アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

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第二章 軍属大学院 入学 編

135.巧妙な恩返し-Ⅲ

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「久しぶり、じっちゃん!」

「ちょっサキト!? お、お久しぶりですディムロイ様」

「いいんじゃよアイラの嬢ちゃん。難癖つけてくる奴が居るようならワシが黙らせるからの。それよりも、さっきは早々にタケル君を連れて行ってすまんかったのう」

 話も終わり、ディムロイさんに連れられるままパーティー会場へと訪れた自分であったが、アイラの反応を見てディムロイさんが貴族である事を思い出す。
 完全におじいちゃんの友人だという認識でしか話していなかった。
 サキトの呼び方を許している様子から、大丈夫だと信じたい所だが、今からでも様付けで呼んだ方が――

「ああ、タケル君もそのままでいいからのう。あやつの事が無くとも曾孫娘の友人なのじゃ。アイラの嬢ちゃんももっと砕けてくれても良いのじゃがのう?」

 大丈夫だった様だ。
 しかしきっと、これはディムロイさんが寛容なだけなので、今後貴族と話すような事がある時は気をつけなければならないだろう。

「い、いえ私は……」

「ああ、わかっとるわかっとる、周りにおるのが商売相手や競争相手ばかりじゃからのう。まったく粗探しばかりしおってからに……家を継いどるわけでも無い子供にまで気を遣わせてしまうなぞ、嫌な世の中になってしまったものじゃよ……。おお、そうじゃ――」

 何か思いついた様子のディムロイさんが指を鳴らすと、自分とサキトとアイラの肩に一匹ずつ深緑の魔力の小鳥が生成される。

「そいつを連れておれば屋敷の者たちは特に何も言わぬじゃろうから、この会場に居づらくなったらばどことでも気分転換に散策するが良いぞ。ソフィアは今日の主役故、どうせあまりおぬしらとは話せぬじゃろうからのう。まあソフィアが気疲れした頃を見計らって少し話しかけに帰って来てくれたらばそれで十分じゃて」

「あ、ありがとうございますディムロイ様!」

「え? この鳥を連れてるだけで良いんですか?」

「それは言わばワシからの信頼の証じゃて。ああでも、あまり使用人の邪魔になるような事はせんでおくれのう。まあそのあたりの判断も含めての信頼じゃよ」

「わかった! ありがとなじっちゃん!」

 サキトが礼を述べた所で、何やら入り口付近が騒がしくなる。

「おお、どうやら準備が終わったようじゃのう」

 ディムロイさんの言葉から察するに、ソフィアが来たという事だろうか。
 自分たちが会場に入ってからすらもそれなりな時間がたっているが、やはりパーティーというからにはドレスなどを着るために時間がかかってしまったのだろうか。

『ドレスって時間かかるの?』

「いや、わからないけど……僕もこのスーツ着るのに結構時間かかっただろ?」

 キュウの素朴な疑問に答えはするが、ドレスの構造すら知らない自分には正直全く予測のつかない部分だ。

(でも……間に合うように準備はしてただろうし……何かあったのかな?)

 そんな自分の思考を余所に、入り口が開かれ――

「……ソフィア?」

 現れた少女は確かにソフィアだ。
 しかし、自分の知るソフィアとは全くの別人に見えたのだ。
 確かに普段の落ち着いてはいるがどこか元気そうな見た目からは一風変わり、髪がアップにセットされていたり、しっかりとメイクをされていたりする事で大人の女性といった印象だ。
 派手過ぎない程度に煌びやかな黒のドレスも、拍手の嵐の中をゆっくりと歩く少女の所作と相まって一層にその印象を引き立てている。
 だが、一番自分が違和感を覚えたのはドレスでもメイクでも所作でも無く――少女の瞳だ。

(なんで……あんな冷たい……)

 普段の優しく暖かい、見た者を安心させる様な彼女の眼差しが、見る者を凍てつかせるかの様な冷たいものになっているのだ。
 凜としたなどという表現では足りない程の――

「あ――」

 少女の瞳が自分たちを捉えた瞬間、一瞬揺れる。
 その瞳の奥に、自分は確かに自分の知るソフィアを見た。
 思わず安心する自分にアイラが小声で話しかけてくる。

「ソフィアが心を許せる相手ってあんまり居ないの。特にこういう場では油断が出来ないから、私なんかよりもよっぽど辛いと思うわ」

 アイラは表情を悲痛に歪めながら続ける。

「正直あんな状況だったとはいえ、初対面のあんたにすんなり普段通り接したのにはびっくりしたわ。まあ今はなんとなく納得はしてるけど……まあ、世間一般的に――特に貴族の間ではあっちのソフィアが普通なのよ」

 とても、自分の知る明るくて元気なソフィアからはあの状態が普通だなどとは想像がつかない。
 だとすれば、あの瞳は隙を見せまいと自分を抑える殻の様なものなのだろうか。
 そんな思いまでして何故こんな事を――というのは野暮なのだろう。
 自分には貴族の事なんてわからない。
 それでも、今目の前で友人が苦しんでいるわけだ。
 ならば自分には何が――

「だからねタケル。いつものソフィアに戻った時は、いつも通り接してあげて。それがあの子の何よりもの救いになるから」

「――うん、わかった」

 あの瞳を少なからず恐れた自分を戒める。
 あの状態がどうしても必要なものだと言うのならば、自分に出来る事はソフィアが羽を休められる場所になる事なのだろう。

「後でどうにかソフィアに会いに行こうな、キュウ」

『うん!』

 ソフィアの隙になってしまう可能性があるならパーティー中に迂闊に近づくのは悪手となり得るだろう。
 ソフィアの安心できる場所で、存分にキュウをもふもふさせてあげようと、そう画策するのであった。





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