聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱

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第二章

30.黒い死を防ごう

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 正直、まだ『黒い死』と黒死病が全く同じ病気だと決まったわけじゃない。所詮素人に毛が生えた程度の知識しかない私が感染症対策を広めるのは少し不安だが、まったく意味がないと言うことはないだろう。
 というか治す側が不安になってどうする!


「実はさっき皆さんに飲んでいただいた丸薬、いつもと同じものじゃないんです。これはつい最近完成した改良版で……『黒い死』にもよく利く薬です」


 自分で言っておいて、怪しさ満点だなとは思う。偶然持ってきていた物を使う羽目になってしまたから、前回のようにちゃんとした設定を考えていなかったのだ。もっとマシな説明はなかったのかという冷たい視線がミハイルからとんでくる。


「黒い死……!やっぱり、そうだったのね」
「噂に聞いてたより大分フツーなんだな。おらあてっきり、かかったら苦しんで死ぬしかないかと思ってたぜ」
「お前は馬鹿か!それはどう考えてもコハクさまのおかげだろ!さっきまで苦しい苦しいって喚いてたくせによォ!」
「ほれ、そうすぐに騒ぐじゃないわい。話が進まんじゃろ」


 村人たちもある程度冷静になって来たのか、今度は場が荒れることはなかった。
 中にはさっそく改良版丸薬に興味が出てきたのか、まじまじと瓶を眺めている者もいる。というかこの村は私という存在と関わってきたせいか、はじめて会ったときよりも新しいものに寛容になったと思う。


「皆さんご存じの通り、『黒い死』はとてもうつりやすい感染病です。噂にもあるように『黒い死』はネズミなどの動物からもうつりますが、当然人から人にもうつります」
「ってことは、やっぱり家畜は燃やした方がええんが?」
「患者が増えすぎない限り、その必要はありません。ですが、家畜など動物と接したあとは念入りに清潔にしてください」


 そう答えてやれば、おそらく家畜を飼っている男性は分かりやすく安堵した様子だった。
 本当なら減らした方がいいかもしれないが、私の魔法がある分少し緩くても大丈夫だろう。ケイン村全員分の丸薬ならすぐに作れるし、彼らの生活へのダメージが少ない方がいいはずだ。


「あら、じゃあ家畜を殺すのは間違っていたっていう事かしら?」
「いえ、治療できる人がいない場合、できるだけ感染源を減らすのは大事なことですよ」
「この病気がうつるってのは分かったんだけど、俺普通に嫁と過ごしちまったんだ。嫁もかかっちゃったかな」


 人から人にもうつると言ったからか、みんな不安そうにしている。この村は狭い家に家族で生活しているのがほとんどなので、家族は全身感染していると考えた方がいいだろう。
 なるべく分かりやすい言葉に気を付けながら、順番に説明していく。一瞬しっかり説明しようとも考えたが、彼らの家族がこれ以上他の村人と接触しないためにも多少省いた方が良いだろう。


「そうですね、その可能性は十分にあると思います。患者と話したり、触れたり、触ったものに触れただけでも感染しますので」
「そ、そんな!」
「コハクちゃまや、まさかここであたいらだけに説明してるのは」
「はい。村人全員を一か所に集めたとして、それは余計に黒い死を広めているだけです。ひとまずここに居る”間違いなく健康”なみなさんに対策を教えますので、それを他の方に広めてください」


 丸薬はどうやら治癒魔法と相性がいいらしく、なんとのんだあとに無敵時間が発生する。そんな馬鹿なことある?と困惑したエダと二人で散々検証した結果、改良版丸薬をのんだあと24時間は何の状態異常にもならないことが判明したのだ。
 なお鑑定を引き受けてくれたミハイルは大爆笑していたが、たぶん私も生産者じゃなかったら笑ってた。無敵時間がある薬イズ何。むしろ無敵時間そのものが状態異常では。


「本当は薬師である私がお伝えしたいのですが、丸薬の在庫が少なくて……」


 まさかこんなことになるとは思っていなかったので、今日持ってきた分が全部なのだ。不信に思われないためにも、一度引き上げるべきだろう。


「ああ、そう言う事ならまかせな!何としても今日中に全員に伝えておくぞ!」
「ありがとうございます。明日には追加分を持ってくるので、残りは今ここに居るみなさんの家族に飲ませてください。包んでお渡ししますので、あとで必要数を教えてくださいね」
「……!ありがとうございます!」


 とりあえず急ぎの分は足りるだろう。
 安堵したように頭を下げる村人たちをちらりとみて、小声でミハイルに話しかける。


「ミハイルさん、先に戻って丸薬の準備をお願いできますか?50もあれば十分だと思います」
「はあ!?この状況でコハクちゃんを一人にしろって?」
「基本的な対策を教えたらすぐに帰るので大丈夫ですよ。フブキもいますし、うろちょろしたりしませんから」
「そうは言ってもねえ……」
『こんな狭い村じゃ何かしたらすぐにバレるし、馬鹿が現れないように俺が見張っておく。それよりも丸薬の準備に余計な魔力を取られる方が面倒だろう』


 それでもミハイルは渋い顔をしたが、一応はフブキの言葉に納得したようだ。
 眉間にしわを寄せながら私に防御魔法を何重もかけ、そして結界魔法もかけてやっと薬局から出ていった。別れる直前まで何度も振り返っていたが、私はそんなに危なっかしそうにみえるのだろうか。

 少し不満に思うもの、今はそれどころじゃないと気持ちを切り替えた。

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