アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

わらび餅.com

文字の大きさ
28 / 163
第一章 カラハダル大森林 異世界転移 編

23-B.交差地点への道のり-Ⅱ

しおりを挟む
「よっと……」

 五百メートル付近まで拡散させた自分の魔力を使ってシエラを発動させた。
 遠すぎて目視はできないが、五百メートル先ではオレンジ色――ではなくアポロ色の正六角形の薄壁が出現しているだろう。
 最初の頃こそ発動に強い意志を必要としていたが、今ではもうすんなりと発動させることができるようになっていた。
 シエラを使いこなすための第一歩として"真名"と呼ばれるシエラの名前を知ることが必要らしいのだが、自分は未だにシエラの真名を知らないでいる。
 おじいちゃん曰く、使っていくうちに"心"で理解出来る日が来るということらしいので、普段の生活の中でも積極的に使うようにしているが、未だにその感覚は訪れない。

 また、特訓の過程で知り得た事だが自分のシエラは魔力を放出することが出来るようなのだ。
 つまり、シエラを魔力の中継地点として魔法を発動することもできたりするのだ。
 とは言っても、魔力制御の特訓ばかりしていたため、しっかりと原理の考えられた"名付き"の魔法と呼ばれる魔法は一つとして習得していない。
 最初にした風の範囲や強弱を操る魔法のような、ただ各属性の魔法を放出する魔法しか使えないのだ。

 その点、魔力探知は必要最低限の魔力を広げられるだけ広げるだけなので現在の自分との相性が非常に良かった。
 シエラからさらに五百メートル魔力を広げて、それをレーダーのように最初に広げた魔力の外周でぐるりと回す。
 こうすれば魔力探知範囲は半径千メートルまで広がるのだ。

「居ないな……。魔物は相変わらずいっぱい居るけど」

 魔力探知を修得してから気が付いたことであるが、この森は魔物だらけだ。
 何故転移してから五日も歩き続けて、あの大土竜にしか遭遇しなかったのかが本当に疑問であるほどに多く、森全体に魔物が点在している。

「香木くんの御守り効果のおかげってことにしとこう」

 本当にそんな気がしなくもないので、いつもおじいちゃんから貰ったマジックバッグにピカレスの枝の残りを入れて持ち歩いているのであった。
 マジックバッグとは、魔方陣魔法で内部空間を拡張された、いわゆる"魔道具"で、"意思のあるもの"以外なら何でも入る便利な袋だ。

 魔道具とは魔方陣魔法を刻み込むことで特有の効果を発揮させる道具のことで、おじいちゃんから貰った服や、ピカレスの木の触媒もその一種らしい。

 専ら狩りをして仕留めた動物を持ち帰るのに使っている。
 というよりそれ以外に使い道がないのだ。

「ここでのおじいちゃんとの生活も悪くないけど、せっかく異世界に来たんだから色々見てみたいよな」

「キュ?」

「いや、まだ森しか見てないからさ。おじいちゃんの話だと街とかもあるみたいだから見てみたいなってね」

「キュ~?」

 キュウはよくわからないといった感じだ。
 確かに季節によって移り変わる森の景色も、常に春爛漫といった感じの花畑も、見ていて飽きは来ない。
 しかし、やはり新しいものや景色、場所などとの出会いは特別なのだ。

「キュウは初めて雪見たとき楽しかっただろ? そういうものが世界にはきっといっぱいあるんだ。見てみたいって思わないか?」

「キュ! キュウキュウッ!」

 雪の事を思い出したのか、キュウは激しく同意を示し始めた。

「今度おじいちゃんに帝都とかいう所に連れていってもらおうかな……」

「キュウッ♪」

 キュウは今から楽しみなのか尻尾を振りまくっていて、後頭部がベシベシと叩かれる。

(まだ行けるかはわからないんだけどな……。まあさっさと見つけるか)

 そう言って千メートル先の魔力を使ってさらにシエラを発動させる。
 この半年間の特訓で身につけた魔力制御の力は、同時に十のシエラを展開する事を可能にしていた。
 つまり自分の魔力探知、並びに魔法の最大射程は五千五百メートルというわけだ。

 時間もないため、さっさと獲物を仕留めて帰りたい。
 五百メートル魔力を広げては、シエラを展開し、また魔力を広げる。
 それをひたすら繰り返し、最大まで魔力探知を広げる。

(正直これ気持ち悪いからあんまりやりたくないんだよな……)

 入ってくる情報量が尋常ではないのだ。
 半径五千五百メートル分の周囲の情報がいっきに脳に入ってくる感覚は、まるで不可視の力に脳内をかき混ぜられているかのようなのだ。
 一向に慣れることの出来そうの無い感覚に、額に脂汗が浮かぶ。
 しかし、無理をした甲斐があってか無事に複数の獲物を発見出来た。
 一番近い場所は三千二百メートル付近。
 今の自分には対象の形まで魔力探知で把握するのは千メートルまでが限界であるため、対象が何なのかは判別出来ない。
 脳への負荷が高いため、探知範囲を五百メートルまで縮め、獲物の居た方角を向いた。

「猪か兎なら良いんだけど……」

 おじいちゃんにかつて聞いた森の出口側に魔力探知を向けた時、終端付近でやたら多くの動物が動いていたのも気になる所ではあるが、獲物が多いに越したことはないと判断し、全身に身体強化を施す。
 身体強化とはその名の通り、魔力で身体を強化する技術あり、使用することで様々な効果が得られる。
 単純に筋力を上げることも出来れば、皮膚や骨を硬くすることも出来るし、視力を上げたりもできる便利な技術なのだ。

 魔力探知や身体強化は"名付き"の魔法ではないのかと疑問に思い、おじいちゃんに聞いたことがあったが、魔力をそのまま運用することは"技術"という括りで扱われるらしく、"名付き"の魔法にはカウントされないらしい。

(色々と難しいよな……。いつかその辺もちゃんと勉強したいな)

 そんなことを思い出していると、移動の準備が整ったのを感じ取ったキュウがシャツの中に潜り込み、顔を出す。
 開いている第一ボタンの場所から前足と頭だけ出すのが最近のキュウのお気に入りのポジションなのだ。
 紐を通して首からさげたピカレスの触媒が鳩尾付近にあり、この体勢だとちょうどキュウの背中辺りにあるので、魔力の補充もしやすいのだろう。
 キュウのポジション取りが整ったのを確認して、獲物の居た方向に向けて走りだす。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...