高卒できなかったわたしは今日も時間が巻き戻る

赤衣 桃

文字の大きさ
21 / 41
旧校舎

19話目

しおりを挟む
「ユニ……どうかしたの? ぼーっとして」
「ううん、なんでもない。自分を他人みたいに見ているような気分になっただけだから。それよりもカホちゃんが教えたの、わたしが怖い話や肝試しとか好きなこと」
 ユニの天然な性格に慣れているからか、カホはとくに気にした様子もなく短い黒髪の彼女の言葉を肯定した。
 肝試し当日は制服で待ち合わせの場所に来ることやら懐中電灯などの用意について打ち合わせをしていく。
 ざ……ざざざざざ、ざざぁ。
 やっぱりわたしの記憶とは違うような。わたしは八雲ユニで合っているはずなのに、誰かの思い出が混ざっているのかもしれない。
「八雲さん?」
「なに、坂田くん」
「一瞬だけ八雲さんが笑った気がしたからなにか面白いことでも思い出したのかと」
「楽しい肝試しになりそうだと思っただけだよ」
 坂田もユニにつられるように笑っていた。



 できるだけ学校のルールとかを守ってきたから、この日はお母さんやお父さんに内緒で夜中に家を出たことにドキドキしていたと思う。ざ……ざざぁ。
 夏の夜はわたしの想像よりもひんやりした風が吹いていて心地が良かった。もしかしたら、守るべきルールを破ったことに対する罪悪感のようなものに快感を覚えていた可能性もある。
 ざざざざざざざざ、ざざ……ざぁ。
 玄関の扉を音が出ないように注意しながら、制服姿のユニはそーっと家を出る。吹きつける夜風に短い黒髪の彼女が身体を震わせた。
 待ち合わせの場所である隣町の公園にユニが到着するも肝試しに参加するメンバーはまだ誰も来ていない。
「時間が早すぎたか」
 ユニがスマートフォンで現在の時間を確認する。日付が変わったことを伝える鐘の音がどこかから聞こえた。

 わたしの次に来たのは山本くん、ざざ。
 流れ星でも探しているのかユニが見上げていた。夜空にきらりと光るものが見えるたびに、短い黒髪の彼女が嬉しそうにジャンプする。
「八雲さん?」
 背後から声をかけられてユニがびくついた。短い黒髪の彼女が振り向くと、ひょろりとした身体の制服姿の男が立っていた。彼からワックスの匂いが漂っている。
 そういえば山本くんもオールバックだったな、イフェメラルにいた遺体愛好家と同じで。
「山本くんも肝試しに参加するんだね」
「下北さんや坂田から聞いてなかったのか……びっくりさせちゃってごめん」
「気にしないでよ。わたしが勝手に驚いただけだしさ。わたしと山本くん、カホちゃんに坂田くんの四人で」
「五人だよ。柏木も来るらしい」
「柏木くんもなのか」

 クラスメートである柏木の姿が思い出せないのかユニが目をつぶり、うなり声を上げた。
「山本くんって、坂田くんや柏木くんと仲が良かったんだ。意外というか……一緒にいるところを」
「今回はたまたま利害が一致しただけで、友達とは少し違う気がする。八雲さんもじゃないの?」
「カホちゃんとは友達だと思っているけど」
 他人を疑うことをまるで知らないような表情をつくるユニに毒気を抜かれてか山本の顔つきが柔らかくなる。
「八雲さん、今日は帰ったほうが良いんじゃない。下北さんや坂田にはおれが上手いこと伝えておくからさ」
 わたしのことを優等生な存在だと、山本くんに勘違いされているみたいでむかついたんだっけな。だから帰りたくなくなってしまった。
 山本くんの言う通りだったのに。ここで帰れば。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな。みんなによろしく」
「お、おう。気をつけて帰りなよ」

 公園を出て、ユニは自宅に帰っていく。
 過去を変えられた? わたしの記憶なんだからすでに終わっている出来事を自由自在に変えられるわけがないはずなのに。
 街灯の少ない……しんとした夜道。足音が増えていることに気づきユニの歩くスピードが上がった。
 ユニにどこまでもついてくる足音も加速をする。息を切らす短い黒髪の彼女に目を血走らせた男が追いつく。
 後頭部を殴られたユニがコンクリートにキスをした。気絶をしたのか短い黒髪の彼女は動かない。
 ほとんどエンジン音もなく近づいてきたワンボックスカーが停止する。目を血走らせた男がユニを車内に運びこむ。
 こんなのは記憶にない。これは間違っている。
 それにわたしの意識は失っているはずなのにどうして映像が見えて。わたしは八雲ユニだよね? なのに。

 雨が降ってきた。どこへともなく静かに移動しているワンボックスカーの窓に雨粒がぶつかっていく。
「約束を破ったら、なにをされても仕方ない」
「約束とはそれほどに重い。重いから大切なんだ」
「女の子で良かった。おれら、男が楽しめるじゃん……同じだったら殺すだけなのに」
 荷室で意識のないユニを見下ろす三人の男がこれから短い黒髪の彼女に行うことを想像してか笑った。ズボンを下ろす音がした。
 下半身が丸出しの三人の男がジャンケンをしている、目を血走らせた男が勝ったのかガッツポーズをする。
「勝って当然。おれが捕まえたんだからな。遊ぶ権利はおれにあるに決まっている」

 右目だけの男と左目だけの男が視線を合わせる。彼らは血が繋がっているのか似たような顔をしていた。
「半分にするか」
「そのほうが得だしな。こいつはうるさいし、汚い」
 はしゃぎ、よだれを垂らしていた目を血走らせた男の腹を右目だけの男が殴ると悶絶し……両膝をついて尻を上げるようなポーズになった。
「扉は開けられないな」
「窓から捨てれば良いだろう」
「頭良いな、さすがだ」
 運転手に窓を開けさせ、右目だけの男と左目だけの男は車外に目を血走らせた男を捨てる。
 何回かコンクリートと人間がぶつかる鈍い音がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/10:『つかまれる』の章を追加。2026/1/17の朝8時頃より公開開始予定。 2026/1/9:『ゆうじんのかお』の章を追加。2026/1/16の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/8:『ついてきたもの』の章を追加。2026/1/15の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/7:『かわぞいのみち』の章を追加。2026/1/14の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

処理中です...