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第二章 軍属大学院 入学 編
87.詳細は学校にて-Ⅲ
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そんな自分の言葉にティストさんは一度きょとんとした後、だんだんと頬を朱に染めていき慌てふためき始めた。
「はっ!? はぁ!? いっ、いきなり何言ってんだボウズ! い、良いから食い終わったならさっさと出かけろ!」
「え? でもまだ家出るには少し早いよねテッチ? 同じ東の地区だったはずだからそんなに遠くないと思うんだけど……」
「ワウッ!」
「すぐに着くそうです」
「だぁぁ! もういいから準備でもしてろ!」
全く予想していなかった反応に戸惑っていると、ハヴァリーさんがクスクスと笑いながらティストさんへと語りかける。
「ほっほ! だから申したでありましょうティスト様、タケル様はきっとお気づきになられていらっしゃると。良かったですなぁ嫌われておりませんで」
「え? "嫌われて"って何のことですか?」
「うっせぇ知るかっ! バーカバーカっ! さっさと出てけこのクソボウズ!」
「どちらかというと今はタケル様がこの屋敷の住人ですわよティスト様」
何だかよくわからないが、とりあえず一度この場を離れた方が良さそうだ。
「えっと……は、ハヴァリーさん、お風呂に入りたいんですけど今って入れますかね?」
「いつでも使えるように準備しておりますよ。それではご案内いたしましょうか」
いつでも使えるようにしているのか。
魔力を使って維持しているとわかっていてもついつい電気代やガス代の事について思ってしまうのは、一人暮らしをしていた頃の癖だろう。
「助かります」
「あっ、おいボウズ!」
ハヴァリーさんについて部屋を出ようとしたその時、ティストさんが自分を呼び止めた。
出ていけと言ったり呼び止めたりと、忙しい人だ。
「はい、なんですか?」
「いや、そのだな……一つ言い忘れてた事があってだな……」
勢いで出ていけと言った手前、気まずいのか恥ずかし気に頭を掻いていたが、一度ため息交じりの深呼吸をしてから話し始めた。
「わかってると思うが、街中ではよっぽど危険な事でも起きねぇ限り精霊化はすんなよ」
「さ、流石にわかってますよ! 制御できないのに精霊化なんてしたら周辺を焼いちゃいますし……」
「いや、それもあるんだがな……。その精霊の魔力量が桁違い過ぎて、下手に"魔力感知"ができる奴が近くにいたらぶっ倒れちまうかも知れねぇからよ」
「……あの、たまに聞くんですけど、その『魔力感知』って何ですか?」
てっきり魔力探知の別名か何かかと思っていたが、どうも違う気がする。
「んあ? そっか、これもわかんねぇのか……。魔力感知ってのはなぁ……その内大学院で習うからそれまで待っとけ」
そう言ってティストさんは手を「行って良し」という感じに振った。
きっとまた面倒くさくなったのだろう。
(まあその内習うならいいか……)
そう考えてハヴァリーさんに連れられて部屋を出て廊下を歩いていると、階段に差し掛かった所で前を歩くハヴァリーさんが声をかけてきた。
「確かに詳しくは大学院で学ぶでしょうが、簡単にであれば私めが説明いたしましょうか?」
魔力感知の事だろうか。
教えてもらえるならば是非とも教えていただきたい。
「お願いします!」
「ほっほ、なぁにそんなに大した説明ではございませんよ。魔力探知が"魔力で感知する技術"だとするならば、魔力感知は"魔力を感知する能力"でございます。魔力探知は基本的に誰にでもできる技術でございますが、魔力感知は生まれ持った才能がものを言う、まさに"能力"なのでございます」
「じゃあ魔力感知が出来ない人もいるってことですか?」
「寧ろ出来ない者の方が圧倒的に多いですな。例えばですが、魔力探知ですとキュウ殿が魔力を開放した際にその外縁を認識する事は出来ても、その魔力の量や密度を推し量る事すらままなりませぬ。しかし魔力感知が出来れば、その能力の程度によっては開放すらされていない内部に秘められた魔力までも感知できる事があるのです」
なるほど。
正直まだ上手くイメージが湧かないが、魔力探知の強化版とでも言ったものだろうか。
だとすると、ひょっとして――
「ハヴァリーさんがヴォルジェント――えっと、この魔道具におじいちゃんの魔力がこもってるのが分かったのって……」
「はい、私めが魔力感知を使えるからでございますよ」
「ってことは僕もじっくり調べればおじいちゃんの魔力がこもってるのがわかるんですけど、魔力感知が出来るって事ですかね?」
「おお! 本当でございますか! 魔力感知があるのと無いのとでは魔法戦闘時の戦いやすさが大きく変わりますからな。それに、魔力感知の能力が高ければそれを職にする事すら出来ますからな。私めも少々感知能力には自信のある口でございますので、何か疑問に思った事でもありましたらばいつでもお尋ねくださいませ」
なるほど、ハヴァリーさんがこもっている魔力の量までわかるのは単純に能力の練度の差だったわけだ。
というよりも、この能力を鍛えればそれだけで食べていけるらしい。
生まれもった才能だとするならばいったいいつ手に入れたのかはわからないが、何だか少し得をしたような気分だ。
役に立つ能力である事は間違いなさそうなので、これからは魔力感知も鍛えていこう。
「じゃあ今度で良いので、魔力感知を鍛えるのにいい方法とか教えていただいてもいいですか?」
「もちろん良いですぞ! さて、浴場の方につきましたぞタケル様」
階段を三階まで上がりきった所でハヴァリーさんがそう口にした。
家の三階にお風呂があるというのは何だがよくわからないが不思議な感じだ。
「お召し物の方はありますかな?」
「あ、はい。マジックバッグに入ってますので大丈夫です」
「左様でございますか。それではタオルなどは中にございますので」
「はい、ありがとうございます!」
不思議と体にべたつきは無いが、ちゃんとしたお風呂はなんだかんだ久しぶりなので楽しみだ。
キュウはもちろんのこと、テッチも入る気満々でついてきているので自分が洗ってやる事になるだろうが、時間もまだまだ余裕であるはずなので二人も綺麗に洗おう。
「さあ、入るか!」
「キュウッ♪」
「ワウッ♪」
「ごゆっくりどうぞ」
ニコニコと微笑むハヴァリーさんに見送られながら、浴室へと足を踏み入れたのであった。
「はっ!? はぁ!? いっ、いきなり何言ってんだボウズ! い、良いから食い終わったならさっさと出かけろ!」
「え? でもまだ家出るには少し早いよねテッチ? 同じ東の地区だったはずだからそんなに遠くないと思うんだけど……」
「ワウッ!」
「すぐに着くそうです」
「だぁぁ! もういいから準備でもしてろ!」
全く予想していなかった反応に戸惑っていると、ハヴァリーさんがクスクスと笑いながらティストさんへと語りかける。
「ほっほ! だから申したでありましょうティスト様、タケル様はきっとお気づきになられていらっしゃると。良かったですなぁ嫌われておりませんで」
「え? "嫌われて"って何のことですか?」
「うっせぇ知るかっ! バーカバーカっ! さっさと出てけこのクソボウズ!」
「どちらかというと今はタケル様がこの屋敷の住人ですわよティスト様」
何だかよくわからないが、とりあえず一度この場を離れた方が良さそうだ。
「えっと……は、ハヴァリーさん、お風呂に入りたいんですけど今って入れますかね?」
「いつでも使えるように準備しておりますよ。それではご案内いたしましょうか」
いつでも使えるようにしているのか。
魔力を使って維持しているとわかっていてもついつい電気代やガス代の事について思ってしまうのは、一人暮らしをしていた頃の癖だろう。
「助かります」
「あっ、おいボウズ!」
ハヴァリーさんについて部屋を出ようとしたその時、ティストさんが自分を呼び止めた。
出ていけと言ったり呼び止めたりと、忙しい人だ。
「はい、なんですか?」
「いや、そのだな……一つ言い忘れてた事があってだな……」
勢いで出ていけと言った手前、気まずいのか恥ずかし気に頭を掻いていたが、一度ため息交じりの深呼吸をしてから話し始めた。
「わかってると思うが、街中ではよっぽど危険な事でも起きねぇ限り精霊化はすんなよ」
「さ、流石にわかってますよ! 制御できないのに精霊化なんてしたら周辺を焼いちゃいますし……」
「いや、それもあるんだがな……。その精霊の魔力量が桁違い過ぎて、下手に"魔力感知"ができる奴が近くにいたらぶっ倒れちまうかも知れねぇからよ」
「……あの、たまに聞くんですけど、その『魔力感知』って何ですか?」
てっきり魔力探知の別名か何かかと思っていたが、どうも違う気がする。
「んあ? そっか、これもわかんねぇのか……。魔力感知ってのはなぁ……その内大学院で習うからそれまで待っとけ」
そう言ってティストさんは手を「行って良し」という感じに振った。
きっとまた面倒くさくなったのだろう。
(まあその内習うならいいか……)
そう考えてハヴァリーさんに連れられて部屋を出て廊下を歩いていると、階段に差し掛かった所で前を歩くハヴァリーさんが声をかけてきた。
「確かに詳しくは大学院で学ぶでしょうが、簡単にであれば私めが説明いたしましょうか?」
魔力感知の事だろうか。
教えてもらえるならば是非とも教えていただきたい。
「お願いします!」
「ほっほ、なぁにそんなに大した説明ではございませんよ。魔力探知が"魔力で感知する技術"だとするならば、魔力感知は"魔力を感知する能力"でございます。魔力探知は基本的に誰にでもできる技術でございますが、魔力感知は生まれ持った才能がものを言う、まさに"能力"なのでございます」
「じゃあ魔力感知が出来ない人もいるってことですか?」
「寧ろ出来ない者の方が圧倒的に多いですな。例えばですが、魔力探知ですとキュウ殿が魔力を開放した際にその外縁を認識する事は出来ても、その魔力の量や密度を推し量る事すらままなりませぬ。しかし魔力感知が出来れば、その能力の程度によっては開放すらされていない内部に秘められた魔力までも感知できる事があるのです」
なるほど。
正直まだ上手くイメージが湧かないが、魔力探知の強化版とでも言ったものだろうか。
だとすると、ひょっとして――
「ハヴァリーさんがヴォルジェント――えっと、この魔道具におじいちゃんの魔力がこもってるのが分かったのって……」
「はい、私めが魔力感知を使えるからでございますよ」
「ってことは僕もじっくり調べればおじいちゃんの魔力がこもってるのがわかるんですけど、魔力感知が出来るって事ですかね?」
「おお! 本当でございますか! 魔力感知があるのと無いのとでは魔法戦闘時の戦いやすさが大きく変わりますからな。それに、魔力感知の能力が高ければそれを職にする事すら出来ますからな。私めも少々感知能力には自信のある口でございますので、何か疑問に思った事でもありましたらばいつでもお尋ねくださいませ」
なるほど、ハヴァリーさんがこもっている魔力の量までわかるのは単純に能力の練度の差だったわけだ。
というよりも、この能力を鍛えればそれだけで食べていけるらしい。
生まれもった才能だとするならばいったいいつ手に入れたのかはわからないが、何だか少し得をしたような気分だ。
役に立つ能力である事は間違いなさそうなので、これからは魔力感知も鍛えていこう。
「じゃあ今度で良いので、魔力感知を鍛えるのにいい方法とか教えていただいてもいいですか?」
「もちろん良いですぞ! さて、浴場の方につきましたぞタケル様」
階段を三階まで上がりきった所でハヴァリーさんがそう口にした。
家の三階にお風呂があるというのは何だがよくわからないが不思議な感じだ。
「お召し物の方はありますかな?」
「あ、はい。マジックバッグに入ってますので大丈夫です」
「左様でございますか。それではタオルなどは中にございますので」
「はい、ありがとうございます!」
不思議と体にべたつきは無いが、ちゃんとしたお風呂はなんだかんだ久しぶりなので楽しみだ。
キュウはもちろんのこと、テッチも入る気満々でついてきているので自分が洗ってやる事になるだろうが、時間もまだまだ余裕であるはずなので二人も綺麗に洗おう。
「さあ、入るか!」
「キュウッ♪」
「ワウッ♪」
「ごゆっくりどうぞ」
ニコニコと微笑むハヴァリーさんに見送られながら、浴室へと足を踏み入れたのであった。
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