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1.チュートリアル

1-1.Prologue

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 ある日、僕/私は真っ白な空間に居た。
 僕/私、赤坂深夜/御坂真昼は恐らく死んだのだ。
 トラック/ダンプカーに轢かれて、見るも無残な状態だったと思う。
 今の僕/私の自身の体ですら人の形こそしているが、男でも女でもない。
 そして誰かと思考が被ってる事に気付いた。
 それはこの世界特有の症状だと、思っていた。

「本当にごめんなさい!」

 唐突に現れたふわふわした不定形の何かが僕/私に話しかけてくる。
 それをマジマジと見ている内に、それが神様である様な気がしてきた。
 恐らくはそういう風に感じられる仕様なのだろう/でしょう。

「どうして謝るのですか?貴方/貴女は神様ですよね?」

 何か自分の発する言葉に違和感を感じた。
 双子の妹/兄が声を重ねている様な感じ。
 不思議だけど、まぁいいやって思うのはその程度に僕/私にとって些細な事だった訳だ。

「そうなんだけどさ、いやぁ、ちょっと手違いでね、君達の魂が混ざっちゃったんだよ、なんというか波長が合いすぎてさ」
「へ~/ふ~ん」
「随分淡泊なんだなぁ、まぁ会話が出来なくなる程に取り乱されるよりか良いけどさ」
「これから天国に行くのなら関係なくないですか?」
「それなんだけど、実は二人共、寿命の設定値が間違えててさ」
「怠慢だな/ですね」
「いや、これは手厳しい、二人同時に言われると尚更だ、まぁそう言う訳で、君達には別の世界に転生してもらおうと思うのだが」
「チート能力貰える!?/貴族令嬢ヒロインになれる!?」

 唐突な意見の食い違いに緊張が走った。
 もし願いを聞き言えてくれるのであれば、僕/私の希望を通したいとお互いに思ったのは間違いない。
 少しの間の静寂に不定形の何かから零れ落ちる汗のような物が落ち、ぽちゃんと言う音だけがその場を支配した。

 だがそれは、戦いのゴングの音だったのだ。

「令嬢ってなんだ僕は男に抱かれる趣味はないよ!/チートてなによ!それ面白い?いじめっ子の発想よね!?」

 そうして永遠とも思える喧嘩が始まり、それは不定形の何か口を挟むまで続いた。

「あー、すまないが、ちょっと落ち着いてくれないか」
「────ふむ/そうね、先ずは話を聞きましょう」
「たすかる」

 不定形の何かは疲れながらも落ち着いた様な感じで話始める。

「とりあえずは、生きていけるだけの能力は授けるからさ、異世界に行ってくれるかな、余生を暮らすつもりでさ」
「それは良いけど、そこってどんなところ?/イケメンいるの?」
「剣と魔法の世界だ、前の世界での中世みたいな世界かな?だから貴族もいるぞ、詳しくは現地についてから追って説明する、チュートリアルとでも思ってくれ」

 唐突に足場が無くなり天空から落とされたかと思えば唐突着地した。
 それは居眠りで崖から落ちる様な感覚だった。
 服の下で冷や汗たらりと垂れているあたり、ここが天国ではないと理解する。


【深夜視点】

 森の真ん中に引かれた様な細い道の上に僕は立っていた。
 周囲を見渡すと木は高く日があまり差し込まない。
 まるで森林浴にでも来たような爽やかな空気が漂っている。

「空気は前世とは段違いにいいね、あ、ヒノキの棒みたいなの落ちてる。持っておこう。なんだかRPGっぽいな」
『まってよ!私、どうして透明なの!?』
「こういう時のナレーションは~、これから幾多の冒険が僕を待っ『どういう事か説明しなさいよ!!』

 どこからともなく声がしたが、それがもう一人である事は明らかだった。

「悪いんだけど、脳内で叫ばないでくれない?モノローグが台無しだよ?」

 そこで、不定形な何かが再び現れた。

『あー、すまない神だが、君たちは交代制で肉体を使ってくれ、交代する時は霊体と手を合わせるだけだ』
『男の肉体…?じゃあさっそく!』
「ちょ、ま、「乗っ取った!!」

 入れ替わった姿は可愛らしい中学生くらいの女の子だった。

『急に入れ替わるなよな!って装備違うし、性別も変わるのか』
『そうなんだ、魂が混じっているからそうせざるを得なかったんだよ、スキルや能力、体力や魔力、装備といったのは別々だけど、所持品や空腹度なんかは共通するから気を付けてね』

「男の体じゃなかった……ぷち残念。でも、これで王子様を射止めれば……!」
『そしてラブシーンを僕がマジマジと見る訳ね』
「デリカシーないわね」
『僕だって見たくはないよ!』
「まぁいっか、それじゃあ行くわよ!」
『お、おー!』

 斯くして、私達/僕達の二人ニ脚の冒険は始まったのです/だ。
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