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第二章 軍属大学院 入学 編
147.知らぬが故に知り得ぬ感情-Ⅱ
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「モートゥスはエレベーターとは根本的に仕組みが違うわよ」
リオナさんと二人して困惑していると、特訓が一通り終わった様子のハルカ先輩が会話に入ってきた。
相変わらず抑揚の少ない声でハルカ先輩は続ける。
「エレベーターは一つの部屋が上下に移動するだけだけど、モートゥスはあの部屋がいっぱいあって直接目的地に運んでくれるから……その、そういう事、なんだけど……」
「……ああっ! な、なるほど! じゃあ今すぐに使えるんですね!」
理解するのに少し時間を要したが、つまりは出入口は一つだが大量にエレベーターが使えるようなものなのだろう。
いや、『直接目的地に運んでくれる』ということは上下だけじゃなく左右や斜めにも動いたりするのかもしれない。
だとすれば「大量のエレベーター」と表現するのも的確ではないだろう。
根本的に仕組みが違うとはそういう事か。
『結局どんな仕組みなのさ?』
恐らくエレベーターの仕組みすらもよくわかっていないキュウが肩の上で首を傾げる。
そもそも自分はこちらの世界のエレベーターというものを直に目にしたわけではない。
話を聞く限り似たような物であることは確かだが、自分の知っている仕組みと同じ物なのかはわからないので、当たり障りのない返答をしておく。
「さあ? まあよくわかんないけど便利って事だよ」
『そっか、便利なんだ』
我ながら適当な事を言ったものだと思ったが、キュウはそれだけで返答としては満足だったようだ。
チョロいもんである。
『チョロいってなにさ! アホ! 武のアホ!』
「二回言わんでも……まあ落ち着けって。ほれ、木の実食うか?」
『え? 食べる食べる♪』
多少機嫌を損ねてもこうしてお気に入りの木の実を差し出せば、大抵は上機嫌になるのだ。
やはりチョロい。
「じゃあさっそくその庭園エリアって所に行ってみますね!」
「うん、いってらっしゃい。ティスト様を待たせないように時間に気を付けて帰ってくるのよ~」
「――はい!」
リオナさんへと返事をしてモートゥスの入り口へと向かう。
先ほど聞いた通り、魔力を流すと直ぐに扉が開いていつもの小部屋が現れた。
――行き先はどこだい?
この頭に何かを差し込まれる様な感覚にも、すっかり慣れたものである。
「庭園エリアって場所でお願いします!」
――わかった。
モートゥスから了解の返事をもらい乗り込むと、やたらとキュウが機嫌良さげな事に気がついた。
「どうしたんだキュウ? 良い味の木の実だったのか?」
『ちがうよ! 武が笑ってるからキュウもうれしいの♪』
「え? 笑ってた?」
『うん! リオナんの言葉聞いた時から笑ってたの!」
「ああ……まあ、うん」
やはりまた顔に出てしまっていたか。
確かに先ほどリオナさんの言葉を聞いた時、自分は嬉しかった。
おじいちゃん以外の誰かから、当たり前に些細なことを心配してもらえるのが――『気を付けて帰ってくるのよ』という言葉をかけてもらえるのが何だかくすぐったかったのだ。
今回に限った話ではない。
リオナさんの言動からはいつも不思議な温かみを感じるのだ。
ひょっとしたらそれは、サキトに対する愛情の余波なのかもしれない。
帝都に来た時に見たあの光景を――弟の無事を知り、人目も気にせず抱きついて泣きながら喜ぶ姉の姿を思えば、その深さは聞くまでもない。
「兄弟、か……」
どんな存在なのだろうか。
特別なのは言わずもがなだが、自分がおじいちゃんに対して感じているものとは何か違うのだろうか。
自分もおじいちゃんの身にもし何かあれば、あの様に人目も憚らずに泣いてしまうかも――
「――いや、そもそもおじいちゃんの身に何かある事が想像出来ないな……」
キュウも同じ考えに至ったのか、肩の上で何度も首を縦に振る。
正確に言うのならば、きっとおじいちゃんならばその身にどんな困難が降りかかろうとどうにかしてしまうのだろうと、結論がそこに収束してしまうのだ。
何か自分の想像もつかないようなレベルの事が起きないと無理なのかもしれない。
『お月様が落ちてきたり――してもどうにかしちゃいそうだね』
「……うん、全部切り裂いて砕いちゃいそうだ」
キュウが中々に突飛な例えを出してくれたが、やはり考えを覆すことは出来なかった。
実際に衛星を砕いてしまう程の強大な力を目にした事なんてあるわけもない。
しかし、どうにかしてしまうと思ってしまうのだ。
(身内贔屓ってやつなのかな?)
そんな事を考えているうちに、もはや聞き慣れた鉦の音が鳴る。
目的地に到着したのだと理解すると同時にモートゥスの扉が開き、肌に爽やかな風を感じる。
「……ん? 風?」
不思議に思い、小さくモートゥスへと礼を告げながら扉の奥へと進むと、そこにはまさに"庭園"と呼ぶに相応しい風景が広がっていた。
森や屋敷の花畑の様に一面が色とりどりの花で彩られているわけではなく、腰ほどの高さの広葉樹などを主体とした豊かな緑溢れる爽やかな風景だ。
所々に植えられた花木は実に良いアクセントになっており、目に映る景色が単調になるのを防いでくれている。
そよ風を発生させる様な魔道具でもあるのか、辺りには葉が柔らかく擦れ合う音が静かに響き渡り、雲一つ無い青空へと溶けるように消えていく。
想像していたものよりも遥かに広々としており、まるで屋外に居るかのような錯覚を――
「――あれ? 青空……?」
確かリオナさんが「地下施設の一つ」だと言っていたので、屋内である事は確かなはずなのだが。
「来る場所を間違えた……? いや、ちゃんと庭園エリアって伝えたからそれは無いよな……。もしかして屋敷の結界みたいに景色を投影してるだけかな?」
よくよく見てみると、明るいにも拘わらず太陽が見当たらない。
なぜ見当たらないのかはよくわからないが、恐らく景色を投影しているという線で間違いは無いだろう。
リオナさんと二人して困惑していると、特訓が一通り終わった様子のハルカ先輩が会話に入ってきた。
相変わらず抑揚の少ない声でハルカ先輩は続ける。
「エレベーターは一つの部屋が上下に移動するだけだけど、モートゥスはあの部屋がいっぱいあって直接目的地に運んでくれるから……その、そういう事、なんだけど……」
「……ああっ! な、なるほど! じゃあ今すぐに使えるんですね!」
理解するのに少し時間を要したが、つまりは出入口は一つだが大量にエレベーターが使えるようなものなのだろう。
いや、『直接目的地に運んでくれる』ということは上下だけじゃなく左右や斜めにも動いたりするのかもしれない。
だとすれば「大量のエレベーター」と表現するのも的確ではないだろう。
根本的に仕組みが違うとはそういう事か。
『結局どんな仕組みなのさ?』
恐らくエレベーターの仕組みすらもよくわかっていないキュウが肩の上で首を傾げる。
そもそも自分はこちらの世界のエレベーターというものを直に目にしたわけではない。
話を聞く限り似たような物であることは確かだが、自分の知っている仕組みと同じ物なのかはわからないので、当たり障りのない返答をしておく。
「さあ? まあよくわかんないけど便利って事だよ」
『そっか、便利なんだ』
我ながら適当な事を言ったものだと思ったが、キュウはそれだけで返答としては満足だったようだ。
チョロいもんである。
『チョロいってなにさ! アホ! 武のアホ!』
「二回言わんでも……まあ落ち着けって。ほれ、木の実食うか?」
『え? 食べる食べる♪』
多少機嫌を損ねてもこうしてお気に入りの木の実を差し出せば、大抵は上機嫌になるのだ。
やはりチョロい。
「じゃあさっそくその庭園エリアって所に行ってみますね!」
「うん、いってらっしゃい。ティスト様を待たせないように時間に気を付けて帰ってくるのよ~」
「――はい!」
リオナさんへと返事をしてモートゥスの入り口へと向かう。
先ほど聞いた通り、魔力を流すと直ぐに扉が開いていつもの小部屋が現れた。
――行き先はどこだい?
この頭に何かを差し込まれる様な感覚にも、すっかり慣れたものである。
「庭園エリアって場所でお願いします!」
――わかった。
モートゥスから了解の返事をもらい乗り込むと、やたらとキュウが機嫌良さげな事に気がついた。
「どうしたんだキュウ? 良い味の木の実だったのか?」
『ちがうよ! 武が笑ってるからキュウもうれしいの♪』
「え? 笑ってた?」
『うん! リオナんの言葉聞いた時から笑ってたの!」
「ああ……まあ、うん」
やはりまた顔に出てしまっていたか。
確かに先ほどリオナさんの言葉を聞いた時、自分は嬉しかった。
おじいちゃん以外の誰かから、当たり前に些細なことを心配してもらえるのが――『気を付けて帰ってくるのよ』という言葉をかけてもらえるのが何だかくすぐったかったのだ。
今回に限った話ではない。
リオナさんの言動からはいつも不思議な温かみを感じるのだ。
ひょっとしたらそれは、サキトに対する愛情の余波なのかもしれない。
帝都に来た時に見たあの光景を――弟の無事を知り、人目も気にせず抱きついて泣きながら喜ぶ姉の姿を思えば、その深さは聞くまでもない。
「兄弟、か……」
どんな存在なのだろうか。
特別なのは言わずもがなだが、自分がおじいちゃんに対して感じているものとは何か違うのだろうか。
自分もおじいちゃんの身にもし何かあれば、あの様に人目も憚らずに泣いてしまうかも――
「――いや、そもそもおじいちゃんの身に何かある事が想像出来ないな……」
キュウも同じ考えに至ったのか、肩の上で何度も首を縦に振る。
正確に言うのならば、きっとおじいちゃんならばその身にどんな困難が降りかかろうとどうにかしてしまうのだろうと、結論がそこに収束してしまうのだ。
何か自分の想像もつかないようなレベルの事が起きないと無理なのかもしれない。
『お月様が落ちてきたり――してもどうにかしちゃいそうだね』
「……うん、全部切り裂いて砕いちゃいそうだ」
キュウが中々に突飛な例えを出してくれたが、やはり考えを覆すことは出来なかった。
実際に衛星を砕いてしまう程の強大な力を目にした事なんてあるわけもない。
しかし、どうにかしてしまうと思ってしまうのだ。
(身内贔屓ってやつなのかな?)
そんな事を考えているうちに、もはや聞き慣れた鉦の音が鳴る。
目的地に到着したのだと理解すると同時にモートゥスの扉が開き、肌に爽やかな風を感じる。
「……ん? 風?」
不思議に思い、小さくモートゥスへと礼を告げながら扉の奥へと進むと、そこにはまさに"庭園"と呼ぶに相応しい風景が広がっていた。
森や屋敷の花畑の様に一面が色とりどりの花で彩られているわけではなく、腰ほどの高さの広葉樹などを主体とした豊かな緑溢れる爽やかな風景だ。
所々に植えられた花木は実に良いアクセントになっており、目に映る景色が単調になるのを防いでくれている。
そよ風を発生させる様な魔道具でもあるのか、辺りには葉が柔らかく擦れ合う音が静かに響き渡り、雲一つ無い青空へと溶けるように消えていく。
想像していたものよりも遥かに広々としており、まるで屋外に居るかのような錯覚を――
「――あれ? 青空……?」
確かリオナさんが「地下施設の一つ」だと言っていたので、屋内である事は確かなはずなのだが。
「来る場所を間違えた……? いや、ちゃんと庭園エリアって伝えたからそれは無いよな……。もしかして屋敷の結界みたいに景色を投影してるだけかな?」
よくよく見てみると、明るいにも拘わらず太陽が見当たらない。
なぜ見当たらないのかはよくわからないが、恐らく景色を投影しているという線で間違いは無いだろう。
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