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第二章 軍属大学院 入学 編
129.誤解エール-Ⅲ
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その後、一頻り近況などの雑談をしていた時に、アイラが「明日はパパに頼んで馬車を準備するから、タケルの家まで迎えに行くわよ!」と言ってくれたのだが、今一屋敷の位置をどう伝えれば良いかわからない上に屋敷までの路地はどう考えても馬車は入れないと考えた自分は、中途半端な伝え方をして行き違いになるのが怖いと思って「アイラの家まで行く」と言ってしまったのだ。
屋敷付近の通りには露店は多いものの目印になるような店はあまりないので、やはりこうするのが確実であったと思うが、現状を鑑みればどうにか迎えに来て貰った方が良かったとも思えてしまう。
(まあ、あとちょっとの辛抱だな……)
もう少しすればアイラの家に着く。
何か別の話題でもキュウと話していれば少しは気が紛れて楽になるだろうと考えていると、ちょうど同様に昨日の事を思い出していたらしいキュウが話題を振ってきた。
『そういえば昨日のソーコってところ! また行きたいね!』
「別に行く分にはいいけど、あそこにあるものは食べちゃダメなんだぞ?」
『あそこにいるだけで楽しいから良いの!』
キュウの言う『ソーコ』とは、読んで字のごとく『倉庫』の事である。
昨日は雑談を終えた後、せっかくだからと帝都のまだ行ったことのない類いの場所を案内して貰ったのだが、それが帝都の外周部に存在する『貿易区画』にある倉庫であった。
正確には、『貿易区画』は大通りに面した商売をするため区画である『商業区画』と、在庫の保存や足りない分の現地生産などを担うための区画である『生産区画』の二つにわけられるらしく、その『生産区画』に存在する大規模な倉庫の事だ。
別に商品はマジックバッグの中にしまっておけば、倉庫など必要ないのではないかと思っていたのだが、実はマジックバッグにも容量というものがあるらしく、下手に大量に入れすぎてしまうと商品同士が接触して不良品になってしまう事が多々あるらしい。
個人で使う分にはまず起こりえない事らしく、業者ならではの問題といったところなのだろう。
なので、問題の起こらないギリギリのラインを見切ってマジックバッグに仕舞い、それを大量に馬車に積んで運び、念には念を入れて検品をしながら倉庫に出来るだけ出しておくというのがこの世界での流通の基本らしい。
もちろんそれは食べ物に関しても言える事で、キュウは大量の果物が箱詰めされた置かれている倉庫の、露店などとは比べものにならない程の充満した甘い香りが滅法気に入った様なのだ。
自分なぞは美味しそうな匂いを嗅いでしまえば食欲をそそられてしまうが、キュウは別段食欲というものが存在するわけではないので、匂いを嗅ぐだけでも十分に満足できるのかもしれない。
そもそも、体育館の様な広さと高さを誇る倉庫もさることながら、その内部空間いっぱいに天井付近まで高さのある棚が並べられ、そこに商品を詰めた箱が所狭しと置かれている光景自体が、日常ではまずお目にかかれない光景であり、個人的にはそちらの方が見ていて楽しかった。
「ああ、それで言うとあの廃倉庫なんかも良かったよな」
『えぇ……あれの何がいいのさ……』
「いや、大きな建物がボロボロになってる廃墟感というかさ」
『それはよくわかんな~い……』
商売の要の一つである倉庫であるが、それを維持しているのはあくまでも貿易区画で生計を立てている人々であり、そこまで裕福でない彼らでは倉庫自体に魔法による満足な強化措置をとれないらしく、作るのも一苦労ならば、ガタが来たものを取り壊すのもそうそう簡単には出来ないらしいのだ。
それ故ちらほらと放置された廃倉庫などがあり、そこにも案内してもらったのだが、キュウにはあの広大な空間がしんと静まりかえる事で生じる、何とも言えないもの悲しさから得られる感傷の良さがわからないようだ。
いや、だいぶ特殊な感覚だとは自分でも思うのでそれも仕方ないだろう。
「まあ、キュウにもそのうちわかるさ」
『そうかなぁ……?』
そんな他愛もない会話をしているうちに、ようやく目的地へと到着した。
当初の目論見通りキュウと話していたおかげでそこまで気にならなかったが、相変わらず視線は感じてしまう。
(でももうそれともおさらばだ!)
グランツ商会の前で自分を待っているのであろう、制服を着たサキトとアイラに声をかける。
「お待たせ二人とも」
「ん? おお、アイラの言う通りだったな!」
「へ? 何のこと?」
「ふふん! タケルならそろそろ来るだろうと思ってたのよね!」
どうやら自分の到着を見越して出てきてくれていたようだ。
ありがたいことであると思っていると、アイラがやたらと自分の格好を凝視している事に気がつく。
「へ、変かな?」
「え? いや、別に変じゃないわよ。ただ……」
「ただ……?」
「――なんかプロポーズでもしに行く人みたいねって思っただけよ」
「あぁ、確かにそうだな!」
言われて、改めて店のガラスに映る自分の姿を見てみる。
セットされた髪、ビシッとしたスーツ、大きめの綺麗な花束。
「――なるほど」
道行く人々や露店のおばさんの視線の意味を理解したのであった。
屋敷付近の通りには露店は多いものの目印になるような店はあまりないので、やはりこうするのが確実であったと思うが、現状を鑑みればどうにか迎えに来て貰った方が良かったとも思えてしまう。
(まあ、あとちょっとの辛抱だな……)
もう少しすればアイラの家に着く。
何か別の話題でもキュウと話していれば少しは気が紛れて楽になるだろうと考えていると、ちょうど同様に昨日の事を思い出していたらしいキュウが話題を振ってきた。
『そういえば昨日のソーコってところ! また行きたいね!』
「別に行く分にはいいけど、あそこにあるものは食べちゃダメなんだぞ?」
『あそこにいるだけで楽しいから良いの!』
キュウの言う『ソーコ』とは、読んで字のごとく『倉庫』の事である。
昨日は雑談を終えた後、せっかくだからと帝都のまだ行ったことのない類いの場所を案内して貰ったのだが、それが帝都の外周部に存在する『貿易区画』にある倉庫であった。
正確には、『貿易区画』は大通りに面した商売をするため区画である『商業区画』と、在庫の保存や足りない分の現地生産などを担うための区画である『生産区画』の二つにわけられるらしく、その『生産区画』に存在する大規模な倉庫の事だ。
別に商品はマジックバッグの中にしまっておけば、倉庫など必要ないのではないかと思っていたのだが、実はマジックバッグにも容量というものがあるらしく、下手に大量に入れすぎてしまうと商品同士が接触して不良品になってしまう事が多々あるらしい。
個人で使う分にはまず起こりえない事らしく、業者ならではの問題といったところなのだろう。
なので、問題の起こらないギリギリのラインを見切ってマジックバッグに仕舞い、それを大量に馬車に積んで運び、念には念を入れて検品をしながら倉庫に出来るだけ出しておくというのがこの世界での流通の基本らしい。
もちろんそれは食べ物に関しても言える事で、キュウは大量の果物が箱詰めされた置かれている倉庫の、露店などとは比べものにならない程の充満した甘い香りが滅法気に入った様なのだ。
自分なぞは美味しそうな匂いを嗅いでしまえば食欲をそそられてしまうが、キュウは別段食欲というものが存在するわけではないので、匂いを嗅ぐだけでも十分に満足できるのかもしれない。
そもそも、体育館の様な広さと高さを誇る倉庫もさることながら、その内部空間いっぱいに天井付近まで高さのある棚が並べられ、そこに商品を詰めた箱が所狭しと置かれている光景自体が、日常ではまずお目にかかれない光景であり、個人的にはそちらの方が見ていて楽しかった。
「ああ、それで言うとあの廃倉庫なんかも良かったよな」
『えぇ……あれの何がいいのさ……』
「いや、大きな建物がボロボロになってる廃墟感というかさ」
『それはよくわかんな~い……』
商売の要の一つである倉庫であるが、それを維持しているのはあくまでも貿易区画で生計を立てている人々であり、そこまで裕福でない彼らでは倉庫自体に魔法による満足な強化措置をとれないらしく、作るのも一苦労ならば、ガタが来たものを取り壊すのもそうそう簡単には出来ないらしいのだ。
それ故ちらほらと放置された廃倉庫などがあり、そこにも案内してもらったのだが、キュウにはあの広大な空間がしんと静まりかえる事で生じる、何とも言えないもの悲しさから得られる感傷の良さがわからないようだ。
いや、だいぶ特殊な感覚だとは自分でも思うのでそれも仕方ないだろう。
「まあ、キュウにもそのうちわかるさ」
『そうかなぁ……?』
そんな他愛もない会話をしているうちに、ようやく目的地へと到着した。
当初の目論見通りキュウと話していたおかげでそこまで気にならなかったが、相変わらず視線は感じてしまう。
(でももうそれともおさらばだ!)
グランツ商会の前で自分を待っているのであろう、制服を着たサキトとアイラに声をかける。
「お待たせ二人とも」
「ん? おお、アイラの言う通りだったな!」
「へ? 何のこと?」
「ふふん! タケルならそろそろ来るだろうと思ってたのよね!」
どうやら自分の到着を見越して出てきてくれていたようだ。
ありがたいことであると思っていると、アイラがやたらと自分の格好を凝視している事に気がつく。
「へ、変かな?」
「え? いや、別に変じゃないわよ。ただ……」
「ただ……?」
「――なんかプロポーズでもしに行く人みたいねって思っただけよ」
「あぁ、確かにそうだな!」
言われて、改めて店のガラスに映る自分の姿を見てみる。
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「――なるほど」
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