アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

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第二章 軍属大学院 入学 編

88.肩書はあくまでも肩書-Ⅰ

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「いやぁ、それにしても凄かったね」

「キュウッ♪」

「ワウッ♪」

 暖かな色をたたえた街並みを歩きながら、隣を歩くテッチとその背に乗るキュウへと向けて言葉を投げかけると、二つの同意が返ってきた。
 一方は単純な同意を示し、もう一方はどこか誇らしげな同意を示している。
 時刻は朝の八時を少し過ぎた頃、春とはいえまだ冷たく澄んだ朝の空気を、人々の営みの作り出す賑やかさと天上で眩しく輝く太陽がゆるりと温めていく。
 自分たちは今、ソフィアたちとの待ち合わせ場所であるグランツ商会とやらに向かっている。
 待ち合わせの時間にはまだだいぶ早いが、朝は比較的道が混雑するとハヴァリーさんからアドバイスを貰ったため、早めに出発する事にしたのだ。
 案の定と言った感じか、それなりな広さを持つはずの道は各々の目的地へと急ぐ馬車や人で賑わっており、いつの間にか感覚の慣れていたこちらの世界での"歩く速度"では流石に少しばかり危険である。
 それについてはこの世界で生まれてからずっと暮らしているはずの人々も同じ様で、皆一様に急ぎめではあるが人と接触しないように良識を保った速度で歩いている。
 道を歩く誰もが、目線よりだいぶ低い位置にいるテッチたちとも接触しない様を見るに、きっと長年の経験から身についた習慣とも言える動作なのだろう。
 昨日の昼間より道を進む速さは遅いはずなのに、どこか気が急いて時間の流れが速くなったように感じるから不思議だ。

「これだけの人混みだと、服の空調がなかったらせっかくお風呂に入ったのにまた汗をかいちゃってただろうね……。テッチとキュウは暑くない?」

『だいじょうぶ!』

「ワゥ」

 服なんてないため空調も何も無いキュウとテッチの心配をしてみたが、特に問題は無い様だ。
 お風呂で丹念に洗ってからしっかりと乾かしたため、二人の毛並みはサラサラのツヤツヤなのだ。
 そのうち嫌でも汚れてしまうだろうが、どうせなら綺麗な状態を長持ちさせたいものだ。

(そういう魔道具とかって無いのかな……?)

 そんな事を考えながら、先ほどまで入っていた屋敷の浴場の事を思い出す。
 浴室自体は石で出来ており、森の家にある浴室の立ち込める様な木の香りは無かったが、予想していた通り湯舟には大量の花弁が浮かんでおり、甘く爽やかな香りは健在であった。
 湯船はどう考えても一人で使う用のサイズではなく、そのスケール感にも圧倒されはしたのだが、本当に凄かったのはその浴室の中にあった扉の奥だ。

「でもまさかこれから住む所に露天風呂があるだなんて思っても無かったよ」

「ワワウッ♪」

 そう、あの屋敷の浴場には四方を高めの壁に囲まれてはいるが、天井は吹き抜けになっている露天風呂があったのだ。
 湯船には常に庭から回収されたであろう花弁が緩やかにはらはらと降り注いでいて幻想的であった。
 しかしどういう原理なのかはさっぱりわからないが、自ら触れようとしない限りは花弁は自分たちを避けるように湯船へと舞い落ちて降り積もる。
 しかし一定以上たまるとお湯に溶ける様に消えていき、湯船が花弁で溢れかえる事は無かった。
 花弁の溶けた湯からの香りをゆったりと深く吸い込み、肌で感じる少し熱めな湯と朝の冷えた空気とのコントラストに浸り、四方の壁によって作り出された青空の額縁の中で舞い踊る花弁たちを視覚でも楽しめる。
 実に良く出来た空間であった。
 あまりにも良く出来過ぎていたために結果的には一時間近く風呂に入っていたわけだが、それも仕方ない事だろう。
 テッチが誇らしげになるのも頷けるというものだ。
 そうしてテッチやキュウと、屋敷の事や目に映る街並みや人々の事など、他愛も無い話をしながらしばらく歩いていると、道が大通りと合流した。
 道幅や位置関係から鑑みるに、おそらく東の門へと続く大通りであろう。

「ってことは、これが東の都の建築様式……」

 東の門があるであろう側にある貿易区画の居住区を見やる。
 居住区を囲んでいるであろう高さ二メートル程の塀は主に上部が土で、下部が石で出来ているようで、塀の上には小さく艶やかな灰色の瓦屋根が連なっている。
 塀の奥からは間隔を空けて立ち並ぶ木や土で出来た家屋の二階部分が顔を出し、屋根は塀と同じく艶やかな瓦で出来ており、軒先は深くなっていた。
 先ほどまで自分たちが歩いてきた、温かみのある木やレンガで出来た民家の立ち並ぶ街並みを自分は見ていて落ち着くと言ったが、恐らくあの土塀を超えた先にある街並みの方が自分は安心できるだろう。
 下手に目を刺激するような鮮やかな配色は無く、静かにどっしりと"家"としての役割をただ担うような面構えの建物。
 目の前に広がる貿易区画の人々の居住区は、そんな家屋が立ち並ぶひどく懐かしい――それこそ、あの場所に行けばひょっとしたら前の世界の人々に会えるのではないのだろうかと、そう思えてならない程に懐かしい場所であった。

「今日はあそこから案内してもらおうかな……」

「キュウ?」

 未練なんて殆ど無いと思っていたし、実際にそれは事実ではあるのだが、自分にも欠片程の懐古心はあった様だ。
 本当は無性にあの土塀に触れに行きたいが、今はまず待ち合わせ場所に着くのが先決であろう。
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