アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

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第二章 軍属大学院 入学 編

105.誰かにとっての『当たり前』-Ⅲ

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 そうして何か意気込みを新たにしている様子のソフィアであったが、唐突に何かを思い出した様な顔をして話し出した。

「あっ、そういえばなんですけど、曾おじい様がタケルくんと是非お話がしたいって言ってたんです!」

「へ? 何で僕と?」

「今回の事へのお礼もそうなんですけど、どちらかと言うとセイル様の事とかについてお話したいらしくて」

「ああ、なるほど……」

 確かおじいちゃんとソフィアの曽祖父は昔からの友人であるらしいので、おじいちゃんの近況についてなど色々と聞きたいのかもしれない。

「それで何ですけど、たぶん私たちの試験結果が数日後には出ると思うんですよね。まあもうほぼほぼ合格って事で話が進んでるので、お父様が結果が分かり次第パーティーを開くつもりみたいなんです」

「へー、つまりお祝いのパーティーか」

 自分はパーティというものに縁が無いのでいまいち想像がつかないが、きっと貴族のお祝いパーティーというのはさぞかし盛大なのであろう。

「はい。それで、その……良かったらなんですけど、タケルくんもそのパーティーに来てくださいませんか? それならちょうど曾おじい様やお父様にもご紹介できますし!」

「え? 僕が参加しても大丈夫なのそれ?」

 平民どころか、そもそも身元すら不確かなのだが、そういうちゃんとした場に自分みたいな者が混じっても大丈夫なのだろうか。

「はい! 寧ろ是非参加して欲しいくらいです!」

「そっか……。じゃあ参加させてもらおうかな」

 せっかく誘ってくれているのだから、参加させてもらう事にした。
 ソフィアを祝いたい気持ちもあるし、実のところそういう催し自体にも興味がある。
 こんな物見遊山みたいな感覚で行っていいものかはわからないが、まあなる様になるだろう。

「やった! ありがとうございます♪ 日程が決まったら招待状を送りますね! あっ、サキトくんとアイラちゃんも参加してくれる?」

「ん? 今回のは俺も参加して大丈夫なのか。そういう事ならもちろん良いぜ! 美味い料理も食べられるしな!」

「私も良いけど……今の『あっ』って何よソフィア。私たちはついでなの?」

 ソフィアの誘いにサキトは何とも現金な理由から快諾し、アイラは何やら悪い笑みを浮かべてソフィアをからかう。

「そ、そういうわけじゃないよ!?」

『おいしい果物もあるかな?』

「ん? あるんじゃないか? 知らんけど」

『やった♪』

 アイラの言葉に慌てふためくソフィアを横目に見ながら、サキトと同じく現金な考えのキュウに適当に返事を返す。
 まあ確かに現金ではあるが、物見遊山気分な自分も大差はないだろう。
 祝う気持ちさえあればきっと良いのだ。

「っていうかそろそろ俺たちも移動しようぜ」

「そうね、サキトもハルカさんに会いたいものね」

「ばっ……だからそういうわけじゃねぇって!?」

 アイラの留まることを知らないからかいに苦笑しつつ、皆で再び軍属大学院へと足を進めた。
 まあ結果的にサキトの想い人であるハルカさんとやらに遭遇する事も無く、少し落ち込むサキトをからかったり慰めたりしながら、他愛の無い会話と共に周辺を案内して貰い、夕方には解散して各々家路へとついたのであった。

―――――――――――――――――――――――――――――

『楽しかったね♪』

「ああ、そうだな」

 ハヴァリーさんの施した結界を抜けて、夕日に照らされる花畑の道を屋敷へと歩きながらしみじみと今日の出来事を思い返し、テッチへと声をかける。

「今日はありがとうねテッチ。正直テッチは今日そんなに楽しくは無かったでしょ?」

 テッチからしたらただ知ってる街を歩き回っていただけだ。

「ワウッ」

 しかし、どうやらその歩き回るという行為がテッチは楽しいようで、「そんな事もない」といった感じの言葉を返してきた。

「そっか、なら良かったや」

 そんな話をしながら屋敷の入り口の前へと辿り着くと、勝手に扉が開いた。
 少し驚いたが、恐らく自分たちの帰りに気が付いたハヴァリーさんが開けたのだろうと予測し、特にためらう事も無く中へと入る。
 中に入ると、案の定傍にはハヴァリーさんが控えており、そちらに顔を向けるとハヴァリーさんは軽く礼をしながら口を開く。

「おかえりなさいませ皆さま」

「キュウッ!」

「ワウッ!」

「……」

「ん? どうかなさいましたかなタケル様?」

「あ、いえ……その……」

 そういえば、森の家ではこれを言われる機会が無かった事を思い出した。
 おじいちゃんとテッチが居る時は外出も帰宅もいつも一緒であったし、一人で外出する時は総じておじいちゃんとテッチの居ない時だ。
 おじいちゃんやテッチに「おかえり」と言った事はあったが、まさかまだ自分が言われた事が無かったとは思いもしなかった。

「その――ただいま、です」

 ぎこちないその返事にハヴァリーさんは何か察したような優しい笑みを浮かべながら、再び口を開く。

「はい、おかえりなさいませ」

 誰かにとっての『当たり前』が、今の自分にもいくつもある。
 そんな事実に気が付き、胸の奥から湧いてくる感情の躍動を噛みしめながら、ハヴァリーさんに促されるまま食堂へと向かったのであった。







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