アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

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第一章 カラハダル大森林 異世界転移 編

25-B.交差地点への道のり-Ⅳ

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「キュウッ!」

「え……? ああ、ありがとう」

 キュウの鳴き声で思考の世界から戻された。

「思ったより長いこと考え込んでたのか……。キュウももっと早く教えてくれたらいいのに……」

 そんなことをキュウに言いながら、少し水に浸けすぎてしまった鹿を引き上げて、水気をきってからマジックバッグへと入れる。

「キュキュウ、キュウキュウ」

「え? 『何か大事そうなこと考えてたから、じっくり考えさせてた』って? まあ確かに大事なことではあるけど……」

 普通にキュウとの会話が成り立っていることは、既に疑問を持たないようになっている。
 キュウの力なのか自分の力なのかはよくわからないが、なんとなくキュウの考えていることがわかってしまうのだ。
 おじいちゃん曰く、精霊使いや精霊術師には程度の差はあれど、パートナーの思考がわかるというのはままあることらしい。

 血抜きをした水たまりの処理も終わり、家に向けて出発しようと思った時、一昨日の朝におじいちゃんから言われていたことを思い出した。

「あ、そういえば『ヴォルジェント』の試作品の試験頼まれてたんだった……」

「キュッ!?」

 キュウも忘れていたようで、「忘れてたっ!?」というような反応をしている。

 『ヴォルジェント』というのはおじいちゃんの作った"飛翔魔法"の魔道具の名称である。
 『飛翔魔法』とはおじいちゃんが自分の意見をもとに作り上げようとしている"空を飛び回る"ための魔法だ。
 この世界には既に『飛行魔法』というものは存在しているらしいのだが、そちらは本当にただ浮いてゆっくりと移動するだけで、"空を飛び回る"というにはほど遠いらしい。
 半年かけてやっと形になってきたようで、一昨日の朝におじいちゃんから試作品を渡されていたのであった。

「明日でもいいだろうけど、せっかくだからちょっと使ってみようかな……」

 そう言ってマジックバッグから渡されていた試作品を取り出して、おじいちゃんから聞いた使い方を思い出す。

「確かそのまま足につけるんだっけ……」

 それは流動的に煌めく銀色の金属の輪であった。
 どことなくおじいちゃんのシエラである『銀鬼灯ぎんほおずき』に似ている。
 繋ぎ目などはなく、常に時計回りに動いているようにも見えるが、手のひらには動いてるような感覚は伝わらない。
 まるで液体のようにも見えるが、固体としての確かな硬さと金属としての確かな重さを感じる。

 分解も出来そうにないそれをどうつけるのかと言うと、まさに"そのまま"である。
 輪を足にそのまま近づけるのだ。
 裾を少し引き上げ、恐る恐ると足首に輪を近づけると、端が足首に触れた瞬間銀の輪は形を保ったまま液体化して、肌に吸いついていく。

「うわっ」

 驚いて手を放してしまったが、銀の輪はそのまま吸い付いていき、最終的に足首にぴったりとフィットしたアンクレットとなった。

「こういうの見ると、本当に魔法の世界って感じだよなぁ」

 もう片足にもヴォルジェントをつけて、次の段階へと進む。

「次は確か、魔道具に魔力を流して魔法陣を展開するんだったよな」

 両足のヴォルジェントに魔力を流すと、微量の魔力を消費して、靴の裏に直径十五センチほどの緑色の魔法陣が展開される。

「よし。それじゃあ発動して……って危ない危ない。おいで、キュウ」

「キュウッ!」

 キュウがお気に入りのポジションへと入ってくる。
 キュウを呼んだのは、別に置いていくところだったからなどではない。

「じゃあ使ってる間は一応魔力の供給をしてくれよ」

「キュキュウッ!」

 おじいちゃんの作り上げた飛翔魔法は、風を生み出す魔法の反作用の部分を生み出して、"魔法そのもの"である風などの部分を削ることで魔力の消費を極力抑えた魔法らしい。
 しかしそれでも、通常稼働で三分ごとに上級魔法並の魔力を消費してしまうくらいには燃費が悪いのだ。
 現在の自分の保持魔力量は良くて上級魔法一発分というところなので、ピカレスの触媒があるとはいえ、キュウに支援してもらうに越したことは無いというわけだ。

「よし。じゃあ稼働させるぞ」

 よくわからない緊張感を抱きながら、魔法を発動させる。

「うおっ……!」

 音も無く体が持ち上がる感覚は何とも不思議なものであった。
 少しバランスを崩してしまったが、身体強化をして何とか踏ん張った。

(飛翔中は身体強化を絶やさない方が良いかもしれないな)

 そうしている間もヴォルジェントが体からぐいぐいと魔力を吸い取っては、ピカレスの触媒を通してキュウから魔力が補充されている。
 確か「ヴォルジェント」とは、こちらの言葉で「銀の飛翔」という意味であっただろうか。
 名前の考案の際に安直に『フライヤー』という案を出したが、揚げ物でも出来そうだからという理由で却下されたのは良い思い出だ。

「まあこの程度の魔力消費なら全然問題ないな」

 バランスを崩した際に下を見たが、地面は全く風などの影響を受けていなかった。
 本当に風が出ていないようだ。
 そのまま地上十五メートル付近まで上昇しては下降するというのを繰り返して、反作用の出力の調整にまず慣れる。
 
 「キュッキュウッ!」
 
 体験したことのない高さからの景色に興味津々なようで、キュウは胸元から若干身を乗り出して、しきりに辺りを見回している。

「音も無いし、足の裏に反作用を受けてる感覚もないから上手く調整しづらいなぁ……これは改良のポイントだな」

 しばらく練習すると出力の調整にも慣れてきたので、次は地上十五メートルほどの場所で前後左右にゆっくりと移動をしてみる。
 やってみると思っていたよりも滑らかな軌道を描けて、ただ前後左右に数メートル動いているだけなのに、もうすでに自由に飛んでいる感覚が沸々と湧いてきた。

「それにしても、高所恐怖症じゃないみたいで良かったよ」

「キュウ?」

「いや、高いところが怖かったら試験どころの話じゃなかったなってね」

「キュイ……」

 キュウが「こんなに楽しいのに……」なんて言っているが、怖い人には怖いものなのだ。

 周辺の木々は幹が太く、根が広いためか一つ一つの木の間隔が広いので、飛翔の練習をする空間は十分に確保されている。
 そのまましばらく少し速度を調整したりしながら周辺を飛び回ってみたが、空を飛ぶというのはなかなか心地が良いものだ。
 だんだんとテンションが上がってくる。

「よし。もっと高い場所を飛んでみるか!」

「キュウッ!」

 キュウの同意も得たところで、ヴォルジェントの出力を上げて、木の上を目指す。
 先ほど幹が太いと言ったが、そもそもこの周辺の木は幹だけでなく木自体が大きいのだ。
 杉のような見た目の木だが、高さは七十メートルほどもある。
 上の方にしか枝が付いていないため、そこまでは進路を遮るものは何もない。
 ぐんぐんと速度を上げていくが、空気抵抗を感じることは無い。
 どうやらその辺りに関しても魔道具の方で対応してくれているようだ。

 数秒もすれば目の前に枝が近づいてきたため、次々と掻い潜りながら上を目指す。
 一本、二本、三本、四本――十本を超えたところで葉の幕を突き抜けて、ついに森の上へと飛び出した。
 しばらく上昇して眼下を眺めると――

「――綺麗だ」

「キュウッ♪」

 絶景が広がっていた。
 夕日に赤く染められた葉っぱの絨毯は地平線の如く広がり、所々に生えた広葉樹の広い葉がそよ風に揺られる度に陽光をきらきらと反射させて輝いている。
 普段は側面が照らされている様子しか見たことがなかったが、上空からだとこんなにも綺麗にみえるとは思ってもみなかった。

 そんな景色を見てしまったからだろうか。
 ニヤリと笑いながら胸元のキュウに問いかける。

「――なあ、この景色の中を風を切りながら飛んだら気持ちいいと思わないか?」

 キュウも自分を真似したのか、ニヤリとした感じの顔で答える。

「キュウッ!」

「おじいちゃんには少し悪いけど晩御飯は一緒に作るってことにして、もう少しヴォルジェントの試験データを集めるとしようか」

「キュキュウッ♪」

 傍から見れば、きっといたずらを思いついた子供のような笑顔に見えただろう。

(まああながち間違いってわけでもないんだけどね)

「じゃあ行くぞキュウ! ちゃんと掴まってろよ!」

「キュウッ♪」

 夕暮れの森の遊覧飛行と行こうではないか!

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