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第二章 軍属大学院 入学 編
103.誰かにとっての『当たり前』-Ⅰ
しおりを挟むメアリーとランチア先生とやらの背中がだいぶ遠くなり、人混みに紛れた所でソフィアへと質問をする。
「えっと……今更だけど、ソフィアの妹なんだよね?」
「は、はいそうです! さっきは妹がタケルくんにあんな事を……本当にごめんなさい……」
「いや、さっきも言ったけど僕の事知らなかったんだから仕方ないよ」
会話の流れから察してはいたが、先ほどのメアリーという少女はやはりソフィアの妹の様だ。
ひょっとしたら近所の女の子がソフィアの事を姉と慕っているなんて話もあるかもしれないので一応確認しておいたのだが、まあ髪や目の色にしろ顔立ちにしろ、あれだけ似ている点があるのだから血縁関係があるのは当然と言えば当然である。
そしてソフィアはこれもやはりというべきか先ほどのメアリーの発言を問題視している様で、自分に対して申し訳なさそうにしている。
しかし先ほどの事は正直誰にも非は無いのだ。
寧ろ話に参加せず傍観に徹していた自分に要因があるとも言える。
まあ言わば不幸な事故の様なものだ。
だからソフィアがそこまで気に病む必要は無いのだが、それでも優しいソフィアは妹の言葉が自分を傷つけたのでは無いかと考えてしまうのだろう。
ここは早々に話題を少しでも変えて空気を変えるのが良いだろう。
というわけで話を振ってみる。
「そういえば、メアリーちゃんは軍属大学院に向かっていったみたいだけど、学生……ってわけじゃないよね?」
この世界に飛び級などという概念があるかは知らないし、彼女の年齢も知らないが、流石に学生であるとは考えづらい。
合宿が何だなどと言っていたので、先ほど言っていた一般開放されている訓練所とやらで何かしているのだろうか。
「へ? あ、はい、違いますよ。メアリーはまだ十一歳ですから、そもそも子期学院にすらまだ通ってないです」
「メアリーちゃんは魔法の才能があるから、ソフィアの家が英才教育を施してるのよ」
「えっと……その子期学院っていうのは……?」
昨日の試験中にティストさんが何やら口走っていた気がするが、何の事なのだろうか
自分の質問にアイラが答える。
「ああ、そうだったわね。子期学院っていうのは十二歳から十五歳までの殆どが、三年間通う学校でね。基本的な計算だったり語学だったり、簡単な社会の仕組みだったりあと魔法についても勉強するわね」
なるほど、年齢的には少し違うが小学校の様な物なのかもしれない。
「その"殆ど"っていうのは?」
「そこまで高くはねぇんだけど、どうしてもお金がかかっちまうんだ。だから孤児院にいる子供だったりするとなかなか通えねぇんだよ」
「なるほど……」
自分の追加の質問に、どこか寂し気にサキトがそう返答した。
魔物と言う明確な脅威が実在するこの世界では、孤児になってしまう者が多くいるのかもしれない。
自分が理解したと判断したようで、アイラが説明を続ける。
「それで子期学院を卒業したら、次はもっと難しい計算とか歴史の事とか、あと魔法を使った戦闘とかについての訓練とかをする高等学院っていうのにこれもまた三年通えるの。まあこれが私たちが今年で卒業する学校ね」
「それも殆どの人が通うの?」
「いや、こっちはもっと金がかかるし、戦闘訓練も怪我する可能性があるからって通わずにそのまま働き出すやつも多いんだ。子期学院で学んだ事がありゃあ普通に働いたりする分には困らねぇからな」
またしてもサキトが答えた。
何やら詳しそうなので気になった事をさらに質問をしてみる。
「『子期学院で学んだ事がありゃあ』って……。それじゃあ孤児院の子たちはどうなるの?」
親を亡くした上に将来働く事すら出来ないなんて事になったら、そんなのあんまりにも過酷すぎる。
自分には叔父という拠り所があったから何とかなったようなものだが、孤児院にいるという事はそんな頼れる誰かもいないという事だ。
そんな状況でいったいどうやって未来に希望を持てというのか。
「ああ、まあ孤児院でも最低限の教育はするし、俺みたいに将来軍で働くって誓約すれば国が学費を免除してくれたりするから大丈夫だぜ。――てかそんなとこまでタケルが心配してどうすんだよ」
「う、うん……」
サキトから返ってきた言葉に幾分か安堵した。
確かに自分にはどうする事もできない問題ではあるが、かつて自分も近しい状況にあっただけにどうしても思う所があったのだ。
いや、それよりも今――
「えっ? 『俺みたいに』って――」
そこまで口にして、あまりにもデリカシーに欠けた言葉であったと慌てて口を噤んだが、サキトは平気そうな様子で答える。
「あれ? 言ってなかったっけか? 俺って元々は孤児院の出身だぜ。今は義姉さんと暮らしてるけどな!」
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