75 / 163
第二章 軍属大学院 入学 編
66.身に余る新居-Ⅰ
しおりを挟むソフィアたちと別れ、テッチとキュウと共にひたすらに歩く。
自分の今歩いている通りは、先程までの大通りよりは少しばかり狭く――とは言っても馬車が三、四台程度なら余裕で並んで通れそうな程度には広い通りだ。
商店街やビル群などは、建物と建物の間にある細い路地や通りが規則的に配置されていたが、この通りはそれらがいたるところに乱雑に配置されている。
(住宅街って感じだな)
通りに沿って建っているのは殆どが木とレンガで作られたような民家ばかりで、たまに何かしらの店がある程度だ。
鉄筋コンクリートで作られたような角ばった建築物を現代風というのならば、この街並みは現代風では無いのかもしれないが、かと言って古い街並みかと言われると、実際に前の世界でもこのような家を見た事自体はあるのでそうとも言い難い。
街を歩く人々も、見回りらしき軍人以外は皆まさに"普段着"といった感じであるが、別に街並みに相反している様には感じられない。
(正直、帝都に着いてから一番心落ち着く光景かもしれないな……)
古いとは言い難いとは言ったが、壁や屋根などがレンガなどで基本的に暖色でまとまっている街並みは、何となく落ち着ける"古き良き"と言った匂いも漂わせている。
強いていうならば、現代にも違和感のない古さ――現代的レトロとでも言った感じであろうか。
何にせよ、美しい街並みである事に変わりはない。
これから自分の住む街になるのだと思えば、それなりに心躍るような光景だ。
通りを進みながらテッチに問いかける。
「ねえテッチ。今進んでるこの道って城の南側の大通りに繋がってるんだよね?」
「ワゥ。ワゥワウ」
「なるほど、このまま真っ直ぐ進めばその大通りとぶつかるんだね。目的の家はどの辺にあるの?」
「ゥワウッ」
「城の東側方面か。じゃあ大回りしてるわけだね。やっぱり貴族の居住区に平民が入ったりしたら怒られたりするの?」
王城には流石に入れないとは思うが、あのまま大通りを直進して王城の外周を回った方が確実に距離は近くなってたと思うのだが、わざわざ大回りするという事は何かあるのではないだろうか。
「ウゥゥ……ワウッ」
「な、なるほど……テッチが嫌だったのね」
どうやらテッチは貴族という生き物が嫌いらしい。
「……ソフィアは、良かったの?」
「……ウワゥ」
『貴族にも良い奴と嫌な奴がいる』とのことらしい。
要するにソフィアは良い奴だから違うという事だろう。
わざわざこんな遠回しな言い方をしたのはきっと、貴族を一纏めに悪く言ってしまった後でソフィアの事を思い出したからばつが悪くなったのだろう。
口は少し悪いが、優しいテッチらしい反応だ。
頭を撫でてやると、また照れたように鼻を鳴らした。
そのまま通りを進んで行くと、また大きな通りの交差点へと出た。
ここが南の門を入って真っ直ぐ進んできた所なのだろう。
西の大通りから南西の軍人居住区を斜めに突っ切ってきたわけだ。
そして、前方には南の都市の建築様式を模した建造物があるわけで――。
(これは……また……)
目の前に広がる光景に思わず苦笑いしてしまう。
道沿いには五メートルほどの壁がずらりと並んでおり中の様子が窺えない。
それでも壁の上から辛うじて背の高い建築物が頭をだしており、見る限り肉まんの様なドーム型の屋根らしき物が多く、他にも少数ではあるが細い塔の様なものも見える。
しかし、苦笑いをする理由は壁に囲まれているからとかそんな所にあるわけではない。
黒いのだ。
ほぼ全部が黒い。
しかもただ黒いのでは無く、磨き上げられたように艶やかなのだ。
見える限りその全てが艶やかな黒い石材で作られており、少し傾き始めた陽光を吸収して怪しく煌めいている。
黒いのに眩しいと感じたのは初めてかもしれない。
単体で見れば珍しい建築物に興味も惹かれるとは思うのだが、生憎個人的に落ち着ける街並みの中を安心しきって歩いてきた自分にとっては、些か刺激が強すぎる。
(なんだろう……絶対に景観を壊さないとだめな決まりでもあるのかな?)
そんな事を思いながらふと反対側に目を向けると、そちらにはまるで対比するかの如く白を主張する巨大な城がある。
果てしなく高い立派な尖塔が特徴的な王城だ。
こうして見比べて見ると、これはこれでそれほど景観を壊しているとは感じられない気もしてきた。
全く違う世界観を一気に感じられるのが、この都市の魅力なのかもしれない。
貿易都市という名に恥じぬ程に規模の大きな文化の交流点――そう理解しれば自然とこの光景も受け入れられた。
大型のショッピングモールに行って、色んな店に目移りするような感覚で楽しめばいいのだ。
(……ちょっと中の様子とか見てみたくなってきたな)
楽しみ方に気が付いた途端にそう思ってしまう単純さに我ながら呆れてしまう。
キュウは最初からきっとこんな感覚で街を見ていたのだろう。
そもそも自分の"世界の色々な景色を見たみたい"という願いにこれほど適した場所も無いのではないだろうか。
良い場所に来たものだ。
(少しくらいなら見に行っても……)
そう思いテッチにチラリと視線を向けると、テッチはこちらの思考を全て読んでいるかのようにゆっくりと首を横に振り、一吠えする。
「ワウッ!」
「え? あぁ……そうだね。まずは家だよね」
テッチの言う通り、これからこの街に住むのだから探索ならいつだって出来る。
さっさと家に向かう事にしよう。
再び進みだしたテッチの後について、今度は東の大通りに向けて進みだしたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。
もる
ファンタジー
剣を扱う職に就こうと田舎から出て来た14歳の少年ユカタは兵役に志願するも断られ、冒険者になろうとするも、15歳の成人になるまでとお預けを食らってしまう。路頭に迷うユカタは生きる為に知恵を絞る。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる