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二人目②
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「今回の引き金となった特殊な事情がなければハチの言うように平和的に解決なり、犯人が自首をしていたかな」
「この館の一人だけが人間になれる、という不明瞭な情報のことですか。シイの件とは全く関係がないのでは」
「ハチは正当化を知っているかい」
「正当防衛の親戚だと風のたよりで聞きましたが、意味までは教えてくれませんでした」
きまぐれな風ともハチは友達なんだね、わたしの冗談をナナが受け流した。
「例えばわたしがデザートに食べようと思っていたエクレアをハチが」
「さすがに他人の食べ物には手を出しませんよ」
「普段は正しい判断ができたとしても、なにか食べないと壊れるぐらいに追いこまれていたとしたら」
答えに詰まったので、残念ながらわたしは正しくないアンドロイドだったらしい。
「ハチは切腹するべき存在なんだと分かりました」
「誰でも間違った選択をしてしまう時はあるさ」
「普段はしないような行動をするのが正当化」
「エクレアの話なら、食べたのは飢餓状態だからと自分に言い聞かせる感じだ」
やんわりと否定するようにナナが説明をする。
正当防衛だとしても、シイに襲われたから壊したのは仕方ないと自分を納得させたということかな。
「理屈は分かりましたがシイを壊した事実を正当化したからとしても次の犠牲者は出るとは」
「正当化の理由が人間になるためなら、残りのアンドロイド全員を破壊しに来る可能性が高い」
「シイへの罪悪感を払拭するためだけに六回も同じことをしようとするなんて」
体力に自信があるんだな、わたしだったら絶対に途中で辞めているに違いない。
「誰がシイを壊したかにもよるが合理的に損得勘定するタイプ、今みたいに理屈に合わない行動をするアンドロイドもいるだろうという話だよ」
罪悪感もなにもなく、このまま終わることもね。ナナの声が低くなる。
「怒っているんでしょうか」
灰色のステッキを突く音が大きくなってきているからかナナの背中にそんな質問をしていた。
「怒るなんて感情も機能もないはずだが、このまま犯人に勝ち逃げをされるのは我慢ならないのさ」
方向性が他人か、自分かの違いなだけなのでは。
「正確には怒りというよりも苛つきだろうね」
「心を読まないでくれませんか」
「アンドロイドに心はないはずだが」
前を歩くナナの顔は右半分しか見えてないのに、にやついているのが分かった。
「勝手にデータを読み取らないでください」
「そのほうがわたしたち的には適切だな」
五階に到着するとナナはファッションルームの扉を開けて、イチがいるかどうかを確認。
つんざくような誰かの声が耳に届いた。
ナナが扉を勢いよく開いて、音の発生源のほうへ走る。アンドロイドにはないはずの心のようなものがそわそわとしてしまい、全力で彼女を追いかけていく。
イチに着せられた長いスカートを穿いてないのに思い切り転んでしまった。
また心臓が取れてお腹の中で暴れ回っているかもしれないがそんな些細なことは考えていられない。
イチの叫び声がファッションルーム全体に響く。
悲痛な彼女の声とともに嫌な音も聞こえる。
四階の音がイチの頭から、彼女の声が途切れた。
さっさと立ち上がり、ファッションルームの奥にあるイチから教えてもらったエレベーターの扉の前に彼女とニイとナナがいた。
イチからは声も音も、もう聞こえてこない。
動かなくなり、ガラクタになってしまったイチがわたしを見上げている。
頭が痛かったようでイチだったものは床に仰向けに転がり、髪の毛をかきむしるようなポーズで。
イチだったものを見下ろしたままで硬直しているとニイがわたしに近づいてきた。
「これね、ハチが初めて気に入ったものだからってイチが選んでくれたのよ」
いつぞやイチが着ていたクラゲスカートだった。正式な名前を彼女から聞いておけば良かったな。
ニイからクラゲスカートを受け取り、とても大事な品物を扱うように力強く握りしめた。
「ハチ、泣いているところ悪いけど手伝ってくれ。もちろんニイもね」
「アンドロイドなので、泣け」
目から出てきている液体が頬を伝う。幸い、透明なのでクラゲスカートは濡れるだけで汚れる心配はなさそう。
「なにを手伝うんですか」
パーカーの袖で涙を拭き、イチだったものの傍らにしゃがむナナに顔を近づける。
「イチの首を切る。ニイ、悪いがこの眼球を使ってシイの部屋にある斧を取ってきて」
「そんな恐ろしい行為、本当にやるつもり」
シイの左の眼球を渡そうとするナナに向かって、ニイが声を震わせた。
「非人道的だと言いたいのは分かるがお互いにアンドロイドなんだ、人間の法律には適用されない」
「だとしても、イチの首を切ることに対してナナはなんとも思わないの」
「心配をしなくても切るのはわたしだ。ニイとハチはイチが動かないように」
「死んでいるイチに酷いことをしようと考えるナナの手伝いなんかする意味が分からないわ」
こちらに視線を向けて、ナナが口を開きかけるとニイに抱きしめられた。
サンのように年功序列を覆すのは無理らしい。
「わたしが斧を取ってくるまでの間イチを見守っていてあげてくれ」
「イチは動かないのに、なにを心配しているのよ」
「念のためだよ。それよりも死人、動かなくなったアンドロイドでも奇麗にするべきなんじゃないか」
ナナの提案に気を良くしたのかニイの抱きしめる力が弱まっていく。
「ファッションルームだから化粧品の類いもある、そちらはニイとハチに任せるよ」
ニイとの会話は終わったと判断したようでナナはエレベーターに乗り、シイの部屋に向かう。
寒いのか、わたしを動けないようにするニイの腕が震えていた。
そこまで怒るなら、ナナの非人道的な行動をどうして強引に止めようとしなかったんですか。
とかニイに聞きたかったけどアンドロイドのはずなのに体調が悪そうだし、言わないでおこう。
多分、ニイが憧れる人間にとってこの程度の矛盾は当たり前なんだろうな。
「この館の一人だけが人間になれる、という不明瞭な情報のことですか。シイの件とは全く関係がないのでは」
「ハチは正当化を知っているかい」
「正当防衛の親戚だと風のたよりで聞きましたが、意味までは教えてくれませんでした」
きまぐれな風ともハチは友達なんだね、わたしの冗談をナナが受け流した。
「例えばわたしがデザートに食べようと思っていたエクレアをハチが」
「さすがに他人の食べ物には手を出しませんよ」
「普段は正しい判断ができたとしても、なにか食べないと壊れるぐらいに追いこまれていたとしたら」
答えに詰まったので、残念ながらわたしは正しくないアンドロイドだったらしい。
「ハチは切腹するべき存在なんだと分かりました」
「誰でも間違った選択をしてしまう時はあるさ」
「普段はしないような行動をするのが正当化」
「エクレアの話なら、食べたのは飢餓状態だからと自分に言い聞かせる感じだ」
やんわりと否定するようにナナが説明をする。
正当防衛だとしても、シイに襲われたから壊したのは仕方ないと自分を納得させたということかな。
「理屈は分かりましたがシイを壊した事実を正当化したからとしても次の犠牲者は出るとは」
「正当化の理由が人間になるためなら、残りのアンドロイド全員を破壊しに来る可能性が高い」
「シイへの罪悪感を払拭するためだけに六回も同じことをしようとするなんて」
体力に自信があるんだな、わたしだったら絶対に途中で辞めているに違いない。
「誰がシイを壊したかにもよるが合理的に損得勘定するタイプ、今みたいに理屈に合わない行動をするアンドロイドもいるだろうという話だよ」
罪悪感もなにもなく、このまま終わることもね。ナナの声が低くなる。
「怒っているんでしょうか」
灰色のステッキを突く音が大きくなってきているからかナナの背中にそんな質問をしていた。
「怒るなんて感情も機能もないはずだが、このまま犯人に勝ち逃げをされるのは我慢ならないのさ」
方向性が他人か、自分かの違いなだけなのでは。
「正確には怒りというよりも苛つきだろうね」
「心を読まないでくれませんか」
「アンドロイドに心はないはずだが」
前を歩くナナの顔は右半分しか見えてないのに、にやついているのが分かった。
「勝手にデータを読み取らないでください」
「そのほうがわたしたち的には適切だな」
五階に到着するとナナはファッションルームの扉を開けて、イチがいるかどうかを確認。
つんざくような誰かの声が耳に届いた。
ナナが扉を勢いよく開いて、音の発生源のほうへ走る。アンドロイドにはないはずの心のようなものがそわそわとしてしまい、全力で彼女を追いかけていく。
イチに着せられた長いスカートを穿いてないのに思い切り転んでしまった。
また心臓が取れてお腹の中で暴れ回っているかもしれないがそんな些細なことは考えていられない。
イチの叫び声がファッションルーム全体に響く。
悲痛な彼女の声とともに嫌な音も聞こえる。
四階の音がイチの頭から、彼女の声が途切れた。
さっさと立ち上がり、ファッションルームの奥にあるイチから教えてもらったエレベーターの扉の前に彼女とニイとナナがいた。
イチからは声も音も、もう聞こえてこない。
動かなくなり、ガラクタになってしまったイチがわたしを見上げている。
頭が痛かったようでイチだったものは床に仰向けに転がり、髪の毛をかきむしるようなポーズで。
イチだったものを見下ろしたままで硬直しているとニイがわたしに近づいてきた。
「これね、ハチが初めて気に入ったものだからってイチが選んでくれたのよ」
いつぞやイチが着ていたクラゲスカートだった。正式な名前を彼女から聞いておけば良かったな。
ニイからクラゲスカートを受け取り、とても大事な品物を扱うように力強く握りしめた。
「ハチ、泣いているところ悪いけど手伝ってくれ。もちろんニイもね」
「アンドロイドなので、泣け」
目から出てきている液体が頬を伝う。幸い、透明なのでクラゲスカートは濡れるだけで汚れる心配はなさそう。
「なにを手伝うんですか」
パーカーの袖で涙を拭き、イチだったものの傍らにしゃがむナナに顔を近づける。
「イチの首を切る。ニイ、悪いがこの眼球を使ってシイの部屋にある斧を取ってきて」
「そんな恐ろしい行為、本当にやるつもり」
シイの左の眼球を渡そうとするナナに向かって、ニイが声を震わせた。
「非人道的だと言いたいのは分かるがお互いにアンドロイドなんだ、人間の法律には適用されない」
「だとしても、イチの首を切ることに対してナナはなんとも思わないの」
「心配をしなくても切るのはわたしだ。ニイとハチはイチが動かないように」
「死んでいるイチに酷いことをしようと考えるナナの手伝いなんかする意味が分からないわ」
こちらに視線を向けて、ナナが口を開きかけるとニイに抱きしめられた。
サンのように年功序列を覆すのは無理らしい。
「わたしが斧を取ってくるまでの間イチを見守っていてあげてくれ」
「イチは動かないのに、なにを心配しているのよ」
「念のためだよ。それよりも死人、動かなくなったアンドロイドでも奇麗にするべきなんじゃないか」
ナナの提案に気を良くしたのかニイの抱きしめる力が弱まっていく。
「ファッションルームだから化粧品の類いもある、そちらはニイとハチに任せるよ」
ニイとの会話は終わったと判断したようでナナはエレベーターに乗り、シイの部屋に向かう。
寒いのか、わたしを動けないようにするニイの腕が震えていた。
そこまで怒るなら、ナナの非人道的な行動をどうして強引に止めようとしなかったんですか。
とかニイに聞きたかったけどアンドロイドのはずなのに体調が悪そうだし、言わないでおこう。
多分、ニイが憧れる人間にとってこの程度の矛盾は当たり前なんだろうな。
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