アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

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第二章 軍属大学院 入学 編

66.身に余る新居-Ⅰ

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 ソフィアたちと別れ、テッチとキュウと共にひたすらに歩く。
 自分の今歩いている通りは、先程までの大通りよりは少しばかり狭く――とは言っても馬車が三、四台程度なら余裕で並んで通れそうな程度には広い通りだ。
 商店街やビル群などは、建物と建物の間にある細い路地や通りが規則的に配置されていたが、この通りはそれらがいたるところに乱雑に配置されている。

(住宅街って感じだな)

 通りに沿って建っているのは殆どが木とレンガで作られたような民家ばかりで、たまに何かしらの店がある程度だ。
 鉄筋コンクリートで作られたような角ばった建築物を現代風というのならば、この街並みは現代風では無いのかもしれないが、かと言って古い街並みかと言われると、実際に前の世界でもこのような家を見た事自体はあるのでそうとも言い難い。
 街を歩く人々も、見回りらしき軍人以外は皆まさに"普段着"といった感じであるが、別に街並みに相反している様には感じられない。

(正直、帝都に着いてから一番心落ち着く光景かもしれないな……)

 古いとは言い難いとは言ったが、壁や屋根などがレンガなどで基本的に暖色でまとまっている街並みは、何となく落ち着ける"古き良き"と言った匂いも漂わせている。
 強いていうならば、現代にも違和感のない古さ――現代的レトロとでも言った感じであろうか。
 何にせよ、美しい街並みである事に変わりはない。
 これから自分の住む街になるのだと思えば、それなりに心躍るような光景だ。
 通りを進みながらテッチに問いかける。

「ねえテッチ。今進んでるこの道って城の南側の大通りに繋がってるんだよね?」

「ワゥ。ワゥワウ」

「なるほど、このまま真っ直ぐ進めばその大通りとぶつかるんだね。目的の家はどの辺にあるの?」

「ゥワウッ」

「城の東側方面か。じゃあ大回りしてるわけだね。やっぱり貴族の居住区に平民が入ったりしたら怒られたりするの?」

 王城には流石に入れないとは思うが、あのまま大通りを直進して王城の外周を回った方が確実に距離は近くなってたと思うのだが、わざわざ大回りするという事は何かあるのではないだろうか。

「ウゥゥ……ワウッ」

「な、なるほど……テッチが嫌だったのね」

 どうやらテッチは貴族という生き物が嫌いらしい。

「……ソフィアは、良かったの?」

「……ウワゥ」

 『貴族にも良い奴と嫌な奴がいる』とのことらしい。
 要するにソフィアは良い奴だから違うという事だろう。
 わざわざこんな遠回しな言い方をしたのはきっと、貴族を一纏めに悪く言ってしまった後でソフィアの事を思い出したからばつが悪くなったのだろう。
 口は少し悪いが、優しいテッチらしい反応だ。
 頭を撫でてやると、また照れたように鼻を鳴らした。

 そのまま通りを進んで行くと、また大きな通りの交差点へと出た。
 ここが南の門を入って真っ直ぐ進んできた所なのだろう。
 西の大通りから南西の軍人居住区を斜めに突っ切ってきたわけだ。
 そして、前方には南の都市の建築様式を模した建造物があるわけで――。

(これは……また……)

 目の前に広がる光景に思わず苦笑いしてしまう。
 道沿いには五メートルほどの壁がずらりと並んでおり中の様子が窺えない。
 それでも壁の上から辛うじて背の高い建築物が頭をだしており、見る限り肉まんの様なドーム型の屋根らしき物が多く、他にも少数ではあるが細い塔の様なものも見える。
 しかし、苦笑いをする理由は壁に囲まれているからとかそんな所にあるわけではない。
 黒いのだ。
 ほぼ全部が黒い。
 しかもただ黒いのでは無く、磨き上げられたように艶やかなのだ。
 見える限りその全てが艶やかな黒い石材で作られており、少し傾き始めた陽光を吸収して怪しく煌めいている。
 黒いのに眩しいと感じたのは初めてかもしれない。
 単体で見れば珍しい建築物に興味も惹かれるとは思うのだが、生憎個人的に落ち着ける街並みの中を安心しきって歩いてきた自分にとっては、些か刺激が強すぎる。

(なんだろう……絶対に景観を壊さないとだめな決まりでもあるのかな?)

 そんな事を思いながらふと反対側に目を向けると、そちらにはまるで対比するかの如く白を主張する巨大な城がある。
 果てしなく高い立派な尖塔が特徴的な王城だ。
 こうして見比べて見ると、これはこれでそれほど景観を壊しているとは感じられない気もしてきた。
 全く違う世界観を一気に感じられるのが、この都市の魅力なのかもしれない。
 貿易都市という名に恥じぬ程に規模の大きな文化の交流点――そう理解しれば自然とこの光景も受け入れられた。
 大型のショッピングモールに行って、色んな店に目移りするような感覚で楽しめばいいのだ。

(……ちょっと中の様子とか見てみたくなってきたな)

 楽しみ方に気が付いた途端にそう思ってしまう単純さに我ながら呆れてしまう。
 キュウは最初からきっとこんな感覚で街を見ていたのだろう。
 そもそも自分の"世界の色々な景色を見たみたい"という願いにこれほど適した場所も無いのではないだろうか。
 良い場所に来たものだ。

(少しくらいなら見に行っても……)

 そう思いテッチにチラリと視線を向けると、テッチはこちらの思考を全て読んでいるかのようにゆっくりと首を横に振り、一吠えする。

「ワウッ!」

「え? あぁ……そうだね。まずは家だよね」

 テッチの言う通り、これからこの街に住むのだから探索ならいつだって出来る。
 さっさと家に向かう事にしよう。
 再び進みだしたテッチの後について、今度は東の大通りに向けて進みだしたのであった。

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