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第二章 軍属大学院 入学 編
83.美味しすぎて辛い-Ⅱ
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(あれ? そういえば服がジャージに……着替えさせてくれたのかな?)
そんなことを考えながら一度伸びをして固まった筋肉をほぐし、ベッドを降りてテッチのいる方向へと向かった。
自分が近づくとテッチは器用に前足でドアノブを回して扉を開け、しっぽで扉を大きく開けながら部屋の外に出た。
それに続いて外に出ると、そこは廊下であった。
(何というか……思ったより豪華じゃない――いや、"華美でない"って感じかな……)
外観から結構豪華なお屋敷なのかと思っていたが、内装は比較的落ち着いているらしい。
どことなく高級感は感じるが、別に見ていて目が痛くなるような装飾ではない。
そもそもおじいちゃん自身がコテコテしたような装飾があまり好きではなかったはずだ。
自分もあまり好きではないので、正直このくらいの方が肩肘張らずに済んでありがたい。
廊下の様子を眺めながらテッチについて行き、下には昨日の実験場へ続く道があるであろう大きな階段を降りて、さらに少し進んだところにある扉の前でテッチが止まった。
そして、また器用に前足でドアノブを回すと扉を開けて中へと入っていったので、続いて中に入ると――
「よう、起きたかボウズ」
ティストさんが骨付きの肉を手掴みで食べながらそう挨拶をしてきた。
「え!? てぃ、ティストさん!? なんでいらっしゃるんですか!?」
「なんでってお前、昨日試験の後そのままここに泊まって、そのついでに朝飯も頂いちまおうってなっただけだぞ」
「あ、じゃあ別にここに住んでるわけじゃないんですね。ひょっとしたら同居する事になるのかと……」
というよりも、予定があって忙しいとか何とか言ってなかっただろうか。
「んあ? まあ昔は住んでたけど、私も一応社会人ってやつだからな。いつまでも世話になるわけにもいかねぇから今は別の所に住んでるが……なんだ? 一緒に住むってなったらなんか困ることでもあんのか?」
何故かニヤニヤとしながらティストさんはそんな事を聞いてきた。
「い、いや、そりゃあいきなりよく知らない女性と同居なんて事になったら色々と焦りますよ……」
殆どろくに関わらずに過ごしていた叔父との生活も含めれば、人生の半分以上を一人で暮らしてきた自分にとっては、誰かと一緒に暮らすなんて事おじいちゃんとでさえ久々だったのだ。
いきなり女性と一緒にだなんて、何に気を付ければ良いのかさえわからない。
「そんなもんか? 別にそうだったとしてもそんなに気にするこたぁねぇと思うがなぁ……」
「――そうですぞタケル様。もし仮にティスト様がこのお屋敷にお住まいになられていたとしても何も気にすることなんぞありませぬ。あの様なお姿で食事をとっておられるのですよ? 気にするだけ無駄というものでしょうぞ」
異性との同居に対して特に何も思うことがないらしいティストさんの意見に、自分の後ろから発せられた声が賛同を示した。
振り返ると、食事を乗せたワゴンと共に入室したハヴァリーさんが立っていた。
そう言われて改めてティストさんを見てみると、椅子に座っているのに片膝を立てて、立てていない方の膝に肘をついて骨付き肉を貪り食っている。
もしも服が昨日と同じ白の制服でなく、毛皮のような服であれば確実に、そして率直に蛮族だと思っただろう。
というより長机に隠れているおかげで見ずに済んだが、昨日の制服と同じなら下はスカートなのではないのだろうか。
(女性の仕草にとやかく言えるような玉じゃないけど、もう少し恥じらいというものをですね……)
「ささ、タケル様もどうぞお座りください」
当人があの様子なのだから確かに気にする必要もないのかもしれないと、そんな事を考えていると、ハヴァリーさんはワゴンを押して移動してティストさんの対面の椅子を引くと、自分に着席を促した。
相変わらず瞼が開いているのかわからない様な状態だが、あれでよく躓かないものだ。
そうして言われるがまま座ると、斜め前に蓋付きのシルバープレートが置かれる。
仰々しいその風貌から、いったいどんな料理が出てくるのかと少しドキドキしていたのだが、出てきたのは至って普通のパンとスクランブルエッグ、そして野菜っぽいスープだった。
一人暮らしをしていた頃によく作っていたようなメニューだ。
「主の手紙にはタケル様は朝はそれ程お食べにならないと書いておりました故、この様にご用意いたしましたがよろしかったでしょうか?」
「え? あ、はい。これくらいで十分です」
確かに自分は朝はこの程度しか食べないが、あの不思議な手紙でこんな所まで伝わっているとは驚きだ。
「んあ? なんだボウズ、それっぽっちしか食わねぇのか? その程度じゃぶっ倒れるだろ。 せめて肉を食え肉を」
自分の食事を見たティストさんは自身の皿に乗っている骨付き肉の一つを寄こしてきた。
というよりも、よくもまあ朝からそんなに肉を食べられるものだ。
ティストさんのお皿には既に食されたであろう肉についていた骨が大量に置かれている。
想像するだけで胃もたれしそうだ。
(でも、貰ったからには食べないと失礼だよな……)
そう思いながらも、やはりいきなり肉から食べるのは気が引ける。
まずはスープから口にしよう。
「それじゃあ、いただきます」
そう言ってスプーンに一杯掬い取り、口に入れると――
(――あ、美味しい)
何だろう。
至極単純においしい。
美味し過ぎて「美味しい」以外の感想が浮かばないくらいに美味しい。
何を言っているのか自分でもわからないが、凄く美味しいのだ。
何回美味しいと言えばいいのだろうか。
(いや、これだけ美味しいんだ。もっと何か表現できるだろ)
どうにか表現出来ないものかとスープと睨めっこしている自分を不思議に思ったのか、膝の上に乗っているキュウが問いかけてくる。
『どうしたの? さっきからおいしいおいしいって何回も考えてるけど……?』
(そうだ! キュウの意見を聞けば何か思いつくかもしれない!)
そう思い、手の甲に少しだけスープを乗せてキュウへと差し出す。
不思議そうにそのスープの雫を嗅いだ後、それを舐めとったキュウは――
『――あ、おいしい』
だめだ、なんの参考にもならない。
キュウも語彙力を奪われてしまった様だ。
いや、もともとそれ程無いか。
(なんでっ! なんでこんなに美味しいんだっ……!)
余りにも「美味しい」以外の感想が浮かばなさすぎて苦しくなってくる。
しかしスープを口に運ぶ手は止まらず、気が付けばスープどころか朝食として出された全てをあっという間に平らげてしまった。
「美味しい」とはこれほどまでに辛いものだったのか。
「お、おいボウズ? どうした? 頭でも痛ぇのか?」
いつの間にか頭を抱えていた自分を心配したようで、ティストさんが声をかけてきた。
「てぃ、ティストさん……。"美味しい"って、こんなに辛い事だったんですね……」
「は? お前何言って……ってまさかエフィが来て――!?」
「はぁい。作ったのは私でございますよぉ」
気が付いた時には、いつの間にかティストさんの背後に一人の見た目六十代程の暗い茶髪の女性が立っていた。
背後をとられたティストさんはと言うと、まるで蛇に睨まれた蛙かのように固まり、冷や汗をダラダラと流し始めている。
非常に質素なメイド服と呼ばれる様な服を着たその女性はどこか含みのある笑顔を浮かべながらティストさんの肩へと手を置く。
「ティスト様ぁ? その座り方はいったい何なのでございましょうかねぇ? 世間での認識では、あなた様の現在のお立場は言わばセイル様の名代ですから、くれぐれも粗相はお控えになられますようにと私何度も申しましたよねぇ?」
「い、いやっ、これはだな――ですね……ちょっと膝が痒くってですね……ですわ……」
ティストさんの言葉遣いがわけのわからない事になっている。
この女性はいったい何者なのだろうか。
そんなことを考えながら一度伸びをして固まった筋肉をほぐし、ベッドを降りてテッチのいる方向へと向かった。
自分が近づくとテッチは器用に前足でドアノブを回して扉を開け、しっぽで扉を大きく開けながら部屋の外に出た。
それに続いて外に出ると、そこは廊下であった。
(何というか……思ったより豪華じゃない――いや、"華美でない"って感じかな……)
外観から結構豪華なお屋敷なのかと思っていたが、内装は比較的落ち着いているらしい。
どことなく高級感は感じるが、別に見ていて目が痛くなるような装飾ではない。
そもそもおじいちゃん自身がコテコテしたような装飾があまり好きではなかったはずだ。
自分もあまり好きではないので、正直このくらいの方が肩肘張らずに済んでありがたい。
廊下の様子を眺めながらテッチについて行き、下には昨日の実験場へ続く道があるであろう大きな階段を降りて、さらに少し進んだところにある扉の前でテッチが止まった。
そして、また器用に前足でドアノブを回すと扉を開けて中へと入っていったので、続いて中に入ると――
「よう、起きたかボウズ」
ティストさんが骨付きの肉を手掴みで食べながらそう挨拶をしてきた。
「え!? てぃ、ティストさん!? なんでいらっしゃるんですか!?」
「なんでってお前、昨日試験の後そのままここに泊まって、そのついでに朝飯も頂いちまおうってなっただけだぞ」
「あ、じゃあ別にここに住んでるわけじゃないんですね。ひょっとしたら同居する事になるのかと……」
というよりも、予定があって忙しいとか何とか言ってなかっただろうか。
「んあ? まあ昔は住んでたけど、私も一応社会人ってやつだからな。いつまでも世話になるわけにもいかねぇから今は別の所に住んでるが……なんだ? 一緒に住むってなったらなんか困ることでもあんのか?」
何故かニヤニヤとしながらティストさんはそんな事を聞いてきた。
「い、いや、そりゃあいきなりよく知らない女性と同居なんて事になったら色々と焦りますよ……」
殆どろくに関わらずに過ごしていた叔父との生活も含めれば、人生の半分以上を一人で暮らしてきた自分にとっては、誰かと一緒に暮らすなんて事おじいちゃんとでさえ久々だったのだ。
いきなり女性と一緒にだなんて、何に気を付ければ良いのかさえわからない。
「そんなもんか? 別にそうだったとしてもそんなに気にするこたぁねぇと思うがなぁ……」
「――そうですぞタケル様。もし仮にティスト様がこのお屋敷にお住まいになられていたとしても何も気にすることなんぞありませぬ。あの様なお姿で食事をとっておられるのですよ? 気にするだけ無駄というものでしょうぞ」
異性との同居に対して特に何も思うことがないらしいティストさんの意見に、自分の後ろから発せられた声が賛同を示した。
振り返ると、食事を乗せたワゴンと共に入室したハヴァリーさんが立っていた。
そう言われて改めてティストさんを見てみると、椅子に座っているのに片膝を立てて、立てていない方の膝に肘をついて骨付き肉を貪り食っている。
もしも服が昨日と同じ白の制服でなく、毛皮のような服であれば確実に、そして率直に蛮族だと思っただろう。
というより長机に隠れているおかげで見ずに済んだが、昨日の制服と同じなら下はスカートなのではないのだろうか。
(女性の仕草にとやかく言えるような玉じゃないけど、もう少し恥じらいというものをですね……)
「ささ、タケル様もどうぞお座りください」
当人があの様子なのだから確かに気にする必要もないのかもしれないと、そんな事を考えていると、ハヴァリーさんはワゴンを押して移動してティストさんの対面の椅子を引くと、自分に着席を促した。
相変わらず瞼が開いているのかわからない様な状態だが、あれでよく躓かないものだ。
そうして言われるがまま座ると、斜め前に蓋付きのシルバープレートが置かれる。
仰々しいその風貌から、いったいどんな料理が出てくるのかと少しドキドキしていたのだが、出てきたのは至って普通のパンとスクランブルエッグ、そして野菜っぽいスープだった。
一人暮らしをしていた頃によく作っていたようなメニューだ。
「主の手紙にはタケル様は朝はそれ程お食べにならないと書いておりました故、この様にご用意いたしましたがよろしかったでしょうか?」
「え? あ、はい。これくらいで十分です」
確かに自分は朝はこの程度しか食べないが、あの不思議な手紙でこんな所まで伝わっているとは驚きだ。
「んあ? なんだボウズ、それっぽっちしか食わねぇのか? その程度じゃぶっ倒れるだろ。 せめて肉を食え肉を」
自分の食事を見たティストさんは自身の皿に乗っている骨付き肉の一つを寄こしてきた。
というよりも、よくもまあ朝からそんなに肉を食べられるものだ。
ティストさんのお皿には既に食されたであろう肉についていた骨が大量に置かれている。
想像するだけで胃もたれしそうだ。
(でも、貰ったからには食べないと失礼だよな……)
そう思いながらも、やはりいきなり肉から食べるのは気が引ける。
まずはスープから口にしよう。
「それじゃあ、いただきます」
そう言ってスプーンに一杯掬い取り、口に入れると――
(――あ、美味しい)
何だろう。
至極単純においしい。
美味し過ぎて「美味しい」以外の感想が浮かばないくらいに美味しい。
何を言っているのか自分でもわからないが、凄く美味しいのだ。
何回美味しいと言えばいいのだろうか。
(いや、これだけ美味しいんだ。もっと何か表現できるだろ)
どうにか表現出来ないものかとスープと睨めっこしている自分を不思議に思ったのか、膝の上に乗っているキュウが問いかけてくる。
『どうしたの? さっきからおいしいおいしいって何回も考えてるけど……?』
(そうだ! キュウの意見を聞けば何か思いつくかもしれない!)
そう思い、手の甲に少しだけスープを乗せてキュウへと差し出す。
不思議そうにそのスープの雫を嗅いだ後、それを舐めとったキュウは――
『――あ、おいしい』
だめだ、なんの参考にもならない。
キュウも語彙力を奪われてしまった様だ。
いや、もともとそれ程無いか。
(なんでっ! なんでこんなに美味しいんだっ……!)
余りにも「美味しい」以外の感想が浮かばなさすぎて苦しくなってくる。
しかしスープを口に運ぶ手は止まらず、気が付けばスープどころか朝食として出された全てをあっという間に平らげてしまった。
「美味しい」とはこれほどまでに辛いものだったのか。
「お、おいボウズ? どうした? 頭でも痛ぇのか?」
いつの間にか頭を抱えていた自分を心配したようで、ティストさんが声をかけてきた。
「てぃ、ティストさん……。"美味しい"って、こんなに辛い事だったんですね……」
「は? お前何言って……ってまさかエフィが来て――!?」
「はぁい。作ったのは私でございますよぉ」
気が付いた時には、いつの間にかティストさんの背後に一人の見た目六十代程の暗い茶髪の女性が立っていた。
背後をとられたティストさんはと言うと、まるで蛇に睨まれた蛙かのように固まり、冷や汗をダラダラと流し始めている。
非常に質素なメイド服と呼ばれる様な服を着たその女性はどこか含みのある笑顔を浮かべながらティストさんの肩へと手を置く。
「ティスト様ぁ? その座り方はいったい何なのでございましょうかねぇ? 世間での認識では、あなた様の現在のお立場は言わばセイル様の名代ですから、くれぐれも粗相はお控えになられますようにと私何度も申しましたよねぇ?」
「い、いやっ、これはだな――ですね……ちょっと膝が痒くってですね……ですわ……」
ティストさんの言葉遣いがわけのわからない事になっている。
この女性はいったい何者なのだろうか。
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