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第一章 カラハダル大森林 異世界転移 編
23-B.交差地点への道のり-Ⅱ
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「よっと……」
五百メートル付近まで拡散させた自分の魔力を使ってシエラを発動させた。
遠すぎて目視はできないが、五百メートル先ではオレンジ色――ではなくアポロ色の正六角形の薄壁が出現しているだろう。
最初の頃こそ発動に強い意志を必要としていたが、今ではもうすんなりと発動させることができるようになっていた。
シエラを使いこなすための第一歩として"真名"と呼ばれるシエラの名前を知ることが必要らしいのだが、自分は未だにシエラの真名を知らないでいる。
おじいちゃん曰く、使っていくうちに"心"で理解出来る日が来るということらしいので、普段の生活の中でも積極的に使うようにしているが、未だにその感覚は訪れない。
また、特訓の過程で知り得た事だが自分のシエラは魔力を放出することが出来るようなのだ。
つまり、シエラを魔力の中継地点として魔法を発動することもできたりするのだ。
とは言っても、魔力制御の特訓ばかりしていたため、しっかりと原理の考えられた"名付き"の魔法と呼ばれる魔法は一つとして習得していない。
最初にした風の範囲や強弱を操る魔法のような、ただ各属性の魔法を放出する魔法しか使えないのだ。
その点、魔力探知は必要最低限の魔力を広げられるだけ広げるだけなので現在の自分との相性が非常に良かった。
シエラからさらに五百メートル魔力を広げて、それをレーダーのように最初に広げた魔力の外周でぐるりと回す。
こうすれば魔力探知範囲は半径千メートルまで広がるのだ。
「居ないな……。魔物は相変わらずいっぱい居るけど」
魔力探知を修得してから気が付いたことであるが、この森は魔物だらけだ。
何故転移してから五日も歩き続けて、あの大土竜にしか遭遇しなかったのかが本当に疑問であるほどに多く、森全体に魔物が点在している。
「香木くんの御守り効果のおかげってことにしとこう」
本当にそんな気がしなくもないので、いつもおじいちゃんから貰ったマジックバッグにピカレスの枝の残りを入れて持ち歩いているのであった。
マジックバッグとは、魔方陣魔法で内部空間を拡張された、いわゆる"魔道具"で、"意思のあるもの"以外なら何でも入る便利な袋だ。
魔道具とは魔方陣魔法を刻み込むことで特有の効果を発揮させる道具のことで、おじいちゃんから貰った服や、ピカレスの木の触媒もその一種らしい。
専ら狩りをして仕留めた動物を持ち帰るのに使っている。
というよりそれ以外に使い道がないのだ。
「ここでのおじいちゃんとの生活も悪くないけど、せっかく異世界に来たんだから色々見てみたいよな」
「キュ?」
「いや、まだ森しか見てないからさ。おじいちゃんの話だと街とかもあるみたいだから見てみたいなってね」
「キュ~?」
キュウはよくわからないといった感じだ。
確かに季節によって移り変わる森の景色も、常に春爛漫といった感じの花畑も、見ていて飽きは来ない。
しかし、やはり新しいものや景色、場所などとの出会いは特別なのだ。
「キュウは初めて雪見たとき楽しかっただろ? そういうものが世界にはきっといっぱいあるんだ。見てみたいって思わないか?」
「キュ! キュウキュウッ!」
雪の事を思い出したのか、キュウは激しく同意を示し始めた。
「今度おじいちゃんに帝都とかいう所に連れていってもらおうかな……」
「キュウッ♪」
キュウは今から楽しみなのか尻尾を振りまくっていて、後頭部がベシベシと叩かれる。
(まだ行けるかはわからないんだけどな……。まあさっさと見つけるか)
そう言って千メートル先の魔力を使ってさらにシエラを発動させる。
この半年間の特訓で身につけた魔力制御の力は、同時に十のシエラを展開する事を可能にしていた。
つまり自分の魔力探知、並びに魔法の最大射程は五千五百メートルというわけだ。
時間もないため、さっさと獲物を仕留めて帰りたい。
五百メートル魔力を広げては、シエラを展開し、また魔力を広げる。
それをひたすら繰り返し、最大まで魔力探知を広げる。
(正直これ気持ち悪いからあんまりやりたくないんだよな……)
入ってくる情報量が尋常ではないのだ。
半径五千五百メートル分の周囲の情報がいっきに脳に入ってくる感覚は、まるで不可視の力に脳内をかき混ぜられているかのようなのだ。
一向に慣れることの出来そうの無い感覚に、額に脂汗が浮かぶ。
しかし、無理をした甲斐があってか無事に複数の獲物を発見出来た。
一番近い場所は三千二百メートル付近。
今の自分には対象の形まで魔力探知で把握するのは千メートルまでが限界であるため、対象が何なのかは判別出来ない。
脳への負荷が高いため、探知範囲を五百メートルまで縮め、獲物の居た方角を向いた。
「猪か兎なら良いんだけど……」
おじいちゃんにかつて聞いた森の出口側に魔力探知を向けた時、終端付近でやたら多くの動物が動いていたのも気になる所ではあるが、獲物が多いに越したことはないと判断し、全身に身体強化を施す。
身体強化とはその名の通り、魔力で身体を強化する技術あり、使用することで様々な効果が得られる。
単純に筋力を上げることも出来れば、皮膚や骨を硬くすることも出来るし、視力を上げたりもできる便利な技術なのだ。
魔力探知や身体強化は"名付き"の魔法ではないのかと疑問に思い、おじいちゃんに聞いたことがあったが、魔力をそのまま運用することは"技術"という括りで扱われるらしく、"名付き"の魔法にはカウントされないらしい。
(色々と難しいよな……。いつかその辺もちゃんと勉強したいな)
そんなことを思い出していると、移動の準備が整ったのを感じ取ったキュウがシャツの中に潜り込み、顔を出す。
開いている第一ボタンの場所から前足と頭だけ出すのが最近のキュウのお気に入りのポジションなのだ。
紐を通して首からさげたピカレスの触媒が鳩尾付近にあり、この体勢だとちょうどキュウの背中辺りにあるので、魔力の補充もしやすいのだろう。
キュウのポジション取りが整ったのを確認して、獲物の居た方向に向けて走りだす。
五百メートル付近まで拡散させた自分の魔力を使ってシエラを発動させた。
遠すぎて目視はできないが、五百メートル先ではオレンジ色――ではなくアポロ色の正六角形の薄壁が出現しているだろう。
最初の頃こそ発動に強い意志を必要としていたが、今ではもうすんなりと発動させることができるようになっていた。
シエラを使いこなすための第一歩として"真名"と呼ばれるシエラの名前を知ることが必要らしいのだが、自分は未だにシエラの真名を知らないでいる。
おじいちゃん曰く、使っていくうちに"心"で理解出来る日が来るということらしいので、普段の生活の中でも積極的に使うようにしているが、未だにその感覚は訪れない。
また、特訓の過程で知り得た事だが自分のシエラは魔力を放出することが出来るようなのだ。
つまり、シエラを魔力の中継地点として魔法を発動することもできたりするのだ。
とは言っても、魔力制御の特訓ばかりしていたため、しっかりと原理の考えられた"名付き"の魔法と呼ばれる魔法は一つとして習得していない。
最初にした風の範囲や強弱を操る魔法のような、ただ各属性の魔法を放出する魔法しか使えないのだ。
その点、魔力探知は必要最低限の魔力を広げられるだけ広げるだけなので現在の自分との相性が非常に良かった。
シエラからさらに五百メートル魔力を広げて、それをレーダーのように最初に広げた魔力の外周でぐるりと回す。
こうすれば魔力探知範囲は半径千メートルまで広がるのだ。
「居ないな……。魔物は相変わらずいっぱい居るけど」
魔力探知を修得してから気が付いたことであるが、この森は魔物だらけだ。
何故転移してから五日も歩き続けて、あの大土竜にしか遭遇しなかったのかが本当に疑問であるほどに多く、森全体に魔物が点在している。
「香木くんの御守り効果のおかげってことにしとこう」
本当にそんな気がしなくもないので、いつもおじいちゃんから貰ったマジックバッグにピカレスの枝の残りを入れて持ち歩いているのであった。
マジックバッグとは、魔方陣魔法で内部空間を拡張された、いわゆる"魔道具"で、"意思のあるもの"以外なら何でも入る便利な袋だ。
魔道具とは魔方陣魔法を刻み込むことで特有の効果を発揮させる道具のことで、おじいちゃんから貰った服や、ピカレスの木の触媒もその一種らしい。
専ら狩りをして仕留めた動物を持ち帰るのに使っている。
というよりそれ以外に使い道がないのだ。
「ここでのおじいちゃんとの生活も悪くないけど、せっかく異世界に来たんだから色々見てみたいよな」
「キュ?」
「いや、まだ森しか見てないからさ。おじいちゃんの話だと街とかもあるみたいだから見てみたいなってね」
「キュ~?」
キュウはよくわからないといった感じだ。
確かに季節によって移り変わる森の景色も、常に春爛漫といった感じの花畑も、見ていて飽きは来ない。
しかし、やはり新しいものや景色、場所などとの出会いは特別なのだ。
「キュウは初めて雪見たとき楽しかっただろ? そういうものが世界にはきっといっぱいあるんだ。見てみたいって思わないか?」
「キュ! キュウキュウッ!」
雪の事を思い出したのか、キュウは激しく同意を示し始めた。
「今度おじいちゃんに帝都とかいう所に連れていってもらおうかな……」
「キュウッ♪」
キュウは今から楽しみなのか尻尾を振りまくっていて、後頭部がベシベシと叩かれる。
(まだ行けるかはわからないんだけどな……。まあさっさと見つけるか)
そう言って千メートル先の魔力を使ってさらにシエラを発動させる。
この半年間の特訓で身につけた魔力制御の力は、同時に十のシエラを展開する事を可能にしていた。
つまり自分の魔力探知、並びに魔法の最大射程は五千五百メートルというわけだ。
時間もないため、さっさと獲物を仕留めて帰りたい。
五百メートル魔力を広げては、シエラを展開し、また魔力を広げる。
それをひたすら繰り返し、最大まで魔力探知を広げる。
(正直これ気持ち悪いからあんまりやりたくないんだよな……)
入ってくる情報量が尋常ではないのだ。
半径五千五百メートル分の周囲の情報がいっきに脳に入ってくる感覚は、まるで不可視の力に脳内をかき混ぜられているかのようなのだ。
一向に慣れることの出来そうの無い感覚に、額に脂汗が浮かぶ。
しかし、無理をした甲斐があってか無事に複数の獲物を発見出来た。
一番近い場所は三千二百メートル付近。
今の自分には対象の形まで魔力探知で把握するのは千メートルまでが限界であるため、対象が何なのかは判別出来ない。
脳への負荷が高いため、探知範囲を五百メートルまで縮め、獲物の居た方角を向いた。
「猪か兎なら良いんだけど……」
おじいちゃんにかつて聞いた森の出口側に魔力探知を向けた時、終端付近でやたら多くの動物が動いていたのも気になる所ではあるが、獲物が多いに越したことはないと判断し、全身に身体強化を施す。
身体強化とはその名の通り、魔力で身体を強化する技術あり、使用することで様々な効果が得られる。
単純に筋力を上げることも出来れば、皮膚や骨を硬くすることも出来るし、視力を上げたりもできる便利な技術なのだ。
魔力探知や身体強化は"名付き"の魔法ではないのかと疑問に思い、おじいちゃんに聞いたことがあったが、魔力をそのまま運用することは"技術"という括りで扱われるらしく、"名付き"の魔法にはカウントされないらしい。
(色々と難しいよな……。いつかその辺もちゃんと勉強したいな)
そんなことを思い出していると、移動の準備が整ったのを感じ取ったキュウがシャツの中に潜り込み、顔を出す。
開いている第一ボタンの場所から前足と頭だけ出すのが最近のキュウのお気に入りのポジションなのだ。
紐を通して首からさげたピカレスの触媒が鳩尾付近にあり、この体勢だとちょうどキュウの背中辺りにあるので、魔力の補充もしやすいのだろう。
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