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第二章 軍属大学院 入学 編
110.姉弟子の猫被り-Ⅱ
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ティストさんに連れられるまま、あれよあれよと言う間に軍属大学院前の大通りまで連れてこられたわけだが、自分は今――というより道中ずっと何とも言えぬ居心地の悪さと、とてつもない違和感を覚えていた。
というのも――
「――見て! ティスト様だわ!」
「――通りを普通に歩いているだなんて、どうされたのかしら?」
「――ああ……なんと凛々しいお姿なんだ……」
「――踏んでいただきたい……」
「――ん? あの後ろをつけて歩いている不届き者は誰だ……?」
通りを歩く人々皆が一様にティストさんに向けて何か輝かしい物でも見るかの様な視線を向け、うわごとの様に称賛を述べているのだ。
いや、何か変な奴も混ざっている気がするが、正直あまり関わり合いにはなりたくないから気にしないことにしておこう。
とにかくずっとこんな調子なもので、居心地が悪いったらありゃしないのだ。
こんな事なら、テッチにも付いて来てもらっておけば良かった。
少しくらいはこの居心地の悪さも薄らいだだろうに。
(というか、僕がティストさんをストーキングしてるみたいに言われてなかったか!?)
『ねぇねぇ武』
とんだ冤罪に対して危機感を覚えていると、服の胸元でぶら下がっているキュウが語り掛けてきた。
「ん? どうした?」
『なんか今、武みたい人居たね』
「……一応聞くけど、どの人の事?」
『ん? 「踏まれたい」って言ってた人!』
「……キュウ、後でおしおきだ」
『え!? なんで!?』
キュウが何か酷い勘違いをしているので、後で色々と正してやらなければならないようだ。
確かに、今まで何度か状況だけ見ればそういう嗜好があるかのように感じられる様な事はあった。
しかし、本質は断じて違うのだ。
別に、そういう嗜好を卑下するつもりなど毛頭ないが、断じて自分にそういう嗜好は無い。
無いったら無いのだ。
『無いの?』
「無いよ!」
嫌な恒例行事の様になりつつあるやりとりをキュウとしていると、前を歩くティストさんがわずかにこちらを向きながら口を開いた。
「ボ……タケル君、あまり往来で大声をだすものじゃありませんよ。人の迷惑になってしまいますからね」
「……誰ですかあなた」
「なっ――後で覚悟しとけよクソボウズ……」
とてつもない違和感の正体はこれである。
人の目がある場所に出た途端、ティストさんがまるで淑女かの様な振る舞いをしているのだ。
言葉遣いは正され、自身の名を呼ばれれば穏やかな笑みを浮かべながら控えめに手を振り、その一挙一動の全てが非常に丁寧なのだ。
最後の方に非常に小さい声で自分に放った悪態がなければ、本当にティストさんなのかどうか疑ってしまいそうだ。
これが先日会話に出てきた「あの外面」とかいうものだろうか。
エフィさんの前で喋り方を正そうとしていた時は変な言葉遣いになっていた気がしたが、どうやらあれは焦ってああなってしまっていただけの様だ。
「やれば出来るじゃないですかティストさん」
「――何か言いましたか?」
「……いえ、何でもないです」
明らかに含みのある――静かな怒りを秘めた笑顔をティストさんが向けてきたので、軽口を控える。
引き際は重要だ。
既に手遅れな気もしなくはないが、もうなる様になれだ。
そんな事を考えているうちに、いつの間にか軍属大学院の敷地内へと入っていた。
相も変わらず生徒らしき人たちからは好奇の視線が大量に向けられているが、どうする事も出来ないのでひたすらに我慢する。
ティストさんが自身の勤務先に来る度にこんな状況に晒されているのだとしたら、本当に大変だと思う。
しかし、当のティストさんは特に気にした様子も無い。
恐らく本人からするとそれ程嬉しくないであろう尊敬の眼差しを向けていると、エントランスに入って受付らしき場所へと到着した。
「が、学院長様! おは、おはようございますであります!」
受付のお姉さんがガチガチに緊張しながらティストさんへと挨拶をしている。
(知ってますか……この人、骨付き肉に手掴みで齧り付いたりするんですよ……口の周りに肉汁つけまくりながら……)
心の中で「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」と語り掛けるが、まあ伝わるわけも無く、受付のお姉さんは敬礼をしてガチガチに固まったままだ。
「リオナはもう第十二訓練場へ入っているかしら?」
「はっ、はいっ! 先ほど入館を確認いたしましたっ!」
「そう、ではこの子の入館手続きをしていただける?」
「かっ、かしこまりましたぁぁぁっ!」
このお姉さん、本当に大丈夫だろうか。
入館手続きとやらは魔力の登録をするだけだったのだが、ティストさんと一緒にいるために自分も何かしら偉い人なのだと勘違いしたのか、緊張しっぱなしのガチガチな対応でやたらと丁寧にされた。
流石に気の毒になってきたので、出来る限り指示に従ってさっさとお姉さんを開放してあげたのであった。
というのも――
「――見て! ティスト様だわ!」
「――通りを普通に歩いているだなんて、どうされたのかしら?」
「――ああ……なんと凛々しいお姿なんだ……」
「――踏んでいただきたい……」
「――ん? あの後ろをつけて歩いている不届き者は誰だ……?」
通りを歩く人々皆が一様にティストさんに向けて何か輝かしい物でも見るかの様な視線を向け、うわごとの様に称賛を述べているのだ。
いや、何か変な奴も混ざっている気がするが、正直あまり関わり合いにはなりたくないから気にしないことにしておこう。
とにかくずっとこんな調子なもので、居心地が悪いったらありゃしないのだ。
こんな事なら、テッチにも付いて来てもらっておけば良かった。
少しくらいはこの居心地の悪さも薄らいだだろうに。
(というか、僕がティストさんをストーキングしてるみたいに言われてなかったか!?)
『ねぇねぇ武』
とんだ冤罪に対して危機感を覚えていると、服の胸元でぶら下がっているキュウが語り掛けてきた。
「ん? どうした?」
『なんか今、武みたい人居たね』
「……一応聞くけど、どの人の事?」
『ん? 「踏まれたい」って言ってた人!』
「……キュウ、後でおしおきだ」
『え!? なんで!?』
キュウが何か酷い勘違いをしているので、後で色々と正してやらなければならないようだ。
確かに、今まで何度か状況だけ見ればそういう嗜好があるかのように感じられる様な事はあった。
しかし、本質は断じて違うのだ。
別に、そういう嗜好を卑下するつもりなど毛頭ないが、断じて自分にそういう嗜好は無い。
無いったら無いのだ。
『無いの?』
「無いよ!」
嫌な恒例行事の様になりつつあるやりとりをキュウとしていると、前を歩くティストさんがわずかにこちらを向きながら口を開いた。
「ボ……タケル君、あまり往来で大声をだすものじゃありませんよ。人の迷惑になってしまいますからね」
「……誰ですかあなた」
「なっ――後で覚悟しとけよクソボウズ……」
とてつもない違和感の正体はこれである。
人の目がある場所に出た途端、ティストさんがまるで淑女かの様な振る舞いをしているのだ。
言葉遣いは正され、自身の名を呼ばれれば穏やかな笑みを浮かべながら控えめに手を振り、その一挙一動の全てが非常に丁寧なのだ。
最後の方に非常に小さい声で自分に放った悪態がなければ、本当にティストさんなのかどうか疑ってしまいそうだ。
これが先日会話に出てきた「あの外面」とかいうものだろうか。
エフィさんの前で喋り方を正そうとしていた時は変な言葉遣いになっていた気がしたが、どうやらあれは焦ってああなってしまっていただけの様だ。
「やれば出来るじゃないですかティストさん」
「――何か言いましたか?」
「……いえ、何でもないです」
明らかに含みのある――静かな怒りを秘めた笑顔をティストさんが向けてきたので、軽口を控える。
引き際は重要だ。
既に手遅れな気もしなくはないが、もうなる様になれだ。
そんな事を考えているうちに、いつの間にか軍属大学院の敷地内へと入っていた。
相も変わらず生徒らしき人たちからは好奇の視線が大量に向けられているが、どうする事も出来ないのでひたすらに我慢する。
ティストさんが自身の勤務先に来る度にこんな状況に晒されているのだとしたら、本当に大変だと思う。
しかし、当のティストさんは特に気にした様子も無い。
恐らく本人からするとそれ程嬉しくないであろう尊敬の眼差しを向けていると、エントランスに入って受付らしき場所へと到着した。
「が、学院長様! おは、おはようございますであります!」
受付のお姉さんがガチガチに緊張しながらティストさんへと挨拶をしている。
(知ってますか……この人、骨付き肉に手掴みで齧り付いたりするんですよ……口の周りに肉汁つけまくりながら……)
心の中で「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」と語り掛けるが、まあ伝わるわけも無く、受付のお姉さんは敬礼をしてガチガチに固まったままだ。
「リオナはもう第十二訓練場へ入っているかしら?」
「はっ、はいっ! 先ほど入館を確認いたしましたっ!」
「そう、ではこの子の入館手続きをしていただける?」
「かっ、かしこまりましたぁぁぁっ!」
このお姉さん、本当に大丈夫だろうか。
入館手続きとやらは魔力の登録をするだけだったのだが、ティストさんと一緒にいるために自分も何かしら偉い人なのだと勘違いしたのか、緊張しっぱなしのガチガチな対応でやたらと丁寧にされた。
流石に気の毒になってきたので、出来る限り指示に従ってさっさとお姉さんを開放してあげたのであった。
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