こどくな患者達

赤衣 桃

文字の大きさ
14 / 39

二人目②

しおりを挟む
「今回の引き金となった特殊な事情がなければハチの言うように平和的に解決なり、犯人が自首をしていたかな」
「この館の一人だけが人間になれる、という不明瞭な情報のことですか。シイの件とは全く関係がないのでは」
「ハチは正当化を知っているかい」
「正当防衛の親戚だと風のたよりで聞きましたが、意味までは教えてくれませんでした」
 きまぐれな風ともハチは友達なんだね、わたしの冗談をナナが受け流した。
「例えばわたしがデザートに食べようと思っていたエクレアをハチが」
「さすがに他人の食べ物には手を出しませんよ」
「普段は正しい判断ができたとしても、なにか食べないと壊れるぐらいに追いこまれていたとしたら」
 答えに詰まったので、残念ながらわたしは正しくないアンドロイドだったらしい。
「ハチは切腹するべき存在なんだと分かりました」
「誰でも間違った選択をしてしまう時はあるさ」
「普段はしないような行動をするのが正当化」
「エクレアの話なら、食べたのは飢餓状態だからと自分に言い聞かせる感じだ」
 やんわりと否定するようにナナが説明をする。
 正当防衛だとしても、シイに襲われたから壊したのは仕方ないと自分を納得させたということかな。
「理屈は分かりましたがシイを壊した事実を正当化したからとしても次の犠牲者は出るとは」
「正当化の理由が人間になるためなら、残りのアンドロイド全員を破壊しに来る可能性が高い」
「シイへの罪悪感を払拭するためだけに六回も同じことをしようとするなんて」
 体力に自信があるんだな、わたしだったら絶対に途中で辞めているに違いない。
「誰がシイを壊したかにもよるが合理的に損得勘定するタイプ、今みたいに理屈に合わない行動をするアンドロイドもいるだろうという話だよ」
 罪悪感もなにもなく、このまま終わることもね。ナナの声が低くなる。
「怒っているんでしょうか」
 灰色のステッキを突く音が大きくなってきているからかナナの背中にそんな質問をしていた。
「怒るなんて感情も機能もないはずだが、このまま犯人に勝ち逃げをされるのは我慢ならないのさ」
 方向性が他人か、自分かの違いなだけなのでは。
「正確には怒りというよりも苛つきだろうね」
「心を読まないでくれませんか」
「アンドロイドに心はないはずだが」
 前を歩くナナの顔は右半分しか見えてないのに、にやついているのが分かった。
「勝手にデータを読み取らないでください」
「そのほうがわたしたち的には適切だな」
 五階に到着するとナナはファッションルームの扉を開けて、イチがいるかどうかを確認。
 つんざくような誰かの声が耳に届いた。
 ナナが扉を勢いよく開いて、音の発生源のほうへ走る。アンドロイドにはないはずの心のようなものがそわそわとしてしまい、全力で彼女を追いかけていく。
 イチに着せられた長いスカートを穿いてないのに思い切り転んでしまった。
 また心臓が取れてお腹の中で暴れ回っているかもしれないがそんな些細なことは考えていられない。
 イチの叫び声がファッションルーム全体に響く。
 悲痛な彼女の声とともに嫌な音も聞こえる。
 四階の音がイチの頭から、彼女の声が途切れた。
 さっさと立ち上がり、ファッションルームの奥にあるイチから教えてもらったエレベーターの扉の前に彼女とニイとナナがいた。
 イチからは声も音も、もう聞こえてこない。
 動かなくなり、ガラクタになってしまったイチがわたしを見上げている。
 頭が痛かったようでイチだったものは床に仰向けに転がり、髪の毛をかきむしるようなポーズで。
 イチだったものを見下ろしたままで硬直しているとニイがわたしに近づいてきた。
「これね、ハチが初めて気に入ったものだからってイチが選んでくれたのよ」
 いつぞやイチが着ていたクラゲスカートだった。正式な名前を彼女から聞いておけば良かったな。
 ニイからクラゲスカートを受け取り、とても大事な品物を扱うように力強く握りしめた。
「ハチ、泣いているところ悪いけど手伝ってくれ。もちろんニイもね」
「アンドロイドなので、泣け」
 目から出てきている液体が頬を伝う。幸い、透明なのでクラゲスカートは濡れるだけで汚れる心配はなさそう。
「なにを手伝うんですか」
 パーカーの袖で涙を拭き、イチだったものの傍らにしゃがむナナに顔を近づける。
「イチの首を切る。ニイ、悪いがこの眼球を使ってシイの部屋にある斧を取ってきて」
「そんな恐ろしい行為、本当にやるつもり」
 シイの左の眼球を渡そうとするナナに向かって、ニイが声を震わせた。
「非人道的だと言いたいのは分かるがお互いにアンドロイドなんだ、人間の法律には適用されない」
「だとしても、イチの首を切ることに対してナナはなんとも思わないの」
「心配をしなくても切るのはわたしだ。ニイとハチはイチが動かないように」
「死んでいるイチに酷いことをしようと考えるナナの手伝いなんかする意味が分からないわ」
 こちらに視線を向けて、ナナが口を開きかけるとニイに抱きしめられた。
 サンのように年功序列を覆すのは無理らしい。
「わたしが斧を取ってくるまでの間イチを見守っていてあげてくれ」
「イチは動かないのに、なにを心配しているのよ」
「念のためだよ。それよりも死人、動かなくなったアンドロイドでも奇麗にするべきなんじゃないか」
 ナナの提案に気を良くしたのかニイの抱きしめる力が弱まっていく。
「ファッションルームだから化粧品の類いもある、そちらはニイとハチに任せるよ」
 ニイとの会話は終わったと判断したようでナナはエレベーターに乗り、シイの部屋に向かう。
 寒いのか、わたしを動けないようにするニイの腕が震えていた。
 そこまで怒るなら、ナナの非人道的な行動をどうして強引に止めようとしなかったんですか。
 とかニイに聞きたかったけどアンドロイドのはずなのに体調が悪そうだし、言わないでおこう。
 多分、ニイが憧れる人間にとってこの程度の矛盾は当たり前なんだろうな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...