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第一章 カラハダル大森林 異世界転移 編
24-B.交差地点への道のり-Ⅲ
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初速からトップスピードに乗り、風を置いていく。
障害物に躓かないように、シエラを足場として地面から数メートル上を駆け抜ける。
シエラは足裏と常に水平に発生させ、掛かる力の一切を無駄なく推進力に換えるのが、空中を駆ける時のポイントだ。
走っている最中におじいちゃんがかつて言っていた事を思い出した。
――『魔法は"人の営みを加速させるもの"である』
(本当に言い得て妙だな。人間の足がこんなに速くなるんだもんな……)
そんな事を考えている間もひたすら走り続ける。
急いで行かねば獲物が移動してしまうかもしれないからだ。
障害物などを感知するために半径五百メートルの球状の魔力探知を展開して絶やさず、油断なく進む。
油断なくとは言えど、自分の居る辺りは背の高くて幹の太い木が多いため、木と木の間が広く、走行を遮るものは少ない。
走ること三分程で、魔力探知が対象を捉えた。
「鹿か……おじいちゃんは猪の方が好きなんだけどな……」
そう言いながらシエラを前方に展開してそれに着地する。
その際、シエラを進行方向に動かす事で高速での移動後の着地の衝撃を軽減して、尚且つ常に水平方向に力が働くようにゆっくりと角度を調整する。
以前一度、そのまま地面に着地をして足の骨に罅を入れたことがあるのだ。
「失敗は成功の元ってね……」
「キュイ……」
キュウが「よく言うよ……」という感じにジト目を向けてくる。
何を隠そう自分が骨にひびが入った痛みで転げまわっている様を一番近くで見ていたのはキュウであるし、その後何度もこのシエラによる着地を失敗して、その度に転げまわっているところも見ているからである。
おじいちゃん曰く、骨が折れるのは「強化の仕方に斑があるから」ということらしいが、未だにその感覚が掴めずにいた。
「こ、今回でもう四回連続での成功だぞ! もう失敗しないって! ほ、ほら、獲物がいたぞ」
「キュイ……」
「本当に大丈夫なのか……」というキュウの声が聞こえてきそうである。
そんなキュウの声を聞き流し、着地したシエラにそのまま乗って空中にとどまる。
シエラに乗って空中を移動することもできなくはないのだが、このシエラの表面は氷のようなもので、水平方向以外の力をほとんど受け流してしまうのだ。
自分が何度も着地に失敗したのもこれが原因である。
上手く水平に踏んだり着地できたりするようになるまで、幾度となく吹っ飛んだり滑ったりしていたのだ。
その姿を傍から見ていたら、さぞ滑稽であったことだろう。
「七十キロくらいはありそうだな……しばらくはお肉に困らないかな」
獲物の方を見るとそこには短い角を携えて、灰褐色の毛は所々に茶色の毛が混じり始めている毛変わり途中といった感じの一頭の牡鹿がいた。
地面に生えているシダを食べるのに夢中なようで全く上に居る自分たちに気が付いた様子はない。
鹿の足元の地面と胸元にシエラを展開させる。
無音で現れたそれに鹿が気が付くはずもない。
「ごめんね……」
そう一言呟いて、鹿の心臓を目掛けて風の刃を一突きすると同時に地面に落とし穴を作る。
悲鳴を上げながら鹿が穴へと嵌った。
「……はぁ」
穴の中でもがく鹿を見ながら胸は締め付けられるような感覚に苛まれる。
――この作業は何度やっても慣れない。
「……さて、下処理するか」
「キュウ」
キュウは自分の心情を理解しているためか、深くは触れず返事だけを返した。
穴を広げて固め、水を張る。
血を抜いて肉を冷やすのだ。
赤く染まっていく水を眺めていると、つい物思いに耽ってしまう。
自分が食べて生きていくためだということはわかっているが、やはり直接"命を奪う"という行為はどうしても考えさせらるものがあるのだ。
初めて狩猟をした時の感覚は今も脳裏に焼き付いている。
おじいちゃんに手渡されたナイフで、今と同じように獲物の胸元を一突きしたのだ。
手から伝わる生々しい感触に、当時は吐きそうになったものだ。
心臓が動き、刺した場所から血が出るたびに獲物の目から生気が失われていく。
それを見つめていると、申し訳なさや、果たして自分のやったことは本当に必要なことだったのかなどという思考が頭の中を駆け巡り、涙を止めることができなくなっていた。
解体をしている間も涙は止まることは無くなかなか作業が進まなかった。
しかし、解体が終わるまでおじいちゃんが手を貸すことは一切無かった。
それだけ泣いて、申し訳なさで心が張り裂けそうであったはずなのに、薄情なもので調理をして食べるとやはり「おいしい」と感じてしまうのだ。
そして"自分が生きていて、生かされている"ということを強く感じたのだ。
おじいちゃんはそれを、「忘れてはいけないことだ」と語った。
前の世界では狩猟などとは無縁に暮らしていた自分にとってはどこか蔑ろにしていた感覚であった。
もちろん頭では、そうやって食材を提供してくれている人たちがいて、そうやって死んでいく命があって、それに感謝しながら食べるのが当然だということは理解していた。
だが自分はこの世界でそれを"心"で理解させられたのだ。
障害物に躓かないように、シエラを足場として地面から数メートル上を駆け抜ける。
シエラは足裏と常に水平に発生させ、掛かる力の一切を無駄なく推進力に換えるのが、空中を駆ける時のポイントだ。
走っている最中におじいちゃんがかつて言っていた事を思い出した。
――『魔法は"人の営みを加速させるもの"である』
(本当に言い得て妙だな。人間の足がこんなに速くなるんだもんな……)
そんな事を考えている間もひたすら走り続ける。
急いで行かねば獲物が移動してしまうかもしれないからだ。
障害物などを感知するために半径五百メートルの球状の魔力探知を展開して絶やさず、油断なく進む。
油断なくとは言えど、自分の居る辺りは背の高くて幹の太い木が多いため、木と木の間が広く、走行を遮るものは少ない。
走ること三分程で、魔力探知が対象を捉えた。
「鹿か……おじいちゃんは猪の方が好きなんだけどな……」
そう言いながらシエラを前方に展開してそれに着地する。
その際、シエラを進行方向に動かす事で高速での移動後の着地の衝撃を軽減して、尚且つ常に水平方向に力が働くようにゆっくりと角度を調整する。
以前一度、そのまま地面に着地をして足の骨に罅を入れたことがあるのだ。
「失敗は成功の元ってね……」
「キュイ……」
キュウが「よく言うよ……」という感じにジト目を向けてくる。
何を隠そう自分が骨にひびが入った痛みで転げまわっている様を一番近くで見ていたのはキュウであるし、その後何度もこのシエラによる着地を失敗して、その度に転げまわっているところも見ているからである。
おじいちゃん曰く、骨が折れるのは「強化の仕方に斑があるから」ということらしいが、未だにその感覚が掴めずにいた。
「こ、今回でもう四回連続での成功だぞ! もう失敗しないって! ほ、ほら、獲物がいたぞ」
「キュイ……」
「本当に大丈夫なのか……」というキュウの声が聞こえてきそうである。
そんなキュウの声を聞き流し、着地したシエラにそのまま乗って空中にとどまる。
シエラに乗って空中を移動することもできなくはないのだが、このシエラの表面は氷のようなもので、水平方向以外の力をほとんど受け流してしまうのだ。
自分が何度も着地に失敗したのもこれが原因である。
上手く水平に踏んだり着地できたりするようになるまで、幾度となく吹っ飛んだり滑ったりしていたのだ。
その姿を傍から見ていたら、さぞ滑稽であったことだろう。
「七十キロくらいはありそうだな……しばらくはお肉に困らないかな」
獲物の方を見るとそこには短い角を携えて、灰褐色の毛は所々に茶色の毛が混じり始めている毛変わり途中といった感じの一頭の牡鹿がいた。
地面に生えているシダを食べるのに夢中なようで全く上に居る自分たちに気が付いた様子はない。
鹿の足元の地面と胸元にシエラを展開させる。
無音で現れたそれに鹿が気が付くはずもない。
「ごめんね……」
そう一言呟いて、鹿の心臓を目掛けて風の刃を一突きすると同時に地面に落とし穴を作る。
悲鳴を上げながら鹿が穴へと嵌った。
「……はぁ」
穴の中でもがく鹿を見ながら胸は締め付けられるような感覚に苛まれる。
――この作業は何度やっても慣れない。
「……さて、下処理するか」
「キュウ」
キュウは自分の心情を理解しているためか、深くは触れず返事だけを返した。
穴を広げて固め、水を張る。
血を抜いて肉を冷やすのだ。
赤く染まっていく水を眺めていると、つい物思いに耽ってしまう。
自分が食べて生きていくためだということはわかっているが、やはり直接"命を奪う"という行為はどうしても考えさせらるものがあるのだ。
初めて狩猟をした時の感覚は今も脳裏に焼き付いている。
おじいちゃんに手渡されたナイフで、今と同じように獲物の胸元を一突きしたのだ。
手から伝わる生々しい感触に、当時は吐きそうになったものだ。
心臓が動き、刺した場所から血が出るたびに獲物の目から生気が失われていく。
それを見つめていると、申し訳なさや、果たして自分のやったことは本当に必要なことだったのかなどという思考が頭の中を駆け巡り、涙を止めることができなくなっていた。
解体をしている間も涙は止まることは無くなかなか作業が進まなかった。
しかし、解体が終わるまでおじいちゃんが手を貸すことは一切無かった。
それだけ泣いて、申し訳なさで心が張り裂けそうであったはずなのに、薄情なもので調理をして食べるとやはり「おいしい」と感じてしまうのだ。
そして"自分が生きていて、生かされている"ということを強く感じたのだ。
おじいちゃんはそれを、「忘れてはいけないことだ」と語った。
前の世界では狩猟などとは無縁に暮らしていた自分にとってはどこか蔑ろにしていた感覚であった。
もちろん頭では、そうやって食材を提供してくれている人たちがいて、そうやって死んでいく命があって、それに感謝しながら食べるのが当然だということは理解していた。
だが自分はこの世界でそれを"心"で理解させられたのだ。
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