アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

わらび餅.com

文字の大きさ
129 / 163
第二章 軍属大学院 入学 編

120.似た者同士の励まし合い-Ⅲ

しおりを挟む
「慣れれば……ですか?」

「うん、私は成り行きで知っちゃったんだけど、普段の丁寧なしゃべり方とのギャップが凄くって、最初は凄く驚いたもの……。慣れた今だと、素の方がティスト様自身を出せてる感じがして――凄く、良いなと思うわ。あなたもそうじゃなかった?」

 聞いていて何だか話が噛み合っていないと思ったが、どうやらハルカ先輩は普段の猫被りについて話していた様だ。
 おじいちゃんの事を話すわけにもいかないので話を合わせる。

「僕はあれが最初だったので……というより今日初めてあの猫被りを見た感じでして……。寧ろ粗雑なティストさんじゃないと、その……むず痒いと言いますか……」

「へぇ、あなたには最初から素だったんだ……。まあ、あれだけの事が出来るんだもの。目をかけられてもおかしくはないわね」

「へ? 何の話ですか?」

 自分の場合は恐らく、あの屋敷というハヴァリーさんやエフィさんといったティストさんにとって素を晒せる相手しか居えないであろう場所に偶然居合わせて、気を抜いていたティストさんを目撃してしまっただけなのだが、目をかけられるとはどういう事だろうか。

「さっきのあなたとティスト様の手合わせをちょっと見せてもらってたんだけど、いくらシエラがあるとはいえ、あなたくらいの子でティスト様とあんな長時間相対できる人なんてまずいないわよ」

 手合わせと言えば聞こえはいいが、実際は一方的にボコボコに攻撃されていただけである。
 防御しか出来てない上にそもそも――

「いや、それはティストさんがちゃんと手加減してくれているからで……」

「ティスト様の手加減無しで手合わせできる人がいったい何人居ると思ってるのよ……。まああれだけの攻防を繰り広げられるあなたの培った力をティスト様は買っていると思うわよ」

「……そう、ですかね?」

「ええ、正直見ていて圧倒されたわ。私のシエラも、やろうと思えばあなたと似た事は出来るはずなんだけど……たぶん数分も持たないでしょうね」

「先輩のシエラ……『力を操る』シエラでしたっけ?」

「そうよ。何でも出来る万能型のシエラなんて言われるけど、結局の所私は器用貧乏なだけで――」

――何も出来ないままなのよね。

 と、そう呟くハルカ先輩の顔は相変わらず無表情ながらもどこか悲し気で、どうしようもないという諦観にも似たそんな想いが胸に突き刺さる。
 この人はいったいどんな想いを抱いてこのシエラを手に入れたのだろうか。
 心が圧迫される様な感覚に息が詰まる。

――何故、この人はこんなにも自身の想いを……自分自身を――

「――って、ごめんね、変な話しちゃって。ただあなたの力が凄いって話をしたかっただけなんだけど、なんでこんな話になっちゃったのかな……?」

 ハルカ先輩は少し慌てながら、心底不思議そうに首をかしげる。
 そんなハルカ先輩に対して自分は――

「僕は、そんな事ないと思いますよ」

 気が付けば口を開いていた。
 自分にはハルカ先輩が何か重大な想いを抑えつけ、そしてそんな自身を心底嫌忌している様に感じられたのだ。
 詳しい事なんて何もわからないし、そもそも自分の思い違いの可能性もある。
 しかし、自分の感じたものが本物であるという何の根拠もない自信もあった。
 だからといって自分にはどうすれば良いのかはわからない。

「少なくとも、僕はハルカ先輩に命を救われましたし、本当に感謝してますから。だから――そんなに卑下する事ないですよ! 先輩のシエラは、人を救える凄いシエラです!」

 でもせめて、自分の知り得る事実とそれに連なる想いは伝えるべきだと思ったのだ。

「そ、そうかな……? あら……ふふっ、ありがとうね」

 キュウも何か感じたのか、元気を与える様にハルカ先輩へと頭を摺り寄せる。
 キュウに静かに笑いかけるハルカ先輩からは先ほどの様な悲し気な様子は感じられない。
 流石はキュウである。

「それに――いや、やっぱり何でもないです」

 「先輩の事を好きな奴も居ますし」と言おうかと思ったが、まだ確証の無い事であるし、まるで嫌いな人が多いかのような言い草になると気が付いてやめたのだ。
 確証が無いというのは、今更ながら思い出したのだが、恐らくこの人こそがサキトが想いを寄せる『ハルカさん』だという事だ。
 そんな偶然があるかとも思うが、意外と世界は狭かったりするし、これまた根拠の無い自信もある。
 もしそうであるならば全力を持ってサキトの恋路のサポートをしようと思うが、それはちゃんと確認をとってからの方がいいだろう。

「……?」

 キュウの頭を撫でながらハルカ先輩は不思議そうに首をかしげる。
自分の何かに失望しながら生きていく辛さを僅かながらに知っている。
 どう足掻いても、自分自身という人間の評価において自己評価というのは大きな割合を占めるものだ。
 当然であろう。
 自分自身以上に自分自身と時を共にした存在などいるはずも無いのだ。
 その評価の大部分が最低の評価なのだから、辛くないわけがない。
 もしハルカ先輩が本当にそんな状態にあるのだとしたら、一刻も早くそこから抜け出して欲しいと思う。
 しかし、ハルカ先輩の事を殆ど知らない自分に出来る事なんて無いに等しい。
 だがサキトならば――長年想いを寄せ続けたサキトにならば、ハルカ先輩の自身に対する嫌忌の感情を覆す事ができるかもしれない。
 そうであって欲しいと願う自分がいるのだ。

(まあ、サキトなら好きな人が自分自身の事を嫌ってるなんて事快く思うはずないよな)

 サキトと自分の付き合いもよくよく考えればまだ全然短いのだが、自分にはハルカ先輩のために奮闘するサキトの姿が容易に想像できるから不思議なものだ。

「……何だか嬉しそうね?」

「へ? いえ、ちょっと友人の事を思い出してただけですよ」

「ほぅ、薄ら笑い浮かべられるくらいには回復したみてぇだなボウズ? じゃあさっさとさっきの再開すっぞ! おら! ついてこい!」

 いつの間にか背後に来ていたティストさんに襟をつかまれて引っ張られる。
 何だか未だに荒れている様子だ。

「ちょっ!? ティストさん!? 自分で歩けますって! ってかまさかまた二時間ぶっ続けですか!?」

「当たり前だろうがっ! おら行くぞっ!」

「危なっ!?」

 体勢も整え終えぬまま乱暴に特訓を再開されたが、何とか防御をした流れで走り寄ってきたキュウを確保し、改めてティストさんを臨む。

「……がんばって」

「うふふ、ごめんねタケル君。ティスト様の相手お願いねぇ」

 完全にリオナさんにからかわれた八つ当たりをされている気がしてならないが余計な事を考えている余裕も無いため、そんな何とも言えぬ声援を背に特訓へと臨むのであった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

もる
ファンタジー
 剣を扱う職に就こうと田舎から出て来た14歳の少年ユカタは兵役に志願するも断られ、冒険者になろうとするも、15歳の成人になるまでとお預けを食らってしまう。路頭に迷うユカタは生きる為に知恵を絞る。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

処理中です...