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嫌いなほうとはかぎらない
第1話
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同じクラスに所属する鹿児島サクラさんは誰かにストーカーされているらしい。
善良というか彼女に対して特別な感情をいだく異性であれば怒ったりするのかもしれないけど上手な返事が頭に浮かんでこない。
鹿児島さんからしてみればただのクラスメートの一人ぐらいの認識なんだと思っていたのだが。そうではなかったのかなんの縁もない相手だからこそ相談をしてきたのか。
「岩手くん」
鹿児島さんが声をかけてきた。椅子に座ったまま反応がなく不安にでもなったようで顔が青ざめる。
ぼくと彼女以外のクラスメートは教室からすでにいなくなっていた。
「ああ、ごめん。本物のストーカーがいるとは思わなくてね。びっくりしていたんだ」
「ぜんぜん驚いてなさそうだけど」
「驚きすぎて表情に出てないからね」
どうしてほとんど会話をしたことのないぼくにそんな相談を? と質問してみたかったが。
これまでの鹿児島さんの人生でそんなことを口にした異性はいないはずなのでやめておいた。
ととのった彼女の顔は普段よりも暗かったが、そんなくもった表情を好むタイプもいるだろうから美人もある意味で不遇だよな。
鹿児島さんが自分の黒のショートヘアに触れる。
「ストーカーに心当たりは?」
「ないよ。友達も知り合いも良い人しかいないし」
「そうなんだ」
こちらがスクールバッグをもつと鹿児島さんも同じように帰る準備をした。彼女が笑顔をつくる。
ぼくも一般的な男子高校生だったようでにこやかな表情の彼女を拒絶できなさそうだと半ば諦めていた。
「帰り道、同じだったっけ?」
「うん。たまにだけど岩手くんの後ろを追いかけていたり」
「因果応報じゃない」
ジョークだと思ってくれたようで鹿児島さんはくすくす笑う。他の女子生徒もだがころころと表情を変えるのが得意なんだろう。
「親しい人にストーカーがいないと思っているなら友達と一緒に帰ったほうが良いような?」
「えー、そんなの危ないよ。わたしのせいで怪我をされたらなんだか悪いし」
「まあ、確かに」
他人のことをどうこう言えた倫理やら道徳をもちあわせてないがそれでも鹿児島さんほどイカれてないと思いたい。
自分の親しい相手以外のことをゲームのキャラクターかなにかだと考えているのか。一応ぼくも痛みをきちんと感じる人間なのに。
「それに岩手くんはスーパーヒーローだから怪我とか全くしないみたいなので」
「どこからの情報?」
「わたしがなんとなくそう思っただけ」
「ぼくは普通の人間です」
「わたしもだよ。お揃いだね」
厳密には性別が違うはず、胸のあたりとか特に。
鹿児島さんの会話が一区切りしたのもあり教室を出て、廊下を歩く。隣の彼女のせいなのか普段よりも視線が集まっている気がした。
「岩手くん」
「なに?」
「呼んでみただけ」
楽しそうに鹿児島さんが笑っている。ストーカーの件で空気が重くなるのをこわがってくれているのかもしれない。
どうせなら自分のせいで他人の命が消えてしまう可能性があることもこわがってほしかった。
ぼくがいたからか鹿児島さんとの下校はなにごともなく終わりかけていた。ストーカーとまでは言えないが彼女をちらちらと見ていたやつはなん人かいたとは思うが。
「ありがとう。ここまででいいよ」
ぼくの家がどこにあるのか知っていてか分かれ道の前で鹿児島さんがそう言ってきた。
彼女に好意のある異性なら家まで送りとどけるのだろうがそんなつもりはさらさらない。今にも背後からストーカーにナイフで刺されてしまう未来がないとも限らない。
「じゃあ、また明日」
「あ、待って待って。連絡先だけ交換しておいて。なにかあった時に岩手くんにLINNとかして助けをもとめるつもりだからさ」
そんな余裕があったらいいね、とはさすがに言わなかった。下手に不安をあおって彼女の家まで送らなければならない展開になるのも面白くない。
それでも男子高校生にとって女の子との連絡先の交換はうれしいようでいつの間にかスマートフォンを取りだしていた。
「鹿児島さんは積極的なんだね」
これも言うべきかどうか色々と考えたが彼女なら前向きに受け取ってくれるだろうと判断。
「うん。意外と肉食」
「自分で言わないほうが良いような」
「これくらい言わないと誰かさんは気づいてもくれないと思ったので」
連絡先の交換が完了するとそそくさと鹿児島さんは自宅のほうへと足早に移動していく。制服の黒色のスカートのひらめきに目が釘づけになる。
彼女はやっぱり優等生なようで他の女子生徒のスカートの丈よりもかなり長いのを少しだけ残念に思っていた。
それから数日。ぼくは鹿児島さんと放課後の教室でキスをした。
セミがうるさく、暑いので相手が女の子とはいえ密着したくない。
とは考えながらもやわらかな彼女の手はひんやりとしていて鹿児島サクラという生きものに触れてみたいと好奇心を抱いていたりもする。
「もっとくっつこうよ。岩手くん」
抱きついてきている小悪魔のような鹿児島さんが耳もとでささやいた。
善良というか彼女に対して特別な感情をいだく異性であれば怒ったりするのかもしれないけど上手な返事が頭に浮かんでこない。
鹿児島さんからしてみればただのクラスメートの一人ぐらいの認識なんだと思っていたのだが。そうではなかったのかなんの縁もない相手だからこそ相談をしてきたのか。
「岩手くん」
鹿児島さんが声をかけてきた。椅子に座ったまま反応がなく不安にでもなったようで顔が青ざめる。
ぼくと彼女以外のクラスメートは教室からすでにいなくなっていた。
「ああ、ごめん。本物のストーカーがいるとは思わなくてね。びっくりしていたんだ」
「ぜんぜん驚いてなさそうだけど」
「驚きすぎて表情に出てないからね」
どうしてほとんど会話をしたことのないぼくにそんな相談を? と質問してみたかったが。
これまでの鹿児島さんの人生でそんなことを口にした異性はいないはずなのでやめておいた。
ととのった彼女の顔は普段よりも暗かったが、そんなくもった表情を好むタイプもいるだろうから美人もある意味で不遇だよな。
鹿児島さんが自分の黒のショートヘアに触れる。
「ストーカーに心当たりは?」
「ないよ。友達も知り合いも良い人しかいないし」
「そうなんだ」
こちらがスクールバッグをもつと鹿児島さんも同じように帰る準備をした。彼女が笑顔をつくる。
ぼくも一般的な男子高校生だったようでにこやかな表情の彼女を拒絶できなさそうだと半ば諦めていた。
「帰り道、同じだったっけ?」
「うん。たまにだけど岩手くんの後ろを追いかけていたり」
「因果応報じゃない」
ジョークだと思ってくれたようで鹿児島さんはくすくす笑う。他の女子生徒もだがころころと表情を変えるのが得意なんだろう。
「親しい人にストーカーがいないと思っているなら友達と一緒に帰ったほうが良いような?」
「えー、そんなの危ないよ。わたしのせいで怪我をされたらなんだか悪いし」
「まあ、確かに」
他人のことをどうこう言えた倫理やら道徳をもちあわせてないがそれでも鹿児島さんほどイカれてないと思いたい。
自分の親しい相手以外のことをゲームのキャラクターかなにかだと考えているのか。一応ぼくも痛みをきちんと感じる人間なのに。
「それに岩手くんはスーパーヒーローだから怪我とか全くしないみたいなので」
「どこからの情報?」
「わたしがなんとなくそう思っただけ」
「ぼくは普通の人間です」
「わたしもだよ。お揃いだね」
厳密には性別が違うはず、胸のあたりとか特に。
鹿児島さんの会話が一区切りしたのもあり教室を出て、廊下を歩く。隣の彼女のせいなのか普段よりも視線が集まっている気がした。
「岩手くん」
「なに?」
「呼んでみただけ」
楽しそうに鹿児島さんが笑っている。ストーカーの件で空気が重くなるのをこわがってくれているのかもしれない。
どうせなら自分のせいで他人の命が消えてしまう可能性があることもこわがってほしかった。
ぼくがいたからか鹿児島さんとの下校はなにごともなく終わりかけていた。ストーカーとまでは言えないが彼女をちらちらと見ていたやつはなん人かいたとは思うが。
「ありがとう。ここまででいいよ」
ぼくの家がどこにあるのか知っていてか分かれ道の前で鹿児島さんがそう言ってきた。
彼女に好意のある異性なら家まで送りとどけるのだろうがそんなつもりはさらさらない。今にも背後からストーカーにナイフで刺されてしまう未来がないとも限らない。
「じゃあ、また明日」
「あ、待って待って。連絡先だけ交換しておいて。なにかあった時に岩手くんにLINNとかして助けをもとめるつもりだからさ」
そんな余裕があったらいいね、とはさすがに言わなかった。下手に不安をあおって彼女の家まで送らなければならない展開になるのも面白くない。
それでも男子高校生にとって女の子との連絡先の交換はうれしいようでいつの間にかスマートフォンを取りだしていた。
「鹿児島さんは積極的なんだね」
これも言うべきかどうか色々と考えたが彼女なら前向きに受け取ってくれるだろうと判断。
「うん。意外と肉食」
「自分で言わないほうが良いような」
「これくらい言わないと誰かさんは気づいてもくれないと思ったので」
連絡先の交換が完了するとそそくさと鹿児島さんは自宅のほうへと足早に移動していく。制服の黒色のスカートのひらめきに目が釘づけになる。
彼女はやっぱり優等生なようで他の女子生徒のスカートの丈よりもかなり長いのを少しだけ残念に思っていた。
それから数日。ぼくは鹿児島さんと放課後の教室でキスをした。
セミがうるさく、暑いので相手が女の子とはいえ密着したくない。
とは考えながらもやわらかな彼女の手はひんやりとしていて鹿児島サクラという生きものに触れてみたいと好奇心を抱いていたりもする。
「もっとくっつこうよ。岩手くん」
抱きついてきている小悪魔のような鹿児島さんが耳もとでささやいた。
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