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第一章 カラハダル大森林 異世界転移 編
間話 とある少年の独白-Ⅰ
しおりを挟む「おー、咲いてる咲いてる」
春の陽気広がる昼下がり、今俺は近所の神社に来ている。
毎年初詣とは別に年度末にもお参りにくるのがうちの家の恒例行事となっているからだ。
例年とは違い家族とは別で俺一人で先に来ているわけだが、他に参拝客も居ない中桜並木に囲まれた参道を独り占めしながら歩くのもなかなか乙なものである。
高校も先日卒業し、来月からは社会人なわけだが、何となくこの恒例行事はこれからも続けていきそうな気がするな。
今日は大学や就職などで地元を離れて行く友人たちを送り出すために、集まって騒ぐことになっているから家族とは別行動で来たわけだが――
「――仕方ないとはいえ、武が来れねぇってのは残念だな……」
"武"とは、俺の親友――いや、俺が親友になりたかった友達である『須藤 武』のことだ。
あいつはもう大学に通うために引っ越してしまっているため、今日の集まりには来れないらしい。
三年間一緒に過ごしたわけだが、ついぞあいつの親友になる事は俺には出来なかった。
俺にとって武は"親友"だったが、武にとって俺は"友達"だったんだ。
「まあ、俺には無理だったってことだよなぁ」
自分で言っていて悲しくなるが、結局はそこに尽きるのだろう。
どうして俺がそこまで武との"親友"という関係に拘るのか。
そんなの簡単だ。
俺の高校三年間はあいつが居なければ、悲惨で、寂しく、思い出すのも悲しいものになっていたかもしれないからだ。
三年前、高校生活に対する期待とうまく友人をつくれるかという焦燥がせめぎ合った結果、俺は何をとち狂ったのか「初対面のインパクトが重要だ!」と考えてしまった。
いや、そう考えるだけならまだ救いようがあったんだが、俺は"インパクトのある見た目"で攻めようとしてしまったんだ。
入学式前日に髪を金に染め、穴を開ける勇気もないためピアスに似たただのイヤリングをして、それとなく制服を着崩した姿を当時の舞い上がっていた俺は、"イケてる"と思ってしまった。
実際には初めての染髪は失敗していて染まり具合は中途半端、イヤリングもとてもセンスの良いものとは言えず、着崩した制服はただだらしないだけだったんだが……。
翌朝その姿を見て止めようとしてくれた家族を振り切って登校し、教室へと飛び込んだ俺に向けられたのは案の定といった感じの忌避と嫌忌の視線で、登校初日から俺は生徒指導室行きとなり、見事にボッチ街道まっしぐらとなるところだった。
休み時間の度に、誰かに話しかけようと思う度に、脳裏に焼き付いた忌避の視線が邪魔をして、勇気が出ず、結局教室の隅で一人で過ごす。
昼までのわずか数時間の間だけでも、俺にとってその教室は本当に地獄のような空間と化してしまっていた。
こんな状態で三年間も過ごすことになってしまうのだろうかと、昨日まで想像していた輝かしい高校生活にはもう手は届かないのだろうと、そうやって考えるだけで吐きそうにな状態だった。
もう家に帰りたいけど、家に帰って母さんになんて説明をするんだと思うと帰れるわけもない。
気さくに「高校デビュー失敗した」なんて言えるようなメンタルはもう俺には残っていなかった。
そんな感じに一人寂しく昼飯を食おうとしていた俺に話しかけてきてくれたのが武だったんだ。
後から友人に聞いた話だと、教室の片隅でどんよりと気落ちして俯いて座っている俺は、傍から見たら機嫌を悪くした、触れたら爆発するような危険物にしか見えなかったそうだ。
俺だったらそんなものには絶対に触れないどころか近づきすらしないだろう。
だけどあいつは話しかけてきてくれたんだ。
俺とは違い、既に気さくに話せる友人たちのグループを作っていて、そんな友人たちが止めるのも聞かずにあいつは俺に「一緒に食べる?」と真顔で聞いてきたんだ。
まあ冗談抜きに神の救いだと思ったわな。
神なんて特に信じていない俺だけど、毎年の恒例行事の参拝の結果が実を結んだのだと本気で信じる程の力がその行動には秘められていたんだ。
もはや精神を消耗しすぎて、毛ほどのプライドも残っていなかった俺は武に連れられるままそのグループに加わって飯を食い始め、武に聞かれるままにこの状況に至った経緯を話していた。
どうやらそのグループの奴らだけじゃなく、周りの奴らもその話に聞き耳を立てていたようで、話が終わる頃にはみんなの忌避の視線は何か微笑ましいものを見るような目に変わっていて、依然として居心地は悪かったが、別に悪い気分ではなかったのを覚えている。
ようやくその日初めて俺は笑うことができたんだ。
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