アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

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第二章 軍属大学院 入学 編

134.巧妙な恩返し-Ⅱ

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「――僕が『また釣り糸が切られちゃったや』って言ったら、急に銀鬼灯を出して湖に振り抜いたんですよ。そしたら湖が割れて、下から魔物が出てきて――あ、まあそのまま霧散していったんですけどね。どうもおじいちゃんの作った釣り糸に魔力が含まれてたから食べちゃってたみたいなんですよ。その頃僕はまだ地面より上にしか魔力探知を出来なかったし、おじいちゃんもやってなかったと思うんですけど、一瞬で魔物に気がついて倒しちゃう何て流石だなぁって……」

「ん? ……まあよいか。たぶんじゃがワシの予想じゃと魔物を倒す事になったのは単なる偶然じゃと思うぞ? 昔っから怒ると自制のきかなくなる事が多かったからのう……タケル君の釣りの邪魔をする何かにもどかしくなって思わず振り抜いてしもうたんじゃぞたぶん」

「えっ!? そ、そうなんですか!?」

「一番面倒じゃった頃のあやつならば湖ごと……いや、その森一帯を消し飛ばしておったじゃろうのう。いやぁ丸くなったもんじゃ……」

 ディムロイさんは何やらしみじみと語っているが、その危険人物と自分の知るおじいちゃんがとても同一人物だとは思えない。

「あの――」

 もっと詳しく聞こうかと思ったのだが、自分は思わず口を噤んだ。
 ソフィアよりも深く濃い琥珀の様な瞳を優しげに細め、本当に嬉しそうな表情でディムロイさんは自分の顔を見ていたのだ。
 自分が言葉を飲み込んだのを確認したディムロイさんは口を開く。

「君は本当に良い風をしておる……」

「良い風……ですか?」

「ああ、気持ちに素直な良い風じゃよ。聞いておった通りじゃ」

 笑みを称えたままディムロイさんは続ける。

「ワシは君に二つ程礼を言わねばならぬ事がある。それもどちらもワシにとって最大限の礼じゃ。ワシの老い先短いこの魂では返す事すらままならぬ程の恩義じゃのう」

 鼻から笑みを含んだ空気を漏らし、一拍呼吸を置いてからディムロイさんはさらに続ける。

「一つはワシの大事な大事な曾孫娘の一人であるソフィアの命を助け、今までよりも明確な"希望"を抱かせてくれた事。そしてもう一つは後悔と使命感に塗れて半分惰性の様に魂を消費しておったワシの友に、奴の生き方を思い出させてくれた事じゃ」

「い、いえ、僕はそんな――」

「『大層な事はしていない』と、君はそう思うのじゃろう? ソフィアから存分に聞いておるよ。『お礼をしたいのに全然受け取ってくれない』とな。全くあやつの家族は総じて難儀な性質じゃて……。しかしまあ、じゃからこそ、それに救われる者もおるわけじゃ。――しかし、それによって傷つく者もおるかもしれぬ」

 ディムロイさんの言葉の意味を、自分はしっかりとは理解できない。
 だが、例え理解出来たとしても自分には反論を返す事は出来ないのだろうという妙な確信があった。
 そう思わされる程の説得力を感じさせられたのだ。
 ディムロイさんは尚も続ける。

「その性質は決して悪いものではないが、じゃからこそ悪いとも言えるものじゃからのう……。ほんに、年を重ねてもままならぬ事の何と多き事よ。しかし、それでこそ飽きのこぬ人生というものよのう?」

 今度は何を言っているのか全く理解が出来ない。
 しかし、どうやら自分が理解出来ないという事も理解してディムロイさんは話している様だ。
 ちょっとばかり意地悪ではないだろうか。

「ふぅ、偏屈な爺ですまんのうタケル君。じゃが、これを君に説くのはワシの役目では無く、そもそも今は説ききれぬ事なのじゃとワシが勝手に思っておるのじゃよ」

 まるで心でも読まれているかのような気分だ。

「そもそもワシの思い違いという可能性もあるからのう。じゃがまあ、強いて言える事があるとすれば『感情に際限など無い』という事じゃ」

「それは……どういう?」

「今はわからずともよいのじゃよ。人という生き物は、物事を真の意味で理解をするためにどうしても経験を要する。かといって経験だけでは足りぬ事もある。その足りぬ部分を補ってくれるものがどれだけ傍にあるかで、人生なぞいかようにも変わるのじゃよ。すべては巡り合わせじゃ」

 何だか凄くモヤモヤとする。
 言っている事がわかりそうでわからないのだ。

「いつか、今の言葉を僕も理解できるんですか?」

 少しでもそんなモヤモヤを取り除きたいがために思わずそう聞き返した。
 この感情に終わりはあるのかと――

「言うたじゃろう? 『感情に際限など無い』と」

「い、一生このままですか……?」

 自分は至極真面目にそう聞き返したのだが、ディムロイさんは戯けた様に答える。

「どうじゃろうな? そう言う意味では『感情の際限は決め得ぬ』と言った方がよいかもしれんのう。まあせいぜい考えて生きるのじゃ少年よ」

 何故わざわざ悩みの種を植え付けたのだろうかと最初は思った。
 だけども、そう言うディムロイさんの目がおじいちゃんのやさしい目にとても似ていたためか、どうにも自分には悪意のある言葉には思えないのであった。

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