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短編集
ゴミ箱と呼ばれた魔法使いはしたたかでした。
しおりを挟む「おい、"ゴミ箱"処理しとけよ?遅れたら良いな?報酬減らすからな?」
ドスの効いた声で怒鳴って行った金髪の少年が僕の事を見向きもせずに森の奥に進んでしまう。
「ジョンの奴何か不機嫌だなぁ……また振られたのか?うぉアイツまじで置いていくじゃん急がないと『圧縮』」
魔法で黒焦げになっている魔物の処理を今使った『圧縮』の空間魔法で処理している。
焦げて炭化している魔物以外は圧縮して土に埋める。
炭化している奴は圧縮をすると綺麗な石になる。
それを腰に下げている袋に入れる。
そしていつも通り、周りを確認したらジョンを追いかけて走る。
これが毎日のルーティンだ。
「ふひぃー、アイツら奥に行き過ぎだろ。どこ行ったんだよ……お!居た!」
僕は、パーティーメンバーを見つけ追い付くーーと突然ジョンに殴られた
「遅せぇんだよ!クソがっ!」
金髪の少年ジョンは『剣豪』の職業を持つ前衛だ。
素早く、力が強く近接戦闘になると僕は手も足も出ない。
「痛てぇな……クソが。僕の処理の方が時間掛かるんだからしょうがないだろ? 何で理解しないんだよ!」
ついついこんな風にケンカしてしまうのだった。
僕とジョンの間に2人の女の子が割って入る。
「ちょっ!ちょっと待ってよ、ジョンもラルもケンカするならギルドに戻ってからにしよ?」
赤髪の少女はミラ『魔法使い』の職業で僕達のパーティーのムードメーカーでもある。
「お二人共落ち着きましょう? 今はまだ森の中なのですからね?ふふふっ」
この落ち着いた、話し方の少女はラムリス
『治癒術師』のパーティーのブレーキ役でもある。
「「ふんっ!」」
ジョンと僕は幼なじみでいつもケンカばかりだ。
このパーティー【グロリア】を組んでからもう4年未だに溝は埋まらないそれは……
「クソがっ!何だその態度は"ゴミ箱"のくせに調子乗んじゃねーぞ!」
この2つ名である。
僕達冒険者にとって2つ名は2種類ある。
かっこよく本人もお気に入りの2つ名と、バカにする為につけられたあだ名がそのまま2つ名になるパターンだ。
勿論僕は後者だ。
"ゴミ箱"と呼ばれるB級冒険者のラルは強力な空間魔法『圧縮』により
魔物の素材や討伐証明をも巻き込んでゴミにしてしまう為に着いたあだ名。蔑称。
価値ある素材をガラクタに変えてしまう天才と皮肉を込めて"ゴミ箱"
「ゴミ箱、ゴミ箱うるせぇよ。毎回我慢してんだぞ。
ふざけんなよ。撤退戦や殲滅戦の時は最前線に行けって言って報酬ぶんどるくせに普段はバカにしやがって……」
ここまで言って頭が急に冷えた。
あぁ、ここまでだなと。
そういえば不満が溜まっていた、殲滅戦や撤退戦等の報酬は
いつも等分性なのに今日の様な素材採取依頼は僕の報酬は雀の涙で遠征になれば正直赤字だった。
「え?ラル?」
ミラが急に静かになった僕を心配そうに見る。
ため息をついて。
「なんでもない。もう行こう。取り敢えず依頼は達成してるだろう?ギルドに戻ろう」
「ええ。そうね、大声出してしまいましたから早めに戻りましょう?」
僕達4人はギルドに戻った。
◇
ーー戦術都市プロミネンス
魔境の森と迷宮プロミネンスが混在する都市だ。
ここでは多くの冒険者が迷宮と魔境の攻略の為に一攫千金を目指して集まってくる。
「あ!グロリアの皆さん。ご無事で何よりです。討伐証明を頂きます。
はい!確認できました。魔境の森のグレーターウルフの群れの討伐完了です。
報酬は牙と合わせて10万ルギーです」
銀貨10枚が手渡される。
僕達は併設されている酒場に行き報酬を分配する。
僕の目の前には銀貨1枚
「はぁー……何これ?」
僕はため息をついてジョンに話し掛ける。
「は?何もしてないし、遅れてくるし銀貨1枚でも多いと俺は思うぜ?」
何当たり前の事言ってんの? みたいに話してくるジョン。
「え?何だよそれ。魔物の死体処理だって時間かかるんだぞ?それホントに言ってる?」
すると、ジョンは額に青筋を立て、癇癪を立て始める。
「うるせぇーリーダーは俺だぞ!そんなに言うなら出てけば良いだろう?
誰にでも出来るんだから死体処理なんてよ!」
酒を一気飲みしてギャーギャー喚くジョン。
僕は冷めた目でそれを眺めていた。
「うん、そうか。わかったよじゃあそれで行こう!」
「ん?」「え?」「ほぇ?」
3者3様の反応を見せるグロリア達。
「いやー4年間ありがとう。これからも頑張って脱退手続きはしておくね?
これだけ騒いだんだからもう取り消しは効かないからね?」
僕はそれだけを伝えると、そのまま受付に向かった。
受付嬢達もバッチリ騒動を見ていた為、既に僕達のパーティーの担当のアミラさんが脱退手続きの書類を持って待っていた。
「ねぇ? ラル君本当に良いの? あと少しでAランクじゃない? だからもうちょっと我慢してみない?」
この人はノルマが有るからこう言ってるけどもう我慢出来なかった。
シラケた表情で僕は一言伝える
「無理」
パーティー脱退手続きの用紙を書いてアミラさんに渡し。
「しかもその言葉もう10回目ですよ? 邪魔するなら受けて立ちますよ球体に成りたいのでしたら」
そう言うと、冷や汗をたっぷりに浮かべたアミラさんは笑顔で。
「受付完了しました。またのお越しを」
と定型文を読み上げた。
それを確認したら僕はギルドを出て宝石商がある建物の2件隣の一軒家のノッカーを5回叩く。
少しすると、扉が小さく開くと中から男性が話しかけて来た。
「お?ラルの旦那じゃないですか?店長呼んできますね」
そう言うと慣れた様に応接室と書かれた部屋に入り希望の相手を待つ。
数分程経つとお目当ての相手が姿を現す。
レコンド商会の長カムリ・レコンド
この人はプロミネンスでも有数の大商会の長であり、僕の1番の友人でもある
「おや?ラル君。今日は機嫌が良いね?」
「顔に出てたみたいですね? 遂にグロリアから抜けました。
いい加減に報酬の天引きが酷くてですね……」
「遂にか……それで冒険者は続けるのかい?」
カムリはそちらの方が気になるのだろうな。
「あ!それは勿論続けますけど、納入頻度は下がるかもしれないですね。
適性の火魔法使いを探さないといけないですからね」
そう言って、目の前にあるトレーに先程の魔物を圧縮して作った透明な石を50個程出す。
「今日はグレーターウルフの群の討伐だったので数が多いのでしばらくは勘弁してくださいね?」
そう言って僕は謝るが、カムリはルーペを取り出し透明な石をランク分けを始める。
「あ、それと1つだけえぐいの作れましたよ?」
そう言うと今日たまたま作れた取っておきの石を1つ取り出す。
「「!!」」
後ろに控えていた番頭さんとカムリは驚愕した表情を浮かべ、カムリはそれを手に取る。
「うむ、美しいなぁ……これは値段がつけれるか?微妙だぞ?」
それを聞いて僕は肩を落とす、わかってはいる。
見た目水晶なのに割れないのだ。
元は魔物なので魔力の通りも良く魔法の触媒にも使えるのだ。
こんなの見せてしまえば確実に貴族達から奪われてしまう。
「扱いはカムリに任せるよ。元はタダだしね。
人脈作りに使っても良いし献上品にしたって多少買取に上乗せしてくれれば僕としては構わないよ?」
僕の言葉にカムリは眉尻を下げた。
この人は本当に良い人だ、買取が難しい納品をすると毎回申し訳なさそうな顔をするんだよな。
「すまんなラル君。全て買い取ろう。金貨200枚出す。
これでも全然安いがな、何か困った時はレコンド商会が全面的にバックアップしよう」
「それで良いですよ!僕は別に」
そう言ってカムリと握手をする。
その石の名はダイヤモンド
ランク分けされた理由は魔物の炭化状況によって色や不純物等の有り無しで金額が変わるからだ。
貴族達や、魔法使いや魔道具士やその上位職達に大人気の宝石で1種のステータスになっているらしい。
カムリも僕もボロ儲けしているのだ。
正直に言うとグロリアは僕にとってもう重石だったのだ。
上のランクを目指さなくてもダイヤモンドを供給過多にならない様に売れば暮らせるからね。
僕は魔物からタダでダイヤモンドを手に入れる。
カムリは相場の10分の1の値段で僕から仕入れる
貴族達が買う値段の10分の1ですら最高ランクのダイヤモンドだと1つ金貨100枚は超えてしまう。
大きさと、色艶によって値段が上がり下がりするのだ。
そして先程の水晶の様なダイヤモンドは技術的にもとても難しい上に
何故か綺麗な透明に出来てしまったので買取は出来ないだろうと踏んでカムリには支援を求めたわけだ。
「あ、この丸い方は献上品にした上でその後の利益から出すから、常宿に使いを出すよ。もし場所が変わったら連絡をくれ」
「あ、了解です」
そう返事をすると番頭さんがトレーにだし金貨10枚ずつの塔を立てて20個ある事を確認したら袋に詰めて帰る。
「では、また仕入れたら来ますね。失礼します」
僕はそう言うとウキウキな気分でここを出るのであった。
魔物からダイヤモンドが作れたのは本当にたまたまだった。
2年前までは魔物の処理は穴を堀りそこに適当に魔物の死体を放り込み圧縮して埋めていたのだが。
1匹だけ穴に入れておらず圧縮し忘れていた黒焦げた魔物1匹に対して
僕はむしゃくしゃしていたので本気で圧縮をかけた。
すると、いつもは肉団子みたいなのが出来るのに透明な綺麗な石になっていたのだ。
驚いた僕はすぐにカムリの所に行き、レコンド商会お抱えの錬金術師と原因と古本を調べた結果。
炭に超強力な圧縮をかけると確かにダイヤモンドが精製出来たのだ。
問題はここからだった、炭から作ったダイヤモンドは魔力を通さないが魔物製のダイヤモンドは魔法の触媒になる事が判明したのだ。
僕達は密かに"魔宝石"と名付け売り捌き始めたのだ。
それから2年間は黒焦げの炭化した魔物はダイヤモンドに。
それ以外は圧縮して捨てるという時間の掛かる作業をしていた訳だ。
ちなみに2体以上同時に圧縮しても大きめのダイヤモンドになるのだが
状態の変化で色が微妙に違うダイヤモンドが出来てしまうのだ。
真ん中から色が違うダイヤモンドに……
これの場合微妙な触媒になる為、使えなかった。
2年間続けた結果は……白金貨10枚という。
最早1財産を築いてしまったのだ。
しかし冒険者は嫉妬深い者も多く、金回りが良いと目を付けられ奪おうとする為。
2年間文句を言われ続けた上で生活基準を一切変えず尚且つ腰にぶら下げている袋が超高級品のマジックバックという事もバレてはいない。
いつもの常宿も最早自重する必要も無いのでもう少ししたら一軒家でも拵えて
お別れだなと思いながら曲がり角を曲がると苦虫を噛んだ様な顔になってしまう……
それもそのはず、常宿の前にはグロリアの3人が居るのだから……
彼らはBランク冒険者が安い宿に泊まるなんてと言って昇格直後にこの宿を早々に出て行った。
僕はDランクからこの宿を使い続けているので意味が分からなかった。
ランクが上がれば宿も上げなければいけない理由はとても謎だ。
そして彼らが出て行った後は僕はこの宿をカムリに相談して改築して貰った。
完全なる寄付という形でね。ここの宿のオーナーは優し過ぎる方なので一切値段を上げなかった。
彼らが出て行った直後にこんな事が起きた為彼らは自分達の名前を使った使用料を寄越せみたいな一悶着を起こした為にレコンド商会とこの宿は出禁になっている筈。
僕は知らないフリをして、宿に入ろうとすると肩を掴まれた。
仕方ないので振り向き
「あ、お兄さん。この宿出禁でしたよね? ここの土地に入ったのがバレるとレコンド商会の方が衛兵を連れてきますよ?」
と完全に余所行きの言葉遣いで話す。
「ゴミ箱が調子乗んじゃねぇーー」
いきなり剣を抜き斬りかかって来たので。
「『圧縮』『圧縮』『圧縮』」
まずはミスリルの剣の刀身を圧縮、次に左腕と右足を圧縮した。
「ギャーーー痛てぇよ痛でぇよ……たじゅげでぇーママァー」
とずりずりと喚きながら逃げ出した。
「えぇ……ママァって……まだマザコン治ってなかったのかよ」
ドン引きである。癇癪で剣を抜いた事もしかり、マザコンが村を出て4年も経ってるのに治ってなかった事に。
「ジョンさん『ハイヒール』」
ラムリスが慌ててジョンに駆け寄り治癒をかけながら僕を睨む。
「その睨みはお門違いだろ? まぁ、良いよ。これから衛兵が来たらジョンは確実に資格剥奪だろうからね?」
キッ!と睨みつけてジョンを抱えて逃げていった光景を見て……はて?
ラムリスはあんなに怪力だったっけ? と思案を巡る。
「アイツ……実力隠してか弱い女演じてたのか」
とジョンはどう頑張っても尻に敷かれる奴なんだろうと思うしかなかった。
ラムリスとジョンとミラは毎日猿の様に1部屋にこもってたからな。
何故僕に執着するか謎だ。まぁもう関係ないがな。
「どんまい……」
最後に告げる言葉はそれしかなかった。
その後は、宿屋の受付さんに怒られ(理不尽だ。僕じゃなくてグロリアに言って欲しい)
とほげぇーと魂が口から出て行くし。
衛兵に事情聴取されて、ギルドから僕に明日出頭命令が出た。
「明日は……ゆっくりしたかったんだけどな」
僕の祝パーティー脱退1日目はこれで終わった。
◇
次の日、冒険者ギルドに向かう最中コソコソと俺を見てる連中が居る。
その理由はすぐにわかった。
「ラルは癇癪を起こしいきなり私達グロリアを逆恨みして襲ったのです!」
とよよよと嘘泣きしながらギルドの目の前で演説してる奴が居るのだから。
腕と足を大袈裟に包帯を巻いたジョンを隣に目の前にはミスリルの刀身が圧縮された剣が置いてあった。
俺は無視してその脇を通ろうとすると
「罪人は然るべき措置を受けるべきでは?」
とラムリスが俺を指差し大声で話しかけてくる。
俺は振り返り
「え? いきなり襲われたなら剣が抜き身なのは誰も疑問に思わんの?
しかも普段俺をゴミと称するグロリアの皆さんの実力はその程度?」
と皮肉と矛盾点を返した。
俺は周りの反応を聞く事無くギルドに入ると個室に連れていかれた。
しばらくすると、ハゲオヤジが入って来た。
あ~面倒事が起きたと俺は心の中で思いつつ
「ギルドマスターがなんの用で?」
と用件だけ話してくれと催促すると
「期待の新星に何て事しやがった!!!」
と怒鳴られた。
期待の? 新星? その一員に昨日まで居たんだけどな俺も……
「だから?」
こちらに非は無いので毅然とした態度で臨む。
「貴様!それ以上ふざけた態度を取るとどうなるかわかっているのかっ!」
といきなりハゲが気色悪いニタニタ顔をし始めた。
密室で気持ち悪い奴とあまり長時間居たくないので早くしろよ。
「んで?」
あれ? 何か更にキレだしたぞ? なんだコイツ?
「ふん!貴様はCランク降格にしてやる。そして素行不良の落胤を付けてやる」
と言うので不正まっしぐらだな、おい。
「ドーゾードーゾーお先真っ暗ねー」
と棒読みした。
「貴様ぁぁ……もう良い財産取り上げて「おい!それ以上口走ってみろ?殺すぞ?」て。え?」
俺の財産取り上げ? 何言ってんだこのハゲ?
「お前らが男女関係になって供託するのは見逃してやるが財産取り上げ? てめぇに何の権利があるんだ?
因みにグロリアに関しては昨日衛兵にまで話が行ってるぞ?
あそこで演説までして俺を貶めた以上罪状が着いてもおかしくない。
あ!後この会話全部録画してるから魔道具でな。
王都に送り付けるぞ?おい聞いてんのか?」
途中から土気色の顔色になったギルドマスターは口から魂が出ている気がする。
「あぁ、そう言えば降格処分だっけ? 受けてやるよ。
その査定が今後どうなるか何て僕は知らねぇし既にお前がこの場でそれを口にした以上Cランクに書類上なっているだろうから。
左遷先が良い所になると良いなぁ?」
僕はそれだけを伝えて部屋を出た。
既にCランクになっているだろうから俺は冒険者カードを更新してみると
しっかり、『Cランク』と『素行不良』と明記されていた。
受付嬢は僕に怯えた様子を見せる。
多分降格処分+素行不良の部分でビビってるんだろう。
「近々上司が変わるかもな?更新ありがとう」
と伝えるとキョトンとした表情で僕を見ていた。
僕は適当にダンジョンでも潜ろうかなと思いギルドを出るのであった。
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