77 / 163
第二章 軍属大学院 入学 編
68.身に余る新居-Ⅲ
しおりを挟む
振り向くとそこには、清潔感の漂う黒いスーツ――とは少し趣の違った正装、所謂執事服と呼ばれるようなものに身を包んだ白髪で細身の男性が立っていた。
見た目の年齢はおじいちゃんより少し若いくらいだろうか。
髪がある分若く見えるのかもしれないが、場合によってはおじいちゃんよりも年上の可能性があるので、この世界では見た目の年齢はそれほど信用ならない。
しかし確かに言えるのは――明らかな強者であるという事だ。
おじいちゃんと似た雰囲気がひしひしと感じられる。
「そちらの方は――初めて"視る"御仁ですな。おや? テッチ殿以外にももうお一人精霊がいらっしゃいますな。……これはまた随分と膨大な……」
その老人は開いているのかわからない程に細い目をこちらに向けてそう言った後、恭しく一礼をしながら続けて発言する。
「紹介が遅れましたな。私はこのお屋敷の維持管理を主より任されております『ハヴァリー・ギーザクルス』という者でございます。本日はどのようなご用件でこちらにおいでになられたのでしょうかな?」
明らかな年長者からこれほど丁寧な物言いをされるとは思っておらず、呆気に取られていると、テッチが電流を流してきて一吠えする。
「ワウッ!」
「え? ああ、おじいちゃんの手紙? 渡せば良いの?」
そのやり取りを見たハヴァリーさんとやらが、目は細めたままだが少し驚いたように声をあげる。
「てっ、テッチ様と契約を結ばれておられるのですか!?」
「え、いや、違いますよ!? 僕の相棒はこいつです!」
相変わらず契約というのが何かはわからないが、少なくとも自分と契約を結んでいるのだとしたら、それはキュウだ。
そう言ってキュウの脇を抱えて見せつける。
どうだ、可愛いだろ。
「キュウッ!」
「は、はぁ……しかし今先ほど、テッチ殿と会話をされてはおりませんでしたかな?」
なるほど、それで勘違いをしたわけだ。
でも、驚くような事なのだろうか。
見た目で人を判断しきってはいけないが、もっと冷静な人なイメージがあったのでちょっと意外である。
「その、何となくわかるといいますか……そんな感じです」
「な、なるほど……。失礼、取り乱してしまいましたな。それで、手紙とはいったい何の事ですかな?」
本当に今の説明で納得したのだろうか。
とは言え自分でも何故テッチと意思疎通できるのかはわからないので、こうとしか言えないから仕方がない。
マジックバッグからおじいちゃんに渡されていた二通の手紙を取り出して、テッチに尋ねる。
「ねえテッチ。どっち渡せば良いの?」
「ワゥ」
「え? どっちも? えっとじゃあ、これがおじいちゃんからの手紙です」
「"おじいちゃん"……ですか……。それではお手紙、少々拝借いたします。――なるほど、そういう事でしたか」
(速っ!?)
ハヴァリーさんは二通の手紙の片方を開封すると二秒程で読みきったのかこちらに顔を向けてきた。
「こちらはお返しいたします。もう片方はティスト様宛でございますので、私が責任をもってお届けいたしておきますゆえ」
「あ、はい」
もう一つは別の人宛の手紙のようだ。
(なんかどっかで聞いた名前の気もするけど……どこだっけ?)
思い出せそうで思い出せない。
ごく最近聞いたような気がするのだが。
そうしてハヴァリーさん宛の手紙を受け取った瞬間、脳に情報が流れ込んできた。
自分とおじいちゃんが森で出逢い、共に過ごし、家族となった事。
自分の"誰かを護れるような生き方をしたい"という夢を叶えさせるために軍属大学院に送り出す決意をした事。
これからの自分の生活の世話をしてやってほしいという事。
友人がいる事や自分に出来る事、心配や期待などと色々流れ込んできたが、ひと際強く流れ込んできたのは――。
――ただひたすらに、元気で楽しく過ごせる事を――僕の充実を願う気持ち。
きっとこの手紙は、意思や思念を触れた相手に伝えるような物なのだろう。
おじいちゃんの気持ちは知っていたつもりだったが、実際に感じるとこれ程までに熱を持ったものだったのかと驚いてしまう。
「どうぞ、お使いください」
ハヴァリーさんがハンカチを差し出してくる。
また自分は泣いてしまっているのだろう。
仕方ないではないか。
こんなの嬉しくないはずがない。
心に響かないはずがない。
ハンカチを受け取り、涙を拭く。
そんな自分にハヴァリーさんはゆっくりと語り掛ける。
「我が主、セイル様からの直々の"願い"にございます。私はこれより、あなた様を全力でサポートさせていただきます。ですのでどうかあなた様も、その想いを努々忘れずに、弛まぬ努力を積み重ねてくださいませ。あなた様の夢は主の夢、主の夢ならば私めの夢でもございます」
一拍呼吸を置いてさらに続ける。
「それに、あなた様のその夢は――個人的にもとても尊いものであると感じますゆえ」
そう言って彼は微笑む。
「さあ、それでは長旅でお疲れでしょうから、お屋敷へと案内いたしましょう。……失礼、お名前をまだ伺っておりませんでしたな」
「あっ! 武って言います。こっちは相棒のキュウです!」
「キュウッ♪」
「かしこまりました。それではタケル様、参りましょう」
こうしてまた一人、自分の夢に賛同し、協力してくれる人に出会えたのであった。
些か大きすぎる家ではあるが、この際この家も精一杯活用してやろう。
――次に会った時、自分が如何に元気に充実した生活を送れていたかを話せるように――。
見た目の年齢はおじいちゃんより少し若いくらいだろうか。
髪がある分若く見えるのかもしれないが、場合によってはおじいちゃんよりも年上の可能性があるので、この世界では見た目の年齢はそれほど信用ならない。
しかし確かに言えるのは――明らかな強者であるという事だ。
おじいちゃんと似た雰囲気がひしひしと感じられる。
「そちらの方は――初めて"視る"御仁ですな。おや? テッチ殿以外にももうお一人精霊がいらっしゃいますな。……これはまた随分と膨大な……」
その老人は開いているのかわからない程に細い目をこちらに向けてそう言った後、恭しく一礼をしながら続けて発言する。
「紹介が遅れましたな。私はこのお屋敷の維持管理を主より任されております『ハヴァリー・ギーザクルス』という者でございます。本日はどのようなご用件でこちらにおいでになられたのでしょうかな?」
明らかな年長者からこれほど丁寧な物言いをされるとは思っておらず、呆気に取られていると、テッチが電流を流してきて一吠えする。
「ワウッ!」
「え? ああ、おじいちゃんの手紙? 渡せば良いの?」
そのやり取りを見たハヴァリーさんとやらが、目は細めたままだが少し驚いたように声をあげる。
「てっ、テッチ様と契約を結ばれておられるのですか!?」
「え、いや、違いますよ!? 僕の相棒はこいつです!」
相変わらず契約というのが何かはわからないが、少なくとも自分と契約を結んでいるのだとしたら、それはキュウだ。
そう言ってキュウの脇を抱えて見せつける。
どうだ、可愛いだろ。
「キュウッ!」
「は、はぁ……しかし今先ほど、テッチ殿と会話をされてはおりませんでしたかな?」
なるほど、それで勘違いをしたわけだ。
でも、驚くような事なのだろうか。
見た目で人を判断しきってはいけないが、もっと冷静な人なイメージがあったのでちょっと意外である。
「その、何となくわかるといいますか……そんな感じです」
「な、なるほど……。失礼、取り乱してしまいましたな。それで、手紙とはいったい何の事ですかな?」
本当に今の説明で納得したのだろうか。
とは言え自分でも何故テッチと意思疎通できるのかはわからないので、こうとしか言えないから仕方がない。
マジックバッグからおじいちゃんに渡されていた二通の手紙を取り出して、テッチに尋ねる。
「ねえテッチ。どっち渡せば良いの?」
「ワゥ」
「え? どっちも? えっとじゃあ、これがおじいちゃんからの手紙です」
「"おじいちゃん"……ですか……。それではお手紙、少々拝借いたします。――なるほど、そういう事でしたか」
(速っ!?)
ハヴァリーさんは二通の手紙の片方を開封すると二秒程で読みきったのかこちらに顔を向けてきた。
「こちらはお返しいたします。もう片方はティスト様宛でございますので、私が責任をもってお届けいたしておきますゆえ」
「あ、はい」
もう一つは別の人宛の手紙のようだ。
(なんかどっかで聞いた名前の気もするけど……どこだっけ?)
思い出せそうで思い出せない。
ごく最近聞いたような気がするのだが。
そうしてハヴァリーさん宛の手紙を受け取った瞬間、脳に情報が流れ込んできた。
自分とおじいちゃんが森で出逢い、共に過ごし、家族となった事。
自分の"誰かを護れるような生き方をしたい"という夢を叶えさせるために軍属大学院に送り出す決意をした事。
これからの自分の生活の世話をしてやってほしいという事。
友人がいる事や自分に出来る事、心配や期待などと色々流れ込んできたが、ひと際強く流れ込んできたのは――。
――ただひたすらに、元気で楽しく過ごせる事を――僕の充実を願う気持ち。
きっとこの手紙は、意思や思念を触れた相手に伝えるような物なのだろう。
おじいちゃんの気持ちは知っていたつもりだったが、実際に感じるとこれ程までに熱を持ったものだったのかと驚いてしまう。
「どうぞ、お使いください」
ハヴァリーさんがハンカチを差し出してくる。
また自分は泣いてしまっているのだろう。
仕方ないではないか。
こんなの嬉しくないはずがない。
心に響かないはずがない。
ハンカチを受け取り、涙を拭く。
そんな自分にハヴァリーさんはゆっくりと語り掛ける。
「我が主、セイル様からの直々の"願い"にございます。私はこれより、あなた様を全力でサポートさせていただきます。ですのでどうかあなた様も、その想いを努々忘れずに、弛まぬ努力を積み重ねてくださいませ。あなた様の夢は主の夢、主の夢ならば私めの夢でもございます」
一拍呼吸を置いてさらに続ける。
「それに、あなた様のその夢は――個人的にもとても尊いものであると感じますゆえ」
そう言って彼は微笑む。
「さあ、それでは長旅でお疲れでしょうから、お屋敷へと案内いたしましょう。……失礼、お名前をまだ伺っておりませんでしたな」
「あっ! 武って言います。こっちは相棒のキュウです!」
「キュウッ♪」
「かしこまりました。それではタケル様、参りましょう」
こうしてまた一人、自分の夢に賛同し、協力してくれる人に出会えたのであった。
些か大きすぎる家ではあるが、この際この家も精一杯活用してやろう。
――次に会った時、自分が如何に元気に充実した生活を送れていたかを話せるように――。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。
もる
ファンタジー
剣を扱う職に就こうと田舎から出て来た14歳の少年ユカタは兵役に志願するも断られ、冒険者になろうとするも、15歳の成人になるまでとお預けを食らってしまう。路頭に迷うユカタは生きる為に知恵を絞る。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる