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第二章 軍属大学院 入学 編
67.身に余る新居-Ⅱ
しおりを挟む南の大通りの交差点を出発してから一時間ほど歩いた頃だっただろうか、心なしかテッチの足取りが速まったように感じた。
(お? もうすぐ着くのかな?)
周辺にある家はどれも相変わらず木やレンガで出来た暖かみのある民家ばかりで、日常をこの空間で過ごせるのならば、落ち着いた暮らしができそうで非常に良い。
家族で暮らすような民家ばかりで手に余りそうだが、機会があれば友人などを家に招いて遊んだり、勉強会などをする事も容易だろう。
経験は無いが、ホームパーティーなんて洒落た事をしてみるのも良いかもしれない。
まあ何にせよ――。
(サキトたち以外にも家に呼べるような人が出来れば良いなぁ……)
膨らむ新生活への期待と不安に心を揺らしていると、テッチが細い路地へと進路を曲げる。
どうやら大きな通りに面した家では無いようだ。
(そっか! おじいちゃんって結構有名人らしいし、帝都にいる時は目立たない場所で過ごしてたのかも!)
そうなると隠れ家的な家だろうか。
最初のうちは家の場所を覚えるのに難儀しそうではあるが、それはそれで心躍るというものだ。
ただ、洗濯物が乾きにくいと嫌なので日当たりはある程度良い方が嬉しい。
魔法で乾かしても良いが、やはり洗濯物は天日干しが一番だ。
若干舞い上がってしまい、調子の良い思考が止まらない中、家数軒を過ぎた所でテッチがもう一度路地を曲がる。
それについて路地を曲がったのだが、その路地は何だか今までの路地とは雰囲気が違っていた。
まだ一応昼間であるはずなのに、先を見通すほどに暗くなり、奥の方が全く見通せない。
奥の暗闇を見れば見る程に、このまま進めば二度と戻ってこれなくなるのではと言う不安に駆られる。
思わず唾を飲み込んだその時、右足にピリピリと電流が流れる。
「ワゥ」
小さめな声でテッチが、「怖くなったら尻尾を掴め」的な事を言ってきた。
という事はこれからこの路地を進むのだろう。
こくりと頷いて返事を返し、進みだしたテッチのあとについて進む。
しかし、最初は何だか怖い様な気がしていたが、しばらく進んでみるとそうでもない気がしてきた。
(まあ、ただの路地だもんな……)
自分はいったい何を怖がっていたのだろうか。
時折こちらを確認するように顔を向けてくるテッチが、余裕そうになった自分を見て、「おっ! やるじゃん!」みたいな視線を向けてくる。
度胸試しか何かだったのだろうか。
そんな疑問を抱いていると、唐突に視界が開けた。
眩しさに思わず目を瞑り、何事かと警戒するが、慣れ親しんだ甘い香りに鼻孔をくすぐられ、風が奏でる音や水の細流に鼓膜を揺らされた事で、自然と警戒をといてしまう。
瞼を開き、光に慣れた目に飛び込んできたのは、一面に広がる色彩豊かな花畑と、その中心に建つ一軒の大きな屋敷であった。
それはまるで、この空間だけ世界から切り取られているようで――。
「――似てるな……家と……」
真ん中に建っているのはログハウスでは無く、白を基調とした立派なお屋敷だが、種類ごとに綺麗に分けられた花畑や水路の配置など、森にあるあの家を思い出さずにはいられない。
「ねえテッチ……まさかここが……」
「ワウッ!」
返ってきたのは肯定。
つまり、目の前にあるこの屋敷が――。
日当たり抜群。
ホームパーティも何のその。
なんなら本当にそれなりのパーティーでも開けそうな――。
「手に余るどころの騒ぎじゃないよ……」
身に余る程の――新居なのだ。
「あ……あはは……」
あまりの事実に硬直する自分の耳に、落ち着いた口調の渋い声が背後から届く。
「おやおや、どなたかと思えばテッチ殿ではございませんか。お久しぶりでございます」
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