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第二章 軍属大学院 入学 編
137.正体不明の感情-Ⅱ
しおりを挟む「というか本当になんでそんな所に座ってるんですの?」
「え、いや、ちょうど良さそうだったから思わず……」
「いくら座りやすそうでも、地面に直接座ったらせっかくの上等なスーツが汚れるじゃありませんの?」
「ああ、確かに……」
「まったくそんな事にも気がつかないなんて、お姉様のパーティーに招待されたという事がどれほどの事なのか自覚がありまして?」
冗談めかしてメアリーはそう口にする。
誰かに叱責して欲しい今の自分には、特に悪意のこもっていない皮肉だとはわかっていても、メアリーの辛口が少し心地良かった。
「……うん、そうだね、本当に……」
「ちょ、ちょっと!? 少しは反論してくださいまし! 私が本気で嫌みな事を言ってるみたいじゃありませんの!?」
自分が今の言葉で凹んでいると思ったらしいメアリーが慌ててそう口にする。
優しい子だ。
「ふふっ、ありがとうねメアリーちゃん」
「な、なんで皮肉られてお礼を言ってるんですの!? はっ!? まさかそういう性癖……?」
とんでもない解釈の仕方をされたようだ。
というか十一歳の女の子が何を言っているのだろうか。
「いや、別にそういうわけじゃ……」
「良いんですのよ別に、趣味趣向は人それぞれ、世の中には一定数そういう方々が存在するのは存じ上げておりますの。ただしお姉様にはその欲望を向けるんじゃありませんのよ!」
自分の反論を許す事無くメアリーはからかう様にそう口にする。
(ほう……)
礼儀正しい生真面目な子だと思っていたのだが、こういうやり取りも出来るのだと感心する。
しかしやられっぱなしなのも癪なので、ここらで反撃をしてみよう。
「メアリーちゃんはおませさんだなぁ」
「ちょっ!? おませさんとはなんですの! 失礼ですわよ失礼! 私はもう立派なレディーですの!」
そう胸を張って言ってはいるが、その姿はティストさんとどっこいどっこい――
(ん? どっこいどっこいならレディーでも問題はないのか?)
本人にきかれたらまず間違いなく半殺しにされる様な失礼な事を考えていると、メアリーは人差し指を立てながらまるで教えでも説くかの様に続けて話す。
「だいたい、私はともかくとしましても、貴族にそんな失礼な事を言っていますと、そのうちに痛い目に遭いますわよ?」
そういえばメアリーもソフィアの妹なのだから貴族であった。
貴族と話す際には礼儀を忘れずというのは最近何度も意識している事ではあるが、今のところまともに会話をした事のある貴族というのがソフィアとディムロイさんとメアリーだけなせいで、油断していると失態を犯しそうな気がしてならない。
まあそれはともかくとして――
「忠告ありがとう。やっぱり優しいねメアリーちゃんは」
「ッ――あなたに褒められても別に全然これっぽっちも嬉しくなんてないですの!」
自分の感謝の言葉に顔を赤くするメアリーを見ていると、先ほどまで泣いてしまう程辛い気持ちだった事が嘘の様に感じる。
思い違いかもしれないが、自分が泣いていた理由を深く聞かなかったのも、その後冗談の応酬をしてくれたのも、元気づけるためにしてくれたのではないだろうか。
まあ仮に思い違いであったとしても、無意識で人を元気づけられるのだから、やっぱりメアリーは優しい子なのだろう。
「まったく! 何が楽しくってあなたとこんな所で立ち話しなきゃならないんですの!」
「そう? 僕は結構楽しかったけど?」
恐らく照れ隠しに発せられたその言葉に素直な感想を返すと、メアリーはさらに顔を真っ赤にさせる。
「ッ――私は立つのが疲れたからそこに座るって言ってるのですわ!」
そう言ってメアリーが指さした先には、ちょっとしたお茶でも出来そうなテーブルと椅子があった。
というより余裕が無かったとはいえ、こんな近くに椅子があるのに、自分は気がつかなかったのか。
確かにこの状況ならば、地面に直接座る自分を不思議に思うのも仕方が無いだろう。
(いや、まあそれよりも……)
言葉の真意に気がついた自分はメアリーへと問いかける。
「じゃあ、そこに座ってお話しようか?」
「別に私はこれっぽっちも楽しくないですけど、あなたがどうしてもと言うのならばしてあげないこともないですわ! ほら、さっさと座るですの!」
やっぱり、優しい子だ。
(ちょっと素直じゃないけどね)
促されるまま椅子に座るとメアリーが両手を差し出してくる。
「……どうしたの?」
「察しが悪いですわね。お話に付き合ってあげるのですから、その可愛らしい子の毛並みを御礼として堪能させようとは思いませんの?」
「いや、それを察するのはちょっと無理が……まあ別に良いけどさ……」
察しの良さの要求レベルが高すぎる気がするが、キュウの毛並みの価値に気が付くとは実にお目が高い。
キュウに目配せをして確認をとろうとしたが、それより先に自発的にメアリーの目の前へと移動して背中を撫でろと言わんばかりに伏せた。
「あら、お利口さんですわね。うふふ、思った通りツヤツヤのモフモフ……」
キュウを撫でるメアリーの満足げなうっとりとした表情を見ていると、こちらまで誇らしい気持ちになってくる。
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