アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

わらび餅.com

文字の大きさ
47 / 163
第一章 カラハダル大森林 異世界転移 編

間話 とある老人と少女の会話-Ⅱ

しおりを挟む
「セイル様は……それでよろしいのですか? 差し出がましいと思われるかもしれませんが、今日のお二人の様子を見ている限り、私にはお二人が本当の祖父と孫のような関係に見えました。とても、今朝セイル様がおっしゃられていた通りに半年前までは赤の他人だったとは信じられない程に、です」

 そんな私の不躾な質問にセイル様は気を悪くされるでもなく、寧ろ朗らかに笑いながら答えてくださりました。

「ほほほ。傍からもそう見えておったのなら、嬉しい限りじゃのぅ。わし自身も正直、まだ出逢って半年というのが驚きなのじゃよ。最初はほんの気まぐれ、それこそ精霊キュウがあまりにも必死に助けを求めてきておるように感じたでの、治療だけしてさっさと近くの町にでも送り届けようと思っておったのじゃがのぅ……」

 そう言いながらセイル様はひどく懐かし気な表情で話を続けられます。

「とりあえず腹が減っておるじゃろうからと飯を食わせたら、食った途端に泣き始めてのぅ……。しかも心底嬉しそうに泣くんじゃよ。それこそ、欲しかったものを手に入れたかの様にのぅ」

 思い出を語られるセイル様の表情は、本当に楽しそうで――

「何か成果を得られる度に楽しそうに笑って、上手くいかなければ一目で落ち込んでおるのがわかるほどに気を落として、それでも諦めずに努力を続けて……褒めると子供の様に心底嬉しそうに喜んでのぅ。そんな様子を見ておると、昔間違えた事を思い出しての……」

 私にはその"間違えた事"と言うのがいったい何なのかはわかりません。
 ただ、セイル様の漏らす自嘲めいた笑いからは、言い知れぬ後悔が感じられました。

「わしの事を祖父のように呼ばせたのは、興味半分、建前半分といったところじゃったんじゃが、よく泣いてよく笑って、些細な事でころころとタケルの表情の変わる様などを見ておると、プリムの事を思い出してのぅ……。もしも孫がおったらタケルのような子に育っていたのではないかと思い始めて――気が付いたら本当の孫じゃと思うようになっておったんじゃ」

 一拍呼吸を置かれた後、セイル様は続けられます。

「孫と共に過ごしたいと思うと同時に、孫の成長を願う気持ちもあるからのぅ……。それに、若い芽の成長の邪魔をしたらプリムに叱られてしまう」

 そう言ってセイル様は冗談っぽく笑われました。
 私はプリム様の事を、それほど詳しくは知りません。
 物語の中での英雄としてのプリム様はどれも強くて美しくて、私が精霊術師に憧れたきっかけもプリム様のお話でした。
 でも、ひいおじい様の昔話に出てくるプリム様は、慈愛に満ちた、天真爛漫な一人の女性で――

――あぁ確かに、タケルくんと似てるかもしれない。

 私たちを助けてくれた時のあの意志に燃える英雄のような姿とは裏腹に、普段は落ち着いていて、かと思えば私たちより一つ年上なのだとは思えないほど無邪気――と言うよりも純真な一面も持っている。
 短い時間の中でも、彼が心の底から"優しい"人なのだと私は理解していました。

「なんだか、得心が行きました」

「ん? 何がじゃ?」

「命を助けてもらったとはいえ、なんであんなにすんなりタケルくんを受け入れられたのかなってちょっと気になっていたんです。その理由ってたぶん、少し話しただけでもわかるくらいにタケルくんに悪意とかが無いからだと思うんです」

「ふむ。確かにそうじゃのう」

「そういうのって本来時間をかけて理解するものだと思うんですけど、何だかタケルくんと話していると、楽しそうだったり、悲しそうだったり、こちらを心配していたりって言うのが凄く伝わってくるんですよね……」

 それで言うと、ロンドとお喋りしている時の感覚に近いかもしれません。

「ほほほ。確かにタケルは感情を隠さない――というよりはまるで、感情を隠す術を知らないといった感じじゃからのぅ。そのくせ辛いことは隠そうとしおるから余計に心配になってくるんじゃよのぅ……」

「辛いことは隠そうとする……ですか?」

「うむ。そうじゃのう……。例えばじゃが、ソフィア嬢ちゃんは魔物を一つの生命として考えたことがあるかのぅ?」

「魔物をですか? いえ……確かに生物と同じ形をしていますけど、魔物は魔力を喰らう人類の天敵で、そういう存在で……生命だとは考えたことも無かったですね」

「まあ、それが普通じゃよのぅ。血は流れておらんし死ねば塵になって特殊部位だけを残して消える。魔力を喰らう事しか考えておらん化け物。それが常識じゃからのぅ」

「"常識"という事は、もしかして違うんですか?」

「それは正直なところわしにもわからん。じゃが、世間一般では奴らの事を生物じゃとは思うて無いのにも関わらず、先も言うた通り"死ねば塵になる"と生死を判別しておる。この意識の矛盾が女神フィロアによって仕組まれた罠じゃと言うのが異教徒の主張の一つじゃな」

 確かに言われてみればその通りな気がしてきました。

「じゃあ、異教徒の主張はもしかして正しいのですか?」

 私の不安げな問いにセイル様は首を横に振ります。

「この主張に関してはわからんが、もし奴ら主張が正しかったとしても何もかわらんじゃろう? 魔物は人類を襲い、人類が生きるためには奴らを倒さねばならぬ。これは単純な意識操作じゃよ。女神に疑念を持たせることで、自分たちの主張を正しく見せようとしておるのじゃ。少し話が逸れてしもうたの」

 こほんと咳払いを一つしてからセイル様は続けられました。

「たぶんタケルは、魔物を一つの生命として認識しておるんじゃよ。じゃが決して異教徒のように崇拝などしておるわけではない。それはソフィア嬢ちゃんたちが今ここに生きておることが証明しておるじゃろう?」

「はい。もしも異教徒ならば、魔物を殺すはずがありませんから」

 でも、"タケルくんが辛い事を隠そうとする"のといったい何の関係があるのでしょうか?

「タケルはのぅ……娯楽で狩りをする者も普通におるような今の世で、自分が食べるために動物を狩ることにすら心を痛めておるんじゃよ。それ自体は別に良い事なのじゃが、たぶんじゃが昨日のタケルは魔物を殺したことに心を痛めておった」

 昨日の彼にそんな様子はあったでしょうか?
 思い当たる節が無いという感じが顔に出ていたのか、セイル様は微笑みながら補足をしてくださいました。

「ほほほ。タケルは辛い事を隠すのだけは他よりも上手いからのぅ……。じゃからこそ心配なんじゃよ。優しいあの子が辛い事を溜めこみすぎていつか立ち止まってしまう時が来るかもしれん。じゃがタケルの成長を望む以上、わしが傍にいてやることはなかなかに難しいのじゃ」

 一拍呼吸を置いた後、セイル様は私の目を見て続けられます。

「じゃからもしもタケルが立ち止まってしまいそうになったら、ソフィア嬢ちゃんたちで助けてやってほしいのじゃ。なぁに今はわからんでも、タケルと付き合っておればそのうちわかるようになるぞ。基本的には"正直"じゃからのぅ」

 そう言って優し気に笑われた後、再びこちらに背を向けて手紙を書き始めたセイル様の背中はやっぱりどこか寂し気で――

「――わかりました!」

 その背中は、物語に聞いていた英雄としての背中などではなく、ただ孫を心配する祖父としての背中で、私にはとてもそのままにしておくことはできませんでした。

「私に任せておいてください! 命の恩を仇で返すような真似は絶対にいたしません!」

 そもそも命の恩なんて関係ないのです!
 ひいおじい様も昔から私に言っていました!

「――苦境の友の隣ほど誉れ高い立場はありません! タケルくんが辛い時は絶対に一人になんてさせませんから! だからセイル様は安心してタケルくんを送り出してあげてください!」

 セイル様はこちらを振り向き、少し驚いたような顔をされた後、相好を崩されました。

「ほほほ。ありがとうのぅ。――やっぱりお前には敵わんのぅディムロイ……」

「へ? 何かおっしゃいましたか?」

 最後の方に何か呟かれていたようですが、よく聞こえませんでした。

「いいや、なんでもないぞい。さて、さっさと書くかのぅ。もう少し待っておいてくれのぅ」

「あ、はい。わかりました」

 そのまま数分でセイル様は三通の手紙をしたため、内一通を私に手渡されました。
 どうやらひいおじい様宛の手紙のようです。

「では、タケルたちの所へ戻るかのぅ」

「はい、わかりました」

 なんだか、無性にひいおじい様に会いたくなってしまいました。
 帰ったら急いで無事の報告をして、この森での出来事をお話ししましょう。
 私を救ってくれた英雄ゆうじんと、その人と共に居た英雄おじいさんのお話を。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...