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第二章
40.村の状況
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服ビリというのは、漫画などの戦闘シーンにて起こることがある現象だ。
どれだけ攻撃を受けても、衣服が変な破れ方をするだけで全裸にはならないという二次元マジックだが。
(まさか洗浄魔法でこの手で実現させる日が来るとは……)
日本であれば人権をなくしていたところだった。
私は目のハイライトが人権の代わりに消えていくのを感じながら、そっとシーツを呆然としているクロヴィスたちに巻いた。大丈夫、破けたといってもまだ六割くらい布地が残っている。もともと敵の攻撃で八割損傷していたから誤差の範囲だ。よく見ればハロウィンのコスプレとして通用しなくもない気がするし。
「うんうん、初めてにしては上出来だね!個性的な破れ方だけど」
「怪我が蒸れるといけないので、風通しを良くしただけです」
『外傷は全部治していなかったか?』
クロヴィスたちにも聞こえるようにミハイルに答える。怪しまれるといけないからフブキに返答しなかっただけで、別に他意はない。ないよ。
「はは、そう気にするな。久しぶりにさっぱりできて気分がいいよ。私はどうも攻撃魔法に特化しすぎて、こういう生活魔法は全くできないんだ」
さすが一国の王子というか、クロヴィスはすぐに我に返ってフォローを入れてくれた。まあ、立場的に本当のことかもしれないが。
ともかく、気にしていないようで何よりだ。私はクロヴィスの気が変わる前にさっさと話題を変えた。
「久しぶりって……そういえば、クロヴィスの髪って金色なんだね」
「……ああ、泥で分からなかったのか。家を汚してごめんね」
「薬局はそういうけが人を受け入れるための場所なんだから、気にしないでゆっくり休んで」
この世界に病院のような概念がないせいか、クロヴィスはまるで人の家に土足で入ってしまったような反応をみせる。というか、たとえ家だったとしてもひん死の相手にそんなことで怒るはずもない。
「それはありがたい提案だが、よそ者が数少ないベッドを占領していいのか?」
「もちろんよ。この村は平和なところだから、薬局に泊めるほど大怪我する人はそういないわ」
今まで黙っていたジェラルドが申し訳なさそうにそう言った。それでも外に出て宿をとるとは言わないところを見ると、少し信頼してくれているようだ。
「でも、最近地方に避難する貴族が増えてきているだろう?中ではお前らが黒い死を連れてきたって攻撃的になるところもあるから、ちょっと心配だったんだ」
『実際にあったような言い方だな』
「王子だし、そういう報告でもあったんじゃない?」
やっぱり、クロヴィスたちも黒い死に悩まされているようだ。しかもこの感じであれば、まだ解決法は見つかっていない。少し誘導されているのは分かっているが、打ち明けるなら今だろう。
「その心配ならいらないわ」
そうはっきりと断言すれば、クロヴィスはわずかに整った眉をひそめた。何も言葉を返さず、私の次の言葉を待っている。ジェラルドは驚いたように目を丸くしたが、クロヴィスを真似て同じように沈黙を保つ。
そんな二人の目線を受けて、私はなんてことないことのように事情を説明する。
「実をちょうど昨日、この村にも黒い死にかかった村人が出たの」
ジェラルドがわずかにベッドから腰を浮かせた。そして血相を変えてクロヴィスを見るが、クロヴィスはまっすぐ私を見つめたままだ。
「その話だと、むしろタイミングが最高に悪いように思えるけど」
「ううん、黒い死はかかった瞬間に発症するわけじゃない。二日から七日ほどの潜伏してから発症するんだよ。ここの村人ならみんなこのことを知っているから、二人のせいにすることはないわ」
「は、すぐに発症しないだと!?」
「――――、ずいぶん詳しいんだな」
目を見開いて驚くジェラルドとは対照的に、クロヴィスはこちらを探るような視線を向ける。
これはエダや村人たちと話して分かったことだが、この世界では症状が出るまで病気にかかっているという認識はないのだ。症状が出たその時に原因があると考えているから、その場で理由を決めてしまう。
だから病気の始まりをたどるのがすごく難しかったりするのだが……これは今説明しても、すぐに理解してもらうのは難しいだろう。
「私はエダの弟子で、ずっと黒い死の研究をしていたのよ」
「なっ!?」
「それは本当か?」
「昨日二人に飲ませた薬湯はオリジナルレシピだって言ったの覚えてる?」
「………………ああ、あの」
ジェラルドとフブキの顔が分かりやすく歪んだ。口にしたジェラルドに至っては思い出したくもないといった様子である。
私は苦笑いを返しつつ、今朝作った丸薬を取り出して見せた。
「あれはこの丸薬を水に溶かしたものだよ。これ自体は黒い死に向けて開発したものだけど、回復力を大きく上げるから他にも効果があるの」
万病に効くというフレーズと迷ったけど、怪しすぎたのでやめた。それにそんな煽り文句じゃ世の中に売り出されたときに余計な争いを生み出しそうだ。
「回復力を上げる?ポーションと何が違うんだい?」
「ポーションは体力を回復させるけど、この丸薬はその回復力自体を上げているイメージね」
本当は丸薬に付与した治癒魔法が発動しているだけだが、まだ本当のことを言うわけにはいかない。薬のことで嘘を言いたくないが、黒い死はしっかりこの世界から消し去ると自分に言い訳をする。
「……??これが、昨日の薬湯になるのか?」
ジェラルドは何もわかっていないようで、不思議そうに丸薬を見ていた。この世界で薬師がレシピを公言しないおかげで、クロヴィスからも深く突っ込まれることはない。彼らにとって薬の成分はどうでもよく、治ればそれでいいのだろう。
少し複雑な気持ちになりながら、二人の手に丸薬をそれぞれ一つ載せる。
「二人もこれをのんでね。怪我を治すし、黒死病を防げるから」
なぜか丸薬を口にしたあと無敵時間が一日ほど続くので、それを利用するつもりだ。治癒魔法を直接かけたときにはない効果である。
特にクロヴィスは昨日薬湯をのんでいないので早急に口にして欲しいが、なぜか丸薬を手にしたジェラルドはこの世の終わりのような表情を浮かべた。
どれだけ攻撃を受けても、衣服が変な破れ方をするだけで全裸にはならないという二次元マジックだが。
(まさか洗浄魔法でこの手で実現させる日が来るとは……)
日本であれば人権をなくしていたところだった。
私は目のハイライトが人権の代わりに消えていくのを感じながら、そっとシーツを呆然としているクロヴィスたちに巻いた。大丈夫、破けたといってもまだ六割くらい布地が残っている。もともと敵の攻撃で八割損傷していたから誤差の範囲だ。よく見ればハロウィンのコスプレとして通用しなくもない気がするし。
「うんうん、初めてにしては上出来だね!個性的な破れ方だけど」
「怪我が蒸れるといけないので、風通しを良くしただけです」
『外傷は全部治していなかったか?』
クロヴィスたちにも聞こえるようにミハイルに答える。怪しまれるといけないからフブキに返答しなかっただけで、別に他意はない。ないよ。
「はは、そう気にするな。久しぶりにさっぱりできて気分がいいよ。私はどうも攻撃魔法に特化しすぎて、こういう生活魔法は全くできないんだ」
さすが一国の王子というか、クロヴィスはすぐに我に返ってフォローを入れてくれた。まあ、立場的に本当のことかもしれないが。
ともかく、気にしていないようで何よりだ。私はクロヴィスの気が変わる前にさっさと話題を変えた。
「久しぶりって……そういえば、クロヴィスの髪って金色なんだね」
「……ああ、泥で分からなかったのか。家を汚してごめんね」
「薬局はそういうけが人を受け入れるための場所なんだから、気にしないでゆっくり休んで」
この世界に病院のような概念がないせいか、クロヴィスはまるで人の家に土足で入ってしまったような反応をみせる。というか、たとえ家だったとしてもひん死の相手にそんなことで怒るはずもない。
「それはありがたい提案だが、よそ者が数少ないベッドを占領していいのか?」
「もちろんよ。この村は平和なところだから、薬局に泊めるほど大怪我する人はそういないわ」
今まで黙っていたジェラルドが申し訳なさそうにそう言った。それでも外に出て宿をとるとは言わないところを見ると、少し信頼してくれているようだ。
「でも、最近地方に避難する貴族が増えてきているだろう?中ではお前らが黒い死を連れてきたって攻撃的になるところもあるから、ちょっと心配だったんだ」
『実際にあったような言い方だな』
「王子だし、そういう報告でもあったんじゃない?」
やっぱり、クロヴィスたちも黒い死に悩まされているようだ。しかもこの感じであれば、まだ解決法は見つかっていない。少し誘導されているのは分かっているが、打ち明けるなら今だろう。
「その心配ならいらないわ」
そうはっきりと断言すれば、クロヴィスはわずかに整った眉をひそめた。何も言葉を返さず、私の次の言葉を待っている。ジェラルドは驚いたように目を丸くしたが、クロヴィスを真似て同じように沈黙を保つ。
そんな二人の目線を受けて、私はなんてことないことのように事情を説明する。
「実をちょうど昨日、この村にも黒い死にかかった村人が出たの」
ジェラルドがわずかにベッドから腰を浮かせた。そして血相を変えてクロヴィスを見るが、クロヴィスはまっすぐ私を見つめたままだ。
「その話だと、むしろタイミングが最高に悪いように思えるけど」
「ううん、黒い死はかかった瞬間に発症するわけじゃない。二日から七日ほどの潜伏してから発症するんだよ。ここの村人ならみんなこのことを知っているから、二人のせいにすることはないわ」
「は、すぐに発症しないだと!?」
「――――、ずいぶん詳しいんだな」
目を見開いて驚くジェラルドとは対照的に、クロヴィスはこちらを探るような視線を向ける。
これはエダや村人たちと話して分かったことだが、この世界では症状が出るまで病気にかかっているという認識はないのだ。症状が出たその時に原因があると考えているから、その場で理由を決めてしまう。
だから病気の始まりをたどるのがすごく難しかったりするのだが……これは今説明しても、すぐに理解してもらうのは難しいだろう。
「私はエダの弟子で、ずっと黒い死の研究をしていたのよ」
「なっ!?」
「それは本当か?」
「昨日二人に飲ませた薬湯はオリジナルレシピだって言ったの覚えてる?」
「………………ああ、あの」
ジェラルドとフブキの顔が分かりやすく歪んだ。口にしたジェラルドに至っては思い出したくもないといった様子である。
私は苦笑いを返しつつ、今朝作った丸薬を取り出して見せた。
「あれはこの丸薬を水に溶かしたものだよ。これ自体は黒い死に向けて開発したものだけど、回復力を大きく上げるから他にも効果があるの」
万病に効くというフレーズと迷ったけど、怪しすぎたのでやめた。それにそんな煽り文句じゃ世の中に売り出されたときに余計な争いを生み出しそうだ。
「回復力を上げる?ポーションと何が違うんだい?」
「ポーションは体力を回復させるけど、この丸薬はその回復力自体を上げているイメージね」
本当は丸薬に付与した治癒魔法が発動しているだけだが、まだ本当のことを言うわけにはいかない。薬のことで嘘を言いたくないが、黒い死はしっかりこの世界から消し去ると自分に言い訳をする。
「……??これが、昨日の薬湯になるのか?」
ジェラルドは何もわかっていないようで、不思議そうに丸薬を見ていた。この世界で薬師がレシピを公言しないおかげで、クロヴィスからも深く突っ込まれることはない。彼らにとって薬の成分はどうでもよく、治ればそれでいいのだろう。
少し複雑な気持ちになりながら、二人の手に丸薬をそれぞれ一つ載せる。
「二人もこれをのんでね。怪我を治すし、黒死病を防げるから」
なぜか丸薬を口にしたあと無敵時間が一日ほど続くので、それを利用するつもりだ。治癒魔法を直接かけたときにはない効果である。
特にクロヴィスは昨日薬湯をのんでいないので早急に口にして欲しいが、なぜか丸薬を手にしたジェラルドはこの世の終わりのような表情を浮かべた。
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