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第二章
42.作戦開始1
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クロヴィスたちと別れて、私はフブキと一緒に薬局を出た。
頭の中で村の地図を広げながら、当初決めていたルートで回っていく。村人たちはきちんと私の言いつけを守っているようで、この時間になっても誰一人として外に出ていない。
「意図せずにクロヴィスたちを隠しやすい環境を作っちゃったわね」
『ああ、村の老人には意味もなく薬局に並んでいるやつがいるからな。コハクを孫か話相手だとでも思っているんだろ』
「意外とそういうところからこの世界の常識を学べるから、意外と助かっているんだよ」
呆れた声のフブキに苦笑いを返す。
実際、彼らの話から庶民の生活レベルや一般人の考え方がよくわかる。ここらへんの知識はエダから得られなかったものだ。
(師匠が教えてくれることはどうも品がいいというか、上流階級向けっていう感じなんだよね)
私の目標を知っているからあえてそうしているのかもしれないけど、こういう『この世界の人』との対話って大事だと思う。
そんなことを考えつつ、村人に片っ端から改良版丸薬を渡していく。南側の方が後から感染したのか、今回っている家までは症状が酷い人はいなかった。鑑定を通しても黒い斑点が現れている人はほとんどおらず、おそらく黒い死に感染してから三、四日しか経っていないと考えられる。
これならこっそり治癒魔法をかける必要はなさそうだ。
「黒い斑点がすべて消えたので、ひとまず黒い死は完治しました。ですが、今日一日は家から出ずに安静にしてくださいね」
「よ、よかったぁ!コハクさま、ありがとう!」
自分の体をペタペタ確認した少年は泣きそうな声でそういうと、勢いよくベッドから起き上がった。
少年に黒い斑点はほとんどなかったが、幼いせいかほどまでベッドの上でぐったりしていたのだ。この子の両親も黒い死を患っていたせいで、この家の空気はかなり悪かった。
(ケイン村にはお酒もそんなにないからアルコール消毒にも期待できないし、やっぱり魔法で洗浄するしかないのかな……建物に洗浄をかけたら崩壊するのかな)
村人たちだけなら強い魔法を使っても誤魔化せるけど、クロヴィスたちがいる今派手な魔法行使は控えた方がいいだろう。暗殺者を撃退した時に使った魔法ですら目に留まったのだから、村一つ丸ごと洗浄するような大規模魔法は絶対によろしくない。それにまた失敗したら、せっかく築いてきた信用が一瞬でなくなる。聖女じゃなくて痴女になってしまう。
そう後処理に頭を悩ませていると、キーンと高い音が耳元で聞こえた。私よりはるかに耳がいいフブキが何の反応も示さなかったから、すぐにこれが魔法だと気づいた。
『やあ、そっちは順調かい?』
柔らかい声が頭の中で響いた。ここ数か月ですっかり聞きなれたミハイルの声だ。ミハイルは離れていても連絡取れると言っていたが、なるほど。テレパシーのような魔法もあるんだ。
突然立ち止まった私に気づいたフブキは、すぐにミハイルから連絡があったと察して大人しくお座りした。
「はい。どうやら村の北側から黒い死が始まったみたいで、南側は予想よりもずっと早く終わりました。ミハイルさんの方は?」
『それはよかった。ぼくの方は……そうだねえ、やっと密室で野郎を見つめ続ける仕事から解放されたって感じ?』
それはつまり、クロヴィスたちが薬局を出たということだ。
「一応確認ですが、食べ物を探しに行ったとかではないですよね?」
『それならわざわざ連絡しないよ。――あの程度ならフブキは普通に気づくとは思うけど、一応気を付けて。低級の姿くらまし魔法を使ってコハクちゃんの方に向かっているよ』
「わかりました。フブキに伝えておきます」
『うん。それじゃあ、ぼくは野外で野郎を観察するお仕事に戻るよ』
そういうと、ブツリと切断されるような気配がした。
私はしゃがんでフブキを撫でながら、簡潔にミハイルからの報告を小声で伝えた。カモフラージュとしての行動だが、まじめ腐った声で話しながらもただのわんこのように顔をとろかせたフブキがかわいいので、今後もこうやって誤魔化すことが決定した。カッコイイ顔立ちの犬の甘えた顔って、最高だよね。意義は聞くけど受け付けないよ。
ちなみにフブキは今日も最高にもふもふである。
『低級の姿くらましはあくまでも術者を認識しずらくなるだけだ。俺には効かん』
「私は治療に集中しちゃうから、フブキに任せるね。ミハイルさんも予定通りクロヴィスたちを尾行しているから、不審な行動はすぐに止められると思うよ」
『しかしあいつ、いい性格しているな。低級の姿くらましを使っている相手に透明化で尾行なんざ、嫌がらせも良いところだよ』
「ま、まあ、クロヴィスとジェラルドはどちらかというと剣士タイプだし、こちら側に余裕ないから……」
じゃなきゃ三重尾行なんて作戦をしたりしない。
こういうフブキの反応を見る度、改めてミハイルの才能を実感する。彼が優しい人で本当に良かった。
「あの二人がすぐに私たちを見つけられるように、広場を通って北側に行くわよ」
今回のメインミッションはもちろんケイン村から黒い死をなくすことだが、同時にクロヴィスたちに私の有用性を示さなくてはならない。
姿くらましの魔法の効果があくまでも認識されにくくなるだけなら、二人は治療現場である村人の家の中に入れない。つまり、少し離れたところで見るということになる。
(あと五軒だけだから、一度回った家にもう一回行くこともないし……ここからは症状が重いところから回っていこうかな)
もうすぐクロヴィスたちは広場が見えるところまで来れるはずだから、今のうちに鑑定で下見しておこう。
警戒をフブキに任せて、私は家に近づいて窓から鑑定を発動させた。
……少しだけ不審者の気分になってしまった。
頭の中で村の地図を広げながら、当初決めていたルートで回っていく。村人たちはきちんと私の言いつけを守っているようで、この時間になっても誰一人として外に出ていない。
「意図せずにクロヴィスたちを隠しやすい環境を作っちゃったわね」
『ああ、村の老人には意味もなく薬局に並んでいるやつがいるからな。コハクを孫か話相手だとでも思っているんだろ』
「意外とそういうところからこの世界の常識を学べるから、意外と助かっているんだよ」
呆れた声のフブキに苦笑いを返す。
実際、彼らの話から庶民の生活レベルや一般人の考え方がよくわかる。ここらへんの知識はエダから得られなかったものだ。
(師匠が教えてくれることはどうも品がいいというか、上流階級向けっていう感じなんだよね)
私の目標を知っているからあえてそうしているのかもしれないけど、こういう『この世界の人』との対話って大事だと思う。
そんなことを考えつつ、村人に片っ端から改良版丸薬を渡していく。南側の方が後から感染したのか、今回っている家までは症状が酷い人はいなかった。鑑定を通しても黒い斑点が現れている人はほとんどおらず、おそらく黒い死に感染してから三、四日しか経っていないと考えられる。
これならこっそり治癒魔法をかける必要はなさそうだ。
「黒い斑点がすべて消えたので、ひとまず黒い死は完治しました。ですが、今日一日は家から出ずに安静にしてくださいね」
「よ、よかったぁ!コハクさま、ありがとう!」
自分の体をペタペタ確認した少年は泣きそうな声でそういうと、勢いよくベッドから起き上がった。
少年に黒い斑点はほとんどなかったが、幼いせいかほどまでベッドの上でぐったりしていたのだ。この子の両親も黒い死を患っていたせいで、この家の空気はかなり悪かった。
(ケイン村にはお酒もそんなにないからアルコール消毒にも期待できないし、やっぱり魔法で洗浄するしかないのかな……建物に洗浄をかけたら崩壊するのかな)
村人たちだけなら強い魔法を使っても誤魔化せるけど、クロヴィスたちがいる今派手な魔法行使は控えた方がいいだろう。暗殺者を撃退した時に使った魔法ですら目に留まったのだから、村一つ丸ごと洗浄するような大規模魔法は絶対によろしくない。それにまた失敗したら、せっかく築いてきた信用が一瞬でなくなる。聖女じゃなくて痴女になってしまう。
そう後処理に頭を悩ませていると、キーンと高い音が耳元で聞こえた。私よりはるかに耳がいいフブキが何の反応も示さなかったから、すぐにこれが魔法だと気づいた。
『やあ、そっちは順調かい?』
柔らかい声が頭の中で響いた。ここ数か月ですっかり聞きなれたミハイルの声だ。ミハイルは離れていても連絡取れると言っていたが、なるほど。テレパシーのような魔法もあるんだ。
突然立ち止まった私に気づいたフブキは、すぐにミハイルから連絡があったと察して大人しくお座りした。
「はい。どうやら村の北側から黒い死が始まったみたいで、南側は予想よりもずっと早く終わりました。ミハイルさんの方は?」
『それはよかった。ぼくの方は……そうだねえ、やっと密室で野郎を見つめ続ける仕事から解放されたって感じ?』
それはつまり、クロヴィスたちが薬局を出たということだ。
「一応確認ですが、食べ物を探しに行ったとかではないですよね?」
『それならわざわざ連絡しないよ。――あの程度ならフブキは普通に気づくとは思うけど、一応気を付けて。低級の姿くらまし魔法を使ってコハクちゃんの方に向かっているよ』
「わかりました。フブキに伝えておきます」
『うん。それじゃあ、ぼくは野外で野郎を観察するお仕事に戻るよ』
そういうと、ブツリと切断されるような気配がした。
私はしゃがんでフブキを撫でながら、簡潔にミハイルからの報告を小声で伝えた。カモフラージュとしての行動だが、まじめ腐った声で話しながらもただのわんこのように顔をとろかせたフブキがかわいいので、今後もこうやって誤魔化すことが決定した。カッコイイ顔立ちの犬の甘えた顔って、最高だよね。意義は聞くけど受け付けないよ。
ちなみにフブキは今日も最高にもふもふである。
『低級の姿くらましはあくまでも術者を認識しずらくなるだけだ。俺には効かん』
「私は治療に集中しちゃうから、フブキに任せるね。ミハイルさんも予定通りクロヴィスたちを尾行しているから、不審な行動はすぐに止められると思うよ」
『しかしあいつ、いい性格しているな。低級の姿くらましを使っている相手に透明化で尾行なんざ、嫌がらせも良いところだよ』
「ま、まあ、クロヴィスとジェラルドはどちらかというと剣士タイプだし、こちら側に余裕ないから……」
じゃなきゃ三重尾行なんて作戦をしたりしない。
こういうフブキの反応を見る度、改めてミハイルの才能を実感する。彼が優しい人で本当に良かった。
「あの二人がすぐに私たちを見つけられるように、広場を通って北側に行くわよ」
今回のメインミッションはもちろんケイン村から黒い死をなくすことだが、同時にクロヴィスたちに私の有用性を示さなくてはならない。
姿くらましの魔法の効果があくまでも認識されにくくなるだけなら、二人は治療現場である村人の家の中に入れない。つまり、少し離れたところで見るということになる。
(あと五軒だけだから、一度回った家にもう一回行くこともないし……ここからは症状が重いところから回っていこうかな)
もうすぐクロヴィスたちは広場が見えるところまで来れるはずだから、今のうちに鑑定で下見しておこう。
警戒をフブキに任せて、私は家に近づいて窓から鑑定を発動させた。
……少しだけ不審者の気分になってしまった。
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