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第一章 カラハダル大森林 異世界転移 編
22-B.交差地点への道のり-Ⅰ
しおりを挟む日の陰りを感じふと空を見ると、周りより幾分か分厚い雲が太陽の前を横切り、温かな春陽を独り占めしていた。
しかしそれもつかの間、順番待ちの行列から苦情でも入ったのかそそくさと次のものに場所を譲っている。
結果的に太陽と自分の間にあるのは薄い雲のみとなり、そんな雲が空全体に広がっているのだが、白い霞は陽光を程よく遮るにとどまっているため、不思議と暗いとは感じない。
(いわゆる花曇りというやつかな……)
この世界に来たばかりの頃に見た深く青い、寒々とした空と比べると季節が移り変わったのだということが実感できた。
「もう半年くらいになるのか……」
「キュウ?」
「いや、キュウやテッチやおじいちゃんと暮らし初めてからもう結構な時間が経ったんだなって思ってね。よしキュウ、そろそろ行こうか」
「キュウッ♪」
あちらの世界に居た頃が初冬だったため、てっきり転移したこちらも同じく初冬だと思っていたが、おじいちゃんに尋ねると秋の始めだというから驚いたものだ。
なぜなら――
(本当に冬が寒かったよな……)
秋であの刺すような寒さだということは、冬の寒さはとんでもないということだからである。
(家に居れば結界の中は春だから気にしなくても良かったけど、外に出るとどうしても辛かったよなあ……)
おじいちゃんとの特訓や食糧の調達は花畑の結界の外でやることになるので、多機能ジャージのおかげで体は暖かいのだが、顔や手が寒くて本当に辛かったのだ。
本来ならばキュウが居れば周りを暖かくしてくれて寒さはどうにかなるはずなのであるが、雪をめっぽう気に入ったキュウは、溶かしたくないからと暖かくしてくれなかったのである。
最近はようやく春らしくなってきたようで、先程もキュウと共に、程よい陽光と心地よい風に誘われてついつい日向ぼっこをしてしまっていた。
しかし、時刻は既に三時も半ばと言った所であり、日の入りは刻一刻と近づいている。
まだ今日の晩御飯の食材を調達出来ていないのだ。
「春になったとは言え、まだ日が陰るのはそこそこ早いからね。さっさと調達しちゃおう」
「キュウ」
そう言って、寝転がっていた大きな切り株から立ち上がる。
今日はおじいちゃんが帰ってくる日なのだ。
おじいちゃんは普段からこの森を探索していて、だいたい三日間探索をしては数日を自分と過ごし、また探索に出かけるということを繰り返していた。
探索は初日の朝早くから出かけて、三日目の日が沈んでしばらく経った頃に帰ってくるというのがだいたいいつものサイクルである。
おじいちゃんが帰ってくるまでには晩御飯の準備を済ませておいてあげたい。
転移当時は例の多機能ジャージしか無かったが、最近ではおじいちゃんがカジュアルな服も作ってくれるため、色々と着回している。
そう、おじいちゃんは洋裁もできるのである。
(年の功ってやつなのかな?)
現在自分が着ている服は、上はミリタリーシャツと呼ばれるようなしっかりとした生地で作られたシンプルなデザインの服を第一ボタン以外を留めて着ていて、下はやたら伸縮性の良いジーンズだ。
もちろんこれらにもおじいちゃんは魔方陣魔法を施してくれている。
(ジャージの時も思ったけど、別に中世っぽい雰囲気ではないのかもなあ……)
ファンタジーと言えば中世というような固定概念が自分の中にはあったのだが、別段そういうこともないようだ。
そんな事を考えながら地面に手をつき魔力探知を開始する。
魔力探知とは拡散した魔力を介して周りの状況を把握する技術である。
もっぱら魔物を探知するために使われるが、精度を上げることで物の形や、その者の持つ魔力の色などを感知することができるのだ。
広げた魔力は制御している限り使用者の周りに追従するため、移動しながらの探知にも向いている。
自分の持つ"攻撃を感知する能力"と似ているが、精度が落ちる代わりにより広範囲を調べられるという利点がある。
自分の中にある魔力へと意識を集中し、掌から微弱な魔力を地面の表面に伝え、周囲へと満遍なく円を広げるように拡散していく。
拡散する魔力に色は無い。
理由はよくわからないが、意識して魔力の色を消すようにと教えられたのだ。
そうして拡散した距離が百メートルを過ぎたところでまず最初の反応を見つけた。
(こいつは小型種の魔物だな……)
広げた微弱な魔力が対象の表面を伝って行き、それを"補食"される感覚から、魔物の反応だと断定する。
この技術のおかげで魔物を避けて行動することができるようになっていた。
戦闘できるだけの"力"は手に入れたが、進んで戦いたくは無かったのだ。
そのまま魔力を広げていき、魔物の反応を四つ通り過ぎ、拡散距離が五百メートル付近に達したところで一度拡散を止める。
「近くには魔物しか居ないみたいだな……」
これ以上の距離をこのまま調べようとすると、今の自分の魔力制御の練度では魔力を維持できなくなってしまう。
感覚的には、五百メートルより先に魔力を送ろうとすると"放出している根元から魔力が崩壊する"という感じだろうか。
使う魔力は増えるが、要は自分から五百メートル以内なら良いわけだから、球状に探知も出来るわけだ。
ひょっとしたら、球状に広げると視界を悪くするから色を消すのかもしれない。
そんなことを考えながらも、次の工程へと移る。
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