アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

わらび餅.com

文字の大きさ
138 / 163
第二章 軍属大学院 入学 編

129.誤解エール-Ⅲ

しおりを挟む
 その後、一頻り近況などの雑談をしていた時に、アイラが「明日はパパに頼んで馬車を準備するから、タケルの家まで迎えに行くわよ!」と言ってくれたのだが、今一屋敷の位置をどう伝えれば良いかわからない上に屋敷までの路地はどう考えても馬車は入れないと考えた自分は、中途半端な伝え方をして行き違いになるのが怖いと思って「アイラの家まで行く」と言ってしまったのだ。
 屋敷付近の通りには露店は多いものの目印になるような店はあまりないので、やはりこうするのが確実であったと思うが、現状を鑑みればどうにか迎えに来て貰った方が良かったとも思えてしまう。

(まあ、あとちょっとの辛抱だな……)

 もう少しすればアイラの家に着く。
 何か別の話題でもキュウと話していれば少しは気が紛れて楽になるだろうと考えていると、ちょうど同様に昨日の事を思い出していたらしいキュウが話題を振ってきた。

『そういえば昨日のソーコってところ! また行きたいね!』

「別に行く分にはいいけど、あそこにあるものは食べちゃダメなんだぞ?」

『あそこにいるだけで楽しいから良いの!』

 キュウの言う『ソーコ』とは、読んで字のごとく『倉庫』の事である。
 昨日は雑談を終えた後、せっかくだからと帝都のまだ行ったことのない類いの場所を案内して貰ったのだが、それが帝都の外周部に存在する『貿易区画』にある倉庫であった。
 正確には、『貿易区画』は大通りに面した商売をするため区画である『商業区画』と、在庫の保存や足りない分の現地生産などを担うための区画である『生産区画』の二つにわけられるらしく、その『生産区画』に存在する大規模な倉庫の事だ。
 別に商品はマジックバッグの中にしまっておけば、倉庫など必要ないのではないかと思っていたのだが、実はマジックバッグにも容量というものがあるらしく、下手に大量に入れすぎてしまうと商品同士が接触して不良品になってしまう事が多々あるらしい。
 個人で使う分にはまず起こりえない事らしく、業者ならではの問題といったところなのだろう。
 なので、問題の起こらないギリギリのラインを見切ってマジックバッグに仕舞い、それを大量に馬車に積んで運び、念には念を入れて検品をしながら倉庫に出来るだけ出しておくというのがこの世界での流通の基本らしい。
 もちろんそれは食べ物に関しても言える事で、キュウは大量の果物が箱詰めされた置かれている倉庫の、露店などとは比べものにならない程の充満した甘い香りが滅法気に入った様なのだ。
 自分なぞは美味しそうな匂いを嗅いでしまえば食欲をそそられてしまうが、キュウは別段食欲というものが存在するわけではないので、匂いを嗅ぐだけでも十分に満足できるのかもしれない。
 そもそも、体育館の様な広さと高さを誇る倉庫もさることながら、その内部空間いっぱいに天井付近まで高さのある棚が並べられ、そこに商品を詰めた箱が所狭しと置かれている光景自体が、日常ではまずお目にかかれない光景であり、個人的にはそちらの方が見ていて楽しかった。

「ああ、それで言うとあの廃倉庫なんかも良かったよな」

『えぇ……あれの何がいいのさ……』

「いや、大きな建物がボロボロになってる廃墟感というかさ」

『それはよくわかんな~い……』

 商売の要の一つである倉庫であるが、それを維持しているのはあくまでも貿易区画で生計を立てている人々であり、そこまで裕福でない彼らでは倉庫自体に魔法による満足な強化措置をとれないらしく、作るのも一苦労ならば、ガタが来たものを取り壊すのもそうそう簡単には出来ないらしいのだ。
 それ故ちらほらと放置された廃倉庫などがあり、そこにも案内してもらったのだが、キュウにはあの広大な空間がしんと静まりかえる事で生じる、何とも言えないもの悲しさから得られる感傷の良さがわからないようだ。
 いや、だいぶ特殊な感覚だとは自分でも思うのでそれも仕方ないだろう。

「まあ、キュウにもそのうちわかるさ」

『そうかなぁ……?』

 そんな他愛もない会話をしているうちに、ようやく目的地へと到着した。
 当初の目論見通りキュウと話していたおかげでそこまで気にならなかったが、相変わらず視線は感じてしまう。

(でももうそれともおさらばだ!)

 グランツ商会の前で自分を待っているのであろう、制服を着たサキトとアイラに声をかける。

「お待たせ二人とも」

「ん? おお、アイラの言う通りだったな!」

「へ? 何のこと?」

「ふふん! タケルならそろそろ来るだろうと思ってたのよね!」

 どうやら自分の到着を見越して出てきてくれていたようだ。
 ありがたいことであると思っていると、アイラがやたらと自分の格好を凝視している事に気がつく。

「へ、変かな?」

「え? いや、別に変じゃないわよ。ただ……」

「ただ……?」

「――なんかプロポーズでもしに行く人みたいねって思っただけよ」

「あぁ、確かにそうだな!」

 言われて、改めて店のガラスに映る自分の姿を見てみる。
 セットされた髪、ビシッとしたスーツ、大きめの綺麗な花束。

「――なるほど」

 道行く人々や露店のおばさんの視線の意味を理解したのであった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...