赱馬燈

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 気づけば全身に幾つもの風穴が開いていた。
 様々な感情と記憶が脳裡をよぎる。

 理解が追い付かない。何故……。



「いらっしゃい。急に呼び出しちゃってごめんね」
「驚愕。転移魔法か」
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよってちょっ!?」
「バーストショット。……!?」
「お、女の子なんだからもっとお淑やかにしよ? 大丈夫だから。ね? ちょっと落ち着こ?」

 愕然。唐突に転移させられた部屋で待ち受けていたのは妙齢の女性体。幼げな見た目とは裏腹に底知れない不気味さを感じる。
 転移魔法を構築できる時点で格上だと認識できてはいたが、まさか他者が発動させた魔法を魔素に戻せるほど隔絶した存在だったとは大誤算だ。

「怖がらなくていいよ。私は女神様だから」
「目がみっつ」
「無いから!」

 面妖。女性体は自らを女神と呼称した。あれほどの魔法技術を見せられたからには超越した存在ではあるのだろうが、神が実在するなどと言われても俄には信じ難い。
 だが、この女性体が外見を遙かに超える年月を生きている化物だということは明確に理解した。

「なんか無礼なこと考えてない? 神罰下そうか?」
「冤罪。言い掛かりはよくない」
「ほんとにー? 言い掛かりだったらごめんだけど、悪い思念を感じたよ?」

 震悚。思考を読まれた。何らかの手段で思念とやらを感知しているのか。だが原理が理解できなければ対抗する手段は無い。
 迂闊な思考が命取りとなる。これでは思考を制限されたも同然だ。どうやら私には、最初からこの女性体の言いなりとなる道しか用意されていなかったのだろう。



「謹聴。要求を聞こう」
「うん。実はメガ友が困ってるみたいで相談されちゃってね」
「めがとも……」
「メガ友は女神友達のことだよ。君みたいにちょっと堅苦しくて誤解されやすい子だからほっとけない感じなの」

 困惑。メガ友という単語の時点で既に脳が理解を放棄している。聞き直し、確認し、少しずつ概要を把握していく。
 どうやらこの女性体のメガ友なる存在は扶桑と呼ばれる世界を管理しており、その世界に異形体が大量発生して困っているようだ。駆除に難渋する内に親玉が誕生して組織的な行動をとるようになり、事態が深刻化したために支援の相談を受けたとのことだった。



「そんなわけでメガ友のために腐心してるわけなのよ。偉いでしょ?」
「得心。噂に聞く腐女子なる存在だったか」
「変な誤解すんな! 否定はできないかもしんないけど腐心てそんな意味じゃないから!」
「困惑。理解しかねるが承知した」
「で、世界を越えちゃうと管轄外になって帰ってこれなくなっちゃうんだけど、魔法使いだったらそんなに不自由はしないと思うの」
「疑問。その扶桑なる世界での生活の保障は?」
「向こうで僕従を用意してくれるはずだから命令すれば大抵の要求は叶うんじゃないかな?」
「把握。それなりの生活は保障されるということか」
「向こうの事情はそんな感じなんだけど、助けてくれる?」
「愚問。選択の余地は無いだろう」
「んー。無いわけじゃないんだけどね」
「狐疑。神に背いた逆賊とされるのは御免だ」
「あはは。じゃあ本当に行ってくれるの?」
「承知。行こう」
「ありがと。じゃあ送るね。好きなように楽しんじゃっていいよ」

 転換。石造りの建造物に到着した。なかなかの広さがある建物だ。どうやらここが私の拠点になるようだが、住居とするには住み心地が悪すぎる。特に食事は自分で用意した方がいいだろう。
 機能性を重視しているのか随分と殺風景だ。吃緊の問題として僕従に生活環境の改善を命令し、拠点の改修をさせることにした。一段落したら絵か花でも飾らせようか。



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