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第二章 軍属大学院 入学 編
108.姉弟子は照れ屋さん-Ⅲ
しおりを挟む「久しぶりに賑やかでしたなぁ」
「ええ、まったく。懐かしくなりましたわ。……色んな意味でねぇ」
エフィさんとハヴァリーさんがしみじみとそんな会話をする一方、自分はティストさんにどう話しかけたものかと悩んでいた。
というのも、落ち着いたら余計に恥ずかしくなった様子のティストさんが、なんとも話しかけづらいオーラを放って俯いているからだ。
エフィさんとハヴァリーさんの会話もその状態に拍車をかけている様で、より一層話しかけづらくなっている。
というより二人ともティストさんが恥ずかしがるのをわかっていて、わざとやっている様だ。
エフィさんのには若干の怒りも含まれている気がするが、基本的に二人の声音からは面白がっている雰囲気が感じられる。
そういえば、様をつけている辺り一応ティストさんが上の立場なのだとは思うが、いまいちこの三人の関係性が分かりづらい。
(いや、それなら僕も様ってつけられてるけど、別に立場が上ってわけでもないしなぁ……)
そんな感じに恒例の如く思考が脱線しかかっていると、ハヴァリーさんがティストさんへと話しかける。
「さてティスト様、そろそろ立ち直ってはいかがですかな? タケル様が先ほどから何か話しかけようとなさっておりますぞ」
どうやら自分の状況を見かねて助け船を出してくれた様だ。
結果的に妨害していたのもハヴァリーさんたちなのだが、まあそれは言わぬが花であろう。
ティストさんの方を確認すると、俯けていた顔を若干上げてこちらに視線を向けていた。
まだ照れが抜けきっていない様で言葉を発する事は無いが、それのおかげか"少女の見た目をした女性の上目遣い"という可愛らしい状況が完成している。
(いや、こういう考えが失礼なんだよな。控えるようにしないと……)
そんな風に自分を戒めていると、痺れを切らしたティストさんが小さな声を出す。
「……なんだよ」
ぶっきらぼうな物言いであるが、今の状況ならばそれすらもなかなか可愛らしく――
(――ってそうじゃなくって!)
「あ、あのっ! 頼っても……いいんですよね?」
「ッ――ま、まあな。おら、なんだ? 何でも言ってみろよ」
いつもの口調に戻ってしまい些か残念ではあるが、気にせず話を続ける。
「その……お忙しいとは思うので出来ればで良いんですけど、昨日の試験でやっていただいたあの大量の魔法を一斉に撃ってくる奴を、時間のある時にやっていただけませんか?」
「は? なんで?」
「いえ、あれって短時間でかなりの負荷がかけられるので、特訓にはもってこいだと思うんですよ。今まで長時間の耐久的な特訓は結構してきたんですけど、それに加えてああいうものも特訓に加えられればいいなって思いまして……。やっぱりお忙しいですかね?」
軍のナンバーツーの仕事に加え、軍属大学院の学院長としての仕事もあるのだ。
自分のこれからのためにも了承してもらえれば嬉しいが、無理だと言われても仕方ないだろう。
「そ、そうだな! 私は忙しいからなぁ……」
何だか物言いに変なよそよそしさがある気がする。
後ろからハヴァリーさんの押し殺したような笑い声が聞こえるのも気になるのだが、何かあるのだろうか。
「やっぱり……厳しいですかね……?」
「……はぁ、まあ私には厳しいけど、当てが無い事もねぇよ。近い内に話を付けとくから少し待っとけ」
「ほ、本当ですか!?」
正直諦めかけていたが、「話を付けとく」という事はほぼほぼ確実に特訓を受けられると受け取ってもいいのではないだろうか。
「ありがとうございますティストさん!」
「お、おう……」
ティストさんは何だかばつが悪そうに後頭部を掻いているが、まあきっと大丈夫であろう。
「ほっほ、頼りにされて良かったですなぁティスト様」
「チッ……覚えてろよハヴァリーの爺さん……。じゃあ飯も食い終わった事だし、私はそろそろ帰るかな」
「あらそうですの? では私が門までお見送りいたしますわ。――少々言っておきたい事もありますしねぇ……」
「い、いや、エフィ……。み、見送りは別にいいぞ!」
「いえいえ、遠慮なさらなくて良いのですよぉ? ささっ、早く参りましょう」
「お……おう……」
そうして何か含みのある笑みを浮かべたエフィさんに連れられて、ティストさんは食堂を出て行ったのであった。
自分の脳裏にはふと、ティストさんが机を乗り越えた時のエフィさんの表情が浮かんだ。
(まあ、大丈夫……だよね?)
心の中でティストさんの無事を祈りつつ、自分もお風呂に入ってから休もうと思い、隣の椅子で眠るキュウを抱き抱えて席を立った所で、ソフィアからお祝いパーティーの招待を受けていたことを思い出した。
招待状を送ると言っていたので、ハヴァリーさんには伝えておいた方が良いだろう。
「あの、ハヴァリーさん」
「はい、何でございますかな?」
「今日帝都を案内してもらってる時にですね、ソフィアが合格祝いのパーティーへ招待してくれたんです」
「ソフィア様と言いますと、ラグルスフェルト家のご令嬢の事でございますかな?」
「はい、そうです。それで、日程が決まり次第招待状を送ってくれるらしいので、ハヴァリーさんに伝えておかなくちゃと思いまして」
「なるほど……まあ恐らくディムロイ様経由でしょうな。失礼ながら、タケル様は礼服の類いはお持ちですかな?」
「へ? 礼服ですか? たぶん持ってないですけど……」
「では新しくお作りせねばなりませぬな。ラグルスフェルト家主催のパーティーともなりますと、それなりな質の物を身に付けなければなりますまいて」
「ああ、そうか……。どうしましょう……?」
完全に失念していたが、確かにパーティーには礼服が必要だ。
ましてやティストさん曰く「地位の高ぇ奴ら」が主催するのだから、求められる質も「高ぇ物」になるのも当然と言えば当然だ。
おじいちゃんに作ってもらった服はどれも、確かに生地のしっかりした良い物ではあるらしいのだが、礼服と呼べるのかと聞かれれば否と答える他無い。
「では、少々失礼しまして……」
「へ?」
どうしたものかと悩んでいると、唐突にハヴァリーさんが自分の肩に手を置いた。
何事かと思っていると、ハヴァリーさんの手から放たれた細い光の線が数瞬の内に自分の全身を表面を撫でる様に駆け抜けた。
「これって……」
自分はこの魔法に見覚えがある。
以前自分の服を作ってもらう時におじいちゃんが使ったものと同一の魔法だ。
だとすると恐らく今自分は″採寸″された。
「よし、それではお作りしておきますな。何かデザインのご要望などはありますかな?」
「と、特にはありませんけど……。もしかしてハヴァリーさんが作ってくださるんですか……?」
「はい、おまかせくだされ。ああ、出来映えの方はどうぞご安心を。なにせ主に洋裁の技術を仕込んだのは私めでございますからな」
まさかこの世界の老人はデフォルトで洋裁の技術があるのではと疑いかけたが、流石にそういうわけではなさそうだ。
おじいちゃんの師匠であるのならば、その腕前も相当なものであろう。
「それじゃあ、よろしくお願いします。正直服の事はよく知らないのでありがたいです!」
「ほっほ、確かに承りました。最高の着心地の品を作ってご覧にいれましょうぞ」
こうして、パーティーへの準備は着々と進んでいくのであった。
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