を見留めて一瞬固まった。



「…っ?!レーナ…お姉さん…?!」

「久しぶり、ディグ」



少し大人びたディグがカウンターにいた。

前髪を後ろに撫でつけて、シャツにベストといった好青年風。

だけど、破顔した表情はまだまだ年下だった。



「レーナお姉さん!おかえりなさいぃ!」

「ディグ、ただいま!」



両手を広げ抱きしめて上げると、同じくらいの背丈に驚いた。

別れてから数ヶ月しか経ってないのに、肩幅も背中もがっしりしていて。力も強くて掻き抱かれると、男の人を感じて物凄くドキドキする。

だけど。肩に顔を埋めてわんわん泣く様は、まだ子供なのだなと思わせた。

ひとしきり泣き終えたディグの涙や鼻水をハンカチで拭ってあげていると、何の対抗意識を燃やしたのか。ネージュが私の後ろから抱きついてきた。

そして右肩越しにディグを見下ろすと、ディグに指をさす。



「だれ?」

「誰って…ディグだよ。ディグ、こっちはネージュ。ほら、よろしくして?」



ネージュの頭を撫でると、少し機嫌の良くなったネージュは右手を差し出した。



「…まさか…この人も夫…?」



ディグはその右手を、口を開けたまま右手で応える。



「そのまさかや!早う大人にならんと、レーナは夫が増える一方やで~」 



茶化すようにカサトが左からハルトの肩を抱えて現れた。



「第5夫のエーバーハルト・フォン・ユグドラシルと申します。以後お見知りおきを」



うわぁ、こっちも何の対抗意識?めちゃくちゃ良い笑顔で自己紹介してる。



「…だいろくおっと…ネージュ!」



親指を自分に立ててドヤ顔。

エッヘンって仕草が可愛いすぎる。



「…ぼ、僕は…?レーナお姉さん…!」

「ちょっと、その話もしたいし、今後の話もしたいから部屋に移りませんか!」



周りのみんなが何だ何だと騒ぎ立ててきた。

いたたまれなくなった私は足早に大部屋の鍵を貰ってディグも来て貰う様に促した。



カウンターに“宿いっぱいです”の札を立て掛けて貰い、大部屋に着くとどっと疲れが出た。

6人用の部屋は広く、大きな丸テーブルもあり椅子に腰掛ける。

私が座ったのを見て右は定位置のネージュ、左は誰が座ると3人で話合う。

マジックバックから飲み物とコップを人数分取り出すと、ニコニコネージュはみんなが座るであろう場所に置いていってくれた。

私の左には、久々だからという理由でディグが座った。その隣にハルト→カサト。

何から話していいかわからず、カサトに視線を送る。意を汲んでくれたカサトは軽口を叩くように口を開いた。



「第1夫は俺。第2夫はドラコ。第3夫はディグ、お前の為に空けてある」

「…え…?」



人差し指、中指、薬指を立ててディグを指さした。

口を開けて私を見るディグ。顎が外れてしまうんじゃない?



「えーと、ディグさえ良ければ…。っていうか、成人してもまだ私の事想ってたらだよ?」

「そんなの!想ってるに決まってるじゃん!」



ガバッとまた抱きつかれてしまった。

また泣いてるのか、身体が震えて涙声になっていく。

お返しにそっと腕を回し、撫でつけられた髪を梳く。



「僕、あれから毎日牛乳飲んで頑張ったよ!これからも頑張ってすぐに大人になるから!だから待っててほしい…!」

「…ディグ…ありがと」

「むー!」



後ろからネージュの不満声。

それをカサトが肩を抱いて宥めたけど、カサトに懐いてないネージュには逆効果だったみたい。



「ディグ…だきつくのやめて…!レーナはぼくのなの…」



また後ろから抱きついてきた。

私を挟んでバチバチするのやめてくれないかなぁ。

今からこんな感じで、将来一緒に住むのに仲良くできるの?



「貴方たち、おやめなさい。レーナ様が困っています」

「そうやで!ネージュ!レーナはみんなのやねんから、夫同士仲良くせんと!レーナに嫌われてまうで!」

「「え…っ」」



そろりそろりと二人は離れて行き、お互いを見合ってごめんなさいと素直に謝った。

素直な子は好きだよ!

二人の頭を撫でてあげ、カサトとハルトに笑顔を向けた。

ディグに黒髪黒目を驚かれたけれど、理由を説明すると



「そうなんだ。でも僕はどんな色をしてたってレーナお姉さんを想っているよ」



ニッコリ笑顔に救われた。

ディグ、いい子!

エルフのハルトに驚いて、元魔物のネージュにも驚いたところで、重い口を開けたのはカサト。



「藍雷からレーナに連絡あってなぁ…3日後、アンブシュアの家で待つって…」

「藍雷?!まさか藍雷も夫なの?!」

「…ディグ、知ってるの?」



藍雷の存在に一番驚いたらしい。

宿は色んな冒険者が泊まるから、藍雷の噂も流れてくる。小さい頃は噂をよく聞いていたが、ぷつりとなくなったかと思えば最近になってまた噂が流れてきた。

アンブシュアにいたのに次の日にはカリフィネにいたりと変な噂だったので覚えていたらしい。

従わなければならない理由を説明すると、ディグはわなわなと震えていた。



「大丈夫よ!私が藍雷と会うだけでみんなを守れるんだから!」



重たい空気を払拭するように、なるべく明るく努める。



「でも…じゃあレーナお姉さんは誰が守るの…?」

「…大丈夫、なんとかなるよ!私は、みんなが傷つけられる事の方が辛いから…。みんなの身に何かあったらって考えると…」



ハルトの喉がゴクリと鳴る。



「…アンブシュアは地図上から失くしたくないから、安心してハルト」



ニコリと作り笑顔をハルトに向けた。

本当に、今回はどうなるかわからない。

前と同じく抱くだけ抱いて去るなら良し。

みんなに危害を加えるなら、私はーーーーーー。

鬼にでもなろう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...