143 / 163
第二章 軍属大学院 入学 編
134.巧妙な恩返し-Ⅱ
しおりを挟む「――僕が『また釣り糸が切られちゃったや』って言ったら、急に銀鬼灯を出して湖に振り抜いたんですよ。そしたら湖が割れて、下から魔物が出てきて――あ、まあそのまま霧散していったんですけどね。どうもおじいちゃんの作った釣り糸に魔力が含まれてたから食べちゃってたみたいなんですよ。その頃僕はまだ地面より上にしか魔力探知を出来なかったし、おじいちゃんもやってなかったと思うんですけど、一瞬で魔物に気がついて倒しちゃう何て流石だなぁって……」
「ん? ……まあよいか。たぶんじゃがワシの予想じゃと魔物を倒す事になったのは単なる偶然じゃと思うぞ? 昔っから怒ると自制のきかなくなる事が多かったからのう……タケル君の釣りの邪魔をする何かにもどかしくなって思わず振り抜いてしもうたんじゃぞたぶん」
「えっ!? そ、そうなんですか!?」
「一番面倒じゃった頃のあやつならば湖ごと……いや、その森一帯を消し飛ばしておったじゃろうのう。いやぁ丸くなったもんじゃ……」
ディムロイさんは何やらしみじみと語っているが、その危険人物と自分の知るおじいちゃんがとても同一人物だとは思えない。
「あの――」
もっと詳しく聞こうかと思ったのだが、自分は思わず口を噤んだ。
ソフィアよりも深く濃い琥珀の様な瞳を優しげに細め、本当に嬉しそうな表情でディムロイさんは自分の顔を見ていたのだ。
自分が言葉を飲み込んだのを確認したディムロイさんは口を開く。
「君は本当に良い風をしておる……」
「良い風……ですか?」
「ああ、気持ちに素直な良い風じゃよ。聞いておった通りじゃ」
笑みを称えたままディムロイさんは続ける。
「ワシは君に二つ程礼を言わねばならぬ事がある。それもどちらもワシにとって最大限の礼じゃ。ワシの老い先短いこの魂では返す事すらままならぬ程の恩義じゃのう」
鼻から笑みを含んだ空気を漏らし、一拍呼吸を置いてからディムロイさんはさらに続ける。
「一つはワシの大事な大事な曾孫娘の一人であるソフィアの命を助け、今までよりも明確な"希望"を抱かせてくれた事。そしてもう一つは後悔と使命感に塗れて半分惰性の様に魂を消費しておったワシの友に、奴の生き方を思い出させてくれた事じゃ」
「い、いえ、僕はそんな――」
「『大層な事はしていない』と、君はそう思うのじゃろう? ソフィアから存分に聞いておるよ。『お礼をしたいのに全然受け取ってくれない』とな。全くあやつの家族は総じて難儀な性質じゃて……。しかしまあ、じゃからこそ、それに救われる者もおるわけじゃ。――しかし、それによって傷つく者もおるかもしれぬ」
ディムロイさんの言葉の意味を、自分はしっかりとは理解できない。
だが、例え理解出来たとしても自分には反論を返す事は出来ないのだろうという妙な確信があった。
そう思わされる程の説得力を感じさせられたのだ。
ディムロイさんは尚も続ける。
「その性質は決して悪いものではないが、じゃからこそ悪いとも言えるものじゃからのう……。ほんに、年を重ねてもままならぬ事の何と多き事よ。しかし、それでこそ飽きのこぬ人生というものよのう?」
今度は何を言っているのか全く理解が出来ない。
しかし、どうやら自分が理解出来ないという事も理解してディムロイさんは話している様だ。
ちょっとばかり意地悪ではないだろうか。
「ふぅ、偏屈な爺ですまんのうタケル君。じゃが、これを君に説くのはワシの役目では無く、そもそも今は説ききれぬ事なのじゃとワシが勝手に思っておるのじゃよ」
まるで心でも読まれているかのような気分だ。
「そもそもワシの思い違いという可能性もあるからのう。じゃがまあ、強いて言える事があるとすれば『感情に際限など無い』という事じゃ」
「それは……どういう?」
「今はわからずともよいのじゃよ。人という生き物は、物事を真の意味で理解をするためにどうしても経験を要する。かといって経験だけでは足りぬ事もある。その足りぬ部分を補ってくれるものがどれだけ傍にあるかで、人生なぞいかようにも変わるのじゃよ。すべては巡り合わせじゃ」
何だか凄くモヤモヤとする。
言っている事がわかりそうでわからないのだ。
「いつか、今の言葉を僕も理解できるんですか?」
少しでもそんなモヤモヤを取り除きたいがために思わずそう聞き返した。
この感情に終わりはあるのかと――
「言うたじゃろう? 『感情に際限など無い』と」
「い、一生このままですか……?」
自分は至極真面目にそう聞き返したのだが、ディムロイさんは戯けた様に答える。
「どうじゃろうな? そう言う意味では『感情の際限は決め得ぬ』と言った方がよいかもしれんのう。まあせいぜい考えて生きるのじゃ少年よ」
何故わざわざ悩みの種を植え付けたのだろうかと最初は思った。
だけども、そう言うディムロイさんの目がおじいちゃんのやさしい目にとても似ていたためか、どうにも自分には悪意のある言葉には思えないのであった。
0
あなたにおすすめの小説
ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした
むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる