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第一章 カラハダル大森林 異世界転移 編
3.7th Trigger-Ⅱ
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(……全然道路に出ないんですけども)
歩き始めて二時間ほど経っただろうか。
自分はまだ何の手がかりも得られないままでいた。
太陽はまだ高い位置にはあるが若干傾いてきているうえに、なによりも――
(歩いてると暑かったから上着を脱いだけど……普通に気温下がってきてるよな……)
そう、このままもし道路を見つけられなければ、すなわち森の中で野宿なのである。
以前にテレビで「夜の森は冷える」という話を聞いたことがあるうえに、季節は初冬と言ったところだ。
そんな森の中での野宿など絶対に避けたい。
何度か別の方向に向かおうかとも思ったが、そもそもこの森のなかを真っ直ぐ進めているのかすら危ういため、きっと抜けられると信じてひたすらに進む他になかった。
「野宿になんてなったら本当にヤバいぞ……。食料なんて鞄に入ってるカロリーでメイトなあいつと飲みかけのお茶くらいしかないし……。香木くんは流石に食べられないよな……?」
見知らぬ土地での一人旅という不安を紛らわせるために香木の枝を『香木くん』などと名付けてみたのだが、これがなかなか効果があるようで不思議と不安が和らぐのだ。
しかし不安が和らいだところで歩き続ける以外に出来ることは無いため、小休止を挟みつつ気の紛らわしにすっかり旅のお供と化した香木の枝の折れ目から仄かに香る匂いを嗅ぎながら歩き続けるのであった。
―――――――――――――――――――――――――――――
歩き始めてから五時間ほど経ったであろうか。
日は傾き辺りが薄暗くなってきている。
散々歩き続けたが一向に道路は見えてこないどころか、人の入った気配も感じられない。
暗い中進むのは自分には無理だろうと、本格的に野宿の覚悟を決め始めていた頃だった。
(ッッッッッ!?)
視界の端に何か映るのと、凄まじい悪寒がはしるのはほぼ同時であった。
特にそんな訓練を受けた覚えもない自分が瞬時に近くの木に身を隠す程度には凄まじい悪寒であった。
(何なんだ……今のは……?)
おおよそ経験したことの無い感覚に、そもそも不安と疲れから僅かに起きていた動悸が更に速まる。
身を隠して十数秒、意を決して恐る恐ると視界の端に映った者がいた方を覗き見た。
「ウッ……!?」
絶句であった。
十秒ほども歩けば辿り着くような場所に、目測で体長二メートルほどの巨大な土竜がいたのである。
いや、土竜のような何かだ。
あれほど大きく禍々しい土竜なんて見たことも聞いたことも無い。
さしずめ"大土竜"と言ったところだろうか。
全身を紫の体毛に覆われ、顔とおぼしき部分はこの距離からでも眼の位置が判別できない。
そこだけ体毛に覆われていない突き出た鼻のような部分をしきりにひくつかせ、だらしなく開かれた口からは鋭い牙が覗き、粘度の高そうな唾液が滴り落ちていた。
何より特徴的なのはその体長のわりに短い手の先についている五十センチはあろう長く禍禍しい爪である。
そうやって爪を観察していたためであろうか。
「ッ!?」
恐ろしい顔が――大土竜の顔がこちらに向いているのに気が付くのが遅れた。
瞬時に顔を引っ込めたがきっとあの大土竜に見られたであろう。
あまりの恐怖に腰を抜かしてしまったのか足が言うことを聞かず木にもたれ掛かるしかない。
手で這ってでもその場から抜け出したいが、香木の枝を握る手が硬直して動かせない。
(逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げな――)
そんな思考を遮るように、何か乾いた音が鼓膜を震わす。
――地面を擦る音だろうか。
半ばパニック状態の自分にはその程度しか理解が及ばなかった。
何か硬質な物を擦り合わすような音もする。ただ一つ確かに言えるのはそれは"こちらに近づいてきていた"。
「ンッーー…………」
恐怖で漏れそうになる声をなんとか押し込める。
――一歩
――また一歩と
――確実にこちらに近づいている。
そんな思考を何度繰り返しただろうか。
音が自分のいる木の裏付近まで来た。
今にも叫び出したい気分だったがどうにか堪え、口を閉ざし、ただ前を見つめていた。
そのままどれ程の時間が経過したであろうか。
恐らく極々短い、ほんの数秒間程度であっただろう。
しかしある種の極限状態にある自分には永遠のように長く感じられた。
(音が……止んだ……?)
静寂の広がる森の中でただ自分の恐怖に染められた、止めきれずに途切れ途切れとなった呼吸の音だけが耳に届く。
――いや、違う。
――他にも聞こえる。
――何か空気を吸い込むような感じの……。
隣を見ると木の影から鼻が飛び出ていた。
大土竜の鼻が。
大小様々な薄汚れたイボがヒクヒクと空気を吸う度に脈動している。
触っただけで手を溶かされるのではと想像してしまうほどに気味の悪い光景だった。
(ああ、死んだな)
そう思ったのもつかの間、大土竜はそのまま鼻を引っ込めて、また足音を響かせながら遠ざかっていった。
こうして、自分自身もよくわからないままに九死に一生を得たのであった。
歩き始めて二時間ほど経っただろうか。
自分はまだ何の手がかりも得られないままでいた。
太陽はまだ高い位置にはあるが若干傾いてきているうえに、なによりも――
(歩いてると暑かったから上着を脱いだけど……普通に気温下がってきてるよな……)
そう、このままもし道路を見つけられなければ、すなわち森の中で野宿なのである。
以前にテレビで「夜の森は冷える」という話を聞いたことがあるうえに、季節は初冬と言ったところだ。
そんな森の中での野宿など絶対に避けたい。
何度か別の方向に向かおうかとも思ったが、そもそもこの森のなかを真っ直ぐ進めているのかすら危ういため、きっと抜けられると信じてひたすらに進む他になかった。
「野宿になんてなったら本当にヤバいぞ……。食料なんて鞄に入ってるカロリーでメイトなあいつと飲みかけのお茶くらいしかないし……。香木くんは流石に食べられないよな……?」
見知らぬ土地での一人旅という不安を紛らわせるために香木の枝を『香木くん』などと名付けてみたのだが、これがなかなか効果があるようで不思議と不安が和らぐのだ。
しかし不安が和らいだところで歩き続ける以外に出来ることは無いため、小休止を挟みつつ気の紛らわしにすっかり旅のお供と化した香木の枝の折れ目から仄かに香る匂いを嗅ぎながら歩き続けるのであった。
―――――――――――――――――――――――――――――
歩き始めてから五時間ほど経ったであろうか。
日は傾き辺りが薄暗くなってきている。
散々歩き続けたが一向に道路は見えてこないどころか、人の入った気配も感じられない。
暗い中進むのは自分には無理だろうと、本格的に野宿の覚悟を決め始めていた頃だった。
(ッッッッッ!?)
視界の端に何か映るのと、凄まじい悪寒がはしるのはほぼ同時であった。
特にそんな訓練を受けた覚えもない自分が瞬時に近くの木に身を隠す程度には凄まじい悪寒であった。
(何なんだ……今のは……?)
おおよそ経験したことの無い感覚に、そもそも不安と疲れから僅かに起きていた動悸が更に速まる。
身を隠して十数秒、意を決して恐る恐ると視界の端に映った者がいた方を覗き見た。
「ウッ……!?」
絶句であった。
十秒ほども歩けば辿り着くような場所に、目測で体長二メートルほどの巨大な土竜がいたのである。
いや、土竜のような何かだ。
あれほど大きく禍々しい土竜なんて見たことも聞いたことも無い。
さしずめ"大土竜"と言ったところだろうか。
全身を紫の体毛に覆われ、顔とおぼしき部分はこの距離からでも眼の位置が判別できない。
そこだけ体毛に覆われていない突き出た鼻のような部分をしきりにひくつかせ、だらしなく開かれた口からは鋭い牙が覗き、粘度の高そうな唾液が滴り落ちていた。
何より特徴的なのはその体長のわりに短い手の先についている五十センチはあろう長く禍禍しい爪である。
そうやって爪を観察していたためであろうか。
「ッ!?」
恐ろしい顔が――大土竜の顔がこちらに向いているのに気が付くのが遅れた。
瞬時に顔を引っ込めたがきっとあの大土竜に見られたであろう。
あまりの恐怖に腰を抜かしてしまったのか足が言うことを聞かず木にもたれ掛かるしかない。
手で這ってでもその場から抜け出したいが、香木の枝を握る手が硬直して動かせない。
(逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げな――)
そんな思考を遮るように、何か乾いた音が鼓膜を震わす。
――地面を擦る音だろうか。
半ばパニック状態の自分にはその程度しか理解が及ばなかった。
何か硬質な物を擦り合わすような音もする。ただ一つ確かに言えるのはそれは"こちらに近づいてきていた"。
「ンッーー…………」
恐怖で漏れそうになる声をなんとか押し込める。
――一歩
――また一歩と
――確実にこちらに近づいている。
そんな思考を何度繰り返しただろうか。
音が自分のいる木の裏付近まで来た。
今にも叫び出したい気分だったがどうにか堪え、口を閉ざし、ただ前を見つめていた。
そのままどれ程の時間が経過したであろうか。
恐らく極々短い、ほんの数秒間程度であっただろう。
しかしある種の極限状態にある自分には永遠のように長く感じられた。
(音が……止んだ……?)
静寂の広がる森の中でただ自分の恐怖に染められた、止めきれずに途切れ途切れとなった呼吸の音だけが耳に届く。
――いや、違う。
――他にも聞こえる。
――何か空気を吸い込むような感じの……。
隣を見ると木の影から鼻が飛び出ていた。
大土竜の鼻が。
大小様々な薄汚れたイボがヒクヒクと空気を吸う度に脈動している。
触っただけで手を溶かされるのではと想像してしまうほどに気味の悪い光景だった。
(ああ、死んだな)
そう思ったのもつかの間、大土竜はそのまま鼻を引っ込めて、また足音を響かせながら遠ざかっていった。
こうして、自分自身もよくわからないままに九死に一生を得たのであった。
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