アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

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第一章 カラハダル大森林 異世界転移 編

23-A.魂の交差地点-Ⅱ

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「フッ――」

 小さく吐き出された呼気と共に放たれたサキトの拳が、黒々とした猿型の魔物の腹部へと吸い込まれるように向かう。

「ギェ……」

 魔力によって強化された拳は魔物に防がせる間も与えずに腹部へとめり込み、体長一メートルほどの猿型の魔物は赤い目を見開き吹き飛ばされ、後方の木に衝突したことにより、遂にその命を終えた。
 息絶えた事で、猿型の魔物の体は"霧散"して行き、その場に五センチ程の爪と牙のみを残す。

 サキトはその爪と牙を回収し、腰に下げた袋に仕舞った。
 サキトの回収した爪や牙のような魔物の特殊部位と呼ばれる部分は、魔力粉の原料となるため、国や商会が買い取ってくれるのだ。
 全て回収しきったところでアイラとソフィアがサキトに話しかける。

「今のは良いパンチだったわねサキト」

「いや、まだまだだぜ。兄貴なら吹き飛ばす間も無く霧散させてた筈だ……」

「いやいや、サイカさんのパンチはシエラも含めての規格外だったから……」

「それにソフィアのチャージショットやアイラの上級魔法が遠距離から一撃で小型種を倒せるんだから、俺は一撃で中型種を倒せるくらいにならないと、このパーティに俺の居場所が無くなる」

「精霊の魔力を濃縮した一撃と同じくらいの威力のパンチってだけでもサキトくんの身体強化は凄いと思うんだけど……」

「ピィピィ」

 ここまでで既に小型種の魔物を二十体は討伐しているソフィアたちのパーティであるが、その半数程はサキトの拳で葬られていた。
 そんな事を三人で話していると、ソルが会話に入ってきた。

「サキト君、君はその身体強化の練度をもっと誇って良いと思うよ。自分もまさかここまでの力があるとは思っていなかったからね」

「お褒めの言葉はありがたいッスけど、俺はまだまだ上を目指してるッスから!」

「凄い向上心だね。自分も見習わないとな。しかし、ひどい目にあったな……」

 そう言うソルの見た目はお世辞にも綺麗とは言えない状態であった。

「まさかいきなり泥玉を投げられるなんて思いもしませんでしたね……」

 先程の猿型の魔物がいきなり泥玉を投げ、ソルがそれに被弾した事が戦闘開始の合図であった。
 本当にただの泥玉であり、ダメージは皆無であったものの、ソルの軍服の上半身は泥汚れがべったりとついてしまっていた。

「それにしてもあんなに接近されるまで誰の魔力探知にもかからないなんて……サキトあんたちゃんと魔力拡散してたんでしょうね?」

「ちゃんとやってたと思うんだけどなぁ……。あっ、ソルさん眼鏡にも泥がついてるッスよ」

「ん? ああここか……本当にひどい目にあった……」

 ソルはため息を吐きながら眼鏡を取り、ハンカチで拭きながら話を続けた。
 拭く姿にはどこか哀愁が漂っている。

「時間も良い頃合いだしそろそろ夜営の準備を始めようか。そうだなぁ……あのシダが生えている辺りが拓けてそうだからあそこにしようか」

 まだ日は落ちきってはいないが、森の中は木で日が遮られているため暗くなるのが早い。
 ソルが顎で指した方向を見ると、五十メートル程先に確かにシダの生えており、夜営をできる程度には拓けていた。

「了解ッス。じゃあモブロスさん呼んでくるッスね」

「ああ、頼むよ」

 ソルは眼鏡をかけなおしながら、申し訳なさそうにサキトに頼んだ。
 申し訳なさそうではあったが、眼鏡が綺麗になったおかげか幾分明るい表情になっている。
 件のモブロスはと言うと彼らとそれなりに離れた後方にある岩に腰かけていた。

「モブロスさん。今日の夜営地点決まったみたいッスよ」

「お、おお、サキト君か。いやぁ私も久々の遠征で少し頑張り過ぎたようだよ……。よし! 夜営地に行こうか!」

 先程までだいぶ疲れている様子であったか、夜営地点が決まったと聞いて幾分か元気になったようだ。

(そんなに頑張ってたか……?)

 正直モブロスが何かをしていた記憶がサキトには無かったが、流石に口には出さない。

 夜営地点にサキトとモブロスが着くと、他の三人が既に火を焚いて食事を作り始めていた。
 あまり肉の匂いがすると肉食獣が寄ってくるかもしれないため、香草で干し肉の匂いを和らげた粥が今晩のメニューのようだ。
 暖かくなってきたとはいえ、季節はまだ春の初めだ。
 大陸のもっと東や南へと行けばまた違うのかも知れないが、まだまだ夜は冷え込む。
 早めに食事を済ませて、寒さをしのぐために早々にテントへと入った方が良いであろう。

 温かな食事を食べ終える頃には、辺りは薄暗くなって、調理に使った焚き火の残り火が周囲をほのかに照らしている。
 薪をくべようと思ったサキトであったが、薪がもう無いことに気がついた。
 どうやらあまり集めていなかったらしい。
 そうして薪を集めてこようと思い立ち上がろうとしたサキトをソルが制した。

「ああ良いよサキト君。ちょうど用を足しに行きたいと思っていたところだから、ついでに自分が集めてくるよ」

「あ、ありがとうございます。それじゃあお願いするッス」

 ソルが暗闇へと消えて行くと、思い出したかのようにモブロスが話を始めた。

「おおそうだ学院生諸君! 今日は一日ご苦労であったな! 幸いまだ小型種としか遭遇していないから、私の『ラウガの防壁』の出番は来ていないが、いつ中型種が現れるかもわからんからな! 油断せずに――」

 そんな相変わらず無駄に大きな声を掻き消すかの如く――

「――――あァァァああアァぁああアァッッッ!」

 突然森の空気を激しく揺らしたのはソルの断末魔であった。

「今のはソル殿かっ!? 諸君! 私についてくるんだ!」

「は、はいっ」

 モブロスを先頭に四人はソルの消えていった方角へ走る。
 そうして薄暗い森を十数秒も走れば、現場に辿りついてしまった。
 そこは森の中にしてはずいぶんと広い空間であった。
 何かが振動するような音が響く中、四人の目に映ったのは木に凭れかかるソルと、その隣に佇むやたら手先の長い動物であった。

「ま、魔物っ!? ソル殿! 大丈夫かっ……」

 暗闇に慣れてきた目が捉えたのは、ソルの胸に穿たれた大穴から止めどなく流れ出る血液と、長い爪を持つ大きな紫色の土竜型の魔物――大土竜であった。

「ギヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ……」

「中型種だとっ!? 探知にはひっかかっていなかったぞ!?」

 モブロスが狼狽えるが、その横にいるソフィアはそれどころではなかった。

「そんなっ……ソルさん……」

 治癒魔法を得意としている彼女にはわかってしまったのだ。

――『自分にはもう彼を救うことは出来ない』と。

 ソフィアの目から涙が零れ落ちる。

――吐き気がする。

――自分の無力が恨めしい。

 だが、そんな思考も突然の衝撃に遮られる。

「危ねぇソフィアっ!」

「きゃっ!?」

「ピィッ!?」

 倒れこんだソフィアは一瞬何が起こったのかわからなかったが、すぐにサキトが自分を押したのだと理解した。
 しかし、大土竜は相変わらず薄気味悪い笑みを浮かべたまま動いていない。

 『ならば何故彼は自分を押したのだろうか』と、ソフィアがサキトを見上げると――

「ぐっ……くぅっ……」

 痛みに顔を歪める彼の右肩には、太さ五センチ程の黒紫色の針が刺さっていた。

「さ、サキトくん!」

「しまっ……!? 『ラウガの防壁』っ!」

 少しばかり手遅れではあったが、モブロスは高さ三メートル、幅五メートル程の半透明の灰色の分厚い壁を出現させて、魔物と自身らを遮る。
 発動のタイミングこそ遅かったが、その発動速度自体はとても最上級魔法とは思えぬほどの速度であり、彼が自信を持つのも頷けるというものだ。
 それこそ、若干モブロスの実力を疑問視していたソフィア達三人が、彼が正規の軍人であるのだと納得させられるほどの卓越した技術であった。

 数瞬その技術力に目を奪われたソフィアであったが、我に返ると同時に慌てて起き上がり、サキトの右肩に治癒魔法を当てながらゆっくりと引き抜く。

「っ……!結構いっ、てぇ……」

「ごめん、ごめんねっ……」

「いや、『男なら、仲間は身を挺して守れ』って兄貴が言ってたからな……。全然平気だ」

「いやあんた、平気なわけないでしょっ!?」

 塞がった傷口からは、徐々にどす黒い模様が広がり始めている。

「呪い傷っ……!?」

「なんだとっ! すまないが誰か『ライト』を使ってはくれないかっ! 私はこの盾の維持に全力を注がねばならん!」

「は、はい! 『ライト』!」

 アイラが慌てて無属性初級魔法『ライト』を使う。
 初級魔法であるが、その効果は絶大であった。

 打ち上げられた光は辺りを煌々と照らし出し、闇に紛れていた"者達"の姿を浮かび上がらせる。
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