アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

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第二章 軍属大学院 入学 編

128.誤解エール-Ⅱ

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(……ん? サキトが自分で作ればいいのでは……?)

 思わず納得してしまったが、よくよく考えてみれば別にそれ程説得力溢れる理由ではなかった。
 いや、確かに定時というのは大事な事なので別に無理強いするつもりはないのだが、なんだか友人の家での怠けぶりを聞かされている様で、「果たして納得してしまっても良いのか」という気分になってくるのだ。
 そんなよくわからない葛藤をしていると、今度はハルカ先輩が理由を述べる。

「そもそも……あなたは元気かもしれないけれど、私はもうヘトヘトだわ……」

「な、なるほど……」

 確かに今日は何故かまだまだ元気だが、昨日は自分も今すぐに寝たいと思う程にヘトヘトだった。
 自分の満足のためにハルカ先輩まで付き合わせるわけにはいかないだろう。
 そもそも自分の特訓とハルカ先輩の特訓は全く違うので、付き合ってもらう必要もないのだが、それを言うのは野暮なので口にはしない。

(まあ、帰ってからテッチに特訓つけてもらえばいいか)

 体力の使い果たし方も決まり、一人納得していると、すっかり泣き止んだリオナさんが楽しげに口を開いた。

「今日はキーくんの大好きなハンバーグにしてあげようと思ってるのよ♪ うふふ、きっとキーくん大喜びするわぁ♪」

「――ふふっ、それなら確かに早く帰ってあげないとですね」

 サキトがハンバーグに大喜びする姿が何故か簡単に想像できてしまい、思わず笑みを漏らしてしまう。

(そうだよな。別に家でくらい怠けててもいいじゃないか)

 サキトはサキトで何かしら頑張っているだろうし、何よりも「サキトが喜ぶ」と語るリオナさんの表情が、本当に幸せそうなのだ。
 家族がお互いに幸せでいられるのならば、それが一番良いに決まっている。

『武だってご飯はほとんど任せっきりじゃん!』

 キュウが唐突にごもっともな事を言ってくる。
 確かにその通りではあるのだが――

「それはキュウもだろ?」

『別にキュウは食べなくてもいいも~ん』

「ほう……じゃあキュウは今度から果物無しな」

『……エフィおばちゃんから貰うもん!』

「おまえなぁ……冗談だからそんな泣きそうな顔するなよ」

 キュウとお互いに子供の喧嘩の様なやりとりをしていると、ハルカ先輩の疲れの滲んだ声音が届く。

「盛り上がってるところで悪いけど……そろそろ本当に帰りましょ……」

 そう言うやハルカ先輩はモートゥスの方へと歩き出す。
 わかっていた事だが、相当疲れている様だ。

「あっ、す、すみませんでした!?」

 待たせてしまった事に対して謝罪しながら、慌ててハルカ先輩の後を追って歩き出したその時――

「――を大事にしなさいね」

 モートゥスへと向かう自分たちの背中にそんな今にもかき消えてしまいそうな声が届く。
 自分たちの後ろにいるのはリオナさんで、もちろん先ほどの言葉を発したのもリオナさんだ。

「へ? 今なんて言いまし……た?」

 よく聞こえなかったのでリオナさんの方を振り返り聞き返すが――

「……ううん、何でもないわ。さっ、帰りましょ!」

 そう言って答える事はなく、リオナさんもモートゥスの方へと歩いていった。

「ねえねえハルカちゃん! ハンバーグの付け合わせは何が良いと思う?」

「さぁ……? ジャガイモとかで良いんじゃないですか……?」

 何事も無かったかの様にリオナさんはハルカ先輩とそんな他愛のない会話を繰り広げる。
 置いていかれるわけにはいかないので自分も二人の後を追いかけ、その後も本当に何事もなく屋敷まで帰ってねむりについたのだが――振り返った時に見たリオナさんの酷く悲しげな表情が、ずっと頭から離れてはくれなかった。

―――――――――――――――――――――――――――――

「うぅ……視線が気になる……」

『もうちょっとだから我慢しなよ』

 日がすっかり城と外壁に隠され、街灯が明るく大通りを照らし出す夕刻。
 方々から向けられる好奇の視線に辟易しつつも、一方でそれも仕方ないと思えてしまう自分がいた。

「まあこんなきっちりした服着た奴が普通に街中歩いてたら、そりゃあ浮くよなぁ……」

 仕方ないと思えてしまう原因は、『自分がスーツを着て街中を歩いている』という点だ。
 どう考えても場違いである。
 しかし、今日はこれを着ない訳にはいかない。
 なぜなら今日は――

『パーティー楽しみだよね♪』

「うん、楽しみではあるんだけど……着く前に疲れちゃいそうだよ……」

 ソフィアの合格祝いのパーティーの当日なのだ。
 それ故に自分は、ハヴァリーさんが準備してくれた花束片手にスーツ姿で目的地であるアイラの家へと向かっているのだ。
 改めて考えてみても、髪も軽くセットされてスーツを着ているだなんて、視線を集めるのは仕方ないと思えてしまう。
 しかし、そんな状況であっても唯一救いがあるとすれば、何故か向けられる視線のほとんどが悪いものには感じられないという点だ。
 今も、一際強めな視線を感じたので気になってそちらへと目を向けてみると、露店を開いているおばさんがニコニコと微笑みながらサムズアップを返してきた。

(何なんだ本当に……?)

 確かにスーツ姿の自分は背伸びをしている様に見えるとは思うが、だからといってあのようなまるで「応援してるよ!」とでも言いたげな視線を向けられるだろうか。

「はぁ……」

 訳がわからないのも相まって、より一層疲れてしまい思わずため息を漏らすと、自分とは対照的に実に元気の良いキュウが、ド正論を突きつけてくる。

『素直に馬車で迎えに来て貰えば良かったじゃん!』

「どう伝えりゃいいかわかんなかったんだよ……」

 馬車というのは、アイラが準備をしてくれているソフィアの家へと向かうための手段の事だ。

「でもまあ……確かに迎えに来て貰うべきだったかもなぁ……」

 アイラの「屋敷の付近まで迎えに行く」という申し出を断った昨日の事を思い出す。
 一昨日の特訓時にリオナさんから「明日の朝十時頃にまたアイラの家に来るように」というサキトからの伝言と、「明日と明後日は講義はお休みだから楽しんできなさい」というリオナさん自身からの連絡を受け取った自分は、翌日言われた通りにアイラの家へと向かった。
 そこには既にソフィアとアイラとサキトの三人が集まっており、まず三人が無事に軍属大学院の入学試験に合格したことを伝えられた。
 ほぼほぼわかっていた事とはいえ、三人は結果が確定したことでかなり安心した様子であったし、本当に嬉しそうに報告してくる三人を見てこちらも嬉しくなったものだ。
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