アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

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第二章 軍属大学院 入学 編

65.寂しさのスパイス-Ⅲ

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「ねえソフィア、僕たちが門の前から進みだして今どれくらい経ったっけ?」

「へ? えーっと、たぶん一時間と少しくらいですかね? それがどうかしたんですか?」

「……いや、何でもないよ。ありがとう」

 つまりもう次の交差点――つまり軍人などの居住区画が見えてきているという事は、一時間で七千メートル近く歩いているわけだ。
 たぶん本来ならばジョギングくらいだろう。
 少なくとも以前の自分はこの速さで進む事を"歩く"とは言わなかったし、人ごみでそんな動きをする事は無かったはずだ。
 どう考えても人同士でぶつかる。
 もしラブコメならばそこら中が恋に発展する出会いだらけだ。
 数秒待てば四角関係にすら発展するだろう。
 そうならないという事は、この速さがこの街、ひいてはこの世界のスタンダードという事だろう。
 きっとみんな程度に差はあれど身体強化をしているのだ。
 身体強化をすれば、ちょっとやそっとじゃ疲れないし、目もよく見えるしで速度の感覚に違いが出るのは当然と言えば当然かもしれない。
 でも、動きがそこまで速いかと言われると多少は速いように感じるが、恐らく一番影響しているのは一歩の大きさだろう。
 気にして見てみると、みんなぐんぐん進んでいるような気がしないでもない。
 これも"魔法は人の営みを加速させるもの"だと言われる一つの所以なのかもしれない。

「で? 結局タケルは帝都の区画とかなんとなくでもわかったのか?」

 交差点へとたどり着いたタイミングで、サキトがそう問いかけてきた。

「う、うん。たぶん……」

「そっか! じゃあ今度街案内してやるよ! 大きな通りの名前くらい覚えないと色々不便だしな!」

「あ、それ良いわね! ってかもうタケルさえ良ければ明日にでもやらない? たぶん私たち明日は休みになるし」

 サキトのありがたい提案にアイラが乗っかった。
 三日も走って旅してきたというのに、元気な事だ。
 本当に身体強化様様である。

「うん。まだ予定がわからないけど、たぶん大丈夫だと思うよ」

「それじゃあどこで待ち合わせにしましょうか?」

「タケルにわかりやすい場所ってどこだろうな……? タケルの家の位置がわからないからなぁ……」

 その時、また右足にピリピリと電流が流れた。

「ん? 何か良い案でもあるのテッチ?」

 問いかけるとテッチはアイラの方を見て、そのままアイラに向かって語り掛ける。

「ワウッ! ワウワウ?」

「え!? なに!?」

 アイラが戸惑っているので通訳をしてあげよう。

「アイラの家の商会は今もまだ、じょ、城東正面通り? 沿いに店を構えてるのか? だってさ」

 本当は『小娘!』と呼んでいたが、そこまで馬鹿正直に翻訳する必要はないだろう。

「う、うん。あるわ……あります」

 アイラはぎこちなくそう答えた。
 というより何故敬語に直したのだろうか。

(確かにテッチは少しばかり面構えは厳ついけど……厳ついからか)

 自分は言葉がわかるから良いが、アイラからしたら怖い犬に吠えられたという感覚かもしれない。
 実際のテッチは、アイラが敬語を使った原因が自身にあるという事に気が付いてしょんぼりしているくらいには愛らしいのだが、顔にはあまり出ないから伝わらないのだろう。
 テッチの頭を少し撫で、テッチに問いかける。

「テッチはそこならわかるの?」

 テッチは少し照れたように「別に落ち込んでなんかないし……」とでも言いたげに鼻を少し鳴らしてから頷いた。
 ツンデレさんめ。
 まったく可愛い奴だ。

「じゃあアイラちゃんのお家のお店の前で……そうですね、朝九時に集合でどうでしょう?」

「うん、わかった」

「それじゃあ俺たち次はあの左斜め前の通りに進むんだけど、タケルはどっちだ?」

 サキトが左に湾曲しながら伸びる通りと、王城へと続く正面の通りの間にある一直線に伸びる、現在地から左斜め前に進む通りを指さして問いかけてきた。
 自分には進行方向はわからないのですかさずテッチに問いかける。

「どっち?」

「ワウッ!」

 テッチが鼻で示したのは、サキトたちの行く通りとは正面の通りに対して線対称的な位置に伸びる通り、つまり別の通りであった。

「じゃあここで一旦お別れだね。明日、楽しみにしてるよ!」

「おう! また明日な!」

「明日までには準備しとくから楽しみにしときなさいね!」

「タケルくんもここまでお疲れ様でした! お家に着いたらゆっくり休んでくださいね」

 各々別れを口にして三人が通りの反対に渡ったところでタイミング良く交差点を渡れるようになった。
 自分も別の方向に進みながらも三人を目で追うが、行き交う人々に呑まれてすぐに見えなくなってしまった。

(明日会う約束してるけど……やっぱりちょっと寂しいな……)

「キュウッ♪」

「ワウ」

「ふふっ、二人ともありがとうな」

 三人と出逢った日から数えれば五日間行動を共にしていたのだ。
 自分の周りにできた物寂しい空間は、通り過ぎる人々によってすぐに埋められていく。
 帝都の中心部へと近づいているためか馬車や人の数も多くなり、いっそう喧噪が増していく中で、自分の周りだけはいやに静かに感じた。

(今まで"寂しさ"には嫌なイメージしかないと思ってたけど……悪い事ばかりじゃないかもな。だって――)

――寂しいと思う程に、未来への期待も膨らむものなのだ。

 自分の進む先に期待を抱ける喜びを噛みしめながら、思いを馳せる。

――明日の友人たちとの再会に。

――いつかの家族との再会に。




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