アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

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第一章 カラハダル大森林 異世界転移 編

27.『一焼』に付す-Ⅰ

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 油断無く魔力探知のための魔力を広げて、視覚外の魔物の動きを確実に把握できるようにする。
魔力を拡散するとはすなわちポルテジオの展開可能範囲を広げることにもなる。
 状況的に最大九方面からの攻撃に対応しなければいけないわけだが、不安は無い。

(おじいちゃんとテッチとしか特訓したことしかないから、七方面までしか対応したことないけど、きっと出来るはずだ。今も八方面からの攻撃に対処できたしね)

 根拠は無いが、今の自分になら出来る気がする――いや、出来なければならないのだ。
 そもそもよく考えると何故二人で七方面からの攻撃が可能なのかと疑問に思うが、それはあの二人だからということで納得がいってしまう。

(それに多分もっと多方面からあの二人ならできるし……)

 そんなことを考えながらも脳内では、飛び回る蜜蜂型の魔物たちや一度引いた大土竜たち、そして地面に降りて動かない雀蜂型の魔物の動向を把握するのに努める。
 前の世界に居た頃の自分にはまず無理な技術だろう。
改めて自分を鍛えてくれている二人に感謝をしなくてはいけない。

 改めて確認するが、雀蜂型の魔物以外はやはり自分の魔力探知に使っている魔力を捕食しようとはしない。

「おじいちゃんから聞いてた魔物の特性と違うな……。どういうことだ?」

 魔力を捕食しないことで、魔力探知から逃れていたのかもしれないが、それだけの知性があるということなのだろうか。
 普段の森での魔力探知の時は、魔物は須らく魔力を捕食をしていたはずだ。

「こいつらが特別だと考えるべきかもな……」

 思考を巡らせている間も、こちらを攪乱させるつもりなのか蜜蜂型の魔物は縦横無尽に飛び回っている。
 正直結構効いてるからやめてほしいところだ。

 飛び回っているうちの二体が唐突に後方上空で動きを止め、こちらに向かって針を飛ばしてきたのを感覚が告げる。
 その感覚に逆らわずに、告げられた場所にポルテジオを展開させると、硬質なものがぶつかる音がした後に何かが地面に落ちる音がした。

(大丈夫だ。全部感知できている)

 しっかりと防御ができることを確認したところで、後ろの三人の方を振り向く。
 実は先ほどから気になっていることがあったのだ。

 金髪をツインテールにした地面に横たわる少女は、腹部の破れた衣服の隙間からどす黒い呪印が垣間見え、その隣に横たわるツンツンとした茶髪の少年は目を凝らさなくともわかるほどに体のいたるところに同じく呪印が広がっている。

「呪い傷……」

 かつて自分も受けたことのある魔物の呪いを二人は受けているようだ。
 傷口自体は塞がっているようだが、お構いなしに呪印は体に広がり続けている。
 少年の方など、もう体中に広がりかけているようで、早急に対処しなければといった感じだ。

 尚も襲い来る魔物の攻撃をポルテジオで防ぎつつ、冷静に状況を判断していると、攻撃が全て防御されている事を確認した翡翠色の髪の少女が必死な形相で口を開いた。

「あ、あの! ピカレスの薬を持っていませんか? こんな状況で、助けてもらっておいて図々しいと思われるかもしれません。けど、早くしないと……。お願いします! 対価は絶対に後で払いますから……! お願い、します……」

 きっと傍に横たわる少年や少女を助けたいのだろう。
 しかし、基本的に魔物と遭遇しないようにしていたため、自分のマジックバッグにはピカレスの薬は入ってないのだ。
 もしもの時のために一つくらい貰っておけば良かったと思いつつ、しかし自分が代わりになるものを持っていることに気が付いた。

「ごめんね。今僕はピカレスの薬は持ってないんだ。けど――」

 その続きを口に出そうとした時、弱々しく震えながらも、強い意思と覚悟の籠った声が遮ってきた。

「なあ……あんた……ありがとうな。さっきは魔物の魔法防いでくれて……。見る限り防御系のシエラを使えるんだよな……? 頼みがあるんだが、この二人連れてどうにかここから逃げてくれないか……?」

「サキトくん!? 何言ってるのっ!」

「俺はもう無理だからさ……。頼むから二人だけでも……。――お願いします。何も対価として渡せるものは無ぇけど、それでも、どうか……どうか……」

 サキトという名前らしい彼から伝わる感情は、悲しみや悔しさを持ちつつも、その大部分は二人の同行者に対する"生きてほしい"という想いだった。
 そんな想いに触れられた事が、こんな状況で不謹慎ではあるのだが、少し嬉しくなってしまった。

――だからこそ、その願いは受け取れない。

 こんな優しい想いの持ち主をこんな場所で死なせるわけにはいかないのだ。

「大丈夫だよ。ちゃんと君も助ける。僕は君たち"三人"を助けに来たんだ」

――この場の一人の命だって欠けさせるものか。

「ピィ……」

 翡翠色の髪の少女の肩で、弱々しい小鳥の声が存在を主張してきた。
 よく見ると翠色の微弱な魔力を持った小鳥がぐったりとしながら首をもたげている。

「精霊……? ごめんね気が付いてなかったや。でも大丈夫。君もちゃんと助けるよ」

「ピピィ……」

 安心したのか頭を下ろしてまたぐったりとし始めた。

「ピカレスの薬は持ってないんでしょ……。解呪でもできるの……?」

 金髪の少女が苦しそうに問いかけてきたので、マジックバッグから今まで自分の事を幾度となく救ってくれた、この世界で一番付き合いの長い例の彼を取り出す。

「それは……まさかっ!?」

 翡翠の少女は彼から仄かに香るその香りで正体に気がついたようで驚愕の声をあげる。
 当然だろう、この世界の人々にとって彼はとてつもなく重要な存在のはずだ。
 ましてやそれを一個人がこんな形で所持しているなんて思うはずもない。

 そう、彼の名は――

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