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第二章 軍属大学院 入学 編
109.姉弟子の猫被り-Ⅰ
しおりを挟む「ふぅ、良い湯だった……。毎日朝から露天風呂に入れるって結構贅沢だよな」
「ワウッ♪」
『そうだね♪』
上機嫌なテッチとキュウと共に風呂上がりの上気した体を冷ましながら食堂へと向かう。
腕時計を確認すると、時刻は朝の八時に差し掛かろうとしていた。
概ね予定通りと言った所だ。
ソフィアたちに帝都を案内してもらってから三日経ったわけだが、ようやく生活のリズムが整ってきた感じがする。
朝の五時頃には目を覚まし、地下の実験場を使ってテッチにいつもの特訓を二時間程つけてもらってから、汗を流して八時頃に朝食を食べる。
それがこの三日間でとりあえず定型化した朝の行動であった。
朝食をとってからは日によって順番はまちまちだが、帝都を見て回ったり魔力制御の特訓をしたり、ハヴァリーさんにお願いして魔力感知の特訓もしてみたりと、それなりに充実した日々を過ごせていると思う。
「そういえばテッチっていつ頃おじいちゃんの所に戻るの?」
今はいつもの多方面からの攻撃にひたすら対応をするという特訓をテッチがやってくれているが、いつまでも一緒にいてもらうというわけにもいかないだろう。
何より、あの森におじいちゃんをずっと一人にしておくのも忍びないのだ。
「ワゥ? ウゥ~……ワウッ!」
「あ、特に決めてはいないんだね……」
最終的に返ってきた答えは「そのうちな」という感じだったので、特にまだ考えてはいない様だ。
そんな話をしているうちに食堂の入り口に辿り着いたので、ドアを開けて中へと入ると、いつもの体勢で椅子に座ったティストさんがいた。
「よお、ボウズ」
「あれ、ティストさん? おはようございます。朝食を食べに来たんですか? 今日はハヴァリーさんの料理ですよ」
恐らく朝食を食べに来たのだろうが、残念ながら今日はエフィさんの来ない日だ。
ハヴァリーさんの作る料理もお世辞抜きに美味しいので自分は大満足なのだが、三日ぶりに訪れたティストさん的にはエフィさんの料理を食べたかっただろう。
しかし予想に反して、自分のその言葉を聞いたティストさんは特に落胆する事も無く返答してきた。
「ああ、知ってる。まあ確かに朝食も食べに来たんだが、どっちかって言うと今日はお前に用事があって来たんだ」
「へ? 僕にですか?」
「ああ、お前別に今日は予定とか入れてないだろ?」
「は、はい、特にこれと言って決まった予定はないですけど……」
「まあ予定あった所で無理矢理連れて行くけどな。ってなわけで飯食ったら軍属大学院に行くぞ」
なんて強引な。
「……行くのは良いんですけど、何しに行くんですか?」
「んあ? お前この前『魔法で滅多打ちにされたい』とか言ってただろ? それを出来る奴を見繕ってやったんだよ。感謝しろ!」
「い、いや……その言い方はちょっと語弊があると思うんですけど……?」
別に自分は魔法をくらいたいわけではなく、それを防御する事で魔力制御力を向上させたいのだが、まあティストさんも冗談で言っているだけであろう。
そんな事を考えていると、食堂の扉が開けてハヴァリーさんが食事を運んできた。
「お待たせいたしましたな」
「おう、ハヴァリーの爺さん。ボウズ予定無ぇらしいから連れてくぜ」
「良かったですなぁ。先ほども申しましたが、そういうものは先に相手方の予定をちゃんと確認しておくものですぞ! ――いくらタケル様に早速頼られたのが嬉しくて舞い上がってしまったとはいえ……」
「――だぁぁっ!? なに適当な事抜かしてんだっ! ちょっとミスっただけだっつたろうがっ!」
どうやらハヴァリーさんには既に今日これからの事を話していたようだが、これはつまり元々は予定の確認すらせずに連れていくつもりだったという事だろうか。
後半はティストさんに耳打ちしていたので聞こえなかったが、状況から察するに何かからかわれたのだろう。
「ほっほ、それでは昼食の方はどうされますかな? 必要でしたらば今から軽く食べられる物でも準備いたしますが?」
「ちっ……ほんと覚えてろよ……。これ食ったらすぐに向かうし、夕方までみっちり扱く予定だからこっちで適当にどうにかするわ。ボウズもそれでいいだろ別に?」
「え? あ、はい」
夕方まで扱かれるというのは初耳なのだが、いったい自分は何をされるのであろうか。
(流石にあの魔法の連撃に長時間対応するのは無理だと思うんだけど……。生きて帰って来れる……よね?)
些か不安を感じつつも、お願いした側である自分に拒否権などあるわけもなく、朝食を終えると共に軍属大学院へと連れていかれたのであった。
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