アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

わらび餅.com

文字の大きさ
14 / 163
第一章 カラハダル大森林 異世界転移 編

14.長き人生-Ⅱ

しおりを挟む
 一面に広がる花々はそよ風に揺れ、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
 陽光をいっぱいに浴びる花弁と水路を泳ぐ魚から反射する光は心地よく視覚を刺激し、宙を舞う蝶々が水路を流れる水の細流せせらぎと花を撫でるそよ風でリズムをとっているような錯覚さえ覚える。
 森で感じた肌寒さを忘れさせるほどの暖かな空気は、本当にこの空間だけ春で保たれているのでは無いかと感じさせてきた。

「いや、本当に春なのでは?」

「お、気付いたかタケル。考えとる通りこの空間は魔方陣魔法によって季節を春に保つ結界が張られておるのじゃ。他にも色々機能があるわしの自信作じゃ」

 自分の何とはなしの呟きにセイルが答えてくれた。

 魔方陣魔法とやらが何なのかいまいちわかっていない自分には正確に凄さがわからなかったが、恐らく相当高度な技術なのであろう。

「そうなんだ。それにしても綺麗な花畑だね」

「そうじゃろう? 女房が花の好きな奴でのぅ……。頼まれて作ったんじゃ。花畑の手入れも機能の一つじゃぞ。よく二人で眺めて、気が付いたら数時間過ぎていたなんてこともあったのぅ」

 セイルが懐かしそうに花畑を見渡す。

(そんな日曜大工感覚でこれだけの事が出来るものを作れちゃうんだ……)

 そんなことを考えていると、セイルは何か思い出したようにまた話しかけてきた。

「そうじゃタケル。大事なことを伝え忘れておった。まさにお主の人生に関わる事じゃ」
  
「人生?」

 こちらの世界に来てからは自分にとって人生に関わる大事件のオンパレードであるのだが、まだ何かあるというのだろうか。

「理由も原理も定かでは無いが、シエラが発現したものは、発現したその瞬間から時の流れが緩やかになるのじゃ」

「えっと……つまりどういう事?」

「まあ簡単に言うと寿命が延びるのじゃ」

 とてもお得な能力であった。

「へぇ。どれくらい延びるの?」

「発現する時期にもよるのじゃが、わしなんかは二十五歳の時に発現して、今年で百七十五歳になるのぅ」

 訂正、とんでもない能力であった。
 自分の独断と偏見ではあるが、セイルの顔に刻まれた皺などから年齢を予測するに、まだ七十歳付近くらいにしか見えない。

「百七十五歳って……」

 そこで自分は気がついた――いや、気が付いてしまった。
 そして、気がついてしまったからには聞かずにはいられなかった。

「ほほほ。思っておった以上にお爺ちゃんじゃったじゃろ? タケルもシエラに目覚めたから――」

「おじいちゃん」

「……ん?」

「――おじいちゃんは……いつからこの森に一人でいるの……?」

 もしも奥さんもシエラが発現していたのなら、今もこの森に居てもおかしくはないはずだ。
 ひょっとしたら今は出掛けているだけなのかもしれない。
 つい最近亡くなったという可能性もある。

 だがもしも、夫婦の片方だけにシエラが発現したとしたら。
 愛する人だけが老いていき、看取った後に長い時を一人で過ごさねばならないとしたら。

(そんなの辛いに決まってる……)

 そう思うと同時に、あまりにも無神経な質問であったことに気がつく。
 辛いと思うなら尚更聞くべきではなかった。

「ご、ごめんおじいちゃん。言いにくい事なら別に……」

 言いきるよりも先にセイルの大きくごつごつとした手が自分の頭をやや乱暴に撫でた。

「……タケルは優しい子じゃのぅ。そんな泣きそうな顔をするでない……。そうさの……もう六十年になるかのぅ。じゃがわしには幸いな事にテッチもおったし、数ヵ月に一度は帝都におる友人とも会えるでの。確かに寂しいと思うこともあったが、女房との別れもある程度納得もしとるのじゃ」

 セイルはそう言うが、六十年とは決して短い時間ではない。
 きっと自分には想像もつかないほどたくさんの別れを繰り返してきたのだろう。
 そんな考えを見透かしたかのようにセイルは話を続けた。

「確かに長生きしておると、多くの別れを経験するものじゃ。過去にはシエラの発現によってパートナーを先に亡くした夫婦が耐えられず後を追うなんてこともあったらしいしのぅ。じゃがわしは悪いことばかりとは思えんのじゃ。多くの友人を看取ったし、訃報を聞くたびに悲しくもなる。しかし、別れもあれば新たな出会いもある。タケルもその出会いの一つじゃ」

「おじいちゃん……」

「やり残したこともあるしのぅ。まあつまり、タケルにもその事を胸に刻んで生きてほしいのじゃ」

「――うん。わかったよおじいちゃん」

「良い子じゃ。それにのぅタケル。実はわしの女房はシエラに目覚めてはおったんじゃぞ。ただまあ……事故みたいなものじゃな……。普通の夫婦よりずっと長く共に過ごせたし、逝く前にちゃんとわしに言葉も残していてくれたでの」

 一拍呼吸を置き、懐かしそうに空を仰ぎ見ながらセイルは続けた。

「思い出が辛いことはないのじゃ。――辛さを掻き消すほどに思い出が輝いておるからのぅ」

(輝く……思い出……)

 強い人だと、そう感じた。

――自分の脳裏に焼き付いた記憶はくすんだ暗くて辛いものが多い気がする。

「僕にもそんな思い出が出来るかな……」

「……人生は何が起こるかわからん。ただ、自分の魂のままにがむしゃらに生きればきっと輝けると、シエラはそれを成す為の力なのだと、そうわしは信じておる。タケルのシエラがわしの想像通りの力だとするなら、その力はきっとタケルを含めた多くの人を救えるはずじゃ」

 頭を撫でてくれていた手が離れ、口調を軽い雰囲気のものに変えてセイルが続ける。。

「さあ、家に着いたことじゃし、飯にするかのぅ」

「――うん!」

 その後は朝と同じものを食べてから、また広場へと向かうのであった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...