2代目剣バカ世界を歩く

赤井水

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2代目剣バカと辺境伯領

5話

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 マクベスさんから聞かされた話は知らないことだらけだった。

 クレイドル辺境伯領は魔物と食材の宝庫だ。

 しかし誰も気付いてないことがある。
 剣鬼が住まうオーガスタの村の先が魔の森と呼ばれ
 最下級の魔物で1体居たら10体は居ると言われるゴブリンですら絶滅に追い込まれる程
 飢えた魔物が常に居て人間の土地を狙ってる場所らしい。

 全ての魔物にハイやビッグの名前がつく1魔物ですら中級上位の魔物しか居ない森で
 魔物を狩り食材として食べ、国や領地の防波堤になっているのがオーガスタの村らしい。
 魔物は強さが上がれば上がるほど上質な肉質になり美味しくなる。

 じいちゃんにとっては勝手に獲物が増える狩場位にしか思ってなかったはず?

 そんな魔の森の反対側はレック帝国の領地になる。
 レック帝国は魔の森を修行の場として捉えており
 そこで活動出来る人間はギルドランクで言うとB以上じゃないと活動できないらしい。

「えっ!? そうなの? ならクレイドル辺境伯側は弱い魔物ばかりだったのかな?」

 キョトンとする俺に引きつった顔をするガイさん、ベトさん。

「はぁ……スレッド。お前さんあの山が修行場だったんだろ?

 もう既にBかAランクの実力はあるだろ?
 だいたい都市部の連中は気付いてねーんだよ。
 子供の頃から田舎じゃ農家が鍬持ってゴブリンやボアを倒してるのに
 都市部じゃへっぴり腰で剣持って戦いに行ったガキが死ぬんだぞ?」

 俺にとってその話は衝撃的だった。
 村に居る子供達にとってはゴブリンは肥料の素だし倒すと駄賃が貰える小遣い稼ぎのカモだ。

「お小遣い稼ぎのゴミに負けるの?」

 マクベスさんもうんうんと頷く。

「だよな……俺も最初あの村に行った時は驚いた位だからな。
 子供が笑顔でゴブリンを追い掛けて『小遣い寄越せぇ』って倒しにいくんだからな」

 村では術式選択は農家系の生産術式でも武器術でも魔法術式でも自由だった。
 農家ならどっちつかずだけれど、農産物の品質が良くなり
 武器術なら水やりが大変になるけど耕すことが楽であり
 魔法術式なら水やりが簡単だけど耕すのが辛いだけだ。

 武器・魔法術の農作物は生産術式持ちが確認してるので作物の出来は平均的だったりする。
 足りない場所を補い合うのが村の常だった。

 村で1番珍しく有名な人はテイマーだ。
 牛や馬型の魔物に木の道具をつけて田畑を耕し植物系の魔物で野菜や麦を管理するのだ。

 あの村の8割の田畑はテイマーさんの畑にして開拓をどんどん進めているのが現状だ。
 2代目になる人も既に居て初代テイマーさんも楽しそうだった。

 そんな時にガイさんが質問してきた。

「そういえば冒険者ギルドでは何をやったんだい?」

「ガイさん。あれは簡単ですよ? 殺気と威圧を同時にピンポイントで送ったんです。

 今、分かりやすく軽い威圧を出しますね?」

 俺は正面から威圧を出して背中側から殺気を放ってみる。
 ガイさんは後ろを振り返り驚いていた。

「ここまで自由自在なのか……魔力でもこれくらい出来ないとダメなのかもしれないなぁ」

「そういえば俺知らないんですけど魔法術の基礎術って何なんですか?」

 ガイさんは笑顔で答えてくれた。

「ん? そういやスレッド君は武器術だったね?
 魔法術の基礎術は『魔力操作』だよ。その先の属性は個人の資質に依存すると言われてるよ」

 へぇ? けど根幹の基礎術が属性関係無いなら資質は扱いやすいだけで極めれば全部使えるんじゃないだろうか?

 まぁ、俺は答えを知ってるというだけでそれを教えるのはお門違いってやつだろうね。
 ガイさんが魔力操作の修行をした結果気付いたら分かることだし。
 もし間違っていたら損になる可能性もある知識だもんね!

 俺達が乗る馬車は国境の近い街クレイドル辺境伯領第2の都市『ニィ』だ。
 ここはクレイドル辺境伯領でも要所となる。

 帝国との玄関口で両国の貿易も行われている。
 多分どこの辺境伯領でも同じだけれど国境が近い街だけに1番他国の人が多い街になる。

『サン』が国内向けの街だとしたら『ニィ』は商売人が沢山集まる場所だ。

 色々会話していくと面白い話があった。
 グルさんの鍛冶師の術式の中には水・火・風・土と全ての魔法が使えるらしい。

 それは何故か? 鍛冶を行う上で全部使うし高位の鍛冶師の中には武器に属性を付与する時につかうんだって。

 火入れの火、鉄の冷やしに水、火力上げの風、金属の変質に土や型を作る時にも土を使うので鍛冶をすると満遍なく上がるらしい。

 どれも攻撃には使えないレベルだけれど複合的に使えるのは面白いね。
 しかも武器術も上がりづらいけれど満遍なく使えるんだって!

 自分が作った武器が使えないのでは意味が無いらしい。
 やっぱり使い手にとっての扱いづらさが分からないと3流鍛冶師って言われちゃうみたい。
 付与が出来ても扱えなきゃ2流、どちらも扱えて1流1歩手前って感じらしい。

 そんな楽しい会話をしてサンを出てから3日目の昼手前の陽気な風が気持ちいいなぁと思っていると
 草原の奥からこの陽気に似つかわしくない悲鳴の様な大声が聞こえた。

『ふぇぇぇぇ!! こっち来んなぁぁぁ』
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