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第4章 悪夢の王国記念日編
第9話 古封異人、襲撃
しおりを挟む体が痺れて動けないメルジーナたちは、立ち上がることができず、ただ目の前の光景を見守るしかありませんでした。
「くそっ! 体が……動かねぇ、ちくしょう!」
ゼルは悔しそうに歯を食いしばっています。
「強力な麻痺ね。魔道具の影響かしら……。力も出ないし。ソフィアあんたは大丈夫……? って何で平気なのよ!?」
メルジーナは周りを見渡し、唯一平然としているソフィアに目を向けました。
ソフィアは悠々と立っていました。麻痺の影響をまるで感じていない様子です。
「ふふん、この天才美少女科学者である私が、何も対策をしていないと思ったのか? 君たちはそこでおとなしく観客として楽しむといいさ」
「ソフィア……お前、最初からこうなるって分かってたのか?」
ゼルの苛立ち混じりの問いに、ソフィアは肩をすくめて淡々と答えます。
「この天才美少女科学者の私が、何も対策をしてないとでも? 君たちは邪魔にならないよう、そこで見てるがいい」
「リトニア国王が危ないのよ!? 早く助けに行かなきゃ!」
メルジーナが焦り声をあげますが、ソフィアは冷ややかに返します。
「君たちが行ったところで何ができる? 返り討ちにあって無駄死にするだけさ」
「やってみなきゃ分かんねーだろ!」
ゼルは拳を握り締め、歯を食いしばりました。
「いや、分かるさ。今の君たちでは、万全な状態だとしても奴に勝てる見込みはゼロだ。諦めて、大人しく床でも舐めてるんだね」
ソフィアの冷淡な言葉に、ゼルは悔しさを抑えられず奥歯を噛み締めます。しかし、その言葉に反論する余地はなく、静かに苦しい状況を受け入れるしかありませんでした。
そんなやり取りが続いている間も、アクィラとバロン侯爵、そしてレオン伯爵の戦いは激しく進んでいました。
アクィラは、二人の攻撃を捌くことで精一杯のようでした。息を整える暇もなく、彼は攻撃を防ぎ続けていたのです。
その時、バロン侯爵は剣を一旦鞘に納め、別の鞘から新たな剣を引き抜きました。
「ほぉ、その禍々しい剣はなんだ?」
アクィラが問いかけると、バロンは渋い声で答えました。
「闇刻剣ブラック・シュヴァイゲン。俺の愛剣だ」
「これが貴様の本気というわけか。なら、楽しませてもらおう!」
「楽しむ? そんな余裕があるといいな」
バロン侯爵が手にする闇刻剣ブラック・シュヴァイゲンは、黒い光を放ち、不吉な雰囲気を漂わせていました。この剣は暗黒の力を宿し、見ただけでその邪悪さを感じさせる代物です。刃は鋸のようにギザギザしており、一撃で深い傷を刻み込むように設計されているのがわかります。
アクィラは再び玉座の背もたれに飛び乗り、挑発的な笑みを浮かべました。
「さあ、俺はここだ! よく狙えよ、虫ケラが!」
バロン侯爵は冷静に剣を高く掲げ、上段の構えを取りました。次の瞬間、空気が一瞬凍りついたように静まり返り、剣から黒いオーラが湧き上がりました。黒い渦はバロン侯爵の体を包み込み、その闇はまるで生きているかのように蠢いていました。まさに深淵の力そのもののようでした。
「行け……! 『ギルティヴェルディクト』!」
低く囁くように命じると同時に、バロンは剣を振り下ろしました。その刹那、闇のオーラが斬撃となり、黒い閃光を描きながら前方へ疾走していきます。斬撃は、空を裂き、地面を削り取るかのように進み、周囲には冷たい風が吹き抜けました。闇の気配はさらに濃くなっていき、重苦しい雰囲気が漂っていました。
「ただの闇を纏った斬撃じゃねーか! こんなもの避けるまでもねぇっ!」
アクィラが挑発するように叫んだその瞬間、別の声が響きました。
「デッドエンド・ブラックサークル」
その斬撃がアクィラに届く少し前に、その声が聞こえ、次いで低く鈍い爆発音が周囲に響き渡りました。地面がわずかに揺れ、バロン侯爵の斬撃はその爆発にかき消されてしまいました。
「グエッ!」
アクィラは突然、誰かに背後から強く蹴り飛ばされ、床に叩きつけられました。
「ったくー、本当に無能しかねぇーなぁ。今の技は避けるか、同じ威力を持つ技で対抗するしかねぇだろ。俺様が助けなかったら、今頃お前は死んでたぜ」
「そ、その足を退けなさい」
そこには、アクィラを踏みつけているアクィラの姿がありました。
「同じ人物が二人!?」
「分身か!?」
踏みつけているアクィラは、人差し指を横に振りながら、「ノンノンノン」と言いました。
「俺様が本物のアクィラ様だ。んで、この下にいるやつが、フィーダーだっけ? パルスだっけ?」
「私は……フィーダーだ」
「どっちでもいいだろ」
「いでっ!」
アクィラはフィーダーをさらに、強く踏みつけました。フィーダーが苦痛に顔を歪める様子を見て、アクィラの表情には喜びが浮かんでいます。
「まあいいさ、とりあえず無能古封異人四天王の一人ってやつだな。こいつは写真を消費して特定の人物に変身し、能力や記憶も引き継げるらしいが……元が無能だから、時間稼ぎすらまともにできやしねぇ。いやぁ、悪かったな、こんな雑魚に手間取らせちまって。あ、ガッカリすんなよ? 本物の俺様はこんなに弱くないからな!」
レオンは「能力解説どうも」と呟き、アクィラは「雑魚の相手をさせちまった詫びさ」と言いました。
続けてレオン伯爵は、「これが古封異人か……。噂には聞いていましたが、本当に実在するとは……」と、つぶやきました。
その後、アクィラはふと何かを思い出したようにフィーダーに問いかけました。
「ところでお前、俺様に変身しているのに痛いのか?」
「踏まれているんですから、当然でしょう!」
「はぁん……能力や記憶は引き継げても、性質まではコピーできねぇんだな。さすが無能だな」
アクィラがこちらに意識を向けていないのを確認したリトニアは、声を張り上げて叫びました。
「動ける者は動けない者を運んで、全力で逃げてください! この先の未来は私にも見えていない!」
リトニアの指示で大勢の人々が一斉に逃げ出しました。
「君たちも、ここから早く逃げるんだ」
「王様……僕は戦います!」
ジランは決意の表情を浮かべ、自分も戦う意志を示しました。仲間たちも彼と共に立ち上がろうとしています。
しかし、リトニアは首を横に振り、静かに言います。
「今は逃げるんだ。君たちが今やるべきことは、生き延びて、今日知った真実を他の仲間に伝えることだよ。そして、国民を守るという貴族の仕事を手伝ってほしいんだ。最初は否定されるかもしれないが、君たちが本当に変わったということを示してあげてほしい」
リトニアの説得にジランたちは頷き、倒れている人々を抱えて、避難し始めました。
ジランの仲間に抱えられた人々は、「ハンターギルドに誘拐される!」や「犯罪者め! 我に触るな!」といった冷たい言葉を投げかけますが、それでも彼らは黙って逃げ続けます。
ジランはソフィアたちの元へと駆け寄り、声をかけました。
「さぁ、お嬢ちゃんたちも早く外へ。そこの二人は僕が連れて行くよ」
「私たちは大丈夫だ。王様に言われたことを早く実行したほうがいい」
ソフィアが毅然と答えると、ジランは一瞬戸惑いながらも「分かった。気をつけてね」と言い残し、その場を去っていきました。
「おい、ソフィア! お前は何がしたいんだ!?」
「貴族の息子ってのは、黙って見てられないってことかい?」
「そうだ。今は見ていられる状況じゃねぇ!」
そのやり取りの最中、バロン侯爵が冷静に質問を投げかけます。
「貴様たちの目的は何だ?」
アクィラは薄く笑みを浮かべ、答えます。
「そろそろ分かるだろう。まぁ、見てなって」
アクィラの言葉と同時に、リトニアの背後に突如、黒く渦巻いた空間が現れました。
「ぐあっ!?」
その空間から、虚無のような四本の腕が伸び、リトニアを引き寄せ、深海のような静けさの中へと引きずり込もうとします。
「リトニア国王!!!」貴族たちが叫びましたが、リトニアは平然と答えます。
「私なら大丈夫です! 君たちは古封異人を無力化を頼みます!」
「御意!」
二人の貴族は一言だけ呟き、リトニアに敬礼をして戦闘準備に入ります。
リトニアは謎の空間に引きずり込まれていきました。
「どうか、リトニア国王が無事でありますように……」と、レオン伯爵は心配そうに呟きました。
「さぁ、ここからが本番だ」アクィラが不敵な笑みを浮かべ、「俺様はここでお前らを足止めする」と挑発するように言いました。
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