アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

わらび餅.com

文字の大きさ
27 / 163
第一章 カラハダル大森林 異世界転移 編

22-B.交差地点への道のり-Ⅰ

しおりを挟む

 日の陰りを感じふと空を見ると、周りより幾分か分厚い雲が太陽の前を横切り、温かな春陽を独り占めしていた。
 しかしそれもつかの間、順番待ちの行列から苦情でも入ったのかそそくさと次のものに場所を譲っている。
 結果的に太陽と自分の間にあるのは薄い雲のみとなり、そんな雲が空全体に広がっているのだが、白い霞は陽光を程よく遮るにとどまっているため、不思議と暗いとは感じない。

(いわゆる花曇りというやつかな……)

 この世界に来たばかりの頃に見た深く青い、寒々とした空と比べると季節が移り変わったのだということが実感できた。

「もう半年くらいになるのか……」

「キュウ?」

「いや、キュウやテッチやおじいちゃんと暮らし初めてからもう結構な時間が経ったんだなって思ってね。よしキュウ、そろそろ行こうか」

「キュウッ♪」

 あちらの世界に居た頃が初冬だったため、てっきり転移したこちらも同じく初冬だと思っていたが、おじいちゃんに尋ねると秋の始めだというから驚いたものだ。
 なぜなら――

(本当に冬が寒かったよな……)

 秋であの刺すような寒さだということは、冬の寒さはとんでもないということだからである。

(家に居れば結界の中は春だから気にしなくても良かったけど、外に出るとどうしても辛かったよなあ……)

 おじいちゃんとの特訓や食糧の調達は花畑の結界の外でやることになるので、多機能ジャージのおかげで体は暖かいのだが、顔や手が寒くて本当に辛かったのだ。
 本来ならばキュウが居れば周りを暖かくしてくれて寒さはどうにかなるはずなのであるが、雪をめっぽう気に入ったキュウは、溶かしたくないからと暖かくしてくれなかったのである。

 最近はようやく春らしくなってきたようで、先程もキュウと共に、程よい陽光と心地よい風に誘われてついつい日向ぼっこをしてしまっていた。
 しかし、時刻は既に三時も半ばと言った所であり、日の入りは刻一刻と近づいている。
 まだ今日の晩御飯の食材を調達出来ていないのだ。

「春になったとは言え、まだ日が陰るのはそこそこ早いからね。さっさと調達しちゃおう」

「キュウ」

 そう言って、寝転がっていた大きな切り株から立ち上がる。
 今日はおじいちゃんが帰ってくる日なのだ。
 おじいちゃんは普段からこの森を探索していて、だいたい三日間探索をしては数日を自分と過ごし、また探索に出かけるということを繰り返していた。
 探索は初日の朝早くから出かけて、三日目の日が沈んでしばらく経った頃に帰ってくるというのがだいたいいつものサイクルである。
 おじいちゃんが帰ってくるまでには晩御飯の準備を済ませておいてあげたい。

 転移当時は例の多機能ジャージしか無かったが、最近ではおじいちゃんがカジュアルな服も作ってくれるため、色々と着回している。
 そう、おじいちゃんは洋裁もできるのである。

(年の功ってやつなのかな?)

 現在自分が着ている服は、上はミリタリーシャツと呼ばれるようなしっかりとした生地で作られたシンプルなデザインの服を第一ボタン以外を留めて着ていて、下はやたら伸縮性の良いジーンズだ。
 もちろんこれらにもおじいちゃんは魔方陣魔法を施してくれている。

(ジャージの時も思ったけど、別に中世っぽい雰囲気ではないのかもなあ……)

 ファンタジーと言えば中世というような固定概念が自分の中にはあったのだが、別段そういうこともないようだ。
 そんな事を考えながら地面に手をつき魔力探知を開始する。
 魔力探知とは拡散した魔力を介して周りの状況を把握する技術である。
 もっぱら魔物を探知するために使われるが、精度を上げることで物の形や、その者の持つ魔力の色などを感知することができるのだ。
 広げた魔力は制御している限り使用者の周りに追従するため、移動しながらの探知にも向いている。
 自分の持つ"攻撃を感知する能力"と似ているが、精度が落ちる代わりにより広範囲を調べられるという利点がある。

 自分の中にある魔力へと意識を集中し、掌から微弱な魔力を地面の表面に伝え、周囲へと満遍なく円を広げるように拡散していく。
 拡散する魔力に色は無い。
 理由はよくわからないが、意識して魔力の色を消すようにと教えられたのだ。
 そうして拡散した距離が百メートルを過ぎたところでまず最初の反応を見つけた。

(こいつは小型種の魔物だな……)

 広げた微弱な魔力が対象の表面を伝って行き、それを"補食"される感覚から、魔物の反応だと断定する。
 この技術のおかげで魔物を避けて行動することができるようになっていた。
 戦闘できるだけの"力"は手に入れたが、進んで戦いたくは無かったのだ。
 そのまま魔力を広げていき、魔物の反応を四つ通り過ぎ、拡散距離が五百メートル付近に達したところで一度拡散を止める。

「近くには魔物しか居ないみたいだな……」

 これ以上の距離をこのまま調べようとすると、今の自分の魔力制御の練度では魔力を維持できなくなってしまう。
 感覚的には、五百メートルより先に魔力を送ろうとすると"放出している根元から魔力が崩壊する"という感じだろうか。
 使う魔力は増えるが、要は自分から五百メートル以内なら良いわけだから、球状に探知も出来るわけだ。
 ひょっとしたら、球状に広げると視界を悪くするから色を消すのかもしれない。
 そんなことを考えながらも、次の工程へと移る。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...